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第73話 第一エリアボス制覇

ボスエリア前でちょっとしたいざこざはあったものの、無傷でこの場に来れたので問題はない。


それぞれのアラクネの特性をなんとなく把握したので、今回は俺が主体で参戦する。目的はそもそもアラクネの身体操作がどこまでのものか確かめるものだった。


それなのに俺が積極的に参戦できていないのは単純につまらない。主体で参戦してた子蜘蛛たちもつまらなそうにしているが、気にしない。


今回は八人まで入れる。メンバーは暇すぎて我慢できない子からだ。子蜘蛛たちは俺と一緒に行動するってことだけで嬉しそうにする。今も選ばれてそわそわしてる。


ボスエリアに入るとそこは変わらず草原だった。周りをみてもエリアボスらしきものは見当たらなかった。


周辺の捜索をするために一歩踏み出すと、ボスエリアの見えない壁、ボスエリアの境界が揺らぎ始めた。それはイベントで見た結界の波のようだった。


揺らぎは八ヶ所でまとまり、中から真っ黒な狼がでてきた。それも八匹とも同じ姿だ。


「来るぞ、散れ」


八匹はそれぞれが、一人一人に目掛けて滑空しながら走ってきた。つまりあの狼達は飛べる。


固まっていても戦いづらいだけだ。散開してそれぞれが一匹を担当する。


首に食らいつこうと飛び付いてきた狼の横腹を、背中の腕で殴り付ける。少し仰け反る狼だが、すぐに態勢を立て直して食らいついてくる。


今度は真っ直ぐではなく、ステップを踏みつつ、ジグザグに走ってくる。


工夫は認めるが、速度が同程度かそれ以上でなければ、意味のない策略だ。


左脇腹を狙うように飛びかかってくる狼に余裕で対応する。左手で裏拳を狼の頬に叩きつける。


態勢の整っていない狼はバランスを崩し、そのまま地面に転がる。


遅い、遅すぎる。あまりにも大きな戦力差は戦闘の楽しささえも奪っていく。この戦いに意味があるのか、争う必要があるのかと、問わずにはいられない。


エリアボスだけあって何度も立ち上がり、何度も隙をついて首に噛みつこうとする。だがどれもが通じない。


そんなことが続けば、疲弊していくのも当たり前だ。


「これじゃ、いじめてるみたいだな」


軽口を叩いていると、狼達に動きがあった。


八匹が集結し、重なった。


顔は厳つく、毛並みは鋭く、身体はボロボロだったのが嘘のように傷がなくなった。


先程までの猪突猛進っぷりは消え失せ、慎重に行動してることが(うかが)える。狼は狙いを定めると、力のこもった踏み込みをした。その速度には心が踊るものがあった。


先程までの鈍足が嘘のように俊敏に動く。首を狩ろうとする行為は変わらない。俺の反撃を回避する行動が増えた。


どんなにバランスを崩す行為でも積極的に行い、ダメージを最低限に抑える。そして、今までの作業が、不規則なリズムへと変化していった。


回避、反撃、フェイント。そのどれもが今までと違い、回数を重ねていくうちに進化していっている。


手数ではこちらの方が上だ。腕も蜘蛛の下半身を含めれば六本ある。それにまだ使っていないが、どこからでも糸を出すことのできる天糸がある。


それを使えば、すぐにでもこの狼を捕らえることができる。しかし、それでは訓練にはならない。


あくまでもこれは身体を慣らすためのものだ。楽できるからと楽な方法を選ぶのはそれこそ怠惰だ。


「もっと、もっと楽しもう」


殴り付ける拳にも心なしかキレが出てきた。狼もわかっているのか、余裕をもって回避する。俺はそれを予測しているので、空中で捻った狼の背中を、背中の腕で叩き落とす。


一手二手を先読みできるのは相手を翻弄する技術だ。それをここで得られたのは大きい。


人ならある程度予測がきく。だが、魔物は見る回数がまだ少ない上、進化すると行動パターンも変わってくる。


そんな相手の行動に対して、臨機応変に対応できれば、今後の戦いで価値のある技術へと昇華できるはずだ。


殴打の連続でボロボロになった狼だが、次はどんな技を見せてくれるのだろうか。俺との距離をとって何をする?


息を深く吸い込む素振りを見せると、次の瞬間、エリア中に響き渡るほどの咆哮を放った。


すると、狼の毛並みは緑の光を発し、最初に見たあの浮遊を引き起こした。脚には緑の風が吹き付け、脚で空を蹴る度に突風を起こした。


あのジグザグのステップも風が加われば、脅威に変化した。


この風の中では糸は使い物にならない。糸は両端を固定することでその糸の威力を発揮する。切れてしまったら、ホコリと変わらない。


だが、本当にそうだろうか。天糸は空中から放出される。張り付く場所がなければ、風に煽られてしまう。


なら、出てきた糸を手で掴めばどうか。


試しに一本放出し、それを握り締めてみる。すると、糸はピンと張り、取り出した木の実を切断した。


これは使える。そう考えたら、あとは行動するだけだ。


エリアを駆け回り、疾走する風で薄い傷口を作り出す。とても弱い。だが、何度もやられてしまえば、積み重なったダメージは致命傷となる。


少し距離を空けて、俺たちの間を駆ける狼に子蜘蛛たちは反応を示さない。あくびが出る程の速度とダメージだ。子蜘蛛たちも飽きてきたのだろう。


狼が通り抜ける隙を空中から放出した糸で塞ぐ。その糸の終着点は俺の手だ。


狙いどおり駆ける狼に、糸で進路を塞いだ。突然現れた見えない壁に絡まった狼は糸に張り付き、動きを止めた。


「成功だ」


陸に上がった魚のようにジタバタと暴れる狼。それに無慈悲にトドメをさす。すでにエリアボスは虫の息だった。


すんなり沈むと、勝利のファンファーレが鳴り響き、ウィンドウが表示された。


草原狼(グラスランドウルフ)を討伐しました。》

《称号【草原狼(グラスランドウルフ)討伐者】を獲得しました。》


《すべての第一エリアボス討伐を確認。第一エリアボス討伐称号を、称号【第一エリアボス制覇者】に統合しました。》


《称号【第一エリアボス制覇者】保持者には【第一の鍵】が贈呈されます。》


《称号【第一エリアボス制覇者】を確認。第一エリアと第二エリア間の全ての境界を解放。第一エリアボス戦を【レイド】から【遭遇戦】に変更しました。》


《【遭遇戦】に変更により、配下保持者のエリアボス戦の難易度が向上。公平性を得るため、プレイヤーがエリアボスを討伐した場合、その配下も次のエリアへの権限を付与されます。》


《PM専用報酬:草原狼(グラスランドウルフ)の絨毯、草原狼(グラスランドウルフ)の被り物、草原狼(グラスランドウルフ)のぬいぐるみ、生存ポイント1000P、スキルポイント10SP、ステータスポイント10JP》


ウィンドウにはいつも見る報酬が並んでいたが、いくつか気になる項目があった。


称号を【第一エリアボス制覇者】は記念品のような代物だが、気になる説明としては第一の資格、という文面だ。この第一とは何のことだろうか。第一エリアとはなにか違う気がした。


これは【第一の鍵】が関連するのだろう。今は情報が足りない。これ以上は追求できない。


第一エリアボス戦がレイドではなく、遭遇戦に。つまり、エリアボスがボスエリアから飛び出し、そこらへんをうろつくことになる。これは一大事だ。


邪精霊樹もいずれはこの辺りをうろつく可能性が出てくる。そんなことになれば、どのエリアもカオスになる。


やってくれるな運営。原因は俺だが、いずれ起きてしまっていたことだ。はやまったのは俺のせいだが。


エリアボス戦の配下持ちに対する緩和措置。これはいいんじゃないか?むしろプラスだと思うのは、配下が多いからか?いい知らせだ。うん、カルトとカレー炒飯に教えとこう。


狼を解体してボスエリアを出ると、その瞬間、ボスエリア方面が光り出し、ボスエリアの狼がこちらを威嚇しながら現れた。


ボスエリアだった場所は、狼がいたエリアがそっくりそのまま排出され、エリアの壁というものが取っ払われた。


「よし、あの狼を捕獲しよう」


開口一番に子蜘蛛たちに指示を出すと、狼が逃げるまもなく、ミノムシになった。


「用も済んだし、帰るか」


「あれ、僕たちはエリアボス倒さなくていいの?」


「倒さなくてもよくなったから、いいんだ」


「そっかぁ」


帰りは子蜘蛛たちに肉を乱獲してもらい、豊富に集まった肉を鬼達に調理してもらった。


今回参加してなかった子蜘蛛たちにも分けてバーベキューを行った。その際、丁度来ていたカルトとカレー炒飯、ユッケがいたので、今日のことを話すことにした。


「……ってことで第一エリアと第二エリアの境界がなくなりました」


「なるほど!ってなるかぁ!」


ユッケは激昂した。だが肉を取り上げるとシュンと収まったので、喧嘩に発展することはなかった。


「そっかぁ、それは朗報だね。僕も部下が多すぎて嫌になってきたんだ。なんでスライムごときに100周しないといけないんだって常々考えてたんだ」


ここに俺以上に周回してる人がいた。


「俺も助かるぜ。部下もどんどん増えてくからな。その度に周回するのは時間のロスだったからな」


カレー炒飯も概ね同じ意見だった。


「それで、八雲。制覇者の報酬ってそれだけ?」


カルトは俺が持つ鍵に指を差した。


「これと称号だよ。他はなかったけど、強いて言えば、あれかな」


後ろを向いて示したものは捕獲したエリアボスの狼くんだ。今は上位者に囲まれて大人しくしている。幼子蜘蛛たちに肉を餌付けされていた。


「どうするの、あれ?」


カルトが狼くんに肉を投げながら言った。その肉は通りすがりの幼子蜘蛛がキャッチしてもぐもぐと食べてしまった。


「倒してない人がいればと思って持ってきたんだけど、三人は倒した?」


「僕が倒してないのは砂塵地虫(ダストワーム)だけだから、大丈夫だよ。野良でうろうろしてると思うと、ちょっと怖いけど」


カルトは少しも怖がっていない気がする。ダストワーム、あの気持ち悪いワームか。あれが砂漠をうろうろしてるなんて怖くていけそうにないな。


「俺はあと無形粘体(スライム)だ。あそこは毛がベタッとして居心地が悪いから後回しにしてた」


ユッケが身震いをして言った。確かにユッケのふさふさ具合なら湿るのも納得がいく。


「俺は半分ほどしか倒してねぇな。その分得してる。その狼は倒しちまったから、少し損した気分だぜ」


カレー炒飯も周回が多い部類だ。俺もそう思う。三人とも倒してるということで、この狼の処分を決めないといけない。


「じゃあこの狼は……」


処分を言い渡そうとした瞬間、勝利のファンファーレが鳴り響く。予想外の出来事に広場にいた全員がビクッとした。


「え、なに?」


「何が起きてるの?」


「八雲、これって……」


カルトが俺に視線を合わせてくる。そしてカレー炒飯もなんとなく察しているのか、頷いていた。一人だけわかっていないのはユッケだけだ。


「そうっぽいね。また増えたか……」


草原狼(グラスランドウルフ)を使役しました。》

《PM専用報酬:草原狼(グラスランドウルフ)の手袋、草原狼(グラスランドウルフ)の尻尾、草原狼(グラスランドウルフ)のおもちゃ、生存ポイント500P、スキルポイント5SP、ステータスポイント5JP》


俺はウィンドウを確認してすぐに閉じた。


「んー、名前何にしようかな?」


「ペットか。僕もスケルトン系以外もそろそろ欲しいし、集めてみようかな」


名付けについて悩んでいると、カルトが狼くんを見ながらそう言ってきた。


「あげないよ」


「残念」


物欲しそうに見てもだめ。


「なぁ、何が起きてんだ?」


状況把握ができていないユッケが尋ねてきた。他の人は慣れたものですでに元々やっていた作業や食事に戻っている。


「時々あるんだよ、エリアボスを使役したり懐柔したりね。僕の場合、お持ち帰りするから、大体討伐と服従がセットだね」


「服従ってなに?どういう意味?」


「八雲にはまだ早い。そういうことだから、わかった?ユッケ」


「なんとなくわかった。目の前で見たんだ、その情報は信用に値する」


「納得してもらえてよかったよ」


服従ってなんだ?

ようやく制覇。

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[気になる点] "気になる説明としては第一の資格、という文面だ。" ってありますけど、そんな説明なくないですか?
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