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第44話 始動の朝、そして…

 イベント初日、俺は寝坊した。知ってた。仮眠と言いながら布団に潜り込んだところまでは覚えているが、そこからの記憶はない。それでも学校に向かう時間、8時に起きれたのはよかった。


 スマホの目覚ましは何度も鳴っていたようだが、いつか起きて全て消したのか、OFFになっていた。そして、スマホには裕貴と雪から通知が来ていた。ヒデから来てないところを見るに、奴も寝坊だろう。


 今からインしてもお昼ご飯のためにすぐにログアウトしなくてはならないので、先に済ませることにした。焦りは禁物と言いながら、考えていることはゲームのことばかりなのだから、俺もよっぽどFEOが好きなんだろう。


 「よし、準備できたぞ」


 いつもと違う感覚に見舞われたが、それは初めてのイベントだからこその緊張感と言える。今日は親もいないので、のんびりできることは確実だ。近くに食べ物や飲み物を配置する。もちろん、暴れて潰さない位置だ。寝相は悪くない、たぶん。


 ログインすると俺を囲んだ子蜘蛛たちがソワソワしながら待っていた。その目は今か今かと待ちわびる狩人だった。


 「準備はできてるか?」


 子蜘蛛たちはコクリと頷いた。皆、自作の魔糸の木杭を手にする。


 「よし、いこう。狩りの時間だ」


 転移門をくぐり他のPMがいるであろう広場に向かった。そこには武装したゴブリンもいれば、休憩をとる真っ黒なカラスもいた。


 「お、八雲か。やっと来たか」


 こちらに手を掲げて挨拶をして来たのはカレー炒飯だ。身体は隆々としており、ゴリゴリではないが細マッチョで変わらない。肌はゴブリン特有の緑ではなく、赤く、ゴブリンよりも鬼に見える。


 「おう、待たせた」


 「気にするな。寝るのは悪いことじゃねぇ。夜もあるしな」


 「今はどんな状況なの?」


 「そうだな、今は第二エリアの魔物がわんさか出てきてな。数でごり押ししてる感じだ。一日目は第一エリア、つまり街の周囲の魔物が集まっただけで大したことなかったが、この調子だと明日には第三エリアの魔物が出現するんじゃねぇか?」


 第一エリアか。ほとんど行ったことないが、おそらく今を考えると行っても意味ないだろう。新しく生まれた子蜘蛛でも第二エリアでレベル上げをするので、必要性を感じない。


 「八雲も来たことだし、そろそろ行くか。野郎共!行くぞ!」


 「「「「「おぅ!」」」」」


 カレー炒飯は拳を掲げ、ゴブリン達を纏めあげて進行していった。俺たちもそれに続いて進んでいく。カレー炒飯の集団は1000人を越えると聞いたことがある。どれだけ人数差があるのか知らないが、勝てるだろうか。


 転移門を抜けるとそこは戦場になっていた。PHはかなりこちらまで攻めてきているように見えるが、罠でもあるのか、あるとき何もないところで転んで立ち上がらない人がいた。


 「ありゃあ偵察だな」


 「偵察?」


 「あぁ、安い装備で身を固めてデスポーンするんだよ」


 「デスポーン?」


 「死に戻りってやつだ。だがデメリットが大きすぎる。なぜなら…」


 PHが倒れ込んだところに真っ黒なローブを身に纏ったスケルトンが現れ、なにか呪文のようなものを唱えるとそれはビクンと動き出し、スケルトンに跪いた。そして装備を脱ぎ、真新しい鎧を着て、スケルトンに着いていった。


 「ああやってアンデッドにされてな。こっちの戦力が増えるんだよ。しかもそれなりに高レベルの奴がな」


 「あれってカルトの?」


 「そうだ。今回のイベントではカルトの奴が要でもある。まぁ俺達も装備を貰えるから文句はねぇが、楽しみは共有しないとな」


 そう言ってカレー炒飯は近くにいたPHに殴りかかる。しかしそれは剣で受け止められるが、お構い無しといった感じで殴り飛ばした。飛ばされたPHは空中でくるりと回転して態勢を立て直し、すぐさまカレー炒飯に斬りかかった。互いに一歩も引かない攻防を繰り返していた。


 それを観戦するようにゴブリン達は楽しそうにヤジを飛ばしていた。


 「楽しそうだな…俺たちも行くか」


 子蜘蛛たちを引き連れて移動する。見かけたPHは今のところNPMの相手で忙しそうだ。レベル差があっても瞬殺することは難しい。それにイベントのせいか少しだけ魔物の強さが上がっているようにも見えた。


 「あまり固まってもあれだから、部隊を分けよう。王の種族がリーダーをやろう。大体30人でな。あまりは他のPMの救援だ。たくさんやっつけて楽しもう」


 子蜘蛛たちに指示を出すと全員ばらばらの方角へ進んでいった。俺たちはこのまま真っ直ぐPHがいる街へ向かうことにした。NPMやPHの死体は放置する。なにせカルトが戦力増強に使うからだ。今も少しずつだが、戦力が増えているように見える。


 俺たちが行軍しているとこちらを指差して駆け寄ってくるPHが多数いた。それも強そうな人ばかりだ。最初に来た人は俺たちの三倍くらいの大きさの大男だった。


 「◎●*@◆#*!」


 何を言っているのか、さっぱりわからない大男は大剣を振り下ろしてきた。だが、なんの変哲もない攻撃に真っ正面から対応するのは俺たちの戦い方じゃない。


 大剣を振り下ろす男に牽制の糸を顔目掛けて飛ばす。剣は重力に任せて振り下ろしているように見えたので、顔を守る術もなく、視界を防ぐことに成功した。剣については子蜘蛛が横から魔法を放つことによって弾き飛ばした。


 「▲○*§●*!?」


 剣を失い、視界が塞がった大男にさらに糸を飛ばして拘束する。数の暴力において逃げる隙などなく、見事にミノムシへとジョブチェンジを果たした大男を放置する。止めはレベルの低い子蜘蛛に任せる。


 次々やってくるPHは俺たちへの対策でもあるのか勢いよくやってくる。たまに油のようなものを振りかけてくるが、全て青牙蛇(ブルーサーペント)の掃除機で吸い込んで対応した。


 油はアイテムなので回収が簡単だ。それがもし、スキルによるものだったら回収はできないが、手放したアイテムなら吸い込むことができる。そんな便利掃除道具を知らなかったのか、掃除機の音にビクついたPHは掃除機をガン見した後、俺たちに捕らえられて経験値の糧とされた。


 あまりにも作業感がすごいのでさらに部隊を分けることにした。10人で分けて、あまり離れすぎない距離での移動だ。NPMと戦っているPHにもちょっかいを出すことにした。


 盾で味方を守り、剣や魔法で攻撃するRPGで典型的なパーティーがいたので、戦いを挑むことにした。こちらに気付いた魔法使いは詠唱を済ませて撃ってきたが、どうやらチチマンではなかったので、威力は弱めだった。


 しかしスキルレベルは高かったので、俺たちの魔法よりも少しだけ強そうだった。火の玉が飛んできたので、火属性の魔糸を飛ばして魔法を打ち消しながら魔法使いを攻撃した。魔法では勝てなくとも魔糸なら互角以上に対抗できる。


 詠唱のいる魔法はなぜか身体が硬直しているようにも見えた。やはりチュートリアルをやらないのはデメリットが大きすぎると実感した。


 タンクをやっている男は速度はないが力が強い。攻撃も盾で防がれて厄介な相手だ。だが、俺たちには関係のないことだ。攻撃が当たるのならどうということはない。


 粘着力の強い糸を飛ばして盾をベトベトにする。そこに土礫(アースバレット)を飛ばして石を張り付けていく。それを何度も繰り返すうちにタンクは盾の重さに耐えられなくなり、盾を持つことを強制的にやめさせる。


 それでも頑なに盾を持ちつづけたタンクには全身粘着サービスを施さして全く動けないようにさせた。


 「§▼▲*§▼☆@ッ!」


 これで身動きがとれないものと思っていたが、タンクの男は赤いオーラのようなものを纏うと粘着糸をものともしていなかったと言わんばかりに立ち上がり、盾を前に突き出して突進してきた。


 「なにかのスキルか?」


 物量による突進だが、タンクだけあって遅かったので、あっさり避けて土穴(アースホール)で足元に穴を開けて転ばせた。転んだところで顔に毒を塗りたくった。糸がダメなら毒だ。だが、これも効かない様子だった。


 仕方がないので地面に埋めることにした。それは仲間も一緒だ。仲間の方は毒も粘着糸も効いたのだが、なんかうるさいので埋めた。そしてかわいい子蜘蛛たちを拠点から呼んでもらい、戦闘訓練を始めた。


 初めての戦闘といえばトレーニングから始める。つまり、的が必要だ。ここには腐るほどそれがある。本当は精鋭だけを参加させるつもりだったが、俺たちは集団での行動を得意とする家族だ。だったら精鋭とか言わずに全員で楽しむべきだと俺は考えた。


 子蜘蛛たちを待ってる間にも次々とPHは襲ってきた。どれも全身粘着サービスの前では子供と同じだ。魔法なんかも魔糸と比べるとお粗末なもので、すぐに捕らえることができる。


 騒がしすぎるものは子蜘蛛たち、時々俺が止めを差した。そんなことをしている間に子蜘蛛たちは次々と進化できる状態になっていった。その子達はおうちに帰しての進化だ。無防備な状態は危ない。ここには突然襲ってくるものや捕まえてくる悪い人たちがいる。安全な場所があるならそこに行くべきだ。


 PHを乱獲しているとそれを助けにくるPHがくる。それを捕まえるとまたいう感じで絶え間なくPHが襲ってくる。その対応に負われていると散らばっていた子蜘蛛たちが集まってきた。


 その手にはお土産と言わんばかりに大量の武器やら鎧を持ってきていた。さすがというべきか、アホの子蜘蛛は木の実を持ってきた。どこから持ってきたかは謎だが、見たことのないものだったので、とりあえず褒めた。満更でも表情にさすがだな、つい微笑む。


 全員集まった頃に、カレー炒飯がやってきて、おもむろに木でできた十字架を作り出した。そこへやってきたのはカルトだ。穴に埋まっているPHを一人一人確認しだした。


 「やぁ、八雲。ちょっと相談があるんだけどいいかな?」


 「またか?今は忙しいから後にしてくれないか?」


 目の前にいるのはいつの間にかデスポーンして全く別の装備をしたタンクだ。なぜかすごく怒っているが、何をいっているかわからないので、もう一度埋めた。さっき埋めたところのすぐ隣だ。こう見ると顔が全く一緒だ。


 「うむ、次だな」


 「ねぇねぇ、八雲いいでしょ?」


 「いや、なにが?」


 「このタンクを譲ってくれよぉ」


 「だめだ。これからどれだけ集まってどんな装備をしているか見比べるんだ。俺もついにコレクションに目覚めたんだよ」


 「くっ…でもさ、動くコレクションってどうかな?」


 「それってアンデッドだろ?うちにはまだ幼い子蜘蛛たちがいるんだ。怖がるに決まってる」


 「ふっふっふ、八雲くん、それはまだ決まっていないのだよ」


 「そ、それはどういう!?」


 「見たまえ、この僕の作った完璧なタンクくんを!」


 カルトが呼び出したのは先程2体ほど埋めたタンクと瓜二つの顔、そして1回目よりも豪華な鎧を着こんでいた。


 「馬鹿な!タンクくんは元々はもっと強そうな装備をつけていたのか!」


 「え?そこ、いやまぁ、うん、とにかく。感じるだろ、神聖な空気をなんと彼はただのアンデッドではない!」


 「へーふーん。そうなんだ」


 「反応薄っ!」


 いやだってさ。神聖なアンデッドってクナトとキャラかぶってるじゃん。


 「それで、クナトはどこに?」


 「これはそのクナトさんに手伝って貰ったんだけどね。今は後方で同じ個体を量産して貰ってるよ。僕もその一人だけどね」


 「あ、確かに。なんか空気がきれいな気がする」


 「まぁ、といっても僕は半分だけだけどね」


 「半分?」


 「僕は今、邪聖骸の剣帝イヴィルソードエンペラーっていう種族なんだけど、聖属性と邪属性の比率を崩すと別の種族に変わるんだよね。そのスキルレベルがマックスになればどうなるかわからないけど、こういうこともできるから、子蜘蛛たちを怖がらせることは少ないよ」


 「うーん、そっかぁ。じゃあカルトに譲ろうかな。止め差した後に」


 「それで構わないよ」


 そう言って俺たちはすでに子蜘蛛によって心も身体もボコボコになったPHに止めを差した。装備品は一旦カルトに引き渡して、次の獲物を探すべく街へ攻めいることにした。


 ちらっとカレーのところを見ると装備を全くつけていない、謎の光を纏ったPHが十字架に磔にされて、目の前で昼御飯をゴブリンと鬼達が食べていた。戦闘訓練をやめた子蜘蛛も混ざっての食事会だ。


 「カレー、ちょっと攻めてくるから、子蜘蛛たちのことを頼んだ」


 「おう、任せとけ」


 イベントの楽しみ方は人それぞれなので、こちらに助けを求める視線を送るのはやめてくれ。俺と君たちは敵同士だ。馴れ合ってもいいことないぞ。


 このイベントで俺たちは50レベルを目標とする。だから、まずは俺がなるべきじゃないかと子蜘蛛たちが訴えてきた。なので、子蜘蛛たちのお願いを聞くために、一番戦闘が激しい街のすぐそばへ侵略しにいった。


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