第79話 汗ばむ身体に群がる者
書けたから載せるね。
美食を求め、ボスエリアを求め、砂漠を練り歩く。永遠に景色が変わらない。歪む視界、汗ばむ身体、そして照り付ける太陽。砂漠は非情な世界だった。暑さで徐々に減り続けるHP、魔法で砂を保湿し、空を糸で作った傘で凌いだ。
「暑い……暑すぎる……」
皆、喋るだけの体力と気力は残されていない。ひたすら暑いこの砂漠を苦渋の表情で歩く。足の先を砂の中に埋めながら歩く。足がとられるが、日の当たらない砂の中は思った以上に冷たい。それを頼りに歩く。
時折、あのぷるんとした身をもつサソリが現れるが、相手にするだけ無駄だ。あれから五匹程、倒したのだが、成果はゼロ。毒々しい肉と硬い甲殻だけだ。だが、この甲殻は有能だった。
傘代わりに使えば、日を防ぎ、内側を涼しくしてくれた。これにより、糸の傘は大蠍の傘になった。そして環境は劇的に変わった。暑かっただけの砂漠探索は快適なものとなった。暑さがなくなれば、あとは足をとられるだけだ。問題はない。
甲殻の隙間や露出した肌に流れた汗を水属性の魔糸で拭う。冷たいタオルのようにひんやりしたそれは、子蜘蛛たちが奪い合いになるほどの人気を誇った。全員分に行き渡ると、「ふぃ~」と極楽の気分に浸かり、一瞬砂漠にいることを忘れてしまった。
探索は難航するが、二手に別れての探索は行っていない。この砂漠でそんなことをすれば、再会することは、まずできないだろう。そういうわけで見える範囲で、別れて探索を行った。
歩いていると、突然、地面が揺れ始め、砂山が崩れて流れた。流砂だ。これに呑み込まれれば、埋められて拠点送りにされるだろう。土魔法で足場をつくり、なんとか難を乗り切ると、次の難が来た。
それは砂を撒き散らしながら現れた。ねちょねちょした口に、口の周囲に小さな牙を何本も携えた、太く長い巨体をもつあの砂塵地虫だ。
まさか、ここまで追いかけてきたのか?そう思った次の瞬間、一匹、また一匹と地面から現れ、視界に入れた俺たちに襲いかかってきた。下から狙われなかっただけマシだが、足場のわるいここではそう簡単に避けることはできない。
舞い上がった砂でダストワームがどこから来るのか、検討もつかない。それだけ俺たちは不利な状況に置かれている。
他のダストワームの位置は気になるが、それよりもまずは目の前に現れた奴から対処しなくては。正直なところ、あの口に触りたくない。だから物理的な対処ではなく、魔法的な対処を行う必要がある。
進行経路を確認して、ドーマに砂を操って砂の壁をつくってもらう。そこに天糸で補強し、強固な壁を作り出す。狙った位置へ突進したダストワームは壁にぶつかり、別方向へと反れていった。
次の突進が来る前に、この不利な環境を塗り替えるための行動に移った。
フウマに風で砂を飛ばし、視界の確保をしてもらい、コクマに日光遮断を、スイマに舞った砂の除去を頼んだ。曇魔はすべての属性を平等に扱えるオールラウンダーだ。なので、子蜘蛛たちのサポートに回ってもらった。
そして残りの子蜘蛛たちにはダストワームの駆除を頼んだ。徐々に確保されていく視界だが、よくなっているのは俺たちだけでなく、奴らもそうだ。
明けた視界で俺たちを見つけ、すぐさま、その巨体で押し寄せる。魔法で無理矢理、進行方向を変えて難を逃れる。
そのダストワームはぐにゃぐにゃと身体をくねらせながら砂山に突っ込んだ。再び砂に潜ろうとするが、水で固まった砂に潜れず、身体を地面に叩きつけていた。
俺は糸を細長い槍のように工作し、それをダストワームに突き刺す。肌に突き刺さった糸槍は注射針のようにつぷりと突き刺さり、体液を噴き出した。その反動でダストワームは悶え苦しんでいた。
地面に縫い付けられたダストワームは、なんとか逃れようとくねるが、固まった地面に適応できず、ただ暴れることしかできない。そんなダストワームの脳天に一本の糸槍を突き刺す。
ビクッと身体を波打たせたダストワームは身動きを止めた。すぐさま解体して、縫い付けに使った糸槍を回収する。変な汁がついているが、この際、仕方ない。
身体をドリルのように回転させながら飛んでくるダストワームに、糸槍を投擲する。口の奥に刺さったことで、回転を止めて地面で暴れる。手に持った糸槍を媒体に、火槍を強大にして発動する。
飛ばさず持ったままのそれを、ダストワームの上に乗って身体に突き刺す。じゅわじゅわと炎上するダストワームの身体にズブリと徐々に食い込んでいく。砂漠で生きるダストワームにとって熱など造作もない。
だが、それは身体の外側だけで、内側は砂漠に生けるもの以外と同じく火に弱い。ダストワームが暴れようともその燃え上がる糸槍の炎は消えることはない。魔法を消すにはそれなりのスキルか魔法で対抗しなければならない。
燃え盛る火槍でMPが永続的に消費されるが、その程度問題ない。ダストワームがそれで倒れるならむしろプラスだ。まだダストワームは六体ほどいる。スイマとドンマとドーマの活躍でダストワームは陸に上がった魚のように暴れまわっている。それが少しだけ鬱陶しいが、それもあと少しで終わる。
エンマがダストワームを糸と砂で包み込み、外側から燃やして一匹を処理した。そして、スイマがダストワームの口を水で塞ぎ、ドーマが固まった砂で串刺しにした。
活躍の見られなかったハクマも日光を増幅させ、ダストワームを熱で倒していた。これで残りは二匹だ。
未だに俺たちを狙い続ける奴等に嫌気がさす。ここの暑さのせいでイライラが増しているのだろう。さっさと倒してエリアボスを倒しに行こう。
二匹については、ドーマが砂礫をつくり、フウマがそれを風で飛ばして倒した。あっけない終結だが、俺たちは疲弊していた。汗ばむ身体に張り付いた砂が不快だった。そのおかげで子蜘蛛たちもはやく拠点に帰りたいと言うほどだ。
だが、ここまで来たのだから、最後までやらないと後々面倒なことになる。またこの暑くてしんどい砂漠を横断するのは辛い。それにダストワームの群れを倒した先は今までの永遠に続く砂漠とは違っていた。おそらくこの先にボスエリアがある。
これまでが砂だけの砂漠だとしたら、ここからは岩石が転がる、岩石砂漠だ。足が埋まることはないが、小石で躓きそうになる。砂嵐も見られないので、視界を心配する必要がなさそうだ。
砂漠で疲れたので、一旦岩の陰で休憩をとる。水分を補給して木の実や肉を食べる。大体は鬼たちにつくってもらったお弁当だったりご飯だ。それが終わったら、ボスエリアを探しに出る。
出たかったが、砂漠の暑さに耐えきれなくなったので、キョテントを設置して拠点に帰ることにした。
拠点に帰ってくると、心地いい風が吹いてきた。汗ばんだ身体に癒しが訪れた。幼子蜘蛛たちが「おかえりー」と、駆け寄ってくるが、俺が汗だらけのことを確認すると、急ブレーキをして止まってしまった。
「ん?あぁ……臭うか……」
汗臭いのは確かに嫌だろうな、と思い、糸で作ったタオルで汗を拭う。俺以外は拠点に帰るのではなく、青牙蛇がいたエリアの魔法陣に行っていたが、俺を置いて水浴びをしに行ったのだろう。なぜ、俺は置いてかれたのだろうか。
「八雲様、おかえりなさいませ」
幼子蜘蛛たちは「おかえりー!」と言いつつ、ちょっと距離を置いていたが、人参界に旅立っていたルカさんは逆に俺の間近まで来た。
「ルカさん、ちょっと汗臭いかもだから、離れてくれないか?嫌な臭いするかもしれないし」
「そんなことありませんよ!いい匂いですよ!」
ルカさんは俺の首元をスンスンと嗅いで、そう宣言した。こんなに近いとそれはそれで辛いものがある。主に男子である俺が、お姉さんのようなルカさんに密着するのは恥ずかしい。
「だめだって、ルカさん」
「だめじゃないです!」
顔と顔が至近距離まで来た。ルカさんは膝立ちになって俺を抱きしめる。そしてスンスンとまた匂いを嗅いだ。その行為がなによりも恥ずかしい。それ以上に汗の匂いを嗅がれるのが恥ずかしい。
顔が熱い。というか、顔に蜘蛛の仮面があることで、熱が放出されずに辛くなっている気がする。ベタつく汗がルカさんのメイド服に張り付くのだが、ルカさんは吹っ切れたかのように、積極的だった。
なにか、なにかないか。この状況から逃れる方法が。本当はこの状況は嫌じゃない。けど、恥ずかしいし、幼子蜘蛛が見ている。しかもなぜか楽しそうにこそこそと話している。一体、何を話しているのだか。
「ただいま戻りま……し、た?」
ふいにそんな声が聞こえた。ルカさんにスンスンされながら、声の主を探す。あ、いた。それはリードを持ったワンピース姿の幼女。まるで犬の散歩から帰ってきたようだが、その犬は尻尾をブンブンさせながら、お座りしている。
犬といったが、犬ではなく狼だ。それも体長が幼女よりも二回り程大きい。続いて燕尾服の若い男が帰ってきた。背筋を伸ばしたその男は八雲とルカを見て、「おやおや」と破顔していた。
次に帰ってきた瓜二つの女性もまた、「あらあら」と口を押さえて笑っていた。この中で一人だけ楽しくなさそうなものがいた。リードを熊の剥製にかけて、ある二人の元に歩み寄る。
あれだけ嬉しそうに尻尾をブンブンしていた狼も、幼女の気迫に蹴落とされて大人しく三人の元でお座りしていた。それほどに幼女は目線の先にいる二人のことが気に入らないらしい。
「あ……おかえり、ユーク」
歩いてきたユークが不機嫌そうにこちらを見ているが、あえて無視をして出迎える。たとえ、ルカさんに抱きしめられてスンスンされていようとも、これだけはしないといけない、と本能で察知した。
「何をしているのですか?」
「何って……ねぇ?」
ユークが鬼気迫る様子で聞いてきたが、なんて答えれば正しい解答なのか、どうすればこの状況を説明できるのか迷い、はぐらかすように返答した。すると、ユークはにこっと笑った。
その様子にほっとするが、すぐに驚くことになった。ユークはルカさんの両耳を人参を地面から抜き取るように片手で持つと、ぐいっと持ち上げ、ルカさんのくびれに手をかけてクナトがいる場所に投げ飛ばした。
「いいにお……ひゃっ!?あ、ゆ……くひゃあああ!?」
投げ飛ばされたルカさんは無事、クナトがキャッチするが、危機が迫っているのは俺の方だ。ユークは俺の前まで来ると、俺に指を差した。
「え……あーっと……」
「八雲様、正座」
「星ってきれいだよね……」
「ええ、そうですね。正座です」
ユークは今までにない程、お怒りだったご様子。アラクネの身体でどうやったら正座ができるのか、教えてほしい。だが、ユークをさらに怒らせるわけにもいかず、それっぽい座り方をして説教を受けた。
まず、一つ目。なぜエリアボス巡りで連れていってくれなかったのか。俺は反論した。ロウマと散歩にいったから、行きたくないのかと思ったと。すると、ユークはロウマを指差し、「駄犬なので躾は必要ですが、優先順位は子蜘蛛たちとの遊びより低いです」と言った。
ロウマはしょんぼりしていたが、幼子蜘蛛たちは嬉しそうにしていた。そういう言い方ないだろ!と思ったが、ロウマは新入りであり、そこまで構う必要がない。それにクナトに任せとけばなんとかなるので、あんなに大勢で行く必要は確かにない。
ということで、砂漠のエリアボス戦にユークを連れていくことが決定した。だが、よく考えてほしい。フウマたちが嫌がっていた砂漠に本当に行きたいのかと。連れていくが、無理だったらすぐに置いておこうと考えた。
そして二つ目、ドワーフたちがいた場所は何処なのか?どこってまぁ、東の鉱山の先だな、うん。
「あのときは助かったよ」
「八雲様に頼られたら断りませんが……私、何て言いましたっけ?」
ユークにあのときなんて言われたか、覚えていないがどうすべきか。ユークの笑顔がこわい。ユークってこんなキャラだっけ?そう思ったが、毎度説教されていたし、そういえばそうだった。
「確か……」
「確か?」
「蜘蛛聖霊に伝言して、だっけ?」
「そうです。しましたか?」
「したよ?」
「はい、嘘ですね」
軽々とバレてしまったが、しょうがない。やってしまったのだから、それなりにお詫びはしよう。と、そう思っていると、幼子蜘蛛たちが目を擦りながら次々と帰ってきた。
「あれ、もうこんな時間か……」
いつの間にか夜になっていたらしい。砂漠では視界が悪すぎて時間の感覚が狂っていたのかもしれない。
「夜ですか……ということは八雲様もお眠りになる時間ですか」
「そういうことになるな」
「では、こうしましょう。今日は私が寝ている八雲様を独占です!」
そう言ったユークに全員の視線が集まる。俺にはそんなことで許されるなら、別にいいのだが、他の子蜘蛛は許せないご様子。
「うーん?……それでチャラになるなら、俺はそれで構わないよ」
すると、ユークは振り返るとなにかをして、また俺の方を向いた。幼子蜘蛛たちが抗議をあげるが、俺が決定したことなので、仕方ないと諦めていた。一体、俺がログアウトしてる間に何が起こっているのかわからないが、気にしないことにしよう。
「俺は一旦、ログアウトするから、ルカさんは正気に戻ってね。なにをしてるかわからないけど、喧嘩は程々にね」
そう言って俺はログアウトした。
あんまりこういうのやると反感買う人いるかもしれないけど、下のお星さまをタッチして塗り絵をしてください。
多いほど作者は喜びます。まぁ評価くれるだけで嬉しいので何個でも構いません。
お星さまを塗る➡️多ければランキングに載る➡️広告になる➡️読者が増える➡️作者が喜んでやる気が出る➡️投稿されて読者が喜ぶ
こんな具合に成り立つのである意味、Win-Winな関係ですよ。作者と読者ってそういうものです。作者が作品で読者を喜ばせる。リターンはなんでしょうね?読み続けること?最高ですね。評価すること?嬉しいですね。感想をくれること?それも嬉しい。
とまぁ、ここのサイトだとこの循環で成り立っているので、続いてほしい作品がある方はお星さまをぬりぬりすると、長く続くと思いますよ、話は以上です。
次も楽しんで投稿しますので、ぜひ読んでください。




