表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/168

第50話 凶暴な猛獣との共闘

 街に繰り出した俺たちはまず時計台を制圧することにした。他のPMが来ることも考えてある程度の空間は確保しておくが、それ以外は糸で埋め尽くした。どこから出ればいいかわかるように看板を建てて迷子にならないようにもした。


 今のところ転移してくるPHはいないが、またいつ来るかもわからないので、ちょうどやってきたカルトの配下にここの守護を任せた。続々と入ってくるカルトの配下たちには時計台の下、螺旋階段を下って制圧してくるように頼んだ。


 俺はというと、PHが見張りをしていた窓まで来て、天網を発動した。時計台から少し下に張り、時計台から天網まで糸で繋げる。それを幾度と繰り返し、街の建物の屋根までたどり着けるように道を作った。


 それを四方八方につくると、それらを横に繋げて時計台を中心に巨大な蜘蛛の巣を作り上げた。これだけのことをやれば眼下にいるPHは大騒ぎだ。しかし街の中で武器を出すことに抵抗があるのか、今のところこちらに手を出してこない。


 だが、無事下までたどり着いた味噌汁ご飯とジュリアーナが現れたことで、二人とPHが戦闘になった。ここでも装備がボロボロか着ていない野蛮人スタイルのPHばかりだったので、急所を狙われて無惨に倒されていった。


 それから少しするとカルトの配下が到着し、戦闘が激しくなっていった。その間、俺たちは蜘蛛の巣をさらに強化して、時計台を中心に三層の巣を作った。増援として探索に参加する子蜘蛛が時計台から出てくると、屋根伝いに巣を広げていった。


 子蜘蛛たちには人を襲わないように注意し、誰もいない道をしらみ潰しに糸で塞いでいった。外から見た街の大きさの数倍はあるので、全てを制圧するのは難しいが、人がいない場所を制するのは楽だ。


 人が疎らにいる場所では狭い路地に誘導して拘束、ミノムシ状態にして壁に張り付け、装備は剥ぎ取っておく。デスポーンするおそれがあるので、時計台で乱戦をするカルトの部下に死体回収と戦力増加を頼んだ。


 道の制圧をしながら街の外へと続く道を探した。なにせ街は広大だ。そう簡単に外までたどり着けない。あまりに時間がかかるなら外へ飛んで探すが、今はそんなことはしない。なぜなら初めて訪れた人間の街だ。子蜘蛛たちは好奇心旺盛だ。興味があるものばかり転がるこの場でショートカットして楽しみを減らそうなんて思わない。


 ある程度の安全確保が終われば自由行動を許し、興味のあるものを見に行ってもらう予定だ。これは街への襲撃や制圧をというより子蜘蛛たちの社会見学の方がこのイベントに相応しい。


「よし、ここまで覆えばいいかな?みんな、点呼とるぞ」


 そう俺が呼び掛けると四方八方に散っていた子蜘蛛たちがぞろぞろと集まってきた。バラバラに並ぶことなく整列した子蜘蛛たちはまさに軍隊。しかし俺から見たらすべてがかわいく思える。


「フウマ、スイマ、ドーマ、エンマ、コクマ、ハクマ。今呼んだ者はこの中で俺の次に強く、そして最初に育てた子蜘蛛たちでもある。いつもは間近で俺に甘えることも多々ある。だけど今日はみんなに他の子蜘蛛たちの面倒を、そして戦いの指導など多岐にわたってやってほしいことがある」


 子蜘蛛たちの顔を一人一人見つめて頷くのを確認する。朝方だからかまだ眠そうな子蜘蛛もいるが、ここでは寝てもいいと甘いことは言えない。なぜならここは敵地で俺たちは侵入者だ。


「ここからは部隊を分けてこの街の制圧、並びにPHの殲滅を行ってもらう。決して油断するなよ。俺たちにとってここはたとえ糸で包囲したとしても敵地に変わらない。漁夫の利だろうとなんだろうと、一瞬の油断が大きな隙になることもある」


 この街はPHの最大の拠点であり、言うなれば国の中枢である王のいる城だ。そんな場所に俺たちは隠し通路を使って侵入してきた暗殺者だ。なにがなんでも死に物狂いで襲いかかってくるだろう。死んでもすぐ生き返るがな。


 そんな連中に対して真正面からの攻防に勝ち目は薄い。だからこその制圧、そして部隊を分岐さえ、戦力の分裂を謀る。今は街の外で他のPMが暴れまわっているが、いつ死に戻りしてこちらに戦力を回してくるかわからない。だからこそ早急に事を運ぶしかないのだ。


「死ぬことは許さない。逃げてもいい、隠れてもいい。どんなことをしても必ず帰ってきてくれ。そして勝てると思ったならどんなことをしても勝て。いくぞ、蹂躙だ!」


 士気を上げ、子蜘蛛たちのやる気を引き出した。それにより子蜘蛛たちは今にも駆け出しそうなほどそわそわしだした。そんな子蜘蛛たちを頼もしくも思い、可愛くも思えた。


「ここを起点に散ってくれ。街の外に着いたら壁沿いにPHを殲滅。いなくなったら中へ移動だ。俺は今から召喚するクナトと行くから安心しろ」


 そう言って俺は【守護者召喚】を行った。説明文をよく読めば、そのとき思い浮かんだ者で守護者であるもの、配下であるものを召喚できるというものだった。あのときフウマを召喚したのも寝ている子蜘蛛たちをフウマで想像していたからにすぎない。


 つまり、これからは誰でも呼び出せるのだ。ただし呼び出せるのは戦闘中ではないものに限る。呼べればクナトは戦闘中ではない。


 結果はどうか、呼べなかった。つまりクナトは戦闘中だ。ならばくましゃんはどうだ。これもダメだった。三人ともダメという結果に終わり、子蜘蛛たちは一緒に行くメンバーを選別し始めている。


 ここで出鼻を挫かれるわけにはいかない。さっき士気をあげ、これからPHを殲滅しに行くというなかで、こんなことで士気を下げるわけにはいかない。


「戦闘中じゃないのは…そうか!ユークだ!ユークなら子蜘蛛たちのお世話をしている。きっと戦ってくれるはずだ」


 ユークのことを思い浮かべながらスキルを使用すると無事に召喚することができた。しかしその様子はおかしく、目を閉じて固まっている。呼び掛けようとすると、ユークは指のすべての関節を折り曲げ、顔の前に手を持ってくると一言告げた。


「がおーっ!」


 目を見開いてした行動があまりにも意味不明で、ユークもこの現状を理解できず、互いに目線を合わせるも、なにも言うことができなかった。次第にユークの顔は赤く染まっていき、顔を手で覆ってうずくまってしまった。


「いや、うん、突然呼び出してごめんな。あー、えっと、そう、かわいいよ。俺は嫌いじゃない。うん、だから、えー、その…」


 ユークの反応に困惑して言葉がうまく発せなかった。


「はずかしい…」


 小さく呟いたユークは手の隙間から目を覗かせて誰もいない場所に視線をおくった。すると、そこからポンっと弾けた音がして半透明の蜘蛛が現れた。


「あの子たちが心配する。説明してきて」


 ユークがそう言うと蜘蛛は空を飛んでどこかへ行った。ユークはすくっと立ち上がると、こちらに向いてこう言った。


「わすれて」


「いや、でも可愛かったよ?」


「わすれて」


「…うん、わかった。忘れよう」


 俺がそう言うと納得して頷いた。俺の目線に合わせるようにしゃがむと今回のことを反省するように簡単な説明を求め、それから、今度からは事前に呼ぶことを伝えてほしいとも言われた。


 方法がないと言ったら、蜘蛛の聖霊の一人をつけておくから、なんでもいいから呟いてほしいとも言われた。了承してこれからについても伝えた。


 心強い仲間が俺と一緒に行動することでやっと安心した子蜘蛛たちは屋根を伝って移動を始めた。


 ユークは俺をなぜか抱き締めて歩き始めた。自分の足で歩けるのだが、先程の罰だとかなんとか言って離してくれない。抱き締めている間、なぜか鼻歌を歌っていたが、無理やり逃げると悲しそうな目で訴えかけてきた。なんとも言えない気持ちになり、結局この状態に戻っているのが現状だ。


 今のところ人影を見かけない。ユークは人型の魔物で、幼いから見掛けた大人のPHに連れ去られると思ったが、そんなことはなかった。なぜなら人に会わないから。


「ユーク、大通りに行ってくれ。このままじゃ、埒があかない」


「わかった」


 ユークは俺を抱えたまま建物の壁へとジャンプし、屋根までかけ上がると、周辺を見回し、見つけたその先に再びジャンプした。見るものが見れば大騒ぎになるが、今はそんな状態には陥らないだろう。


 大通りには多くの店があり、森でよく見つける木の実や果物が売られていた。やはりここにも人影はない。それに音もない。遠くから聞こえる戦闘音があるが、これでは人がいる場所を探せない。


「いないな」


「…」


「なぁ、ユーク、やっぱりどこか大きい建物に隠れてるのかな?もう少し進んでみよう。…ユーク?」


「あれ」


 ユークが指差す方向を確認すると、そこには籠の中に捕まった動物や魔物がいた。


「これは…ペットショップか?人の店ならそういうのもあるとは思っていたけど、この世界にもあるんだな」


「…精霊様がいる」


「なに?どこだ」


 店の中に入ると今まで見たこともない魔物が首輪をはめられ、身動きのとれないものや、ここで生まれ育ったのか俺たちのことを不思議そうに見るもの、そしてこちらを怯えるものと様々だ。


「こっち」


 ユークには精霊の気配がわかるのか、どんどん奥へと入っていった。そこはカーテンで覆われて隠されていた。開くと中には水槽があり、小さな羽を生やした小人がいた。


「眠っているのか?」


「…やって」


「ん?」


 ユークが手を水槽に向けると蜘蛛の聖霊が現れ、前脚を勢いよく振り下ろした。水槽は粉々に砕け、ユークは俺を下ろして直ぐ様、精霊の拘束を解いた。


「大丈夫そうか?」


「だめ。これが外せない」


「どれだ?」


 確認してみるとそこには見慣れた糸があった。どうやらどこかで回収された俺たちの、もしくはどこかの蜘蛛の糸が使われていた。俺はそれを容易に取り外した。


「…ありがと」


「気にするな。それよりその精霊を安全なところへ連れていこう」


 精霊を大切そうに抱えたユークに先に行かせ、俺は捕まっている魔物を解放して回った。暴れて俺に襲いかかろうとするものはいなかった。おそらく実力差に気が付いているのだろう。甘えてきたものがいたのは驚きだったが、逃げるように促してどうにかなった。


 店を出るとそこにはなぜか一方を睨み付けて警戒しているユークの姿があった。


「どうした?」


「ん」


 ユークの示す先には幾人かのPHがいた。こちらに気づいているのかあちらも警戒している様子だった。そりゃあまぁ気付くよな。俺の後ろにはあのペットショップから逃げ出した魔物たちが着いてきている。


 ユークが子供だからといってこの状況では魔物側として見られて当然だ。多分ここに訪れたのは偶然だ。だが、ユークがこちら側だと気付けたのは必然だった。


「やれるか?」


「できる」


「その言葉を聞けたら十分だ」


 PHの後方に天網を発動し、転移巣に指定する。PHは未だに警戒するばかりでこちらに手を出してこない。ならば、こちらから仕掛けるまでだ。


「いってくる」


「私もやる」


 ユークが手をPHに向けると蜘蛛の聖霊が再び顕現した。そしてさらにいままで見たことない大きさの蜘蛛の聖霊を次々と召喚していった。それを確認し、俺は敵の裏をかいて殲滅することにした。


 あちらは突然現れた蜘蛛の聖霊に目がいっていて他に警戒することができないほど、一点ばかり見ている。当然、後ろなんて確認できるわけがない。


 転移巣を新たに作り出し、先程つくった転移巣に転移する。


「隙だらけだぞ」


 背中を向けて、いや、前屈みで構える姿勢はどちらかといえば尻を向けてと言うべきか。そんな奴らには槍を突き刺すのがおすすめだ。火槍(ファイアランス)土槍(アースランス)、そして水槍(ウォーターランス)を発動した。それと同時に蜘蛛の聖霊が突撃する。


 身構えた奴らは前に意識がいっていて気付けることもなく、クリティカルヒットした。衝撃で勢いよく前へと転んだPHに慈悲はない。巨大な蜘蛛が振り下ろした前脚に踏み潰され、動きを止める。


 あとは恨み辛みのある解放された魔物に預けて一件落着だ。魔物たちとは意志疎通がとれないが、なんとなく憎んでいると感じたので、この行動に移した。彼らは暴れまわったら勝手に森へ帰っていくだろうし、放っておくことにした。


 精霊のことが気がかりでもあるので、早く森へ行ってあの幼女精霊に預けなければならない。だがそんなことをすればせっかくのイベントが楽しめないので、ユークには精霊を守りながら戦ってもらうことになるが、我慢してもらった。


 どこかで子蜘蛛たちに合流するか、他のPMもしくはその配下に遭遇すればいいのだが、そう簡単に会えると思っていない。なのでこのまま戦うことにした。


 ユークと今度は互いに歩調を合わせながら歩いて移動する。ユークは大事そうに精霊を抱き締め、心配そうにしていた。


「やっぱり引き返して精霊を預けてくるか?」


「いい、八雲様ならこの方も守れる。だからここが安心」


 絶大な信頼を寄せているところ悪いが、俺も集団戦が得意というわけでもないので、逃げるときは逃げるぞと言いたい。だが、なぜか自信満々なのでなにも言うことはあるまい。


「ん?あっちから音がするし、いってみよう」


「ん」


 俺たちは建物の屋根に登り、その場所に忍び寄った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 蜘蛛の糸すげぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ