SS:クロニアの任務
新たな進化の日。
ママはそわそわしていた。子蜘蛛の数が足りないと。
「なぁ、精霊蜘蛛たちは来ないのか?」
「忙しいって言ってたよ。呼んでみる?」
ママがしょぼんとしてたので僕はすぐに返事をした。
「そうか、一応呼びに行ってくれるか、クロニア」
「うん!」
ママが僕のことを頼ってくれた。ママが心配そうにしてるから一緒に来てくれる子もいた。せっかくの頼み事だ。ここは一人でとも思ったが、みんなが一緒にいてくれた方が心強い。
「コクマもいってくれるか?」
「まかされた。クロニア、いくよ」
「うん」
コクマお母さんが一緒なら安心だ。コクマお母さんは黒の種族の中で一番強くてかっこいい。ママが一番構っててうらやましいけど、ママは僕のこともしっかり甘やかしてくれるので嫉妬したりはしない。
「ここからは気を抜くなよ」
「うん」
コクマお母さんは率先して先頭を突っ切ってくれた。
ここが邪精霊が侵略している精霊樹様がたくさんいる森だ。ここで精霊樹様を守るのは精霊の種族の黄魔を筆頭にした守護の蜘蛛たちだ。
ママから役割をもらっている優秀な蜘蛛だ。僕もママから何か任命されてみたいものだ。もちろん、今回のお仕事も立派な任務だ。
「くるよ、散開して」
邪精霊が近づいてきたことを瞬時に判断したコクマお母さんから指示が飛ぶ。今回のメンバーには白の種族の蜘蛛もいるので、すぐに終わると思うけど、油断できない相手だ。
「キュルリリリ」
数は三体だった。コクマお母さんは目標を確認すると、すぐさま、木を駆け上り、邪精霊の位置まで飛んだ。至近距離まで来た邪精霊に対して闇魔法の『ブラインド』を放つ。
邪精霊には魔法は効かない。確かにそうだ。だが、すべてを無効にするわけではない。自身に触れている魔法だけだ。
邪精霊の視界を塞ぐのに邪精霊を覆う必要がない。周りを闇に包まれた邪精霊の動きは止まる。そこに邪精霊樹の木で作った魔糸の木杭が投擲され、邪精霊に殺到する。
串刺しにされた邪精霊は浮力を失い落下する。そこで白の蜘蛛が光の魔糸で拘束する。
「まだ油断するなよ。増援が来ないとは限らないからな」
コクマお母さんに言われてハッとする。油断はダメ。慢心はダメ。敵を相手にするなら手を抜くことは許されない。それが僕たちの教訓だ。
声を発して仲間を呼ぼうとする邪精霊に追い打ちの邪精霊樹の魔槍が突き刺さる。これはカレー炒飯様に作ってもらった一級品だ。
ママは持っていないが、僕たちはここに何度も来ている。だからこそ、邪精霊に対する策は十分にある。ママはこれがなくとも倒せるだけの力がある。だから僕たちは工夫するのだ。一歩でもママに追いつけるように。
「よし、もう来ないね。はやくいかないと、ママが待ってる」
コクマお母さんはママと同じで切り替えがすごくはやい。だから戦闘中でもいたずらするし、怒られてもすぐに開き直る。
コクマお母さんについて行くと、精霊樹様のところにたどり着いた。
「ここまで来れば大丈夫だ。ここからはクロニア、お前の仕事だ。ママに頼まれたのはクロニアだからな」
「うん、いってくる」
コクマお母さんに覚えててもらえてた。コクマお母さんはママがいないとすごく頼りがいがある。なんでこんなにかっこいいのに、ママの前だとあんなんだろう。そんなことを考えたけど無粋だった。ママの前で可愛がられたいのは僕も同じだ。
精霊樹様の周りにはたくさんの精霊様が群がっている。周囲は精霊領域で守られているため、今はいろんなところに精霊様がいる。
「あら、あなたはクロニアね。今日はどうしたのかしら?」
「ママがオウマたちを呼んでるの!」
「あら、そうなの?」
「うん!」
「でも、ごめんなさいね。今日は邪精霊がたくさん潜んでいた洞窟を制圧しに行ってるの」
精霊様は申し訳なさそうに教えてくれた。なら、オウマたちを呼びだすには難しい。僕にだってわかる。
「そっかぁ。ママには忙しいからだめって言っとくよ」
「ごめんなさいね。私たちがいけたらいいんだけど、オウマ様がここにいてって言うの。だから」
精霊様が顔を真っ赤にさせていた。オウマ、やりおる。
「そっかぁ、うん。コクマお母さんが待ってるからいくね」
「そ、そう?またね」
オウマは忙しい。いろんな意味で忙しそうだ。コクマお母さんに教えとこう。
黒の蜘蛛の一族は皆、いたずら好きである。
「そっか、オウマ来れないのか」
「うん。それでね……」
コクマお母さんに精霊様について教えると、にこにこしながら僕の頭を撫でてくれた。コクマお母さんも好きだよね、僕と同じで。
「帰ろう、ママのもとに」
こうして僕の任務は完了した。ママは残念そうにしていたけど。
そして僕は黒の一族の中でも特殊な進化を遂げた。ママにも秘密でね。知ったらどう思ってくれるかな?驚いてくれるかな?
その後、僕とコクマお母さんはオウマに会うたびにから揶揄うのだった。
「もう、オウマも隅に置けないなぁ」
「母上には言ってないよな?」
「言ってないよ、まだ」
オウマはその精霊以上に顔を真っ赤にしていた。




