表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/168

第5話 蜘蛛の巣

 MPが全回復したので拠点周りに糸を張り巡らせる。これは自衛のため、スキル上げのためでもあり、遠くに出掛けたときの目印でもある。一石二鳥、いや、三鳥くらいはありそうだ。


 その分目立つから人が集まりそうだけど。


 どうせこれだけ深い森だ、来るとしても数週間後だろう。よっぽど身体能力を上げるスキルをとってない限り、PHには来れないと思う。


 なんか糸を巡らせすぎて拠点の樹が真っ白になってきたな。どうせここには俺しか来ないんだし、足場もなくすか。


 そんな感じで魔物を狩ることもなく、むしろ会うこともなく、ひたすら糸を張り続けた。


 すでに周りは真っ暗だ。夜目があるおかげで夜でも活動できる。時々MP回復する際に休憩をとって、後は無心で糸を張り続けた。


 1度落下してしまったのは内緒だ。初めてのダメージが自分の張った糸からの不注意落下とか恥ずかしくて言えない。


「よし、一旦切り上げて昼御飯食べてこよう。ちょうどリアルでは昼時だろう」


 拠点に戻るとルカさんが人参を食べていた。動物園でお金を払ってうさぎに餌付けできるやつと同じ、いや言い方が悪いな。人参の野菜スティックを食べていた。


「また帰ってきましたか、そろそろレベル上がりましたか?」


「スキルレベルなら上がったと思いますよ?」


「またですか……どれだけ糸を張るんですか……」


「昼御飯食べてきたらさっそく冒険にいこうと思います」


「やっとですか……あ、その前に繁殖を行ってはどうでしょうか?」


「あ、忘れていました。ちょっとやってみますね」


 繁殖というのは交尾するわけではなく、スキルを発動するとインベントリにスキルレベル分の卵が収納されるというものだ。


 発動すると、魔力を要求されたのだが、持ってないのでパスした。それから識別をすると少しだけ情報がわかった。


 蜘蛛の卵品質??レア度??

 蜘蛛の卵。愛情の注ぎ具合によってステータス変動。卵を産む前または生まれる前の魔力の注ぎ具合によってステータス変動。


 ふむ、魔力を注げとな。今はできないからまた今度試そう。これはインベントリに入れといて、ステータスを確認してからログアウトだな。


 固有スキル

【糸生成Lv8(+3)】【糸術Lv9(+2)】【糸渡りLv4(+2)】

 スキル

【夜目Lv3(+2)】【魔力操作Lv9(+3)】【識別Lv2(+1)】


 昼食を終わらせて再びログインするとルカさんが草原で寝ていた。


「むにゃむにゃ……にんじん……」


「AIも寝るんだな……」


 それからしばらく夢の世界から帰ってこなかった。


 卵の様子を見たが特に変化はなかった。今回は試食も兼ねて食べるので放置でいいだろう。


「寝ることもあるから、風邪をひくこともあるのかな?」


 そんなことを考えてしまったので、せっせと糸で布団をつくることにした。それほど分厚いものはつくれないが、多少暖まるくらいならできるはずだ。


「……タオル?」


 布団じゃないな、これは。いや、タオルケットだと思えば悪くはない。名前は魔糸のタオルケットだな。


 魔糸のタオルケット品質Bレア度C

 小蜘蛛(リトルミニスパイダー)が丹精込めてつくったタオルケット。肌触りは一級品。


「気持ちよくは寝れるだろう」


 タオルケットをルカさんに被せて生存ポイントがどれだけもらえているのかを確認する。


 《生存箱(ポイントボックス)

 貯蓄:800P

 ボーナス:1P(25/25)


 期待してなかったとはいえ、なかなかひどいものがある。1Pってお小遣いどころじゃないな。たまたま拾った程度だろ。そんなことよりPMが意外といたことに感動だな。


 ポイントも確認できたことだし、冒険に行こうかな。持ち物はポーションそれぞれ5個ずつに携帯食5フルーツ1だ。


 冒険にいくにしてもまだ1レベルの雑魚だ。実はここは高レベルモンスターしか出ないとかだったら、逃げるしかできない。


 ならば拠点の巣をひたすら広げていけばいいのではないか。そうだ、森を巣で埋めつくそう。


 ということでさっそく行動に移る。まずは木の頂上にひたすら糸を張っていく。


 ただし、光は漏れるようにする。木が枯れるのはまずいのでそこは重要だ。糸の種類が増えたが、コストはオールノーマルがいい。


 80mの糸をひたすら張り続けていると15分ほど休息をとる。その間もルカさんは夢の世界でにんじんを追いかけていた。いつ起きるのか。


 森の中は人や魔物、植物といったものが通るので張らない。その代わりに木の頂上には巣をつくっておく。芸術性とかは考えてないので、不規則だが、鳥が止まる場所もないくらい張っておいた。


 こうやっていると気になるのがマップだ。最初に半径1km範囲まで緑一色だったが、今ではどうなっているのだろうか。


「マップはどうかな?おお、すごい。真っ白だ」


 陣取りゲームしてるみたいでなかなか楽しい。自分対森という構図だが、魔物に遭遇しない限り続くだろう。そんなこんなでマップ内の森は全て巣で包み込んだ。


「ちょっとやりすぎたかもしれない」


 固有スキル

【糸生成Lv12(+4)】【糸術Lv14(+5)】【糸渡りLv9(+5)】

 スキル

【夜目Lv5(+2)】【隠蔽Lv6(+3)】【気配感知Lv5(+3)】【魔力操作Lv13(+4)】


 もはやここは俺の支配領域といっても過言ではないほど巣を広げている。森の中には一切糸を張っていないが、空と森の間を支配したと言うべきか。


 これだけ高い木が並んでいたら頂上まで来る奴は居ないかもしれない、まぁそれならそれで仕方ない。スキルレベルを上げる事が出来ただけでも御の字だ。


 10レベルという大台に入ってきたのと、糸を使い慣れてきた自分がいるので、好ましい結果と言える。


「このまま魔物に会うまでやり続けるか……」


 種族レベルは上がらないものの、スキルレベルが上がり続けるので、俺としてはわりと楽しい。それからMPがなくなるまで張ったら拠点に帰還、回復したらまた糸を張る。


 数時間で帰還すると、ルカさんが起きて紅茶を飲んでいた。口元によだれが流れていた軌道があったが、優雅にお茶していたので、言わないことにしてあげた。


「おかえりなさいませ、八雲様」


「ただいま、ルカさん」


 俺の視線に気付いたのか、口元をハンカチで拭っていた。拭き方はお上品だが、寝てるときのルカさんを思い出すと、少し残念な気がしてならない。


「そろそろレベルの1つや2つ上がったでしょうか?」


「いや、まったく」


「もしかして……まだ糸を張っておられるのですか?」


 さすがのルカさんも困惑している。ゲーム開始初日だが、普通は魔物をいくらか倒している時間だ。それなのに魔物にすら遭遇していない俺は奇妙な存在だ。


「もちろん!というよりも魔物に遭遇しないんだよね……」


「はて、どうしてでしょうか。少しGMと相談して参ります」


 そう言ってルカさんはロビー行きの扉へ向かっていった。その間も俺はMP回復に勤しむ。暇なのでごろごろしていると、神妙な顔をしたルカさんが帰ってきた。


「ルカさんおかえりなさい」


「ただいま戻りました。GMに問い合わせした結果、原因がわかりました」


「それは一体?」


「それは……ここが第一エリアのボスを倒した向こう側に存在する第二エリアの深緑の森で、ボスが倒されない限り、ここには魔物が現れないそうです」


「は?えええええええーーーっ!?」


「申し訳ありませんが、第一エリアボスを討伐しに向かって頂けないでしょうか?そうすればこちらの魔物が開放されます」


「いや、俺まだレベル1なんですけど……」


「大丈夫です。最初に戦った魔物の攻撃は1か0ダメージしか受けないので安心してください」


 そんな重要な仕様をここでぶちまけてもいいのだろうか。というよりか第二エリアを初期エリアとしてぶっ混むのはどうかと。


「そもそもなぜ選択肢に第二エリアがあったのでしょうか?」


「それは……」


「それは?」


「私達とGMのうっかりです」


 おい。


「とりあえず第二エリアに送り出してしまったPM達にはお詫びに生存ポイント1000Pと拠点テントを1つ配布することになりました」


「PM達……?」


「はい、現在確認したところ第二エリアにいらっしゃるのは八雲様を含めた8名となっております。皆様ちょうど別の第二エリアにいらっしゃるのでお詫びとして、エリアボス討伐で充分かと思いまして」


 いやいや、充分で収まるものでもないと思うんだが、レベルどころかスキルレベルも報酬も貰えるから。


「なによりほとんどの方が魔物に遭遇しないからとエリアを好きなように開拓しているので、拠点周辺がカオスになっています。早めにエリアボスを討伐して魔物と戦ってほしいと言うのが本音です」


「……俺はそんなに荒らしてないよ」


「何を仰いますか、八雲様も十分にやらかしてらっしゃいますよ。拠点周りのエリアを蜘蛛の巣だらけにしてるじゃないですか。確かに他には木を伐採しまくり、それを加工して城を建ててる方もいますが、ここまでの広さではありません」


 城も大概だろ。


「……明日エリアボス倒しにいくよ」


「助かります。GMにもいい返事があったと、ご報告をさせて頂きます」


 ルカさんに説得されたので仕方がなくリアルの2日目からエリアボス討伐に向かうことにした。さすがにエリアボスがいる場所がわからなかったので、方角だけ教えてもらった。


 ゲーム内2日目は戦闘を意識した動きをいれつつ、巣を延々と広げ続けた。どこからこの巣に侵入されるか、わからない。どこからでも迎え撃てるように幹に薄く糸を張ってみたり、地面に落とし穴を作ってみたりと、工作活動も入れてみた。


 3日目もやることは同じだったが、段々ルカさんの顔が渋くなっていったが、別に俺は悪くないので、引き続き作業を続けた。


 なにせ、魔物がいないことがわかったんだ。罠をできるだけ張っておけば、後々楽になる。


 その間も繁殖して卵をインベントリに貯めておいた。食べるのが少し楽しみだが、味の保証はあるが、見た目の保証はないので、少しこわい。だけど、ゲテモノを食べる人も美味いことを知っているから食べている。


 ここでやめていたら、話にならない。なんとか食べられるように心の準備をしておかなければならない。


 3日目の巣作りも終わり、拠点周辺の巣の拡張も一区切りついた。この後の調整はとにかく魔物が現れてからじゃないと、罠のかけようもない。


 3日目のお小遣いは2Pだった。もっと死んでくれても構わんのだが。


 卵がいつ孵るか、ルカさんに訊くとインベントリから出して12時間経過しないと卵から孵らないと言われた。


 そんなに待てないので、食料が尽きるまでは卵はインベントリの肥やしにすることにした。


 通常の食料だったら腐るが、自分が産み出した卵なら自分が持っている限り腐ることはないらしい。孵らせてもいいが、生まれても子蜘蛛用の餌となる魔物がまだいないんだよね。


 今はとにかくできるだけスキルレベルをあげておかないと勿体ない。別にエリアボスを倒さずに延々とスキルレベル上げをするわけじゃないが、出来ることなら上限まで上げておきたい。


 ……とは言ってもルカさんが催促してくるのでリアルの次の日にはエリアボスを倒しにいかなければならない。だからこそのスキル上げだ。


 そしてリアルの次の日、俺はエリアボスを倒しにいった。


《今日の成果》

・蜘蛛の卵:3つ

・固有スキル

【糸生成Lv14(+2)】【糸術Lv16(+2)】【糸渡りLv13(+4)】【糸細工Lv2(+1)】

・スキル

【夜目Lv8(+3)】【魔力操作Lv14(+1)】【識別Lv3(+1)】【風魔法Lv2(+1)】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ