第9話 仲良しな二人
フウマたちの子蜘蛛とコクマとハクマを連れて拠点を出た。場所は第二拠点なのだが、新しく生まれた子蜘蛛達はちょっとした冒険だ。
はじめて見るものに興味津々。セーフティーエリアでは危ないものはないが、洞窟は危険でいっぱいだ。歩き慣れていない子蜘蛛たちは小さな穴でも転けてしまう。
糸がこれほどまでに密集した場所に来るのも初めてだ。子蜘蛛たちは俺について来てはいるが、キョロキョロと忙しなく視線を動かしていた。
子蜘蛛達には生きた状態のコウモリを糸でくるんだまま渡す。保存していたコウモリなので、少し衰弱しているかもしれないが、倒してしまえばなんら変わらない。
子蜘蛛たちはコウモリをクルクルと回転させて観察した後、糸を切り開いて前脚でコウモリを小突いて倒した。
それから解体して肉以外はインベントリに仕舞い、肉は自分達でモキュモキュと食べていた。その姿に癒しを感じてしまう。
仲良く食べるんだぞ、
ちなみにこのコウモリは識別すると、夜蝙蝠という種族だった。
時々動物のコウモリも混じっているので総じて変わらないからコウモリと呼ぶことした。味は夜蝙蝠の方が美味である。
食べるために倒すが、今回はレベル上げも兼ねているので、捕まえただけ倒すことにした。これだけコウモリを倒していると自然と生存ポイントが溜まっていく。
復活することも考えて行動するため、ポイントは貯まれば、すぐに預けることを心掛けるのは、今の俺達にとって重要だと思う。
フウマたちも生存ポイントをもっていたが、一緒に生存箱に預けることができた。
《生存箱》
手持ち:0P
八雲貯蓄:3025P(+210)
配下貯蓄:380P(+380)
今ならフウマたちを死に戻りさせることができるが、貯蓄はあればあるほど困らない。生存ポイントは家具やアイテムを買うことにも使えるが今のところ、そこには凝っていないので後回しだ。
拠点に一旦戻ったがやることは特にないので、再び、子蜘蛛たちを連れて洞窟の外に採取や採掘に向かうことにした。横穴は断崖絶壁の途中にあり、探せば採掘ポイントが見つかるはずだ。
生まれたばかりの子蜘蛛も5レベルになったので、よほど強い敵じゃない限り遅れをとらないだろう。といっても経験がないからうまく動けるかはわからない。
断崖絶壁に張り付けている蜘蛛の糸を辿って地面に向かう。この辺りは夜は通ったが、昼にはまったく違った景色があった。
昼間はどんな魔物がいるかわからないので、慎重に進む必要がありそうだ。
このエリアは森と岩山?があり、予想では岩に生息する魔物と森に住む魔物の二種類いるのではないかと思っている。最悪の場合はさらに洞窟内に縄張りを持つコウモリ以外の魔物がいる。
こうなってくるとどのような対策をとるべきか大変だ。属性で言えば全属性いるので問題はないが、相手も集団だった場合は死闘になる可能性が大いにある。
俺らがとるべき行動は森と岩場、洞窟内の全てに糸を張り巡らせ、どこから来ても死角がないようにすることだ。俺たちは森に糸を巡らせ、コクマ達には採掘をやってもらう。
このゲームでは何もかも自由度が高い。なら、案外適当に岩場を掘ったら何かしら取れるのではないか?と思っている。もちろん、人のようにピッケルとか便利なものがないから前脚でひたすら掘ることになる。
スキルの【採掘】の補正として採掘する行動時の威力増強がある。これを利用して岩を纏っている魔物がいれば、体を採掘してダメージを与えることができるだろう。
ちなみにコクマとハクマ以外はHPと速度と筋力を局所的に上げている。これは遠距離攻撃を得意とする俺たちへの接近を許さないためのものだ。
搦め手の糸しか使えない俺たちは総じて近接が弱い。なので孫蜘蛛は近接特化にすることにしている。
《孫蜘蛛のステータス》
名前:魅風,魅水,魅炎,魅土
種族:小蜘蛛
主君:八雲
Lv:5(+4)
HP:160/160(+10×10) MP:100/100
筋力:17(+10)魔力:12
耐久:18(+10)魔抗:11
速度:20(+5) 気力:11
器用:20(+5) 幸運: 5
ステータスポイント:0JP(-40)
スキルポイント:0SP(-20)
固有スキル
【糸生成Lv1】【糸術Lv1】【糸渡りLv2(+1)】【糸細工Lv1】
スキル
【繁殖Lv1】【採掘Lv1】【夜目Lv1】【隠蔽Lv1】【気配感知Lv1】【魔力操作Lv1】【魔力感知Lv1】【思考回路Lv1】【風魔法Lv1,水魔法Lv1,火魔法Lv1,土魔法Lv1】【裁縫Lv1,調合Lv1,鍛冶Lv1,細工Lv1】【筋力上昇Lv1】new【爪術Lv1】new
【筋力上昇Lv1】
レベル×1筋力が上昇する。物理攻撃で倒した魔物の討伐数が一定以上越えるとレベルが上がる。
【爪術Lv1】
爪を使用した攻撃に補正がかかる。
スキルに良いものがあったので取得させといた。○○上昇スキルは俺も欲しいので後で取得する。スキルはカーソルをひたすらスクロールして時間を潰せるほど量があり、その中から掘り出し物を見つけることもあるだろう。
一応制限として出来ないものはスキルとして反映されていない。羽の生えていない俺は飛行のスキルは取得できないし、出来ても跳躍など跳んでいくものがせいぜいだ。
爪術は糸を操作するのにも使えると思い、取得した。これも後で取ろうと思っている。こうなってくると欲しいスキルは無数にある。取れる限度はないが取るためのSPがない。
一先ず我慢して今やることをやろう。蜘蛛の巣といえば木々の隙間や穴の中、部屋の片隅などなど見辛く分かりにくい場所にある。一種の罠である。
蜘蛛の糸は細く透明に近い、だからこそ森の中に仕掛けるのは丁度いい。視界が狭くなる中での罠だ。回避することは容易ではない。ならばやることはどれだけ気付かれずに罠にはめることだ。
蜘蛛の巣は火に弱く、斬撃に弱い。もし、PHがここに来れば剣で切り開きながら進んでくるだろう。火は森の中では悪手だ。自分まで燃える可能性があるし、その火を維持するためにもMPを消費する。
だから目の前にある蜘蛛の糸に注意が向かう。そこで狙うのが落とし穴だ。ここは岩場や渓谷がある。それを利用しない手立てはない。
その準備をしようとしたとき、遠くから唸り声が聞こえた。
「グルゥ……」
「っ!?」
敵が現れたのかわからないが、一先ずの安全のために指示を出す。
「ハクマとコクマは俺の左右の警戒、フウマたちは木々の上に糸を巡らせた後、敵が来たら糸を飛ばせ。ミドウ達は俺の後ろを警戒しろ」
フウマたちは指示通りに木を登り始めた。エリアボスを一緒に倒しただけにすぐに行動したが、ハクマ達はおどおどしてる。
ガサガサする方向を見ると真っ白なウサギが血走った眼で出てきた。俺らに気が付いたウサギは一瞬固まってそのまま倒れた。
「ウサギ?あれぇ?」
なぜか倒れたウサギを糸を飛ばしてくっつける。それを引っ張って手繰り寄せると、不思議そうなものを見るようにハクマとコクマが覗き込んだ。
ウサギがゆっくりと目を開けるのに気が付いたので、じーっとみているとウサギは再び固まってビクッとした後、ブルブル震えて気絶した。
「なぜ?」
なんで俺らをみて気絶するのかわからないが、さっきの唸り声はウサギではないはずだ。今までウサギを見たことがなかったハクマとコクマはそういう生き物なのだと納得して警戒に戻っていった。
ウサギからは脅威を感じられなかったので脇に寄せておく。目覚めたところでまたビクッとして気絶するはずだ。ちょっとショックを受けているのは俺だけなのだろうか。
また前方でガサガサと音がしたので警戒していると、柴犬並みの大きさの狼がいた。どう考えてもこのウサギを追ってきたのはこの狼だ。
間髪入れずその狼に向けてフウマたちが糸を飛ばす。
それに気が付いた狼は後ろに跳んで避けた。フウマたちは深追いをせずに木々を移動し狼の逃げ道を塞ぐように、遠くへ糸を張りにいく。
どうやらフウマたちはこの狼を獲物として食べるために逃げ道を塞いでいるようだ。俺としてもコウモリグミよりもこの狼が美味しいのなら食べてみたい。気絶ウサギもいるが、予想ではこのウサギはプレイヤーだ。
確かに俺らはでかい蜘蛛だから怖いかもしれないが、野生のウサギなら逃げ出すだろう。なのにこのウサギ、気絶しやがった。ショック。
目の前の狼は観察するようにこちらを伺ってくる。この狼はプレイヤーかわからないので、グルグル巻きにしてから尋問しよう。
「グルゥッ」
狼はニヤリと笑うと疾走してきたので、糸を飛ばす。それを軽く避けて近付いてきたので右前脚に魔力を集める。なにかを察知した狼はさらに速度をあげて走ってくる。
「『風球』」
発動した魔法に躊躇せず飛び上がって襲い掛かって来るが、左右で警戒していたハクマとコクマが糸を飛ばす。それを空中で体を捻って避けた。
その間に風球に左前脚から糸を飛ばして混ぜる。風球は風を圧縮する魔法なので糸のような軽いものは中に飲み込むことができるのだ。
狼は地面に着地すると、走って俺に向かってくる。逃げ道を塞ぎ終わったフウマたちは狼に向けて糸を飛ばす。しかしそれを気にせず狼は俺に向かってくる。
俺は右前脚に風球を持ったまま近付いてそのまま殴る。狼は右前脚に魔力を纏わせて俺の前脚に合わせるようにぶつけた。
その結果、風球は破裂する。それと同時に内包されていた糸を撒き散らす。糸は俺には絡まず、狼にはベタベタと張り付いていく。
お互いに無言になっていると、空気を読まずフウマたちは狼に糸を巻き付けていく。狼が気が付いた時には簀巻きになっていた。
狼と一緒にウサギも簀巻きにして木から吊るす。
「グルゥ……」
「キュウっ!?キュウ……」
狼は唸るような声をあげていたが、ウサギは目を覚ました後、隣に狼がいたことによってまた気絶した。全く忙しいウサギだ。
「よし、フウマたちは警戒しながら糸を張ってきてくれ。コクマとハクマは俺とこの狼とウサギの監視な。ミドウ達はそこの岩場を採掘してくれ」
それぞれに指示を出した後、このウサギと狼をどうするか考える。ハクマとコクマはウサギをツンツンと、つついている。狼はというと諦めた顔をしていて、こちらをぼーっとしている。
「うーん、意思疏通の仕方もまるでわからないな。言葉はまず通じないし、プレイヤーかも判断できないしなぁ……」
悩んでいるとまた復活したウサギを面白そうにつつくハクマとコクマにウサギはガクブルしていた。
「話しかけても無理だから……何なら?電話みたいなものはないから……ヘルプでも見るか」
ヘルプを眺めているとフウマたちが帰ってきた。
フウマたちの手には魔糸の木杭に串刺しされた無惨な姿のネズミがいた。本当に豊富な魔物がいるな。
「ちょっとルカさんに聞きたいことがあるから、フウマたちはこの狼とウサギを拠点まで運んでくれ」
フウマたちは狼にさらに糸を巻き付けるとせっせと運んでいたが、ハクマとコクマはお気に入りのウサギを奪い合っていた。
「こら、喧嘩しない。そのウサギは俺が運ぼう」
しゅんとしたハクマとコクマは素直に従い、ウサギを渡してくる。ウサギにフウマたちと同じように糸を巻き付けて背中に乗せる。
それからミドウ達を回収して拠点に向かった。崖を登るのに荷物を持ったままだと難しいので、一旦地面に置いてから崖を登った後に引き上げた。
きっと頭まで糸を包まなかったら気絶していただろう。まぁ包んでいるからわからないけどさ。
拠点まで来ると相変わらずコウモリが糸に絡まっていたので夕食として倒して回収する。そろそろコウモリグミ以外も食べたい。フウマたちが捕まえたネズミを少し分けてもらおう。
拠点に入るといつものようにルカさんが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、八雲様」
「ただいま、ルカさん」
お辞儀した後、ルカさんの視線は俺の背中に向いていた。
「ルカさん?」
「八雲様、そちらの簀巻きにしているものはどちらで?」
背負っていた簀巻きのウサギをおろすと、そーっとハクマとコクマがやって来た。それからルカさんの方を見ると、その隙にハクマとコクマはウサギを奪っていった。
まだ食べることを許可していないので食べることはないが、オモチャとして連れていかれたのだろう。連れていかれた方を唖然としながら見つめた後、ルカさんに返事をする。
「あぁこれは近場で狼に襲われているところで捕まえたんだ。あとフウマたちが背負っているのが狼だよ」
「そうでしたか。その……ウサギ様と狼様は食べるのですか?」
「うーん、食べるかと聞かれたら……ウサギ様?狼様?ルカさんはこのウサギと狼を知っているの?」
「はい、こちらのウサギ様は人外プレイヤーの『ミント』様です。それからあちらの狼様は人外プレイヤーの『ユッケ』様です」
俺はその言葉に衝撃を受けた。プレイヤーかもしれないと思っていたが、もう少しで食べようとしていたのがこのゲームを誘ってくれた悪友だったとは。