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第71話 ワガママ

俺とカレー炒飯が仲直りの握手をすると、鬼達が安堵の表情を浮かべていた。幼子蜘蛛が子蜘蛛たちにもっと甘えたそうにしていたが、また機会を設けることで、納得してくれた。


子蜘蛛たちは俺達の真似をして鬼達と握手していた。俺は鬼達が照れていたのを見逃さなかった。子蜘蛛たちは見た目が蜘蛛だが、上半身はロリとショタだ。可愛い子に握手してもらえると照れる。仕方ないね、子蜘蛛たちは可愛いからな。


微笑ましい彼らをしばらく眺めたあと、カレー炒飯が頭をかきながら話しかけてきた。


「悪かったな」


「本当に気にしてない」


「わかった。今度、なにかの形でお礼するぜ」


「それだったら、武器をつくってくれないか?」


「進化したことで、武器術のスキルでも生えたか?」


「出てないけど、戦いの幅を広げるためだ」


「なるほどな。わかった、準備しておく」


それとなく、茅魔(カヤマ)が欲しがっていた刀を要求しておいた。力がそれほど強くないので、力で叩き切る剣より技術で斬る刀の方が性に合ってる気がした。それと、刀にかっこいいイメージがあるってのも頼んだ理由でもある。


「それにしても、小さすぎないか?」


「なにがだ?」


「身体だ。進化したばかりとはいえ、大人だろ?」


「そういうのは説明にないから、なんとも言えないけど、レベルが上がってったら変わるかわかるだろ」


「そうだなぁ。それなりにレベルが上がってから造るか」


「どうして?」


「身体の大きさに合わせたサイズの方が取り回しがきくだろ?」


「さすが職人だ。使う人のことも考えてる」


「当たり前だろ。そういうことで、帰ってきてからの話だな」


刀についての確約がとれたので、エリアボス戦へと向かう。子蜘蛛たちは鬼達からもらったお菓子を持っていた。俺も広場を出るときに飴をもらった。生産スキルを使ったことはないが、ゲームで飴を作れるのは、すごい技術ではないかと思ってる。


鬼達は子蜘蛛たちとは違って遊びまくってるわけではないからな。ちゃんと仕事してる。うちの方針とカレー炒飯の方針がまるで違うだけだが。俺たちは楽しければそれでいい。カレー炒飯のところは職人集団だ。


あまり注目したことないが、広場には遊具がある。子蜘蛛たちも遊んでいるが、時々パノンさんやカルトが混じってる。カルトは腹黒だが、純粋にブランコを楽しんでるときもある。おそらく、糸のお礼だと思う。子蜘蛛たちと遊ぶ約束でもしたのだろう。


今回来たのは西だ。ここは草原エリアだが、通常より草の長さがある。それによって俺達の下半身、蜘蛛の部分が草で埋まっている。そのせいで湿気が強いのか、空気がどんよりしている。


鬱陶しいので焼き払うことも出来なくはないが、おそらく火が広がらない。それだけの湿気がある。歩けば草がへこみ、地面が見える。油断はできない。この草の影に隠れられる魔物は多いはずだ。


背中の腕で草を凪払いながら進む。これが効率がいいことがわかった。全員でやっていたら周りの草がほとんど倒れた。すると、草に埋もれていた魔物を見つけた。変態、じゃなかった。少無形粘体(ミニスライム)だ。


今までこのゲームでスライムといえば味噌汁ご飯。むしろ味噌汁ご飯とジュリアーナしか見たことなかった。それほどまでにスライムとは遭遇できないものだった。


一見すると可愛らしい見た目だが、俺たちのことを見つけると粘体を広げて威嚇してくる。その粘体は俺たちの糸よりも粘着力がある。だが、あくまでも単体同士での話だ。糸は物と物を繋ぐものだ。もし、魔物に触れるとしたら、物と物に繋がった間だ。


張り付いたものを逃がさない力は、引っ付いてる物によるものが強い。もちろん糸が切れる可能性もある。その点は俺たちの糸なのでそう簡単には切れない。一方、スライムは身体でやるので、自身の危険にも繋がる。


俺たちの糸が氷なら、スライムは油だ。それだけの違いがある。糸が氷の理由は、拘束する力が時間経過とともに緩くなっていくからだ。氷も時間とともに溶けていく。これには近しいものがあると思っている。


そのスライム、こいつはミニスライムだが、広げた粘体を勢いよく地面に叩きつけると、こちらへ飛んで来た。狙いは頭だ。頭のいい狙いだ。だが、そう簡単にやらせるわけにはいかない。背中の腕でスライムを叩きつける。


弾き返せたかと思ったが、まさか腕にくっつくとは思わなかった。ゆっくりと身体に近付いてくる。このままではいずれ頭まで来てしまう。糸ではだめだ。ここで使うとは思わなかったが、新しく覚えた【雷術】を使ってみる。


背中の腕に雷を纏わせるイメージをする。すると、ピリッとする感覚がするが、俺にはもちろんダメージはない。スライムの方はどうか。動きは止まっている。ゆっくりと、ゆっくりとスライムの身体は腕からずれていった。


ボトリと地面に落ちたそれは微動だにしない。ミニスライムをつんつんと背中の腕で触ってみると、【自動解体】された。雷は有効だった。そう思いたいが、レベル差がある。これでレベルは上がっていない。


雷が有効でも他の子蜘蛛ができるかといえば、できない。他の属性を試してみないと有効打がわからない。子蜘蛛たちには魔法を中心に使ってもらうことにした。レベル差があるのだから、物理攻撃が効くならさっき背中の腕で叩きつけたときに戦闘不能になっているはずだ。


弱っている様子もなく、当たり前のように這い寄ってきた。つまり、物理攻撃が通用していない可能性が高い。次は糸で対抗してみるか。糸も通じないとわかったら、魔法頼りになる。その可能性だけでもわかっておきたい。


ここに来て、もし蜘蛛(スパイダー)のままだったら、あまりの視界の悪さに苦戦してただろう。蜘蛛(アラクネ)に進化しておいてよかった。ボスエリアの正確な位置はわからないので、進むしかない。


マップは通ったことがある場所しかわからないので、迷子にはならないが、初めて来た場所では迷う。それは当たり前のことか。永遠と同じ光景が続いていく。このエリアには木はないのか。平坦なせいでどこになにがあるかさっぱりだ。


草を掻き分け道を作る。それを数度も繰り返すと、ポヨンと身体に飛び出してくるものがいた。ミニスライムだ。手に火槍(ファイアランス)を飛ばさずに維持し、そのまま突き出す。


火槍がミニスライムを貫くと内から外へじゅわっと火移りした。ミニスライムを火が溶かし、異臭を放った。ミニスライムは力尽きると地面にボトリと落ちた。


この戦術は有効だった。魔法は留めることも撃ち出すこともできる。撃つ場合はMP消費はそれっきりだが、留めるにはその分MPを消費する。それでも簡単に倒せるなら十分だ。この一戦で得るものは得れた。子蜘蛛たちのそれぞれの特性に合わせた指示を出した。


またミニスライムに遭遇したが、今度は一匹ではなく二匹いた。一匹は後ろでそわそわしてた炎魔(エンマ)に任せた。火といえばエンマが強い。今回は火蜘蛛が活躍できる戦場だ。フウマには草刈りを頼み、スイマとドーマには周囲の湿度のみ下げるように頼んだ。


湿度が下がれば火が強まる。コクマはむしろこちらを不利にしてしまうので今回は後ろで待機。ハクマには周囲を明るくしてもらった。草と草の間にいるミニスライムを見逃さないためだ。


火属性の蜘蛛はバラバラに配置してどこからでも対応できるようにしてもらった。飛び出した一匹を野球のボールの要領でキャッチする。当たり前だがミニスライムは這いよってくる。


それに対して、俺は覆われた手から糸を出した。するとミニスライムは体内に入った異物を溶かそうと停止する。そこで糸を火の魔糸に変化させる。自ら絡まりついたそれによって内から焼かれていく。逃げるにもミニスライムには即時脱出できる程の早さを持っていない。


その結果、ミニスライムは先程と同じく、異臭を放った。今回違ったのはそのまま落下するのではなく、【自動解体】されたことだ。アイテム回収には楽だ。楽だが、絡まれた手がベトベトする。これが代償か。


身体が包まれた時の対応がわかっただけ良しとしよう。手はスイマに出してもらった水の玉に突っ込んでしっかり洗った。俺が雷術を持っているように、子蜘蛛たちもそれぞれの属性の術を持っている。


スイマは水と氷が使えるので、色々とやってもらうことは多そうだ。ミニスライムにそれぞれの対抗法を見出だせたところで、ボスエリアを発見した。今日は珍しくPHを見かけなかったが、なにかあったのだろうか。


スライムといえば、最弱のイメージがある。おそらく早々に片をつけて先にいってる。こんなジメジメしたところに留まりたい物好きはいないはずだ。


実際は味噌汁ご飯に襲われ過ぎてスライム恐怖症になっているため、よっぽどの猛者以外は立ち寄らなくなっている。もちろん、攻略のためにちらほらとはいるのだが、誰かさん達のおかげで町が大変なことになっているため、エリアボスに構ってられないのが理由だ。


最近、ある宗教団体ができ、御神体が町に寄贈されたという話が町では噂されている。その御神体には足が八本あり、虫にしか見えないと毛嫌いするものもいるが、町の代表はそれを見て、(いた)く気に入ったそうだ。


町の中心にある時計台に飾る計画が密かに行われているのだが、そこには彼の宗教団体の聖女も参加しており、今は調整中だが、近々一般公開もされるそうだ。そのため、町は賑やかになっている。


町の賑わいは町内のクエスト発生にも繋がるため、PHはそれを必死にこなしている。なぜかって?町襲撃イベントでボロボロに負けたPHの信用度はガタ落ち、元々の好感度の低さもあって、PHは犯罪者のように見られている。そのため、少しでも好感度を取り戻すために必死なのだ。


そんな事情を一切知らない八雲は、通常ではもっと前に終わらせているはずのスライム戦にワクワクしていた。それに同調するかように、手を繋ぐユークもにこにこしている。嬉しそうにしてる理由は、八雲の可愛らしいお手手をにぎにぎしているのが大半かもしれないが、八雲はそんなことは気にしない。


「今回のパーティー人数は六人か。て、ことは、俺と……」


「私は離しませんよ!」


「あ、うん。じゃあ残り四人を決めるか。一人は火属性入れたいから、最初はエンマを入れよう。他は別々の種族でいこう。連携も試したいからな」


最初のメンバーは、天性の蜘蛛帝(アラクネオリジン)の俺、聖骸の霊魂術師(レリックシャーマン)のユーク、紅炎の蜘蛛帝(アラクネフレイム)炎魔(エンマ)魔弾砲の蜘蛛(アラクネガンナー)のあるふぁ、四季彩の蜘蛛(アラクネシーズナー)一色(いっしき)猛毒の蜘蛛アラクネデッドリーポイズナーのシアンだ。


一色とあるふぁは遊撃、シアンはデバフ、ユークは見学。俺とエンマは主力だ。一応いっておくが、全員火魔法は使える。使えるが、炎術の使えるエンマがどれだけ戦えるのか知りたいのだ。それぞれがどれだけ戦えるのかが、今回の目的だ。多少苦戦してもいいと思っている。


なにせ、スライムと戦うのは初めてと言っていい程だ。ミニスライムは一撃でどうにかなったので、戦いとは言えない。なので、今回は初戦の気持ちでやる。どんな戦いが待っているのか、待ち遠しくて仕方がない。


ボスエリアに入ると、長い草の密集度が少なくなった沼があった。沼には一匹のスライムがいた。そのスライムはすぐにこちらに気が付くと、すぐさまピリピリとした威圧感を発した。


数がいないのならすぐにどうにでもなりそうだと思ったその時、スライムは膨張した。止めどなく膨らむスライムは沼の水を全て飲み込み、身体を沼の濁った水の色に変化させた。


見た目はスライムというよりも泥の化け物だ。沼の水は土を含み、スライムに物理的な接触を可能とさせたが、その代わり、火にも雷にも耐性を持ってそうな身体に変化させた。


臨機応変に対応するのがエリアボス戦に必要なことだ。火が効きづらくなったといっても一撃では倒せなくなっただけだ。エンマにスライムの水分を蒸発させるように頼み、俺は天網でスライムが跳び上がった時の予防策をたてた。


スライムの膨張は沼のあらゆる水分を抜き取ることで終息した。その代わり、沼どころかボスエリア全体の水を奪い取ったため、地面はひび割れていた。視界を塞ぐあの草はすべて枯れてしまった。おかげで視界は万全だ。


エンマによって加熱されたスライムは身体に含まれる土で、なんとか防ごうとしている。しかし、エンマの炎術が全体から焼き尽くしているため、徐々にスライムが防御に使っている土が硝子化し始めた。それほどまでにエンマの炎術の炎が高熱なのだろう。


エンマが加熱してる間、シアンはスライムの身体に毒を注入し、あるふぁはスライムの体内に糸弾を撃ち込んでいた。


俺はというと、ユークが暇なら両手を寄越せと言ってきたので、手をぷにぷにされていた。もちろん肉球はない。むしろ硬い。確かにくまさんの手袋をはめているが、中の蜘蛛の手が甲殻でガチガチになっているので、柔らかさよりも硬さの方が際立っている。


しかし、ユークには関係なかった。あくまでも八雲の手を間接的に触ることが目的であって、くまさんの手袋に興味はない。普通に手を握るだけなら「なんで?」と思われるが、「くまさんの手袋かわいい触らせて」なら相手も納得する。それがユークの狙いだ。


ユークが手をぷにぷにしてる間、俺の背中には四季彩の蜘蛛(アラクネシーズナー)の一色が張り付いていた。こうやって甘えるのが好きらしく、戦闘中ずっとこれをしている。つまり、ユークと一色に囲まれているため、身動きがとれない。


せっかくエンマが活躍しているのに、間近では応援することが出来ないというわけだ。それが残念でならないが、少し離れてはいるが確認できるので、文句は言わない。


ちなみに一色は女の子だ。関節の色が白なので間違いない。今の甲殻の色は緑だ。いつでも色を変えられる特性を持っているので、いつでも身を潜めることができる。ちょうどスライムの目線では一色で隠されているため、発見しづらくなっている。


スライムはエンマに焼かれ、シアンに毒を盛られ、あるふぁに糸で拘束されていっているので、今のところ俺にちょっかいを出すほどの余裕はない。だからこそのユークと一色の甘えかもしれない。


そんなことを考えていると、エンマの熱に耐えきれなくなったスライムが蒸発した。くるっと振り返ったエンマが嬉しそうにこちらを見ると、途端にしょんぼりとした。俺がいつの間にかエンマ以外の四人を甘やかしていたからだ。


無形泥粘体(マッドスライム)を討伐しました。》

《称号【無形泥粘体(マッドスライム)討伐者】を獲得しました。》

《PM専用報酬:無形泥粘体(マッドスライム)の泥パック、無形泥粘体(マッドスライム)の泥肥料、無形泥粘体(マッドスライム)の泥団子セット、キョテント1つ、生存ポイント1000P、スキルポイント10SP、ステータスポイント10JP》


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[一言] スライム、そういやいなかったな
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