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第49話 戦乱の毒花

少し遅くなりました。

今回は八雲の話ではなく、街の外の話になります。

楽しんでくださいね。

 街の周囲を埋め尽くす程のPMの軍勢は静寂を保っていた。真っ黒に包まれたローブの隙間から覗く赤や青の瞳が、さらに恐怖を増長させた。その眼光が向けるのは街の、正確にPH一人一人を睨み付けていた。


 あまりの恐さに声を忘れてしまうものが現れるほどだ。誰が誰だかわからないこの状況下で互いを認識し、そちらから一切目線を外さないもの達がいた。


 死の支配者たるカルトは地面に突き立てた大剣に両手を置きつつ、いつでも動ける態勢を維持し続けていた。それに対するのはあるイベントから目の敵にしていたアトラスだ。


 ※アトラスと言われても誰だかわからないかもしれないが、ゴブリンランドに遊びにいった傭兵の代表と言えばわかるだろう(今度書きます)。


 アトラスはあれから幾度となくカルトを討伐しに参ったが、すべて失敗に終わっている。その度にカルトの軍勢が目にみえて強化されていったのだが、そのことに気付くにはもう少し時間が必要だろう。


 カレー炒飯を深い憎しみをもって睨み付けている者たちがいた。それはあの非公式イベントに始まり、突発的に現れる盗賊ゴブリンによる剥ぎ取り、エリアボス戦直後の罠によるリスポーン、そしてゴブリン村のいちゃラブ生活。


 それにはカレー炒飯はあまり関わっていないが、ゴブリンだから、鬼だからという大きなくくりの中では誰だろうと関係ない。なにが一番の要因かといえば、集団の長だからではなく、単純に羨ましいからだ。


 このゲームにおいて男女比率は同等だ。それなのに、男女パーティーは少なく、むしろ男だけで構成されたパーティーがほとんどだ。他のゲームだとそれで終わりだが、このゲームではNPHの存在がある。


 それはつまり、AIだが彼女ができる確率があるのだ。それも好感度は誰もが同じ程度から始まるリアルにはない本当の平等、そして強いものほど好かれるといった要素もある。


 彼らは村や街のNPHの女性を自身のパーティーに誘うべく、日夜ボランティア活動に勤しみ、強さを求めた。そしていつの日かAI彼女を手にいれることが叶うだろうと食いしばって生きている。


 だからこそオープンβから知る人ぞ知る村のシスターや宿の看板娘などがいる村を我が物にしたカレー炒飯が憎いのだ。


 そんな彼らがPMになると最初から好意をもって寄り添ってくれる担当AIちゃんがいることを知れば、発狂することになるのだが、今のところPMが情報統制しているので、ばれることはないだろう。


 ユッケだが、彼には熱烈なファンがいる。それはこのようなゲームに必ずいるもふらーたちだ。彼らはユッケのことをオープンβ時代から知っており、知らないものもその魅惑の毛に酔いしれていた。


 一部のものたちはテイムできるのではないかと躍起になっているが今のところ、できる手立てはない。テイムをせずにもふるにはどうすればいいか?答えは簡単だ。戦闘中に抱きつけばいい。


 欲望に染まった目でどうやって抱きつけばより長い時間もふることができるのかと算段するPHたちからすればこのイベントは街の防衛ではなく、より長時間ユッケに抱きつけるかのご褒美タイムだ。


 手をワキワキさせながら近付いてくるPH達に顔を引きつらせる。だが、ユッケからしても彼らのことは命の結晶をわざわざくれるボーナスタイムではある。ただ、噛み付いても魔法で倒しても恍惚とした表情で死んでいくPH達には気持ち悪いと思っている。


 そんな互いが互いを敵視するなか、一人黙々と結界に突撃するジン。そして誰にも気付かれずに結界の上でトランポリンをする八雲。二人の高火力の攻撃が幾度となくぶつかり合った結界は一瞬のうちに崩れ去った。


 そして八雲という流れ星が街に降り注ぐと、街から大きな衝撃音が鳴り響き、勢い余ってジンがPHの集団に突撃していった。


 それを合図に戦いの火蓋が切られた。だが、それがなんだったのか、誰が何をしたかなど誰にもわかる術をもっていなかった。そんな中、最初に動いたのはカルトだった。自らが持つ大剣に灰色と漆黒のオーラを纏わせ、街に一閃を薙いだ。


「【空虚】」


 放たれたその一撃は街を防衛するPH達に直撃した。それによりPHが自らを強化あるいは味方の支援、そしていつでも攻撃できるように準備されていた魔法の全てを無に還した。


「【黒邪界】」


 大剣を地面に突き刺し、空に手を掲げると、真っ黒な光の玉が現れ、弾けとんだ。それと同時に街を覆い尽くすほどの闇が球体上に現れた。闇はスケルトンたちに降り注ぎ、すべての能力を強化していった。


「いくよ」


 カルトの掛け声に一切返事をすることなく、スケルトンたちは街へと襲いかかる。カルトはのんびりとした歩調で歩く。向かう先にはあのアトラスが腕を組んで待っている。


「彼も本当にしつこいね。ここで完膚なきまで叩きのめせば諦めてくれるかな?」


 カルトはため息をつくが、一切アトラスから目線を外さなかった。その歩みを止める者は現れないと二人は思っていた。


「これは…そうか、君か。でも、それはもう僕には効かないよ」


 闇の中で一つの光が生まれた。それは空へ浮かんでいくと弾けとんだ。闇とぶつかり合い、光は闇を消し去った。それに焦ったのはカルトではなくアトラスだった。


「くそっ!あんの糞勇者がっ!」


 アトラスは街の方へ振り返り悪態をつく。そのほんの僅かな一瞬が彼に大きな隙を作らせた。


「ずいぶん余裕だね」


「なに?ぐっ」


 一瞬のうちに迫ったカルトはアトラスの首を大剣で叩き切った。彼は大きなギルドの長だが、決して強くはない。彼は指揮に優れているだけで自分自身が強いと思い込んでいる節がある。


「ほんと、もう少し骨を鍛えてよ。僕みたいにね」


 首の失くしたアトラスは直ぐ様カルトに転生させられ、ゾンビへと変化していった。だが、それはすぐに崩れる。


「本当に脆いね」


 苦笑をしてアトラスの死体を眺める。そしてすぐにやめて、周りを見回す。そこにはアトラスのギルドメンバーが武器を構えていつでも倒せるぞ、と睨みを効かせていた。


「僕が弱体化してるからってイキりついてるのか。ほんと、どうしようもないね、君達は」


 光に包まれて身体全身が聖なる炎で燃えるなか、彼らを見たPHは余裕な姿勢を構えた。アンデッドの最大の弱点である光のフィールド。それが全体を覆いつくし、次々とアンデッドが成仏していく。


 そしてその長たるカルトも逃げることもできずに消滅するのだと、PHたちはにやけが止まらなくなっていた。だが、そんな甘い考えはカルトには効かない。何せ進化したカルトたちにとって光はすでに弱点ではないのだから。


「【聖転】」


 聖炎に焼かれ、成仏まで一歩手前。カルトの呟いた言葉を理解できずにいた彼らには何が起こったのか理解できないだろう。光はすべてのアンデッドに飲まれていった。そして再び夜の闇が訪れた。


 消失した光のフィールド、そして迎えた夜の闇、理解の追い付けない状況をさらに混沌とさせたのはアンデッドがいた場所に現れた光の塊。光が形をつくり、人の形になると、すぐに近くで呆然とするPHの首を切り飛ばした。


 同じくしてカルトも邪属性から聖属性へと変化した。そして禍々しい死の支配者といわんばかりの容姿が一変し、まるで聖女のような華奢な女性へと変身した。


「まったく、これだから男は…まぁ僕も男、だけどねっ!」


 女性のような顔をした自分に嫌気が差したこともあった。だが本来のいたずら気質の性格がそれを新たな武器へと昇華させた。呆けた男を翻弄し、攻撃されそうになれば、演技をして動きを止める。


 実際はそんな必要もなく攻撃もすべて防げる。余裕はみせないが、一撃一撃に殺意を込めて振るう剣には相手を恐怖に陥れる。30人を越えるギルドメンバーなどついでにと言わんばかりに殲滅した。


 光のフィールドはアンデッドを滅ぼすが聖なる者には祝福を与える。つまり、この中ではカルトたちは無敵である。すべての能力を強化された上、一定時間毎にHPが回復する。持続回復のある魔物などもはや、勝てる術もなく、元アンデッドのレリックたちは物量戦と実力で圧倒した。


 闇がすべてを飲み込んだ中で鬼たちはキャンプファイアをしていた。カルトがなにかをした。アンデッドが活発になった。じゃあ俺たちは?と首を傾けた鬼たちにカレー炒飯は良いものがあると言って木を取り出し、火をつけた。


 戦場でなにしてんだって話だがことカレー炒飯たち鬼には関係ないことである。楽しければなんでもいいの精神がなんでも遊び心をもって接するカレー炒飯にうまくマッチしたことで生まれた謎の友情。彼らは強さをもつカレー炒飯に憧れもあるが、なにより性格が好きということもあり、今では上と下という関係はなく、仲の良い友達だ。


 だからこそ御輿も担ぐし、キャンプファイアもする。そしてキャンプといえば花火だ。日本を愛するカレー炒飯はこのゲームにおいて日本の文化をひたすら楽しむために研究に研究を重ねてきた。


 その結果があの城であり刀であり、そして花火だ。火薬はオカマスライムが作れるので潤沢に量がある。そして色をつけるには化学物質が複数必要だが、これはスキルによって作ることができた。


 花火を大砲に押し込み、向ける先は空、ではなく、街だ。


「てめぇら、準備は良いか!」


「「「「押忍ッ!」」」」


 大声のカレー炒飯に鬼たちはさらに大きな声で返答する。そして数十発の花火を闇の中で一切姿をみせることなく、街の中へと侵入していった。不発かと思われた花火は街へと降り注ぎ、なにかに衝突した瞬間、爆発した。


 この闇の中では綺麗に咲くことのできた花火は日本人の心に感動を憶えさせるが、衝撃と爆音、そしてその威力を肌で感じたPH達は花火と同じく爆散していった。


 花火は空に咲けば、儚く綺麗で美しい一輪の花、地面で咲けば、凶悪な爆弾だ。心を焦がす花火はここでは身体も焦がす。


 無慈悲の花火も闇が消え去ればただの爆弾、大砲から次々と打ち出される花火は闇がなければ咲くことのできない花、光あれば、見えない蕾が姿を現す。その凶悪な球体が蕾であるならば、撃ち落とすしかない。


 この世界にある魔法で十分に撃ち落とせる。ただし、無詠唱ならの話だ。つまり、今いるPHの詠唱魔法では防げない。それにこの日のためだけに造り上げた花火はそんなやわな代物ではない。花火の中にはPHを楽しませるために鉄屑も入れている。


 この鉄屑を集めれば装備を一式つくれるほどの量が含まれている。いつも剥ぎ取らせてもらっているPHたちにサプライズプレゼントも忘れないカレー炒飯に、PHたちは感謝いっぱいで今頃泣いているはずだ。


 カレー炒飯のサプライズはこれだけじゃない。子蜘蛛たちからもらった糸を使い、繋げた小さな二つの花火が街に飛んでいくとその間にいたPHたちをぐるぐると拘束し、花火同士がぶつかり合うと、綺麗な花を咲かせた。


 間近で見れる花火なんてものは大体小さいものが大半だ。ソロの人のことも考え、一人でも楽しめる花火も用意しておいた。これでぼっちでも花火を楽しめるだろう。あれだけ大きいと一人だけでなく、周りの人も楽しめる。これもカレー炒飯なりの気遣いだ。


 花火を撃ち尽くす頃にはアンデッドたちがレリックに変化し、少数の精鋭部隊による交戦が始まっていた。そんな中に混ざりたくなる鬼たちが現れるのも不思議じゃない。


「よし、花火はこれで終わりだ。次はあれでいくぞ!」


「「「「押忍ッ!」」」」


 そして彼らは己の刀を構え、突撃していった。そこからは個人戦だ。遊びを好む鬼たちは戦いも好む。誰もが戦闘狂であり、誰もが快楽者である。楽しい方を選ぶのは自然の摂理であり、彼らが戦いを楽しむのもサムライならではの遊戯だ。


 一人は無双、一人は遊びをしているなか、ユッケは逃げていた。もちろん遭遇すれば倒すし、戦う。だが、もふらーたちの執念の相手はただ戦うよりもつらいこともある。


 武器を構えることもなく、装備をすることもなく、武力をなにも持たない状態で迫り、近くまで来るとルパンジャンプで飛び込んでくる。それから逃げないものはおそらくいない。


 そんな輩が常日頃から現れ、群れをつくらず、ただ一人ですべてを為してきたからこそ、その孤高の存在へと進化できたのだろう。ユッケは王でもなければ、誰かを配下にもつ者でもない。


 孤高の幻魔狼ソリテュードファントムウルフ。それがユッケの種族だ。一人だからできる進化であるが、その特徴は白銀の毛並みに艶やかな蒼の毛先、そして誰もが抱きつきたくなるもふもふとした尻尾。大きさは3メートルほどの大柄だが、それでも抱きつけるものは露程もいない。


 そこにいるかと思えば、それは幻術であり、いないかと思えばそこにいる。突撃するもふらーPHが指も触れることもできずに心を折ってしまうことも夢ではない。


 その幻の狼に触れるともふらーたちは棒立ちになる。段々と恍惚とした表情に変わると味方のPHに襲いかかった。幻の狼は彼女等を夢へと誘い、身体の制御を奪うことができる。


 孤高であることは孤独でもある。幻は群れをつくるだけでなく、一人でも多くのものを私物化する。そうしてできた顔面崩壊したもふらーたちは生ける屍と化したアンデッドのように今度は味方のPHをもふりにいく。


 幻の狼が操るもふらーが抱きつけば、そのもふらーも操られる。だが、彼女等にとっては悪いことばかりではない、幻では自身が現在望んでいるものを見て触ることのできる夢を見れるのだ。


 つまり彼女等は夢の中でユッケをもふり、現実ではユッケの思い通り使われる、Win-Winの関係が成り立っているのだ。


 アンデッドのいなくなったこの光のフィールドでアンデッドのごとく迫り来るもふらーたちに躊躇いもなく剣を振るい、倒していくPHに悪気はない。しかしその行為がPH同士で亀裂を生むことになるときは、すぐ近くにまで迫っていた。


 その頃、ジンはというとPHを空の旅へとご招待して、空中でカラスたちのおもてなしの精神で、ひもなしバンジーを楽しませていた。もちろん、地面すれすれで救うだなんてことはしなかった。


ちょっと昔の話ですが、ある病院で看護士さんに膝枕してもらって鼻風邪の治療するものがあったのですが、距離を測れず、危うく胸に頭を押し付けそうになったことがあります。


そんな経験ある人、おそらくあんまりないとは思いますが、膝枕って結局何が良いかって、感触と視界なんですよね。普段、使いなれた枕を使用している中で寝心地の悪い膝枕、だが、それでもなおやってほしくなるのは男だから?いや、まぁ、そういうのが好きって人もなかにもいるかもしれませんね。


つまり、何が言いたいかというと、枕は自分にとって最高のポジションと最高品質の素材を使ったものを使おう。寝てる間は気付かなくても寝る前と起きたときの心地よさは段違いです。


寝ること以外でもなんでも前と後、最中で感じることは変わります。人って手のひらくるんくるんさせるの得意だよね。世の中そんなものです。


…なんとなく語りたくなった。以上です。

次は八雲の話に戻ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 膝枕は最高品質の枕です。 [気になる点] ひざまくら [一言] 膝枕と顔を多い尽くすマシュマロ、 孤高の枕です。
[一言] アンデッドの聖女 なんか良いよね
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