第46話 特異点
後続にこのイベントとは場違いな雰囲気と姿を晒したカレーたちを尻目に街へ急いだ。思ったよりも乗り心地のよかったマルノミ一号機に跨がって進む行軍は速度を緩めることなく、戦場へたどり着いた。
驚きなのは後続が全く距離を離すことなくついてきたことだ。カレーたちは着いた途端にお祭りモードをやめ、直ぐ様作業に取り掛かった。あの家の前で「わっしょいわっしょい」言って煮干とお酒、お猪口一杯でお金と交換する行事は行わないのか。
地域によるがうちはそうだった。参加しなければただうるさいだけだが、子供が元気だとわかる安心材料ともいえる。ついこの間まで参加していた俺が言うのもなんだが、ちょっとだけ寂しい。
だからと言ってカレーよ、カレーはいらんよ?なんでお鍋に一杯入ってるから大丈夫って言うの?ここ戦場だよ?いや、まぁもらうけどね。
「どうだ、うまいだろ」
「おいしいけどさ、さっき食べてなかったっけ?」
「食べたぞ。だが、戦場で食べるカレーも最高だろ?見てみろよ、あの顔」
指を差された先にはPHが鬼と小競り合いをしていた。注目しているとPHの視線はカレーにいっていることがわかった。隙だらけになった馬鹿は子蜘蛛たちが糸でぐるぐる巻きにして、あと一歩届かないところで子蜘蛛がカレーを食べるという行為を及んだ。
カレーを食べる子蜘蛛を親の敵のごとく睨み付けるPHに対して子蜘蛛は、「なんだ、欲しいのか?」と言わんばかりの態度でカレーとご飯が絶妙なバランスで盛り付けられたスプーンを差し出した。
PHは「え?いいのか?」という顔で敵ながら称賛を送ろうとしていた。しかし、俺たちは敵同士、そんなことが成立することもなく、差し出されたカレーは通りかかったスライムに飲み込まれ、スプーンごと溶けていった。
「あら?ごめんなさい」
スプーンが溶けきってやっと気がついたのは味噌汁ご飯だった。先程の少女の姿ではなく、完全なるスライムだ。スプーンを失った子蜘蛛はあたふたとし、カレーを奪われたPHは自害した。
カレーを食べられたショックなのか、はたまたスライムに生きたまま食べられることに恐怖を感じたのか定かではない。失ったスプーンに関しては味噌汁ご飯が手作りしたのか、柄の部分に蜘蛛の意匠が施されたスプーンをプレゼントされていた。
それをもらった子蜘蛛は「ありがとー!スライムさん!」と興奮した様子で御礼をして、自慢げに俺のところまでやってきた。
「お?どうした?」
「あのね、あのね!これ、スライムさんにもらったの!」
「すごいな、それ。俺たち蜘蛛のデザインがされてるんだな!」
「うん!」
「よかったな!大事にしろよ」
「うん!だいじにする!」
そう言って嬉しそうに森の方へ走っていった。その後ろにはいつの間にか帰ってきていたクナトが追走していた。護衛もついていることだし、無事拠点にスプーンを預けにいけるだろう。
戦場は激しさを増している。街襲撃イベントだから、無作為になにも考えることなく進んでいくのではなく、徐々に侵略していく。カルトたち、アンデッド集団は結界への直接攻撃とPHの乱獲を行っている。
ジンとマルノミは遊撃と偵察を繰り返し、指揮をするクロードに情報を伝達している。俺たちは最初、魔法による援護を担当する予定だったが、思ったよりもPHがバラけていたので、ジンたちに設置してもらう用の網をつくっている。
その結果、俺が暇になった。というのも実は細かい作業が不器用で、子蜘蛛たちよりも下手だということが判明したので、今はカレーを食べている。
単純に糸細工のスキルレベルが子蜘蛛たちよりも低かったのが原因だが、レベル差を簡単に縮められるほどのレベル差ではないので、待機だ。
「ん?そういえばステータス確認してなかったな」
まずは子蜘蛛たちから、レベルが上がってる子がいたらポイントを振り分ける。スキルに関しては「これがほしい!」って言ってきたら覚えさせるようにしている。それ以外は俺がなんとなくこれかな?ってものを覚えさせている。
「え?進化可能?」
子蜘蛛のレベルは46、予想していた進化可能レベルよりも低い。それなのに進化可能とはどういうことか。
「お?八雲んとこもそのレベルにいったか」
「カレー、45で進化できるものなのか?」
「ん?あぁ、45で3回目の進化ができて、50でさらに進化ができるようなる。45レベルは大体一つだから悩まずに済むぞ。50の進化の方はイベントが終わってからの方がいいぞ。慣れない身体で戦うには無理があるからな」
「慣れない身体?」
「俺を見てみろ、どう考えてもゴブリンじゃないだろ?つまり、種族自体が大幅に変わるっわけよ。どうだ、このかっこいいフォルムを!」
そう言ってポーズを決めたカレーの後ろにはそれを称えるように構えた鬼とそれをよいしょするゴブリンたちが憧れの目で「さすが兄貴っす!」と歓声をあげていた。
「まぁ、楽しみはあとにすべきってことにしときな、一旦拠点に帰ってから進化してこいよ。その間、俺たちに任せとけ」
「カレー…わかった、任せた」
実際俺はやることなかったし、子蜘蛛もカレーをPHに見せつける嫌がらせしかしていなかった。わりと暇してたのでちょうどいいといえば、ちょうどいい。
レベルの低い子蜘蛛たちにPHの止めをさしてもらいながら拠点へ行軍する。拠点までの道には裏取りしたPHがわんさかいたが、俺たちに遭遇するとは思っていなかったのか、武器をしまっていた。
「あ」
「◆●@*§!?」
「逃がすな!やつらは無防備だ、確保だ、確保!」
武器を持たぬPHは逃走を図った、しかし俺たちは森の中ではターザンにもなれる魔物だ。そう簡単に逃げることはできまい。森の方から走ってきた森賢狼に轢かれたPHもいたが、大体は子蜘蛛の包容によって動きを止めていた。
おそらく可愛さに感動して走ることをやめてしまったのだろう。そんなPHも毒によってビクンビクンしながら地面に伏した。45になっていない子蜘蛛にPHを倒してもらい、装備は解体して回収した。
遺体については森を徘徊していたカルトの配下に回収してもらった。装備については俺たちでカルトに届けて欲しいとのことだ。カルトの配下は遺体をアンデッドに変えて森の奥へと消えていった。
「無事レベルも上がったし、帰るぞ」
それからは拠点に難なく到着することができた。拠点ではあの人参を恍惚とした表情でかじるルカさんの姿があった。しかも蜘蛛の意匠が施されたスプーンをもつ子蜘蛛も一緒のティータイムだ。
「あら、おかえりなさい」
「ただいま」
「この子が持ってるスプーンってもう一つないでしょうか?」
「それは貰い物だからそれ一つだね」
「そ、そうですか…」
あからさまに落ち込んだルカさんは物欲しそうな目で子蜘蛛の掲げる蜘蛛スプーンを見つめていた。ルカさんだけだと思っていたが、どうやら他の子蜘蛛たちも欲しいらしい。
「あとで味噌汁ご飯に頼んでみるよ」
「本当ですか!」
「う、うん」
「ありがとうございます」
大喜びのルカさんと子蜘蛛だが、果たしてこの量を作ってくれるだろうか。謝礼を沢山用意しないとだめな気がする。手の空いている子蜘蛛たちにはイベントで空いているであろう狩場や洞窟などに行って素材採取してもらうことにした。
蜘蛛スプーンを掲げた子蜘蛛はまるでスターのように羨望の目をした子蜘蛛たちに囲まれて、「いいなぁいいなぁ」といわれていた。その子蜘蛛も満更ではない表情をしていた。
早速だが、進化先の選択に入ろう。うちの子蜘蛛は沢山いるので決めるのにも一苦労だ。まず簡単なところから。色蜘蛛を色彩蜘蛛に、投擲蜘蛛を射撃蜘蛛に進化させる。
色彩蜘蛛となった子蜘蛛は糸の殻から出てくると身体の色を変化させて周囲に同化した。前であれば保護色で集中すれば視ることのできた身体も今では全く視ることができない。本当の意味での保護色がこれだったのかもしれない。
射撃蜘蛛となった子蜘蛛は後ろ脚が特徴的でまるで砲撃の衝撃に耐え抜くような頑丈で巨大になっていた。前脚は逆に細い。そしてもっとも威圧感を放つのは前脚の上部にある突起だ。
子蜘蛛は「見ててね」と言って、その突起から糸の塊を飛ばした。撃ち出された糸の塊は宙に投げられた人参に当たり、包み込んで拠点に植えられた木にくっついた。
人参が消えたことでルカさんは射撃蜘蛛の子蜘蛛に詰め寄り説教を始めた。途中までどや顔をしていた子蜘蛛もルカさんの前ではしょぼんとしていた。だが、糸の塊を回収してきた子蜘蛛が人参が無事だと伝えると、説教が注意だけにとどまり、解放された。
次も選びやすい進化だ。大蜘蛛を巨大蜘蛛に進化させた。巨大とつくだけあって身体も三倍ほどに膨れ上がった。
進化先がもう一つあったので、大蜘蛛から強大蜘蛛に進化させた。大きさは二倍になったが、巨大蜘蛛よりも身体全身が太い。その代償はどの子蜘蛛たちよりも歩く速度が遅くなっていた。
選ぶのが難しいとは言ったものの、他の子蜘蛛たちも大して進化先が多いわけではなかった。それぞれの属性の種族に進化した子蜘蛛たちはそのままその属性の蜘蛛に進化させるだけだった。
たとえば赤蜘蛛なら女王赤蜘蛛、女王灰蜘蛛なら女王魔蜘蛛になるだけだ。それぞれの属性特化になるとともに、属性に関するスキルも得た。
属性特化になるメリットは大きいが、デメリットも大きい。弱点属性が増えることもあれば、火にさらに弱くなることがある。そこで新しく覚える必要があるのは【耐性スキル】だ。
今まで放置していたのは忘れていたからではない、決して、そう必要に迫られなかったから取得していなかった。子蜘蛛たちから「そんなスキルあるんだ!すごい、ママ物知り!」と称賛されながら、スキルポイントがある限り耐性スキルを取得させた。
自身の属性については進化するとともに取得していたので、少しだけポイントを節約することができた。足りなかった場合は命の結晶を消費してポイントを得た。イベントで大量ゲットしているのでなくなる心配をしながらすることはしない。
あとは俺の進化を残すのみだ。いつの間にか《幼体》という項目が消えていた。進化先だが、俺の進化先は複数あった。
《特殊進化》
・女帝火蜘蛛
・女帝水蜘蛛
・女帝風蜘蛛
・女帝土蜘蛛
・女帝光蜘蛛
・女帝闇蜘蛛
・女帝毒蜘蛛
・女帝魔蜘蛛
《特異進化》
・聖母蜘蛛
・魔王蜘蛛
・天帝蜘蛛
通常の進化先はなく、すべて特殊進化以上だ。今さら属性を持つ必要性を感じないので特殊進化はなしだ。あと特異進化の聖母蜘蛛は選択肢から外す。子蜘蛛たちからママ呼びされているが、心も身体も男である。さすがに抵抗がある。
残りは魔王と天帝だ。女帝からの正当進化とするなら天帝だ。魔王は少し前にカルトから教えてもらった勇者魔王ルートだ。王よりも帝の方が偉いイメージがあるので天帝を選ぶ。なにより天帝って響きがかっこいい。
進化先を選ぶといつものように糸に包まれる。フウマたちはすでに自力で脱出できているので、いつでも救出してくれる。糸に包まれながら目を閉じると身体の変化を感じる。それも一瞬で終わり、早速助けを呼ぼうとしたところでウィンドウが表示された。
《・自力で脱出することで初めて天帝と認められる。》
うん?つまり、今の段階では進化が完了してない?
心配そうな声が聞こえたので、無事だと報告しつつ、みんなに指示を出して戦闘準備だけしてもらう。
脱皮には時間がかかる。他の子蜘蛛たちは慣れたものだが、俺にはなかなか難しい。これ、一人でできるの?今度からフウマたちのこと「さん」付けで呼んだ方がいいのかな?
脱皮は苦戦を強いられた。フウマたちのお手本だと背中からパックリと割れて綺麗な状態で出てくる。だが、俺にそんな器用なことは難しい。
そういうことで俺は力業で脱出をはかる。糸の皮は硬い。だからこそ、暴れたら壊れやすい…はず。とにかく動き回ってじたばたとすると、罅がはえた。
いける!いけるぞ!
おそらく数時間はかかったであろう死闘はついに決着がついた。もちろん俺の勝利だが、やっぱりといっていいほど脱皮が汚い。それでも無事、天帝として認められた。
《主人公のステータス》
名前:八雲
種族:女帝蜘蛛→天帝蜘蛛
性別:男
称号:【ヴェルダンの縄張り主】【格上殺し】【森賢熊討伐者】【エリアボスソロ討伐者】【女王蜘蛛】【精霊守護者】【精霊樹の加護】【小悪鬼長討伐者】【岩蜥蜴討伐者】【砂塵地虫討伐者】【青牙蛇討伐者】【エリアボス懐柔者】【骸骨暗黒騎士討伐者】【エリアボス略奪者】【狂った邪精霊樹討伐者】【精霊の友】【聖骸の主】【精霊樹の救世主】【収集家】new
二つ名:【悪夢】【首狩り】【妖怪順番抜かし】
配下:子蜘蛛たくさん100匹+α
→最高レベル:Lv47+α
配下:
《クナト》聖骸の守護騎士Lv??
《くましゃん》聖骸の魔術師Lv??
《くましゃん二号》光骸の魔術士Lv41→43
《ユーク》聖骸の霊魂術師Lv??
Lv:46(+3)
HP:830/830 MP:1100/1100
筋力:70 魔力:90
耐久:80 魔抗:90
速度:90 気力:70
器用:90 幸運:50
生存ポイント
所持:0万500P 貯蓄:1974万7863P
ステータスポイント:80JP(+30+30)
スキルポイント:137SP(+30+15-40-30-30-90)
固有スキル
【魔糸生成Lv15→16】【魔糸術Lv9→10】【魔糸渡りLv9】【糸細工Lv17→18】【毒術Lv14→15】【糸傀儡Lv3→4】【領域侵略Lv1】new
特異スキル
【守護者召喚Lv1】new
特殊スキル
【精霊視Lv5】【暗殺術Lv3→4】【暗器作成Lv1】【罠術Lv4→5】【罠作成Lv2】【遠距離投擲Lv7→8】【軌道予測Lv5→6】【命中率上昇Lv7→8】【王権Lv3→5】【天網Lv1】【雷天糸Lv1】new【転移巣Lv1】new
専門スキル
【言語学Lv4】【武器学Lv5】【防具学Lv5】
魔法スキル
【風魔法Lv14→15】【水魔法Lv10→11】【土魔法Lv6→7】【闇魔法Lv3→4】【光魔法Lv5→6】【火魔法Lv5→6】
二次スキル
【闇夜眼Lv2→4】【隠滅Lv1→3】【魔力掌握Lv6→7】
一次スキル
【繁殖Lv5】【気配感知Lv27→29】【識別Lv18→20】【魔力感知Lv25→27】【思考回路Lv2】【投擲Lv24→22】【解体Lv27→28】【魔力上昇Lv14→15】【爪術Lv19→21】
耐性スキル
【火耐性Lv1】【水耐性Lv1】【風耐性Lv1】【土耐性Lv1】【闇耐性Lv1】【光耐性Lv1】【毒耐性Lv1】【魔法耐性Lv1】【物理耐性Lv1】
※特異スキル取得:30SP、特殊スキル取得:20SP、固有スキル取得:30SP、通常スキル取得:10SP、スキル進化:30SP
※レベルアップ時:10JP、5SP獲得
※種族進化時:30JP、30SP獲得




