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第48話 流れ星と暗躍

 我を忘れて楽しんでいた俺はバウンドする快楽で周りが見えていなかった。気付かされたのは瞬きも許されない一瞬の出来事だった。


 返ってくるはずの弾力がなくなり、どこかへ衝突したことで起きた悲鳴と土煙とそして、粉々に砕かれたクリスタルによるものだ。


「…っ!?」


 あまりの衝撃で声を失うほどの痛みが走った。意識を失いかけていたが、トランポリンを楽しみすぎて上がりすぎたテンションがそれを止めることに成功していた。


 未だにぐわんぐわんする頭で状況を把握するなか、視界に現れたウィンドウに気が付かなかった。それにはとても重要なことが書かれていたが、そのときの八雲にとっては目移りするものではなかったのだろう。


 ウィンドウが消えて、やっとのことで状況を理解できた俺は、即興で巣をつくり、転移巣に設定して逃げた。


 現状は、街の中心部のおそらくPHの復活地点に落下し、復活したばかりのPHと住人を巻き込んだのだろう。


 すぐに状況把握でき、さらにすぐに逃げることが出来たのはおそらく闇夜眼のおかげだと思う。あの衝撃で明かりを吹き飛ばしていて真っ暗になっていた。


 そして夜目系のスキルを持って尚且つ、あの状況下で俺のことに気付く冷静な頭の持ち主があの場にいなかったことも要因の一つともいえる。


 つまり俺は運がよかった。落下している時点で不幸かもしれないが、あれは俺の不注意が招いた事故なのでそこまで不幸ではない。


 今は空に設置した天網にくっついているのだが、もしかしたら落下地点とこの天網を結びつけられるかもしれないが、今は混乱で大丈夫だ。


 時間は月の位置と形からして二十七日目の深夜2時頃だろう。この世界の謎はさておき、夜は月の形で何日目かわかり、位置から何時かわかる。


 月の形と言われてピンと来ないが、月を時間のことを気にしながら見るとリアル時間とゲーム内時間が思い浮かぶ。


 朝と昼は太陽をみれば、わかるのだが、曇りや雨の場合はわからないので、慎重に行動しなければ、ログアウトした際に雷が落とされてしまう。


 そういうわけでルカさんが豆知識として教えてくれたこの行為をたまに行っている。拠点にいる場合はルカさんや他の担当AIさんが教えてくれる。非常に便利である。


 時間も時間なので一旦拠点に帰ってからログアウトすることにした。


「あれ?もとの場所に戻れない?」


 転移巣を外の巣に指定して移動しようとしたが、することができなかった。出来る場所は地面にあるあの敵だらけの場所だ。


 ここから拠点に帰るには新しく張るか、街を移動しながら帰るしかない。


「うーん、どうしよう。せっかくだから暴れてから死に戻りでもしようかな?お母さんには遅くなるかもって伝えてるし、遅くても0時には起きるって言ってるから大丈夫だとは思うけど…よし!やるか」


 戦闘をすると決まれば、やることは簡単だ。この街のPHの心をへし折ることだ。一番簡単なのは街に降りて救援を呼ぶことだ。早速だが、天網を街の一番高いところ、時計台かな?あれに張り付け、転移巣に設定して、さらに自分のいる天網を転移巣に設定する。


 これで地面にある転移巣は使えなくなる。時計台に転移したら、広くて安全な場所を探す。


「ん?あれは…」


 時計台の中を探している最中発見したのは、外を眺めてはごそごそとするPHだった。遠くを見ることの出来るスキルを持っている偵察かもしれない。確かに遠くを見れるなら、安全で全体を見回せることのできるこの位置は完璧だろう。


 だが、空からの奇襲がないとは言えないこのゲームにおいて悪手だ。天井に張り付きながら移動し、頭の真上まで来ると、つくっておいた魔糸の木杭を頭を狙って投げる。


 至近距離から放たれた木杭はまっすぐPHの頭に突き刺さった。急所に刺さったことで相手は一撃死した。


 このゲームHPはあるが、急所に当てれば一撃で倒すことが出来る。ただし魔物はそんなへまな身体をしていないので、一撃では死なない。


 PHは装備品があるので、普通なら一撃では死なないのだが、彼は追い剥ぎにあったのかちぐはぐな装備で、頭にはスカーフしか巻いていなかった。窓から手と頭を放り出した状態で死んだので、中に引きずり込んで偽装する。


 中には数人いたが、どれも頭に一撃で死んでもらった。時計台を探索すると、魔法陣のようなものがあり、途中にあった螺旋階段を省略できるギミックの一部かもしれない。この街は広大なので、そんな仕掛けがあってもおかしくない。


 そこにキョテントを張った。キョテントを破壊すればこの魔法陣も破壊される嫌がらせも出来たので、一旦拠点に戻って応援を呼ぶ。


 広場は死に戻りしたNPMで溢れ帰っていたので、主であるPMを呼んでもらえるように伝言を頼んだ。


 すると、戦いにまだ参加していないPMがいると聞いたので全員呼んでもらうことにした。自分の拠点で眠るフウマたちを可愛がっていると味噌汁ご飯とジュリアーナ、たかしくん、ミントさん、と鹿?が来た。


「来てもらって悪いがちょっと静かに移動してもらっていいかな?」


「ええ、いいわよ」


「子供たちを起こすなんてことはしないわ」


「ふ、増えてる…((( ;゜Д゜)))ガクガク」


「混ざってもいいかな?」


「だめですよ、迷惑かけたら」


「わかってるよ」


 すぐに了承してくれた味噌汁ご飯とジュリアーナ、トラウマを思い出したミントさん、惰眠のプロたかしくん、そして鹿?


「そちらの鹿さんははじめましてですよね?」


「ええ、正確には何度かすれ違いましたが、話すのは初めてよ」


「この子たちの()()で、今回召集をかけた八雲です。よろしくお願いします」


「ええ、よろしく。私はメルドアよ。共通の知り合いだとクロードやマルノミかしら?」


 今回集まった人たちはイベントで裏方に徹していると言っていたが、現状を知らない俺からしたらなんのことかわからなかった。てっきり全員結界を越えて無双してるものだと思っていた。


「そうね、私たちはどちらかといえば予備要員、違うわね…切り札よ!」


 味噌汁ご飯がちょっとどや顔してるのはむかつくが、話を聞いてまとめると。まずはPMの中で集団戦に優れたものが街を攻め、それでも勝てなかった場合に味噌汁ご飯たちのような一人で独走できる遊撃隊が街を混乱に陥れる。というものだ。


 つまり今のところやることはないのだろう。


「いえ、そんなことはないわよ。本来のイベントで街を襲うはずだったNPMの排除も私たちの裏方の任務でもあるのよ」


「本来の?」


「ええ、各方角のエリアボスもこのイベントで出現するの。それも強化された状態でね。ただ例外もあったわ」


「例外?」


「ええ、南西だったかしら?あそこから来たエリアボスは特に強かったわね。しかも一体少なかったのも気になるわね」


「南西のエリアボスってなんでしたっけ?」


「確か…骸骨騎士(スケルトンナイト)骸骨魔術師(スケルトンマジシャン)だったかしら?骸骨闇騎士ダークナイトスケルトンに進化していたのは予想外だったわ」


「へ、へぇーそうなんですか」


 南西のエリアボスってクナトが略奪愛したところだよね。さらに進化していたのか。今のクナトなら成仏できそうだけど、エリアボスってリスポーンするから、あんまり意味なさそうだけど。


「八雲は進化してた理由に心当たりがありそうね」


 そっぽを向いて返事したせいでメルドアにバレた。


「…クナトは知っていますか?」


「ええ、カルトが自慢してたわ。おかげで配下の進化もいいものができたってね」


「クナトには奥さんが二人いるんです」


「そうなの?この世界って一夫多妻制だったのね」


「いいわねぇ。私も素敵な旦那さんほしいわぁ」


 味噌汁ご飯が寝言を言っていたが無視しよう。きっと寝てるのだろう。スライムって顔ないからわからないし、寝言だから無視しても問題ないよね。


「その奥さんですが、実は同じ人物なんです」


「それはどういうこと?」


「まぁ!過去と未来から来た奥さんってことね!私も何人も旦那さんができるなら、好きな方が何人もいるのもいいわね…じゅるり」


 随分騒がしい寝言を言い出したが、やはり起きてるのかわからない。よだれを出すということは寝ているに違いない。いつの間にかスライムが二人に増えてくねくねしていたが、気のせいだろう。


「クナトは元々南西のエリアボスだったんですが、仲良くなったので友達になりました。それでクナト以外にくましゃんとユークがいるんですが、もう一度入ったらクナトが骸骨魔術師(スケルトンマジシャン)を略奪したんです。というか向こうが惚れたというかなんというか」


「それはすごい経験をしたわね。私もスキルで植え付けた種で洗脳して連れ出したことはあるけど、仲良くなったなんてことはないわね」


「そうねぇ、私も寝てる熊に爆弾を食べさせて、次の戦いから熊が私を見る度にビクビクしてることはあったけど、仲良くなったことはないわねぇ」


 二人ともやってることが怖すぎる。


「それで元々クナトがいたポジションのエリアボスが闇堕ちしまして…」


「なるほどね、納得はできないけど、真実がわかってよかったわ」


「不倫はだめよ。やっぱり一途が一番よ!」


「さすがお姉さま!旦那様にするなら一途ですわね!」


 メルドアが納得したところで早速これからについて話した。


「かくかくしかじかで」


「ガクガク鹿々ね。わかったわ。生まれたての子鹿のモノマネをすればいいのね。高くつくわよ」


 省略なんてできるわけもなく一から説明した。途中からあの味噌汁ご飯から白い目で見られたが、起きてしまった出来事をどうすることもできないので、経緯を知ってもらって話を進行しやすくする。


「なるほどね。遊撃隊である私たちが内側から混乱させるのね。楽しそうだから参加させてもらうわ」


「アレが試せるわね…」


「お姉さま…アレ…ですわね」


「私もいきます」


「ふごぉーーっ」


 メルドアが参戦してくれるのは頼もしい。ミントさんも参加してくれるみたいだ。


 フウマたちから若干距離を置いているのが気になるが、怖い思いをさせてしまったので仕方がない。二人が暗躍しているが、関わりたくないので、無視を決め込んだ。


 お互いに準備があるということで、一旦解散した。ちなみにたかしくんはメルドアが引き摺って連れて帰った。


 攻めるタイミングは再度集まってすぐ行うつもりだが、まずは俺が安全を確保してそのあとは自由行動だ。なにせ個性的なメンバーだ。集団行動なんてしたところでチームワークはとれない。


 俺の準備といえば、一旦ログアウトして親に大丈夫なことを伝えることくらいだ。ログインし直すと子蜘蛛たちが目を覚まして朝御飯を食べていた。


 時間としては10分ほどログアウトしていただけだが、ここでは40分経っている。その間に起きたのだろう。


 今は深夜5時だが、フウマたちは戦いのために早起きしたみたいだ。「おはよう」の挨拶とこれからのことを話して戦闘準備をしてもらった。


 今回はイベントに不参加予定だった子蜘蛛たちにも参加もらうことにした。


 せっかく街探索ができるいい機会なので、子蜘蛛たちには遠足気分でとは言わないが楽しんでもらう。


 最低ラインとしてレベル設定をした。一度進化していることが条件としても数は数百を越える。


 一斉にキョテントからの移動は難しいので、他のPMが全員いった後に順々に移動して巣を形成しながら街を探索することが目標だ。


 集合場所は広場に設定したので、死に戻りで帰ってきたNPMたちには自分たちの主に伝言をしてもらうように頼んだ。今回の街探索にはユークも参加する。


 ユークにはNPHに遭遇した際の対処もしてもらう。この戦いに巻き込むには可愛そうというのもあるが、おそらく倒してもあんまり良いことはなさそうだからだ。


 仕返しに討伐隊なんて組まれでもされたらのんびり日向ぼっこも難しくなるかもしれない。


 伝言を頼んでからまだ時間が経っていないが、すでに俺たちの作戦に参加してくれるカルトやカレーたちの配下が集まってきている。


 広場に溢れんばかりの人数が集まったので、時計台の制圧に挑むことにした。


 転移門を通過して始めに目に入ったのは、背中だった。この時計台に出たであろうなにかを討伐しに来たのだろう。あのちぐはぐ装備の人もいるので、もしかしたら護衛かもしれない。


 あまりにも無防備だったので、糸で首を飛ばした。唖然とするちくはぐ装備の人も隙をついて簡単に終わらせた。


 周囲を見回して特に人もいなかったので、一度戻り許可を出した。


 味噌汁ご飯とジュリアーナは長い螺旋階段の小さな隙間を通って下までショートカットしていった。


 メルドアとたかしくんは時計台の上にいくそうだ。ミントさんはお供のティラミスとゆっくり螺旋階段を降りていった。


 俺は子蜘蛛たちを呼んで、早速街の中心部からえんそ…探索を始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] えんそ? 塩素?演奏? あ、遠足か
[一言] 更新ありがとうございます。今後も更新楽しみに待ってます。
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