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第35話 真っ黒な村人と真っ赤な旅人

 このゲームでは討伐されない限り成長し、繁殖もする。エリアボスが成長しないなどと誰が決めた。このエリアボスは本来、レイド仕様ではなかったと、プレイヤーたちは口を揃えていった。これは始まりにすぎない。


 プレイヤーがどれだけ研鑽しようと解放されたエリアの魔物の成長は止められない。それがどれだけの戦力を築き、どれだけの力を持つのか、誰も知らない。これはそれの一端にすぎない。


 大剣使いの全身鎧に魔法使いのローブ、肉塊の異形。今までにないタイプだ。第一エリアのエリアボス、そんな雰囲気ではない。森賢熊(くまさん)がかわいく見えるくらいの威圧感だ。


 先程と同じく巣を作りたい気持ちになるが、あの剣の斬撃で糸は無力化された。そう考えると巣は無意味となる。となるとやるべきは遠距離からの魔法攻撃か、近接による攻防かだ。


 ここにいる時点で奴等がアンデットなのはわかりきったこと、毒は効きづらそうだ。確実にダメージがいきそうなのは火魔法だが、取得していないので使えない。今とれるがとったばかりのものを使いこなせるほど器用じゃない。


 火魔法は使える子蜘蛛に任せ、戦術を練る。糸が全身鎧に効かないが、他の奴等にも効かないとは、限らない。


 「火魔法が使える子たちはあの肉団子を、その他はローブを狙え。ギンマとクロニアは俺のサポートだ。俺はあの真っ黒鎧をやる」


 子蜘蛛たちに指示を出すと、糸に墓の瓦礫を繋ぎながら移動する。全身鎧に瓦礫を1つぶつけると周囲を確認して瓦礫の少ない場所に歩き出した。ローブは肩をすくめて肉塊とともに逆方向へ向かった。


 肉塊はいつの間にか俺たちと同じように8本の足を生やしていた。あの肉団子は周囲から情報でも収集して学習でもしてるのだろうか。


 俺が真っ黒鎧の意図を掴んだように移動すると、真っ黒鎧は少し嬉しそうにした。俺の子蜘蛛たちと同じように感情表現ができるのか。他のエリアボスもあったのかな?うーん、だめだ、芋虫状態にされた奴等しかいないから思い出せない。


 ある程度ローブたちから離れたところにつくと真っ黒鎧は戦う準備を整え、大剣を構えた。俺はクロニアとギンマをセコンドに置き、爪を構えた。


 構えたままジリジリと円を描くようにお互いを牽制しながら移動した。ここで空気を読まない発言だが、歩幅のまるで違う二人が牽制しながら円をかくとどうなるか?結果は以下の通りだ。


 俺たちは互いに牽制しながら移動した。その結果、奴は俺の隣を苦しそうに少しずつ移動していた。目の前の敵を牽制するといいながら、真横までいってしまったのだ。俺が一生懸命横に移動する。すると真っ黒鎧は小刻みにあわあわしたあと、ちょっとだけ移動する。


 明らかやることの趣旨をはき違えた戦いをしている。それを数度やると、俺は真っ黒鎧に直談判した。


 「やめよう。俺たちにはこんな牽制した器用な戦いは無理だったんだ。真正面でぶつかり合おう」


 すると真っ黒鎧はコクリと頷き、俺の前に来るように移動した。それを俺は満足げに頷き、再び向かい合った。そこで異変に気付く。先程まで遠くで聞こえた戦闘音がなくなり、子蜘蛛たちの嬉しそうな声が聞こえる。


 まさか、もう勝ったのか!と思い、声のする方へ振り向くとそこには体育座りをしたローブにじゃんけんで挑む子蜘蛛たち、肉団子に歩き方を教える子蜘蛛たちがいた。戦いはどうした!?と驚いていると真っ黒鎧はじゃんけんをしてる子蜘蛛たちを見ながらそわそわしだした。


 「お前もかよ!」


 真っ黒鎧が戦いに集中できなそうだったので、俺はふてくされて糸で簡単なベッドをつくり、ごろごろした。真っ黒鎧の方はというと、ローブに挑んでいた半数の子蜘蛛たちとじゃんけんバトルを繰り広げていた。


 真っ黒鎧が「グー」を出すと子蜘蛛は爪を出した。それは三つのうちどれをさすんだ?という疑問をぶち壊すように、真っ黒鎧は勝ち誇り、子蜘蛛は悔しそうに列の後ろに並んだ。


 どうやって判断しているのかわからないが、楽しそうならそれを邪魔するわけにはいかない。というかこの場合、エリアボス戦はどうなるのだろうか?という疑問に応えるようにファンファーレが鳴り響いた。


骸骨暗黒騎士ダークナイトスケルトン骸骨暗黒魔法士ダークマジシャンスケルトン屍異鬼ユニークコープスを懐柔しました。》

《称号【エリアボス懐柔者】を獲得しました。》

《称号【骸骨暗黒騎士ダークナイトスケルトン討伐者】を獲得しました。》

《PM専用報酬:骸骨暗黒戦士ダークナイトスケルトンの置物、骸骨暗黒魔法士ダークマジシャンスケルトンの愛杖、屍異鬼(ユニークコープス)のぬいぐるみ、キョテント1つ、生存ポイント1000P,スキルポイント10SP,ステータスポイント10JP》


 どうやら討伐したことになったらしい。ボスエリアの外に出るのに三人はついてきた。


 「え?出れるの?」


 驚きを隠せずにいると子蜘蛛たちがつんつんしてきて、何事かと思うと、「三人を連れていってほしい」と上目遣いで相談された。悩む前に子蜘蛛たちのかわいさに即座にオッケーをだすと、子蜘蛛たちは嬉しそうに三人と戯れ始めた。


 それに対して外で待っていた子蜘蛛たちは蜘蛛のように散っていった。それを「あちゃー」と思いながら子蜘蛛たちを説得した。最初はぎこちなく接していたが、すぐに仲良くなっていた。


 とくに屍異鬼(ユニークコープス)にはたくさんの子蜘蛛たちが群がっている。上に乗ったりぶら下がったりしてる。気のせいか屍異鬼の形が子蜘蛛たちと同じ形に変わっていってる気がする。それも気づきにくい速度で。


 今の屍異鬼は真っ赤な肉の肌に少しずつ骨の甲殻ができていってるところだ。特徴的なのは頭だ。ゾンビにあった眼を大量に集めて少しずつ合成していっている。最初見たときは気持ち悪くて恐かったが、今では慣れた。


 よく考えれば俺も子蜘蛛も眼が八つある。それが三倍ほどあるだけだ。なら、そこまで怖がらなくてもいいはずだ。


 屍異鬼たちとほのぼのじゃれあいをしているとふとしたときに思い出した。俺はここで遊んでいる暇はなかった。さっさとエリアボスの周回を始めなくては。


 そうと決まれば次の子蜘蛛たちとエリアボス討伐に向かわなくては。子蜘蛛たちを整列させて次にいく者たちを選抜する。そこに真っ黒鎧とローブ、屍異鬼も並んでいた。懐柔してしまったのなら、家族まではいかなくとも友達にはなれるはずだ。友達を真っ黒鎧とかローブと呼ぶには失礼なので、名前をつけることにした。


 「真っ黒鎧は…ダークナイトスケルトンからとって、『クナト』だ。ローブはダークマジシャンスケルトンからとって、『くましゃん』だ。ユニークコープスは『ユーク』だ。異議はないな?」


 明らかローブには不名誉な名前をつけたのだが、くましゃんは嬉しそうに首を横にふった。きっとくましゃんは女の子なのだろう。


 無事名付けを完了したので、早速選抜に入れてエリアボスの前まで来た。すると人数オーバーのウィンドウが出た。先程のエリアボス戦は24人でいけたのに、今回は6人だけしか入れなかった。


 不思議に思い、もう一度入り直してみたが、同じ結果だった。


 「なんで?」


 予想にすぎないがクナトたちが特殊だったのだろう。仕方なしにクナトを含んだ子蜘蛛五人を選んでエリアボス戦に挑んだ。


 フィールドには先程のクナトとのエリアボス戦と違い、村があった。村には真っ黒な人の影があり、それはまるで村で生活してるようで情景はめまぐるしく変わり、人々が生活していくなかで人々が付き合い、結婚し、子供が生まれ、子供が大人になっていく。


 そこへ真っ赤な人が現れた。真っ赤な人は言葉巧みに真っ黒な人影に潜り込んでいく。平和だった村に小さな喧騒が生まれ、真っ赤な人は静かにその喧騒の中でにやつく。


 真っ赤な人は真っ黒な人の仲を割いていく。真っ赤な人はさらに真っ赤な人を外から呼び出し、ついには真っ赤な人はたくさんの真っ赤な人を呼び寄せ、村を襲わせた。


 真っ黒な人は真っ赤な人に抗うべく抵抗した。しかし、真っ黒な人同士はすでにお互いを信用できずにいた。そこで真っ黒な人同士で争いが始まった。真っ黒な人の中にはそれをとめる動きをするものもいた。あの結婚した夫婦だ。


 二人はあっという間に真っ黒な人たちに襲われ、真っ黒な夫婦から青い液体が流れた。真っ赤な人はそれを嘲笑いながら遠くへ去っていった。


 残されたのは真っ黒な夫婦と残された大人になった子供だけだった。その真っ黒な夫婦は墓に変わり、真っ黒な大人になった子供は情景が変わりゆくなかで大きくなり、今度は背が縮んでいった。


 大人になった子供は老人になった。老人は毎日のようにその墓に通い、花を手向けた。それから老人は墓の前で倒れた。


 老人は墓に手を伸ばしながら白骨化していく。さらに情景は進み、墓の周りにあった村が廃れ、廃村の周りにスケルトンが徘徊し出した。


 真っ黒な人は逃げるようにいなくなり、その代わりに黒いもやと変わった。そして夫婦の墓からもスケルトンが現れた。


 黒いもやを吸い込み、夫のスケルトンは真っ黒な鎧を纏い、嫁のスケルトンは真っ黒なローブを纏った。


 夫のスケルトンは村に落ちていたボロボロの剣を拾うとこちらに乱暴に剣を斬りつけてきた。


 「いきなりだな!」


 両手を合わせて互いの爪先から糸を出して両手の間の糸で剣を受け止めた。ギリギリと音を出しながら防ぐ。その隙に子蜘蛛二人が夫のスケルトンの両肩に糸を粘着させ、引っ張った。


 レベル差だろうか、踏ん張ることもなく、夫のスケルトンは上から首根っこを捕まれたかのように後方へ飛んでいった。糸を捨て、風槍(ウィンドランス)を放つ


 風槍は鎧の脇腹に突き刺った。その勢いのままもとの位置に嫁の墓を破壊しながら戻っていった。ピクリともしない状況にとどめの風重圧(エアプレッシャー)を放った。夫のスケルトンが粉々になったところで、嫁のスケルトンが動き出した。


 ゆっくりとした歩様でクナトに近づくとそっと抱きついた。それをクナトは満更でもないように抱き返した。


 「ええっ!?あ、そうか。ここはクナトがいたエリアだから…」


 クナトの嫁は置いてきたが、このくましゃんは謂わば少し前のくましゃんだ。しかも最初に目に入ったのはクナトの方で、向こうでボロボロの身体を引きずりながら手を伸ばしている少し前のクナトはその状況をわからないから、略奪されたとでも思っているのだろう。


 クナトは前のくましゃんを連れて前のクナトの目の前までいくと、大剣を振り下ろし、前のクナトに止めをさした。クナトは大剣を持ち上げて誇らしげにしていた。


 ファンファーレが鳴り響き、ウィンドウが現れた。


骸骨黒騎士ブラックナイトスケルトンを討伐しました。》

骸骨黒魔法士ブラックマジシャンスケルトンを略奪しました。》

《称号【エリアボス略奪者】を獲得しました。》

《称号【骸骨黒騎士ブラックナイトスケルトン討伐者】を獲得しました。》

《上位討伐者称号があるため、統合されました。》

《PM専用報酬:骸骨黒戦士ブラックナイトスケルトンの手紙、骸骨黒魔法士ブラックナイトスケルトンの鍬、骸骨黒魔法士ブラックマジシャンスケルトン、キョテント1つ、生存ポイント500P,スキルポイント5SP,ステータスポイント5JP》

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