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第81話 ごくらく、ごくらく……

とりまもう一話あげますが、更新日を見てもらうとわかる通り、この作品は作者の都合上、週一で上がります。


これは最低限の期限であり、作者の気分が上がれば毎日投稿もありますし、忙しくなければ、その限りではありません。


一応言っておかないと勘違いするかもしれませんので、お伝えしました。あと、この時間なのは、なぜか起きてしまったためです。


今回も癒し回なので、楽しんでくださいね。

「ふわぁ……ごくらく、ごくらく……」


 温かな温泉水に身体の芯から温められ、ぽかぽかする気持ちを感じながら背もたれに身体を委ねる。満天の星空を眺めながらのひととき。


 一瞬たりとも緩めることのできない緊張をこのときはまるで持ち合わせていなかった。


「どうよ、自慢の風呂はよ?」


「さ、い……こう」


「だろう?」


 隣の風呂から聞こえたのは、この温泉風呂をつくったカレー炒飯だ。汗を流そうと水場を求めた俺たちは偶然、広場でカレー炒飯と遭遇した。そこで軽くどこに行くのかと聞かれ、それに答えたところ、いいものがある、とのことで着いていくと、ここを紹介された。


 カルトやユッケなんかもここに足繁く通っており、それなりにリラクゼーション効果を持っているので、ゲーム内、あるいはゲーム外で疲れた身体を癒せるのだという。


 砂漠で汗だらだらになって、疲労困憊になっていた俺はすぐに食いついた。


 ユークもそれに同行したが、男風呂、女風呂というものがそれを邪魔した。混浴という概念がこの風呂には存在しなかった。その代わりにあるのはプライベート風呂。


 この風呂は同じ種族の系列なら一緒に入れる。つまり、女の子なハクマと男の子のコクマが一緒に入れる風呂だということだ。ということでユークはそこにも含まれていないので、どちらにも入れない。


 それに配慮した風呂はあるのだが、俺の目的が汗を流すことなので、俺は行かなかった。その風呂は着衣しないといけないので、プールみたいなものだと言っていた。


 それだけ聞けば、いいかと、思うが、なんとそこにはPHもいる。え、なんでいるの?となるが、ゴブリン村襲撃のあとから第一エリアのあの町と交易が始まり、今ではNPHが訪れるようになったそうだ。


 いつの間にそんなになったのか、俺は気付かなかった。あのあとから関わりがなかったから、ここの発展を知らないのも無理はない。あれからのことはカレー炒飯が嬉しそうに語ってくれた。


 それを聞きながらぼけーっと過ごしていると、一人の美少女がこの風呂場にやってきた。当たり前のように裸一貫で現れたのだが、さっきまで気持ち良さそうに語っていたカレー炒飯の声が聞こえなくなった。


 なんだ、なんだ?と思い、その美少女をよくみると、なんだか見覚えがある気がした。というか知ってる人だった。


「あれ、カルトじゃん。ひさしぶり」


「久しぶりだね。スライムみたいにとろけてるけど、逆上せるよ?」


「だいじょうぶ、だいじょうぶ。砂漠に比べたらこのくらい、へいき、へいき」


 心配そうに声をかけてくれたのはカルトだった。なぜか身体をタオルで巻いて隠しているのだが、きっとこれは俺達への配慮だ。


 カルトは男だが、男から「カルトなら男だろうと構わん、付き合ってくれ!」と言われるほどに容姿が整っている。そのため、男風呂に入るときはああやって身体を隠してくれるのだ。


 俺達には刺激が強すぎる。そういうことだ。


「あー、カレー炒飯もいるんだね。じゃあこのタオルは外せないね……」


「いや、なんでだよ。あ、いや、まぁ外さない方がエロいからいいぜ!」


 カルトがぎゅっとタオルが外れないように結ぶと、カレー炒飯はグッと親指を立てて男臭い笑いを浮かべた。


 ここの風呂には入った瞬間に汗をとる機能があるので、身体を洗ってから入る、なんてことはしなくていい。そしてその汗は不思議パワーによって跡形もなく消え去る。


 その汗を欲しい!なんて言いそうな人も中にはいそうだが、ないものはない!諦めろん。とまぁ、そういうわけでさらに隣の湯船にカルトが浸かった。


 ここの風呂は一緒に一つの湯船に浸かるのではなく、複数の湯船にそれぞれが浸かるシステムなので、肌を密着させて、ドキッとすることはない。


 だが、艶やかな声なんかは聞こえるわけでそれはそれはエロい声が聞こえてしまうわけで。


「もう、だめだよ、八雲。そんな変な声出したら。ここには野獣がいるんだから、とろけた顔もしまったしまった」


「……んっ?おれぇ!?」


「なに言ってるの?八雲しかいないでしょ。もう、だらしない顔しちゃって……だめだからね。そういうのは一人の時にしなよ」


「え?俺、そんな変な声出してた?」


 首をこてっと傾けてカレー炒飯に聞いてみた。すると、カレー炒飯は目を片手で押さえてボソリと呟いた。


「しょーじき、やばかった……」


「でしょー!これだから八雲は。これで無自覚だから手がつけられないよ!」


「はぁ!?これ、無自覚なの!?」


 カルトが言うと、カレー炒飯は驚愕した顔でこちらを二度見した。いや、なんのこっちゃ?無自覚?なんのこと?よくわからないけど、俺が何かしてるの?


「八雲さぁ、そんな不思議そうな顔をするなよな。いつも言ってるでしょ?八雲はかわいい顔してるって、それに平均的な男子よりも高い声だから、男にはつらいって……」


「いやいや、そこまで女顔ではないでしょ。俺よりもカルトの方が可愛い顔してるよ?」


「可愛さで言えば、正直なところ、群を抜いて八雲だよ。けど、僕が女顔なのは否定しようもない事実だ。だけど、頼むから八雲には自覚して欲しい。それで一体何人の男たちを救うことができるだろうか……なに言ってんだ、こいつ、みたいな顔しないでさ……」


 カルトが悲壮感漂う表情で言ってきた。確かにお母さんやミオからは再三、「かわいい、かわいい」と言われてきたが、俺はそう思わない。華奢な身体をしているが、ちゃんと男の身体をしているし、胸だってない。


 それに声だって確かに高めだが、女の子より男の声に近いはずだ。だから、俺は男だし、可愛い部類と言われても、俺はなんと言われようと男である事実は変わらない。だから女顔ではない。


「はぁ……八雲がまた謎理論で僕の話を無理矢理、自分の都合のいい方向に持っていってる気がするよ……わかるかい、僕の苦労が?」


「苦労はわかるけど、俺からしたら、どっちもどっちだ。どっちも男ではないと思えるし、どちらかといえば女より女らしいと思うぜ」


「やっぱりぃ?そう思うのが普通の思考だよね。一度思考ムーヴに入ると、八雲は帰ってこないからね。その間はのんびり八雲の顔で眺めて癒されようね……」


「確かに見る分には癒しだが、俺は見慣れてないから、先にあがらせてもらう」


「もう、あがっちゃうの?」


「あぁ。これでも八雲よりも一時間は長くいたからな。さすがにあがらないと、部下達が心配する」


「そっかぁ。僕は極楽気分に浸ってるから、カレー炒飯はなにをするかは知らないけど、頑張ってきてね」


「おうよ」


 カレー炒飯は逞しい筋肉美を見せつけながら、風呂を後にした。その身体を見て、「ほう」と呟かれたカレー炒飯は真っ赤な顔をしていたことをカルトは見逃さなかった。


 カレー炒飯を見送ったあとも、なかなか帰ってこない八雲を眺めながら、リラックスしていたカルトだったが、八雲が段々と湯船に沈んでいくことに気がついた。


「あれぇ!?逆上せてない?」


 カルトの予想は正しく、八雲は逆上せていた。そんな八雲を軽々と持ち上げたカルトは脱衣所を過ぎて、休憩所に訪れていた。八雲とカルトの姿をぎょっとした目で見ていたカレー炒飯は部下に指示を出し、八雲を介抱する部隊を用意させていた。


 カルトが八雲を寝かせると、どこからか現れたカルトの部下がタオルを渡し、二人の身体から水分を軽くとった。それから魔法で身体を乾かすと、カルトは闇で身体を覆い、瞬時に服を着た。


「うーん、まさかゲームで逆上せる人がいるとは思わなかったけど……これって、なんて状態異常なんだろ?」


「昏睡か?」


「それもあるけど、もしくは気持ちよすぎて眠ったのかもしれないね」


「それはたまにある。そういうコンセプトの元、造り上げたのがアレだからな」


 途中から合流したカレー炒飯が浴衣姿で現れ、ふかふかのタオルケットを八雲にかけ、八雲の状態を考察し始めた。


「苦しそうじゃないから、眠ったのかも」


「そうだな。心配するほどでもないが、俺の部下に見守らせておこう」


「だったら僕の配下も置いておくよ。僕はまだそこまで浸かってないからね。存分に味わってくるよ」


 ぺろりと舌なめずりをしたカルトはその場を離れていった。カルトが用意した配下は誰もが女性だった。もちろん、カレー炒飯が用意した部下も女性だ。八雲の容姿を考えてのことだ。


 それよりもカレー炒飯が気になったのは、カルトの行動だ。


「やっぱ、どっちもどっちだな。カルトも十分エロいからな……変な目で俺を見てないで、仕事しろ!」


 そんなカレー炒飯を「うわぁ……」という顔で見ていたのはカレー炒飯から指示を受けた女性たちとカルトの配下の女性だ。理不尽に怒られたとばかりに抗議したが、カルトがエロいというのは同意見だったのか、それ以上は追求しなかった。


 涙で滲む視界でぼけーっと眺めていた。いつからこうしていたのかわからない。だが、とても気持ちいいのは変わらない。なんでこんなに心地いいのだろうか。そう思いながら、重たい瞼を下ろした。


 それから再び目を開くと、いつの間にか景色が変わっていた。確か、あのときは目の前にカルトがいた。だが、今はどうだ、知らない天井がある。どこだ、ここは。


「んんっ……どこ?」


 独り言ちると、天井を覆うようにのそりとなにかが現れた。


「起きましたか?八雲様」


「あれ、ユーク。どうしてそこに?」


「どうしたもなにも……八雲様は湯船で寝てしまったのですよ?」


「あー……なんかそんな気がしてきた。二人は?」


「二人?カルト様とカレー炒飯様のことでしょうか?」


「うん、その二人。どこにいるのかな?」


「カルト様は私を見つけると、『あとは任せた』とおっしゃられ、帰っていきました。カレー炒飯様もなにやら用事がある御様子で、『いつまでもゆっくりしてていいから、起きたことの報告はしてくれ』とのことです」


 カルトとカレー炒飯はいないか。そりゃあ寝てる俺を置いてくよな。しかもわりと熟睡した気分ではある。一体俺は何時間寝ていたのだろうか。


「俺はどれくらい寝てた?」


「そうですね……7時間程でしょうか?」


「寝過ぎじゃね?」


 7時間ってことは今は3時のおやつの時間だ。どれだけ疲れがたまっていたのか、それともそれだけあの温泉が気持ちよかったのか。最近このゲームでよく寝てる気がするけど、なんでかゲームやめた後の夜もしっかり寝れるんだよな。


 寝る子は育つとは言うが、正直寝過ぎな気がする。


「そうか……なら、もうちょっとだけこうしておこう……眠気がとれたら、砂漠のエリアボスを討伐しに行くか」


「はいっ!」


 それから八雲が動いたのは一時間後のことだった。そこで初めてユークに膝枕されていたことに気付き、発狂するのだった。

ブクマと評価、ありがとうございました。久しぶりに上位ランキングに入れて嬉しかったです。また、読んでくださりありがとうございました。


1日に2万PVですって、奥さん。あら、すごいわねぇ。

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