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第77話 鉱物の核

 早い。だが、それだけだ。俺からしたらまだ遅い。振りかぶった拳を引いた状態の位置で左手で押さえ込む。右手に最硬度の糸を纏わせて隙の大きい人形の腹に拳をねじ込む。


 飛ばされた人形は岩のように転がるが、それほどダメージを被ってない。ダメージを受けたのは俺の方だ。糸で覆ったのに手が痛い。殴り合い。いい勝負に持ち込めない。そう考えてすぐに魔法に切り替えるべきか。


 だが、ダメージがあろうとも、これが楽しいなら、やめるわけにはいかなくなる。それがゲームだ。


 体勢を立て直した人形は周りに落ちている石を浮かして飛ばしてきた。石も使えるらしい。だが、それだけだ。


 土槍(アースランス)を人形と同じように集め、飛んできた石にぶつける。こちらの方が威力が数段上だ。石を粉々に砕きながら人形にぶつかる。


 だが、人形はダメージをうけていない。まさに鉄壁。おそらくあの黒いのは砂鉄、銀色は鉄だ。そしてあの球体、あれはゴーレムなのだろう。


 識別をして見ると、機動鉄核(アイアンゴーレム)だった。


 石では勝てないと考えたのか、ゴーレムは地面からさらに砂鉄を取り出し、球体を創造した。さらに球体から棘が生えた。


 そのウニから更に棘と球体に分解した。棘を全方位に浮かせ、球体は身体に取り込んだ。そして、次の瞬間、棘を俺たちに飛ばしてきた。


 俺はそれに真っ正面からやりあう気はさらさらない。アイアンゴーレムごとエンマに炎で包んでもらい、スイマに水で覆わせ、ドーマに土で被せてもらった。案の定、そこまでやれば棘はここまで届かなかった。


「やりすぎたか?」


 そう思っていたが、どうやらまだいけるらしい。土の殻を巨大な棘から突き破って出てきた。しかし、すぐに形を保つことができず、アイアンゴーレムは球体を露出させていた。身体を形成していた鉄がどろどろになっていた。


 冷えた鉄はそのまま固まり、アイアンゴーレムは動きを止めた。球体はブルブルと振動していたが、固まった鉄はびくともしていなかった。どうやらゴーレムの本体はこの球体で、周りの鉄やら石は身体の一部ではなく、なにかしらのスキルで操作していたものだったらしい。


 動きをさらに封じるために、糸で拘束する。糸の上から球体を殴り付ける。次第にパキパキと球体が割れていった。無抵抗の球体を交代交代に殴っていく。誰の番で砕け散るのか、そういう遊びに変わっていく。


 子供はなんでも遊びに変える。エリアボス戦だろうとなんだろうと、遊びは楽しい。コクマが絶妙な力加減で殴ると、ヒビが全体に広がった。次に殴るのはハクマだ。次で割れる。誰もがそう思っていた。


 しかし、ハクマは秘策を打ち出した。


 拳に光を纏わせ、回復させながら殴った。回復させてその分ダメージを与えた。卑怯だが、やってはいけないとは言っていない。今回は俺の負けだ。


 俺は拳に糸を纏わせて球体に殴り付ける。しかし、球体は割れることはない。なぜなら、今回纏った糸は一番柔らかい糸だからだ。ダメージはゼロに等しい。


 次の番のエンマはそわそわしている。


 コクマとハクマがにやつく。エンマはしょんぼりしていたが、勝負は勝負だ。もちろん、負けたからといってなにもしないが。


 《機動鉄核(アイアンゴーレム)を討伐しました。》

 《称号【機動鉄核(アイアンゴーレム)討伐者】を獲得しました。》

 《PM専用報酬:機動鉄核(アイアンゴーレム)の磁石、機動鉄核(アイアンゴーレム)の掃除核、機動鉄核(アイアンゴーレム)の掃除機、生存ポイント1000P、スキルポイント10SP、ステータスポイント10JP》


 今回はなかなか収穫があった。俺に雷術があるように、子蜘蛛たちにもそれぞれの属性の術を持っている。それを糸と同じように扱うことができる。


 魔法は決まった呪文で形状も決まっている。だから呪文からどんなものか予想がつく。その点、術は決まった形が存在しない。


 相手に情報を与えずに扱えて、自由度の高いスキルは糸と同等の価値があると思う。今回でそれをさらに把握できることができた。


 ボスエリアを出て、次のメンバーに交代する。にやついてエンマをからかった二人を置いて、フウマとドンマを連れていく。


 ボスエリアに入ると、球体が浮いている。いちいち待つ必要もない。俺は球体の目の前に来ると、右腕を大きく振りかぶり、最硬度の糸を纏わせ、雷を発しながら球体を砕いた。


「これで終わりか?」


 キョトンとするフウマとドンマ。これから連携をとる実戦を行うつもりのところ悪いと思ったが、硬い敵は面倒だから、はやく終わらせて悪いことはない。


 砕け散った球体の欠片を眺め、なにも起こらないことを見届け、子蜘蛛たちのもとに戻る。


 振り返った直後、背中に衝撃が走り、子蜘蛛のもとまで飛ばされた。衝撃を受けて呆けてしまったが、すぐに子蜘蛛たちが糸を張って受け止めてくれた。


 体勢を立て直して、状況を把握する。子蜘蛛たちは砕けた球体の方を警戒していた。そして俺を飛ばした正体は、砕けた球体だ。


 その砕けた球体は紫の糸で破片同士を引き付け、紫の(ひび)の紋様を刻んだ。第一形態という土と砂のゴーレムを形成前に破壊してみたが、これはより強敵になった気がする。


 球体を警戒していると、紫の球体は高速で回転し始めた。それに合わせてエリア全体に風が生まれた。風は地面をかっさらい、砂を巻き上げ、天に昇っていく。


 土は風に粒子レベルに細かく砕かれ、土に含まれた水は蒸発した。地面から土と砂がなくなれば、出てくるものはというと、鉱物だ。球体はその鉱物を球体に取り込んでいく。欠片と鉱物は混ざり、紫の罅は拡がっていく。


 数十倍以上になった球体は、罅から割けていき、形をパズルのように変形させる。そして変形が終わると、一体の人形となった。


 人形は鉱物特有のメタリックな甲殻に、全身に紫の紋様を浮かべた。人特有の鼻や耳などは存在しない。人よりも戦隊もののヒーローに近い。


 横たわった人形はゆっくりと立ち上がり、キョロキョロと周りを把握し、俺たちのことを見つけた。


 そして、次の瞬間、人形の身体がぶれた。視界から消えた人形は目の前にいた。エンマを裏拳で殴り飛ばし、周りにいた子蜘蛛たちを次々と殴り飛ばした。周りに誰もいなくなると、俺に向かって飛んできた。


 来る、とわかった俺は顔の前で手をクロスさせて待ち構える。すると、腕に衝撃が走り、再び飛ばされた。


 宙に浮いたが、なんとか耐え抜くことができた。腕の隙間から覗くと人形は頭をくるくると回転させながら次の敵を探していた。


 その行動はまさしく機械であり、一撃で仕留める自信でもあるのか、追撃は行ってこなかった。


 カクカクと動く人形はまだ身体に慣れていないのか、少し歩くと転んでいた。


 慣れていないうちにやらないといけないが、さっきの襲撃で子蜘蛛たちが起き上がれていない。ダメージが大きいわけではない。理由は人形と同じで身体に慣れていないからだ。


「お前ら、身体に慣れとけってあれほど言ったのに。俺が奴を引き付けるから、さっさと立てよ」


 戦いで劣勢を敷かれると、つい口調が悪くなってしまう。だが、まだ負けると確定したわけではない。


 まずは奴の身動きを封じるべく、空に天網を張った。しかし、それは無意味に終わった。天に巻き上げられていた砂が天網に貼り付き、重さで地面に落下してしまった。


 無駄にMPが消費されてしまったが、空は使えないことはわかった。ならば、奴に直接天網を張り付ける。鉱物でできた身体だけあって、動きを阻害することはできない。


 鉱物特有の触感でツルリと糸を剥がし、歩いた。この時点で糸での拘束が難しいことがわかった。通常の糸ならばと注釈がつくが。


 粘着性の糸は効果はなかった。そして効果があったのは物理特性の大きい土の糸と鉱物を溶かす火の糸だけだった。土の糸は糸の硬度もあり、それなりに奴を留まらせることができた。


 火の糸は奴の身体に焦げ痕をつけることができた。だが、それだけだ。決定的なダメージを与えることができない。


 検証を続けていくなかで気づいたことは、まず奴は視覚と聴覚がない。見たまんまだが、近くで上半身を飾り扱いしながら立ち上がるドンマを間近で捉えられる位置で無視した。


 そして、天から降ってきた砂まみれの天網を見ても、なんとも思わなかったのか、凝視することも警戒することもなかった。


 つまり、視覚と聴覚以外のなにかで俺たちのことを捉えている。予測できるのは揺れだ。これまで奴は動くものにしか反応していない。それも大きな音を地面で発するような。


 鉱物でできてるだけあって、そういうのに鋭いのだろう。ポテポテと徘徊する人形は目的を持たずに動き回っていた。


「どうやって捕まえるべきか……」


 微動だにせずに目の前を通っていく人形を眺めながら思考する。もし、ここで奴を殴れば、位置を把握され、重い一撃をくらうことになる。しかし、無視をすれば、奴は無害だ。


 糸ではなく、奴を拘束する方法。奴はガッチリした身体だ。それなのに動きがとてもはやい。そう簡単に捕まえることのできない敵だ。


 眺めていると奴は再びなにもないところで転んだ。目が見えないだけあって足元が覚束ない。しまいには、自分でつくった穴に落ちて戻ってこれなくなっていた。穴を囲って奴を眺める。どうしたものか。


「お母さん」


「ん?どうした、フウマ?」


 考え事をしていると、みんなのお姉さん、フウマが話しかけてきた。その間も奴への警戒は怠っていない。フウマは奴に指をさしながらこう言った。


「埋めてエンマに燃やしてもらえば、倒せるんじゃないの?」


「……なるほど。やってみよう」


 フウマに従い、ドーマと一緒に穴をさらに深く掘り下げていく。バタバタと立ち上がれない人形はどんどん下に落ちていく。その間に燃えやすい糸を穴の中に投げ入れていく。


 ついでにインベントリの肥やしになっていた葉っぱやら石やらを投げ込む。これらは子蜘蛛たちが拾ってきたものだが、あとから聞くと、「なにそれ?いらない!」と言って、渡してきたことを忘れている。


 そういうものはごみなので処分したいと考えていたのだが、ちょうどいい機会なので、それらを放り込んでいく。


 そういえばこんな感じに重装備のPHを埋めたこともあったな。忘れていた。あのコレクション、カルトが集めてたし、今度見せてもらおう。


 穴の中でエンマに焼き討ちされる人形は硬いのか、全く倒せるイメージがわかない。とりあえずスキル上げを兼ねて魔法を打ちまくる。スキルレベル上げるの大事。


 種族レベルが上がりにくいのだ。スキルレベルは上げておいて損はない。時々エンマに攻撃をやめてもらって状況を確認してるのだが、どうやらあの人形は攻撃に対抗するために、あの棘を伸ばしてきているのだが、炎で溶けて成果を出せていなかった。


 ひたすら炙っていると、勝利のファンファーレが鳴り響いた。どうやら、溶けきったらしい。そして空から大量の砂が降り注いだ。


 《機動紫鉱核ヴァイオレットゴーレムを討伐しました。》

 《称号【機動紫鉱核ヴァイオレットゴーレム討伐者】を獲得しました。》

 《PM専用報酬:機動紫鉱核ヴァイオレットゴーレムの宝石、機動紫鉱核ヴァイオレットゴーレムの紫電核、機動紫鉱核ヴァイオレットゴーレムの吸収核、生存ポイント500P、スキルポイント5SP、ステータスポイント5JP》


 砂による生き埋めを回避して、なんとか穴から転移巣でゴーレムを引き上げると、ゴーレムは綺麗な紫色の結晶になっていた。


 識別してみるとアメジストと出た。あの紫の光を放っていた鉱物はアメジストだった。そしてメタリックな部分は鉄だった。あれだけ強いのにあの討伐方法で勝利できたのも、視覚と聴覚がなかったおかげだ。


 それに気付かずに戦っていたら、もっと苦戦していただろう。なにせ物理攻撃はおろか、魔法も効いているのか、いまいちわからなかったからだ。


 今回はフウマの機転が効いてなんとかなったが、次もこいつと戦いたいとは思わない。結晶を回収して、ボスエリアを出た。そしてしょぼんといじけていたコクマとハクマを連れて、ボスエリアの向こう側にいくことにした。


 コクマとハクマを慰めながらボスエリアを抜けると、そこには、武装した小人が武器を持ち、俺たちに敵意を向けていた。それらは俺たちに武器を構えて突進してきた。


 突然のことだったが、よくわからないので、とりあえず、牽制で近づく小人に雷術を浴びせた。それに追撃した子蜘蛛たちがそれぞれの属性で彼らの足元に深い溝をつくった。


「なんなんだ、一体」


 俺の呟きに、彼らはこう返した。


「「「「◎●△&※◆★▼●!!!」」」」


 なんて?




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