第68話 天性
意識が暗闇に戻る。視界は最悪。手足は動く。でも、手足が思うように動かない。どれが右手でどれが左足なのか、わからない。動くものをとにかく動かしてみる。
糸の殻にどうにか傷をつけて、光を取り込もう。動かせる肢体を殻に触れさせる。感触がある。束になった糸は硬質で中々傷つけられない。それでも鋭利な肢体はその殻を切り裂くことができた。
ほんの僅かの傷が、一筋の光が差し込ませた。そこ傷をさらに肢体で大きく広げる。一筋の光は照明に代わり、自身の肢体がどんなものか、気付かせてくれた。
「これは手か?」
鋭利な肢体は蜘蛛の脚と同じものだった。まだ全貌は見えないが、前の身体と同じ腕が生えていた。どの肢体を動かしているかわからないが、感覚としては腕を動かしていたから、これは腕だ。
そして、この腕は二本ある。しかも、この腕は背中から生えている。この二つの動かし方はわかった。クロスして穴を広げていく。視界がクリーンになれば、どの部位がどれに相当するかを把握するだけだ。
「で…れた?」
外に這い出ると、まだ誰も出てきていなかった。俺よりも時間がかかるのかもしれない。それか、俺と同じで動かし方がわからないのかもしれない。這い出ただけなので、まだ身体の動かし方がわからない。頭と背中の腕は動かせるので、地面に腕を突き立てて、身体を起こす。
「視界が広すぎてわからんな。どうなってるんだ、これ?」
背中の腕を本来の身体の腕として動かしているから、肩についている腕が動かせないのか。そう考えて実践してみると、肩から生えた、本来の位置の腕を動かすことができた。
「五本指だと、やっぱりしっくり来るな」
指を動かす度に関節がパキパキとしなる。人の指は曲げることはできるが、反り返すことができない。できるのは変形があるか関節が柔らかい人だけだ。アラクネの指も人と同じく反り返らないように出来ていた。
指の関節は青く、それ以外は真っ黒だ。光沢があることから、これは虫の甲殻のようなものだ。爪は蜘蛛の脚のようになっていて、鍵爪のようなものが見えるだけで三つ連続で引っ付いている。これで糸を一本の指で動かせるようになるのだろう。
人形劇が出来そうな気がしてきた。それより、動かせなくなった背中の腕を動かしてみよう。感覚としては羽が生えたイメージだ。羽ばたくのではなく、指の関節を動かすようにしてみる。
腕の感覚で動かしたとき思ったが、肩みたいに可動域が広い。これならサブの腕としても使いやすそうだ。
手でベタベタと顔をさわってみると、口元以外は甲殻に包まれていた。それから、頬のあたりに蜘蛛の口がついていた。表情を動かす時と同じように動かすと、開いたり閉じたりすることができた。
あとわかったことだが、頭の視界を塞いでも、下の方の視界は残っていた。下の方にも頭にある目と同程度の視界があった。これなら、目潰しをされても大丈夫な気がしてきた。
下半身の操作は難航した。なぜなら、脚が二本から八本に増えたのだ。そう簡単に動かせるとは思えない。生まれたての小鹿よりもひどい動きをしていると自覚しているが、これは難しい。
慣れるまで時間がかかりそうだ。その間に何人の子蜘蛛が出てくることができるだろうか。
ようやく歩けるようになった頃、進化に参加できなかった子蜘蛛たちが遊びにきた。進化の繭を見て、アスレチックに見立てて遊びだした。親の上で元気に走り回る子蜘蛛たちに少しひやひやするが、そんなことで怒る子たちではないので、問題ないだろ。
脚をワキワキと動かして感覚を捉えている間に、新しいスキルを取得する。今回取れるのは、固有スキル二つ、特殊スキル二つ、特異スキル一つだ。ざっと見る限り、取れるスキルは僅かだ。
固有スキルは【雷術】【天糸陣】【天眼】【天雲】の四つだ。雷術は取ろう。これは絶対だ。属性を操れるとなると、強いに決まってる。あとは天系統だが、これは悩む。どれもつかいどころがありそうだ。一旦保留にしよう。
特殊スキルは【天性】【天歩】【天糸生成】の三つだ。天性は説明をみると、モードチェンジができるみたいだ。天歩は、ある一定の高さなら歩けるというスキルだ。天糸生成はなにもない空間から糸を作れる。つまり、身体に関係なく、どこからでも糸を出せるスキルだ。
取るなら、【天性】と【天糸生成】だ。天歩はなくても、天網で今もできる。それに天糸生成をとれば、天歩がなくともどうとでもできる気がする。なので、取るのは【天性】と【天糸生成】だ。
そう考えると、固有スキルの【天糸陣】は除外していいな。特殊な効果で天糸陣の範囲内なら、天糸の生成がMP消費半減するが、つかいどころがないので、いらない。天雲は状態異常を起こす糸の雨を降らすが、これも天限定なので、いいかな。やろうと思えば今でもできなくはない。
となると、取得するのは、【天眼】だ。これは天網や天糸陣、天雲と相性のいいスキルだ。天にある糸の範囲内から見えるものがこれによって見ることができる。監視カメラのようなものが作れるわけだ。
自分の目で見るか、斥候を送らないと情報が手に入らないこのゲームではチート級のスキルだ。もちろん弱点はある。まだ天候が変わったところを見たことがないが、糸は雨の日は溶けるし、火で燃える。
火矢を射たれたら、すぐに消されてしまう。天網も天眼もMP消費がでかいので、安易に連発できるものでもない。なんやかんや、このゲームではスキルに弱点を持たせているので、これさえあれば、勝ち確なんてものは存在しない。
最後に特異スキルは、【共鳴】と【共振】だ。共鳴は天性、モードチェンジを他の蜘蛛たちにもさせることができる。というスキルだ。モードチェンジスキルを持っているものだけに有効なのか、それとも持ってないものにも有効なのかは、実験してみないとわからない。
共振は、糸に振動を与え、糸に引っ付いたものをすべて振動させ、時間と共にさらに振動を強めるというものだ。これのなにがすごいかというと、疑似地震をこのスキルだけで発生させることができるということだ。
天を揺らし、地も揺らす。このスキルは災害レベルのスキルになる。だが、俺は全員モードチェンジという、心を擽るこのスキル、共鳴がかっこいいので、こっちを選ぶ。合体と変身は男の夢でもあるわけで、この共鳴はまさにそれだ。
あとはステータスの振り分けだが、MPは使うことになるので、振っておくことにした。やっぱり、進化した記念だし、全部100以上にしておこう。記念だし、上げてて悪いこともないしな。レベルMAXのスキルがあったので、これも進化させる。
《主人公のステータス》
名前:八雲
種族:天帝蜘蛛→天性の蜘蛛帝
性別:男
称号:【ヴェルダンの縄張り主】【格上殺し】【森賢熊討伐者】【エリアボスソロ討伐者】【女王蜘蛛】【精霊守護者】【精霊樹の加護】【小悪鬼長討伐者】【岩蜥蜴討伐者】【砂塵地虫討伐者】【青牙蛇討伐者】【エリアボス懐柔者】【骸骨暗黒騎士討伐者】【エリアボス略奪者】【狂った邪精霊樹討伐者】【精霊の友】【聖骸の主】【精霊樹の救世主】【収集家】【町の人気者】new【影の支配者】new【蜘蛛神様】new
二つ名:【悪夢】【首狩り】【妖怪順番抜かし】【蜘蛛さん】
配下:子蜘蛛たくさん100匹+α
→最高レベル:Lv50+α
配下:
《クナト》聖骸の守護騎士ELv18
《くましゃん》聖骸の魔術師ELv10
《くましゃん二号》光骸の魔術士Lv43→47
《ユーク》聖骸の霊魂術師ELv15
Lv:50(+7)【MAX】(++8)→ELv1(++8)
HP:830/830 MP:1500/1500(40×10)
筋力:100(+30) 魔力:100(+10)
耐久:100(+20) 魔抗:100(+10)
速度:150(+60) 気力:100(+30)
器用:100(+10) 幸運:100(+50)
生存ポイント
所持:0P 貯蓄:6億3234万6815P
ステータスポイント:0JP(+30+30-60+120-200)
スキルポイント:122SP(+30+75+130-130-120)
固有スキル
【魔糸生成Lv16→24】【魔糸術Lv10→17】【魔糸渡りLv9→18】【糸細工Lv18→25】【毒術Lv15→17】【糸傀儡Lv4→7】【領域侵略Lv1→3】【雷術Lv1】new【天眼Lv1】new
特異スキル
【守護者召喚Lv1】【共鳴Lv1】new
特殊スキル
【精霊視Lv5→6】【暗殺術Lv4→5】【暗器作成Lv1】【罠術Lv5→7】【罠作成Lv2→3】【遠距離投擲Lv8→9】【軌道予測Lv6→8】【命中率上昇Lv8→9】【王権Lv5→7】【天網Lv1→8】【雷天糸Lv1→2】【転移巣Lv1→3】【天性Lv1】new【天糸生成Lv1】new
専門スキル
【言語学Lv4→11】【武器学Lv5】【防具学Lv5】
魔法スキル
【風魔法Lv15→17】【水魔法Lv11→13】【土魔法Lv7→8】【闇魔法Lv4→5】【光魔法Lv6→7】【火魔法Lv6→8】
二次スキル
【闇夜眼Lv4→7】【隠滅Lv3→8】【魔力掌握Lv7→9】【気配感知LvMAX→気配探知Lv1】【投擲LvMAX→加速Lv1】【解体LvMAX→自動解体Lv1】【魔力感知LvMAX→魔力探知Lv1】
一次スキル
【繁殖Lv5→6】【識別Lv20→22】【思考回路Lv2】【魔力上昇Lv15→18】【爪術Lv21→27】
耐性スキル
【火耐性Lv1】【水耐性Lv1】【風耐性Lv1】【土耐性Lv1】【闇耐性Lv1】【光耐性Lv1】【毒耐性Lv1→5】【魔法耐性Lv1】【物理耐性Lv1→3】
※特異スキル取得:30SP、特殊スキル取得:20SP、固有スキル取得:30SP、通常スキル取得:10SP、スキル進化:30SP
※レベルアップ時:10JP、5SP獲得
※種族進化時:30JP、30SP獲得
見ない間にスキルレベルが軒並み上がっていた。残念なのは耐性スキルだが、これの上げ方は考えとかないと、暗器作成スキルと同じでお蔵入りスキルになってしまう。アラクネになったことで使うことになるかもしれないので、一概には全く使わなくなるとはいえない。
進化したスキルの説明を見てみる。
【気配探知Lv1】
気配を感覚的にわかっていたものが、くっきりと見えるようになる。スキルレベル依存でレベル×1mの範囲を探知する。
【加速Lv1】
物の速度をあげる。投げたものだけでなく、触れたものの速度をあげることができる。逆に減速させることはできない。
【自動解体Lv1】
いちいち解体していたものが、自動で解体され、インベントリに仕舞われる。
【魔力探知Lv1】
魔力を感覚的にわかっていたものが、見えるようになる。スキルレベル依存でレベル×1mの範囲で探知する。
感知は感覚で、探知はセンサーのようなものか。探知がどの精度か気になるところだが、感知もそのまま残っているので、問題はない。投擲が加速に進化したが、投げるだけでなく、殴っても早くなるということだろう。
減速がどのスキルで手に入るかも、探さないとな。両方あったら最強だと思う。これも書いていないが、スキルレベル依存だろう。自動解体は便利だが、死体を活用するカルトやヒデからすると、デメリットしかない気がする。
これもオンオフができるが、間違えてオンにしていたら、悲惨なことになるだろうな。
称号も増えていたので、一つ一つ見ていくことにした。
【町の人気者】new
一つの町での好感度が一定よりも上になった者に与えられる。その町の買い物が5%引きになる。
【影の支配者】new
ある組織を裏から支配する者に与えられる。
【蜘蛛神様】new
信仰をもつ者が一人以上存在する場合に与えられる。信仰者に遠くからでも話しかけられるようになる。《信仰者:くましゃん・くましゃん二号》
まず、町の人気者は素直に嬉しい。ただ、町に買い物にいくことがないので、使えるかわからない。とりあえず、今度町にいってみよう。子蜘蛛たちを連れてピクニックだ。
影の支配者、かっこいい。どこでついたかわからないけど、なんかいい。蜘蛛神様ってなんだ。いつ俺は神様になったんだ。しかも信仰者にくましゃんが二人いる。いや、まて、これでくましゃん二人と離れても会話できるから、連絡がとりやすいと思えば、悪くないか。
信仰については置いておこう。触れてはいけない気がする。ステータスにはまだ気になるものがある。くましゃんの名前が、クシャとマシャになっていることだ。かわいい名前をつけたつもりだったが、確かに同じ名前だと呼びにくい。クシャとマシャか、すごくかっこいい。
それと、レベルがLv表記じゃなくて、ELv表記になってる。見やすいけど、どういう意味があるんだろう。気になるけど、説明がないな。これはあとでニンジンショッカーに聞こう。
レベル帯が揃ったお陰でクナトとユーク、マシャのレベルが見れるようになった。これだけレベルが高ければ、強いのも頷ける。
大体の情報も見れたし、子蜘蛛たちの状況を確認しよう。そう思っていると、メニューに新しい項目ができていた。それは、リネーム機能だ。現実時間の一週間に一回名前を変えられるというものだ。ただし、プレイヤーには適応されず、配下やテイムモンスターにのみ対応されるものだという。
それと、子蜘蛛たちが進化が終わらない理由もわかった。今日がちょうど、リネーム期間だったからだ。




