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第78話 砂漠の美食

ブクマ4000件突破!166万PV達成しました!


これからも楽しんで投稿していく所存です。

今月は仕事が忙しいので、あまり連投はできませんが、週一投稿は続けます。


四連休は……うん、なくなるかも(´・ω・`; )

 訳のわからない怒号を発した彼らをよく見てみると、それは単なる小人ではなかった。ワイルドな髭を生やし、小人には到底装備できないであろう金属の鎧、そして極端に低い声。


 総合すると、彼らはファンタジーお馴染みのドワーフである。酒と鍛冶を愛する職人のスペシャリストだったり、エルフと仲が悪かったり、そういう設定を背負ったいわばテンプレ種族だ。


 そんな彼らが俺に対して敵意を向けている。しかも言葉が通じない。なに言ってるかわからない。俺の言葉も通じていない。つまり、ドワーフと話すにはドワーフの言語学を取得しなくてはならない。


 人語をとったはずなんだが、まさか人側も複数種族の言語学が存在するのか。そう思うと生存ポイントが一体いくら必要なのかと憂鬱になった。


 とりあえず言語学を確認してみる。確かに人語を獲得している。そして、次に買えるものをみると、『ドワーフ語:3億』『エルフ語:5億』『竜人語:7億』と書かれていた。


 ふざけんな。そう言いたい。ドワーフ語が高すぎる。それにエルフも竜人も高すぎる。こんなふざけた値段するとは思っていなかった。それにレベルが幾つか以上ないと買えないなんて制限もある。


 これを買うならもっと使い勝手のいいスキルを買う。そういじけて、目の前の問題について考える。うちにはドワーフ語を喋れる者はいない。もしかしたらユークやクナトあたりが喋れるかもしれないが、絶賛ロウマのお散歩中だ。絶対後で愚痴る。


 なぜ今まで人側全種族、人語で喋ることができると勘違いしていたかというと、よくよく考えれば、人族としか会っていないからだ。ドワーフのロープレでもしてるなら、今頃町で鍛冶でもしてるはずだ。


 そんな鍛冶でお馴染みのドワーフが、ボスエリアから来た俺たちにキレているのか、理由はわからない。なんとなくだが、粗暴なPHのせいでここにいたと考えられるが、ボスエリア前にいたPHが密告したとも考えられる。


 色々予測できるが、この状況を打破できるものでもない。今は目の前のことに集中しよう。未だに武器を構えて俺たちを牽制するドワーフたち。そして退路を塞ぐべく、後ろに回り込むドワーフたち。


 どうするべきか。倒すことはせずに拘束して道を開けるのが一番手っ取り早いか。


「目の前のドワーフは敵だ。だけど、強くはない。倒さなくていい。無力化して進むよ」


 子蜘蛛たちに命令すると、小さく頷き、行動に移した。


 スイマは宙に水を展開すると、エンマとコクマとハクマが水の中に糸を放出した。それにフウマが斜め上に風を当て、糸の粘着性を含んだ水がばら蒔かれた。それを被ったドワーフの動きは鈍くなった。


 次にドーマとドンマが地面に手を当て、地面を隆起させた。ドンマは魔を冠する蜘蛛だ。魔力を地面に濃く広げることで、MPを消費するスキルの精度を上げたのだ。


 それにより、土で足元を掬われたドワーフは次々と転んだ。さらに追い討ちで、糸よる拘束が行われた。完全に動きが止まったドワーフたちは何かを喚いていたが、俺たちに襲いかかったのが悪いので、開いた道を進んだ。


「お母さん、後ろに……」


「わかった。気付かないふりをするぞ。それから……」


 フウマがなにかに気づいたので、子蜘蛛たちに情報共有をして、その場から立ち去った。そして天網を空に展開して、ドワーフを拘束した真上に待機することにした。


 待っていると、ボスエリアから続々とPHが現れた。それも鉱山でツルハシを振るっていた者たちだ。拘束されたドワーフに指をさして笑ったり、ドワーフが持っていた武器を奪ったりしていた。


 全く、PHはろくなことをしない。あれでは盗賊ではないか。


「それにしても、フウマはよく気づいたな」


「ボス戦で待っている間に物陰から聞こえたもので」


「なるほどな。ということはコクマもハクマも気付いて……」


 天網で着いてきているコクマとハクマを見ると、ぷいっとあらぬ方向を向いた。全然気付いてなかったみたいだ。今回はフウマのお手柄だ。


 天網から見てるのは、俺とフウマとコクマ、ハクマの四人で他は地上で待機してもらっている。包囲網を敷き、糸で簡易的な巣をつくってもらっている。ここは鉱山だが、森があり、俺たちが仕掛けるには十分な影があった。


 それらを利用して罠を張っている。ただし、道がある場所にはなにも施していない。ああいう場所に仕掛けると関係ない人を巻き込みかねないからな。


 考え事をしていると、地上から悲鳴が聞こえた。PHの誰かがドワーフに攻撃したのだ。それも奪った武器で。本当にろくなことをしない。


 さすがにドワーフを見捨てるつもりはないので、あのPHたちには持ち物をすべて無償で譲ってもらおう。


 天網から直下のPHに向かって、雷天糸を放つ。空を警戒していないPHでも視界が暗くなれば、気付く。雷天糸に気付いたものは回避行動をとり、それ以外は糸に絡まった。


 なにが起こったのかわかっていない両者に向けて、雷天糸を伝って雷術を食らわせる。ピリッと走った雷に、雷天糸に絡まったPHが悶える。それを合図に、森で隠れていたスイマとエンマが戦闘に参加する。


 俺たちの参戦に対して逃げ出すPHもいれば、応戦するPHもいた。ボスエリア方面に逃げたPHに対しては転移巣でコクマとハクマを向かわせる。


「フウマはスイマとエンマに加勢してくれ。俺はドワーフを安全なところに連れていく」


「わかりました」


 天網から飛び降りたフウマは風で落下ダメージをゼロにした。それにより巻き起こった風でPHが倒れる。すかさず糸でPHを拘束していく。


 フウマを見届けて、俺は巣が仕掛けられてない場所に転移する。そこで森を切り開き、【守護者召喚】である者を呼び出した。


「……!?や、八雲様!?蜘蛛聖霊に言ってくださいとあれほど!」


 悪いとは思っているが、今呼んだのには悪気はあった。だが後悔はしていない。慌てながらもぷりぷりと怒るユークに簡単に説明した。


「……つまり今から連れてくるドワーフを監視すればいいのですね」


「話がわかって助かる」


 一か八かの挑戦だったが、成功してよかった。エリアボスを倒していないユークをボスエリアの先に呼べるという検証だ。完全に抜け道だが、ここの運営がこんなミスを起こすわけがないので、なにかしらの制約はあると思う。


 ユークのそばに転移巣を張って直上の天網に転移し、雷天糸を伝って地面に降り立った。この時点で半分ほど拘束に成功していた。転移巣を発動して、近い順にドワーフを転移させていく。


 その間に俺に襲いかかるPHがいたが、俺以外に隙だらけだったのか、フウマに風で飛ばされていた。順調に俺たちによって拘束されたドワーフを保護していくと、劣勢になったPHは逃げていった。それもコクマとハクマがいる方に。


 拘束されたPHの身ぐるみを剥がしていると、ミノムシ状態になったPHを連れたコクマとハクマが帰ってきた。その後ろには炭鉱夫になっていた鬼たちもいた。


「八雲様、助っ人として参上しました」


 リーダー格の鬼が跪いてそう言ってきた。労いの言葉をかけて仕事に戻って貰おうとすると、鬼たちは俺が求めていた事を言ってくれた。


「ありがとう。でも、終わったから大丈夫だ」


「いえ、ドワーフたちの交渉をお任せください」


 交渉役。なんとも助かる。拘束したPHを有無を言わさず倒して、PHのすべてを貰っておいた。それから、拘束に使った糸は鬼たちにドワーフとの交渉役のお礼にあげた。


 森を抜けてドワーフのもとへ向かう。森に仕掛けた罠は素材を受けとるための鬼を従えてドンマとドーマに案内させた。


 ドワーフのもとへたどり着くと、神妙な顔をしたユークが肩を竦めていた。


「なにかわかったか?」


「あー、はい。この者たちは八雲様と襲ってきたPHを同じくくりで見ていたそうです」


「つまり?」


「勘違いです。PHはドワーフたちが集めた鉱石を略奪し、通常よりも安い値段で武器を造らされていたそうです。それも脅迫して」


「なるほどね……どう考えても俺たちは魔物なんだが、そこらへんどう思われてる?」


「聞いてみます」


 交渉役に来ていた鬼たちには悪いが、ユークがドワーフと話せるというなら、来てもらって悪かった。


「その誤解、我らが説きましょうか?」


 鬼たちは再び、欲しいと思っていたことをできると言った。なら、それを証明して貰うべく、ユークとドワーフの会話に参加して貰った。


 待つ間、雷天糸のところに戻り、火を着ける。目立つものは廃しておく。天網を見つけたドワーフがまだ来ても困る。


 ドワーフのもとに戻ると、俺に向かってドワーフたちが土下座してきた。もちろん、なにを言ってるかさっぱりだが、なにを言いたいかは大体わかる。


「それで?」


「はい、誤解はカイワレさんたちのおかげです」


 カイワレという名前が気になるが、それについてはいい。誤解が説けたなら十分だ。


「そうか、なら、解放しよう。俺たちはこれから次のエリアボス討伐に行かないといけないからな」


「……次?」


 ユークが困惑した表情で見てきた。次といえば次だ。ユークたちは途中離脱を余儀なくされてしまったから知らないのだろう。


「ユーク、助かったよ。またなにかあったら呼ぶわ」


「え、ちょっと、次ってなんのっ!?」


 ユークにお帰り頂いて、ドワーフたちを解放した。鬼たちがドワーフと交渉したいことがあるらしいので、鬼たちに任せた。PHの装備やら鉱石は俺たちがもらい、ドワーフたちがもともと持っていた武器については返却しておいた。


 子蜘蛛たちを連れてボスエリアを戻り、一度拠点に帰った。そしてポイントやら素材などを預け、今度は南東の砂漠エリアへと向かう。


 砂漠のエリアボスといえば、砂塵地虫(ダストワーム)だ。あれはなかなか手強かったイメージがある。糸で雁字搦めにした気がするが、思い違いだろう。


 砂の地面は、俺たちの脚には合わない。砂に埋もれて動きがとりづらい。やはり大きくなって体重が増えてしまったからだろう。エリアボスは誰かのせいで野良になってしまったので、お腹すいていたら襲ってくるはずだ。


 なので、そこらへんで餌になるものを捕らえてから向かうとしよう。


 いた。あれはPHだ。奴らもワームくんを探しているのだろう。ちょうどいい。自ら呼び出す餌となってもらおう。


 フウマたちに指示を出して包囲する。俺が一人、PHのもとへ歩み寄る。すると、こちらに警戒心を剥き出しにしたPHが武器を構えてくる。俺は手を前に突き出し、呪文を詠唱する。


火槍(ファイアランス)


 相手は人族だ。だから、なにを言われているかわかっている。一直線上に飛んできた魔法を横に分散して避けた。これはただの牽制。俺は魔物、相手は人。これだけで襲う理由はある。


 だから、なにをされても文句はないはずだ。たとえ、身ぐるみ剥がされてミノムシにされて、餌にされたとしても。


 地面に密かに張り巡らされた罠にジャストで引っ掛かってくれる。本当に助かる。俺は蜘蛛だ。罠を張って当然。卑怯?知らないね。どういう意味だろ?


 ミノムシ三人衆を引き摺って砂漠にポイする。あとはワームくんが寄ってくるのを待つだけだ。身動きも取れず、視界も開けてない彼らは勢いよく暴れる。その震動を掴みとって出てきてくれるのは、あのワームくん。


 良い食い付きだ。天へと打ち上げられたミノムシは、まさに滝登りを成功させたコイのごとく、その身を見せ付けた。そしてたどり着くはワームのねちょねちょしたお口の中。これが龍へと昇華したコイの末路。


 いや、あのミノムシは魚という身を打ち捨て、龍のごとき超体躯であるワームくんに乗り移ったのだ。ほら、こんなにも真っ白な糸に絡まれたワームはミノムシくんを数倍にも大きくさせた巨体。これが進化、というものか。


 身動きの取れない大きなミノムシを倒して解体し、中から出てきたねちょねちょした小さなミノムシを解体した。大きなミノムシの報酬はあのユッケが見せ付けてくれた噴水と寝袋、ムチだった。正直なところいらない。


 処分に困ったものは砂漠に飾って次のエリアに向かった。砂漠なだけあって暑い。視界が揺らぐほどの暑さだ。砂の山ばかりで代わり映えのしない景色が続くが、敵の魔物は見易い。


 どこに敵がいるのか瞬時に把握できてしまう。もちろん、相手からもだ。そして、俺たちを見つけた大蠍(おおさそり)がやって来た。


 大蠍は巨大なハサミと毒を垂らした鋭い尻尾をもち、砂色の甲殻は照りつける日光を反射して、目潰しをしてくる。そして砂と同色の甲殻は意識しなければ見えにくい。


 ただでさえ風が吹けば視界が悪いのに、なんとも卑怯な連中だ。ただ警戒するところがそれだけしかないとも言える。


 でかいだけのサソリだ。毒は俺たちには効かない。攻撃力も防御力もこちらが上だ。だが油断は大敵だ。フウマたちにサソリを囲うように散らばってもらう。囲まれてもなお、サソリは余裕の構えだ。


 まぁ、表情がわからないから、正直言えばどう思っているのかわからない。逃げる様子がないということは図体の大きさで誇っているから、勝てると思っているのだろう。


 そういうのは慢心だ。この世界に身体の大きさなど無意味だ。同格なら別だが、格上相手には大きな弱点となる。


 サソリから見れば俺たちはアリのように見えるのだろう。サソリは俺たちを見据えると巨大なハサミをハンマーのように叩きつけた。舞う砂で視界を狭める。それを俺は左手を添えて受け止める。


「その程度か?」


 直撃したことでサソリは叩きつけたハサミに確かな感触を感じただろう。だが、俺からしたらそれほど大きな衝撃は受けていない。足場の悪さで足が砂に埋もれてしまったが、それだけだ。


 ハサミを持ち上げたサソリは俺が無傷で立っていることに動揺した。毒を垂らした尻尾がビクッと波打ったのだ。恐怖を感じたのかは定かではないが、間違いなく困惑している。


「奴はでかいだけの木偶の坊だ。甲殻は硬い。だけどな、同じ場所を攻撃していけば砕けるぞ。やれ」


 俺の指示に頷いて応えると、それぞれが別の場所を攻撃する。殴る、蹴る、それを繰り返せば、効率的な身体の動かし方もわかってくる。繰り返すが、エリアボス周回は身体を慣らすためのものだ。


 ここで鍛えられるなら、レベルが上がらなくても問題ない。縦横無尽に走り回る子蜘蛛たちは意気揚々と大蠍の甲殻を砕いていった。そして、甲殻を剥かれた大蠍はぷるっとした肉体美を見せつけながら倒れた。


 それを見た俺たちは、さぞや美味しい肉を出してくれるだろうと、解体したのだが、甲殻と毒々しい肉しか出なかった。さっきのあの肉はなんだったのだろうか。


 あの肉を追い求め、砂漠を爆走していった子蜘蛛がいたが、なんとか食い止め、ボスエリアの探索に向かったのだった。

ぷるっぷるっ。ぼくはわるいサソリじゃないよ!


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― 新着の感想 ―
[一言] ビクッビクッ。ボク悪いワームじゃないよ!
[一言] ドワーフさん不憫な
[一言] 蠍も同格だったなら蠍に軍配が上がった……のかなぁ?(生物的観点から見て
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