第38話 次のエリアへ
ヒデが疲れた顔をしながら片付け終えると、ヒデの拠点はすっきりとしたが、代わりにはしっこの方に死体が山積みされ、戦後の後処理場にしか見えなくなった。それでも狐娘の担当AIは満足そうに頷いていた。どうやら少し外れているらしい。
「片付いたし、行っていいよな?」
「はい、これなら大丈夫です!」
狐娘はきれいになった家を見て満足そうにしていた。ヒデもそれを見て嬉しそうにしていた。ルカさんが笑っているのを見ると俺も嬉しくなる。ヒデも同じ心境なんだろう。
「よし、八雲いくぞ」
「お、おう」
ヒデは種の化け物のまま移動するらしい。見た目はかわいいが、実はやることが化け物だと後々コウモリさんが知ると怖がるのでは?と考えたが、そのときに俺がいるとも限らないので黙っとくことにした。
「なぁ、八雲」
「なんだ?」
「担当AI同士でフレンド送りあった方が早くねぇか?」
「は?そんなことできるのか?」
「あぁ?知らなかったのか。八雲の拠点で教えてやるか」
ヒデを背中に乗せて拠点に戻ると、そこには複数の蝙蝠を持ち込んだフウマたちがいた。列をなして貢がれるコウモリさんは目の前に出された蝙蝠の止めをさす。それを回収し、次が出される。
自動蝙蝠処理機となったコウモリさんの目はハイライトをなくしたかのように渡された魔糸槍でザクザクとやっていた。
「なぁ、八雲。あれは何をやってんだ?」
「俺が出たときには森賢熊の顎にぶら下がってたんだが」
「それはそれでアレだけど、あれは可愛そうじゃないか?だってプレイヤーでも同族だぞ?」
「俺もそう思うよ。ちょっと止めてくる」
コウモリさんとフウマたちのもとに向かうと、フウマたちは褒めて欲しそうによってきて、わちゃわちゃされた。
「だめだよ。無理矢理させたら…」
フウマたちに注意をするとみんな一様にシュンとした。
「つよくなりたいって、いってたから…」
コクマがそう呟いた。どうやらコクマたちはコウモリさんの意を汲んで行ったらしい。なら、俺がやることは一つだ。
「希望を叶えることはいいことだ。でもな、強制されるのは嫌だろ?」
「いやだ…」
「じゃあみんなで謝りにいこうか」
「うん…」
シュンとした子蜘蛛たちを一人一人頭を撫でながら、コウモリさんのもとへいく。その間も褒めてほしそうな子が出てくるが、ちゃんと目を見て説明してやり、その列に加えていった。
コウモリさんのもとまでくると、まるでコウモリさんを崇める宗教のように集まり、その中心にいたコウモリさんは先程よりも戸惑ってる感じがした。それでも皆頭を下げていた。
その意味を理解できていなかったコウモリさんに俺は説明をした。
「この子たちはコウモリさんが喜ぶと思ってああいう行動に出ていたんだ。でも、コウモリさんにとってはきっと辛いことだろう。と思ってみんなで謝ってるんだ」
「い、いえ、私はそんなに嫌ではなかったので、大丈夫です。ちょっといつまで続くのか困惑していただけで…それにずっと見てると恐怖よりも可愛さが目についてきて…ちょっと癒されてました…」
コウモリさんは羽をぱたぱたとさせて恥ずかしそうにしていた。
「え…じゃあ…怒ってたりは…?」
「怒ったりはしません。レベルもすごく上がって悪いことではなかったので…」
「そうか、気が楽になったよ。あ、そうそう。同じPMのフレンドを連れてきたんだ。こいつはヒデだ」
ヒデの方に振り返り紹介した。しかしそこにはヒデはおらず、代わりにクナトがいた。いつもならクナトは拠点の隅っこの方でくましゃんとイチャイチャしているのだが、今日は子蜘蛛たちが大勢いた。クナトは何を考えたのか、それに参加するように両手にというよりいつの間に作ったカゴを背負い、その中に満杯に入った瀕死のコウモリを詰め込んでいた。
しかもそのカゴに次々と転移門から現れた子蜘蛛たちが瀕死のコウモリを追加していってる。先程俺が説明したせいか、子蜘蛛たちが説明して回って、くる子がシュンとして帰っていっている。
「あの怖そうな人ですか?」
「いや、あれはプレイヤーじゃない。どこいったかな?」
見回してみてもヒデがいない。仕方がないので子蜘蛛たちに探してくるようにいってコウモリさんと自己紹介をすることにした。未だにコウモリさんと呼んでいるが、別に名前がコウモリというわけじゃないし、俺も蜘蛛さんという名前ではない。
「俺は八雲って言うんだ。子蜘蛛たちにも名前はあるけど、知りたかったら聞いてくれれば教えよう」
「わ、私はパノンです。さっきまではレベル5でしたが、あれのおかげで22レベルまで上がりました」
どれだけパワーレベリングされたかわかる。しかしそれはゲームの楽しさを半減とまでは言わないが、レベルアップにもそれなりの喜びと楽しさがあるので申し訳ないが、嬉しそうなのであまり突っ込まないようにした。
「お、もう自己紹介してるのか。すまんな、ちょっと用事を思い出して、拠点に行ってたわ」
「そうか、あれがPMのヒデだ。といっても今は言葉が通じないかもしれないけど」
「か、かわいいっ…」
「かわいいか?」
パノンがヒデに対して驚きの発言をしたが、もちろんヒデには鳴き声にしか聞こえない。そのため、僕の言葉に首をかしげていた。
「なにがかわいいって?」
「ヒデのことらしいよ」
「おいおい、冗談は止せって。あいつのことかと思って冷や汗かいたぞ」
ゲーム内で汗をかくのかはわからない。ヒデがそう感じたならそうなんだろう。あいつというのはヒデに嫌な顔をされて喜ぶ同級生のことだ。パノンさんにはそんな変態性を持っているようには見えない。
「それは気のせいでしょ」
「だといいがな」
ヒデとはフレンドになってもらい、それとなく話をして解散することとなった。パノンが用事があるのでログアウトしたからだ。ヒデもレベル上げをしなきゃいけないからと、早々に拠点から出ていった。
ヒデたちがいなくなったので、俺もレベル上げをすべく、子蜘蛛たちを招集した。大体の子蜘蛛は子育てに回るので、戦闘に参加できる子蜘蛛は少ない。だが、イベントが近付いてそんなことも言えなくなってきた。
「そろそろ、次のエリアにいってみるか」
俺の一言に子蜘蛛たちは首をかしげていた。可愛い。次のエリアというのは第三エリアのことだ。今棲みかにしている精霊樹のある森は第二エリアだ。ちなみに熊さんは第一エリアボスだ。つまり、この世界では弱い部類のエリアボスになっている。
くまさんの適正レベルはおそらく20レベルだろう。そんなところにいつまでもいるとレベルが上がらない自身のステータスを確認すると急ぎ、次のエリアに向かうことが必須だと思える。
《主人公のステータス》
名前:八雲
種族:女帝蜘蛛《幼体》
性別:男
称号:【ヴェルダンの縄張り主】【格上殺し】【森賢熊討伐者】【エリアボスソロ討伐者】【女王蜘蛛】【精霊守護者】【精霊樹の加護】【小悪鬼長討伐者】【岩蜥蜴討伐者】【砂塵地虫討伐者】【青牙蛇討伐者】【エリアボス懐柔者】【骸骨暗黒騎士討伐者】【エリアボス略奪者】
二つ名:【悪夢】【首狩り】【妖怪順番抜かし】
配下:子蜘蛛たくさん100匹+α
→Lv40(8)Lv39(30)Lv38(10)Lv37(25)Lv35(37)+α
配下:
《クナト》骸骨暗黒騎士Lv??
《くましゃん》骸骨暗黒魔法士Lv??
《くましゃん二号》骸骨黒魔法士Lv??
《ユーク》屍異鬼Lv??
Lv:39→40
HP:600/600 MP:990/990
筋力:60 魔力:80
耐久:70 魔抗:80
速度:80 気力:57
器用:80 幸運:40
生存ポイント
所持:5万P 貯蓄:1850万3659P
ステータスポイント:107JP(+10+20)
スキルポイント:322SP(+5+20)
固有スキル
【魔糸生成Lv10→12】【魔糸術Lv6→7】【魔糸渡りLv6→7】【糸細工Lv12】【毒術Lv13】【糸傀儡Lv1】
特殊スキル
【精霊視Lv3】【暗殺術Lv2】【暗器作成Lv1】【罠術Lv3】【罠作成Lv2】【遠距離投擲Lv2→3】【軌道予測Lv2】【命中率上昇Lv2】【王権Lv1】【天網Lv1】
専門スキル
【言語学Lv4】【武器学Lv5】【防具学Lv5】
スキル
【繁殖Lv3→4】【夜目Lv28→29】【隠蔽Lv27→28】【気配感知Lv24】【魔力掌握Lv5】【識別Lv15】【風魔法Lv11→12】【魔力感知Lv23】【思考回路Lv2】【投擲Lv17→18】【解体Lv24】【魔力上昇Lv11】【爪術Lv16→17】【水魔法Lv9】【土魔法Lv4】
どう考えても第二エリアに居座るレベルじゃない。
「ついてきてくれるか?」
子蜘蛛たちに問いかけると頷いた。決まれば、精鋭部隊を集める。生まれが早く、長いこと一緒に行動していたコクマやフウマに来てもらう。クナトたちは強いが、棲みかから離れるので精霊樹で待機してもらうことにした。
なぜか精霊のお姉さんと今でも殺し合いでも始めるのかというくらい殺気だっていたが、ぜひ仲良くしてほしいので、注意だけに留めた。
子蜘蛛たちと新しい場所にいくのはとても楽しみだ。なんせ第一エリアと第二エリアは何度もいって戦ったが、エリアボスとPH以外は作業みたいなもので、戦うと言うか、駆除みたいなものだった。それが今からは本当の戦いをしよう。
「いくよ」
隊列を組んでいくのは少し戦闘に参る!みたいでかっこいい。だからそうやって並んで進む。隊列を組めるのも森を伐採して道をつくったからだ。少し前はPHが行列をつくっていたが、今はもういない。
つまり、今のPHは30レベルを越える。もしかしたら40レベルも越えているかもしれない。そう考えると自分の行動が遅いことがわかる。少しだけ後悔するが、フウマたちと和気あいあいと楽しくやることに不満なんてない。
クロマやハクマはおどけたピエロのように糸を枝に絡めてターザンのようにぶら下がりながら進みだした。動きが猿みたいだが、蜘蛛だとかわいく見えるのはなぜだろうか。
隊列を組んでいたが、クロマがそういう行動をしたと言うことはとは、この隊列に飽きたのだろう。さすがというべきか、クロマの子蜘蛛たちは同じタイミングでターザンし始めた。真面目なフウマはそんなことはしないが、そわそわしながらクロマを見ている辺り、やりたくて仕方がないのだろう。
こちらをチラ見してきたので、うなずいたら、楽しそうにクロマたちに駆け寄って見よう見まねでターザンをし始めた。微笑ましいが、リアルでこんな状況を見たら、死を覚悟することになるだろう。
もちろん、俺もターザンしてみた。やっぱり見てるだけじゃなくて一緒にやるのはいいな。やると楽しい。クロマはすぐ遊びを考えることができていいね。
そんなこんなでターザンしてると迷子が出てきたりする。そうすると遊ぶことをやめて一生懸命探す。家族思いのいい子供たちである。
遊びながら移動するとボスエリアに到着した。今回は十人で入れるみたいだ。つまり11周回しないといけない。ここで周回すればレベルも何レベルか上がるだろう。
子蜘蛛たちに目配せしてパーティーメンバーを決める。最初は強いメンバーでいくことにした。フウマたちだ。そしてクロニアも追加する。伸びる籠手を持っているので、多様性が効くだろう。
ボスエリアに入ると先程と同じ森があった。しかし、突然森の雰囲気がガラりと変化した。生い茂っていた木々が枯れ落ちた。それでも中心にあった巨木は残されていた。巨木は枯れた木々の怨みでも引き受けたかのように黒く変化していった。
それから地面から真っ黒な浮遊物が現れた。
フウマたちに警戒するように指示を出して、様子見をする。いきなり後ろから来たりすることも考えて全体を見渡せるように糸を張り巡らせる。
そうして待っていると、巨木は動きを見せる。真っ黒な巨木が振動し始め、地面から根っこを次々と出した。そしてそれは地面を砕きながら範囲を大きくしていき、枯れた木々に迫った。
「なんだ、あれ…」
枯れた木に到達すると根っこは枯れた木を地面から引き抜いた。それを宙に掲げ、巨木は地面から這い出て来た。そして真っ黒な浮遊物は巨木に飲み込まれた。
巨木はボコボコと幹から枝を次々と生やし、空へ飛ばした。それらは頂点まで達すると、こちらに落下してきた。
「まずい、散れ」
子蜘蛛たちにその場から離れるように指示を出す。巨木はそれを見越して根っこを鞭のようにしならせてこちらに振り抜いた。糸を使って器用に軌道を変えながら避けるが、根っこの手数が多く、抜け出せずに根っこで地面に叩きつけられた。
「くっ…」
根っこの下敷きになった俺が気になり、身動きが悪くなった子蜘蛛たちは次々と根っこに翻弄されていった。力ずくで根っこからなんとか抜け出すと、子蜘蛛たちの惨状が目に入った。
指示基盤が失われた子蜘蛛たちは連携がとれず、おそらくだが、下のレベルである巨木に負けていた。子蜘蛛たちは俺がいないとだめというのはあまりにも集団としての弱点となる。
俺はそれをすぐに考えて、今は戦いのことに集中することにした。課題が見つかったのはこの戦いでの成果ともいえる。
「お前ら、しっかりしろ!俺は大丈夫だ」
ボロボロになったフウマたちはほっとしたように立ち上がった。
「なんだ、その体たらくは!俺の子蜘蛛たちはもっと強い子のはずだ。俺が倒されたからって負けるのは許さないぞ…やるぞ、こっからが本番だ!」
子蜘蛛たちに喝を入れて仕切り直しを仕向けた。




