第4話 正式サービス開始
いよいよ正式サービス開始日となり、今か今かと最終メンテナンスが終わるのを待っていた。友達二人とは拠点が出来てから会うことにした。
情報交換は掲示板で行えるが、基本的に種族が被るなんてことはないので、どんなエリアがあるかくらいしか教えることはないだろう。
一応裕貴と雪とは連絡をとったが、裕貴はβテストでは狼、雪は骸骨だったらしい。裕貴はまぁどうでもいいとして、雪はなんでスケルトンにしてしまったのだろうか。
外見のスペックが高いのに全くそれが反映されないじゃないか!綺麗な骨ですねっとかならないからな。
そんなことを思っていると開始時間になったので、花摘を済ませてログインする。間も開けずにログインしたため、多少のローディングがあったものの、入ることができた。
草原に降り立つと、ルカさんがきれいにお辞儀をして待っていた。
「おはようございます、八雲様。今日はお早いですね」
「正式サービス開始日だからね。はやくプレイしたいんだ」
「そうでしたか。では、さっそくこの世界へと降り立ちましょうか。その前に、一つ変更点があります。本来ランダムでのスタートとなる予定でしたが、いくつかのエリアから選べるようになりました」
「それはマップを見て選ぶんですか?」
「いえ、エリアの周辺地域に何があるのかお教えしますので、それから選んでいただきます」
さすがにマップは見せてもらえないか。確かこのゲームはエリアを進んでいくとマップが埋まっていくタイプなのである。PMには足が遅い魔物もいるのだから埋めるのはきついかもしれない。
それでもフレンド拠点の転移である程度は転々と埋められるので足が遅くても時間をかければなんとかいけるだろう。それには俺も蜘蛛なので含まれていることを今気がついた。
「蜘蛛に有利なエリアはありますか?」
「はい、深い森の中なんてのはどうでしょうか?谷も近くにあるので、落とし穴を作らなくてもプレイヤーを突き落とすことができますよ」
………なんて恐ろしいことを思い付くんだ。でもそれは採用だな。糸張りまくって土被せたら、いっぱい落ちていきそう。
「ほ、他にはどんな場所がありますか?」
「そうですね……廃坑が近くにある森なんてのはどうでしょうか?」
うーん、プレイヤーがたくさん来そうなのはありがたいけど、火をつけられたら密閉されて死ぬんじゃないか?
「他にはありますか?」
「あんまりおすすめはできませんが、湖が近い草原、始まりの町近くの草原、森のない鉱山、沼地、街の近くの墓地があります」
どれも微妙だな。万が一の隠れる場所を確保できるエリアがない。
「やっぱり深い森の中でお願いします」
「わかりました。ではそのように致します。言い忘れていましたが、拠点を設置しますと、拠点とこのロビーが接続されていつでもここへ来れるようになりますので、いつでもいらしてくださいね」
「そうなんですか?」
「はい、なんでもGMがおっしゃるには、『ぼっちには辛いだろ?せめて担当AIちゃんとは仲良くするんだぞ!』だそうです」
くっ……さ、寂しくなんかないんだからね!でもルカさんに会えるのは正直嬉しい。
「それでは決めることは決めましたので、さっそくお送りしますね。この魔法陣に乗ってください」
「はい……」
「では、『自由な発展』と『自由な進化』に祝福を」
その言葉と共に魔法陣が光りだし、視界が一瞬白くなったかと思えばいつの間にか森の中にいた。
地面はほとんど草と樹の根が蔓延り、目線の高さよりも高い木があり、視界はほとんど木しかみえなかった。
「とりあえず登るか」
目の前にあった木に糸を飛ばして巻き付ける。糸を伝って登ってを繰り返すと、枝にたどり着いた。
頂上を目指して進むこと数分、やっと視界が開けたと思えば、近くにさらに大きな木があり、日の光が遮られる。
「まだ上があるのか、あそこに糸を飛ばしてっと」
ひたすら上を目指して木々を移り変わり登っていく。深い森と言われたからどんなものかと思ったら、思っていたより密林だった。
もう少し低い木だと思っていたけど、世界樹と言わんばかりにでかい。
「ふう……やっと着いた……」
樹の頂上にたどり着いた。着いたけど、見渡すかぎりの森林があるだけで何もなかった。蜘蛛である俺の視覚が悪いとも言えるが、森しかないとも言える。
「なんじゃこりゃ……これ、プレイヤーに遭遇することあるのかな?まぁいいや、とりあえず拠点の場所を決めよう」
一番高い木にいるのだが、如何せん周りに森しかないので、隠れられる所しかない。だけど、低い木は視界が悪い。せっかく登ったのだし、この木の拓けた場所に拠点を設置する。
「うん、ここがいいな。拠点は……えーっと、ヘルプで確認して、インベントリの中にある拠点テント略してキョテントを設置せよ!とな」
キョテントのネーミングはほっといて、太い枝の上に設置する。すると、視界の右上に表示されているマップに緑の点が配置された。これが拠点を顕しているのだろう。
「おお、テントが魔法陣に変化した!これに入ったらいいのかな?」
魔法陣に乗ると『拠点に入りますか?』と聞かれたので、『yes』と答えた。すると、視界が一瞬白くなり、草原に出た。
「ん?何もないぞ?おお?もしやこれは自分の好きなようにアレンジができるとか言うやつか」
メニューを開くと、『拠点』という項目があり、無料で設置出来るものから生存ポイントで購入できるものがずらりと並んでいた。
「とりあえずロビーと接続っと、ん?なになに?ロビーへの扉のデザインを決められるのか?」
生存ポイントを持っていないので、無料の魔法陣を設置する。生存ポイントを使うものはおしゃれな木の扉やらガラス貼りやらクリスタルなんかもあった。
「これで接続が完了したな、あとは無料なものはなにがあるのかな?えーっとPM特典として畑を1つ贈呈?さらに机と椅子を設置できると?」
畑は嬉しいが、机と椅子って俺使えなくないか?むしろ地べたで食事するタイプの魔物なんだが。
そんなことを思っているとロビーへの魔法陣が光り、ルカさんが入ってきた。
「へ?」
「お邪魔致します」
「あ、どうぞどうぞ」
「恐れ入ります。あ、机と椅子使わせていただきますね」
「あ、はい……って!?ルカさんこっちに来れるんですか!?」
ルカさんのあまりに自然体で入ってきたから、そのまま素通りしちゃったけど、よくよく考えたらおかしいよな。
「あ、説明し忘れてました。PM特典の机と椅子を設置して頂きますと、もれなく私がこの拠点とロビーを行き来ができるようになるんです」
「そ、それはとても重要なことでは!?」
「それほど私のことを気にかけてくださる八雲様には頭が上がりませんね」
なんか恥ずかしい。
「私のことはお気になさらず、この世界を楽しんでください。なにか聞きたいことがあればお聞きください。いつでもお答え致します」
ルカさんはそう言いながらお茶を淹れ始めた。うん、ルカさんも自由だな。
ルカさんのことは気になるが、まずは拠点でやれることを確かめておく。あと無料で設置できるのは収納箱と生存箱だ。
収納箱にはアイテムを100種類99個入れることができるようだ。これ以上入れるには生存ポイントで拡張するしかないようだ。
生存箱には預けることと引き出す機能があり、今のところは1Pも入っていない。1日に1回のお小遣いはここに入るみたいだが、初日は期待できないだろう。まず初日で死に戻りするやつはよっぽど無謀か、さっそくPKが出たのかのどちらかだと思う。
拠点でやることもなくなったので、インベントリの中を調べる。中にはPM特典と招待者特典と正式サービス記念特典なるものが入っていた。
《PM特典》
・現在地から半径1kmの地図
・生存ポイント:300P
・携帯食×10(空腹度30%回復)
・下級HP回復ポーション×10(HP10回復)
・下級MP回復ポーション×10(MP10回復)
《招待者特典》
・βテスト無事終了記念品:フルーツ味携帯食×10(空腹度50%回復)
・下級HP回復ポーション×5(HP10回復)
・下級MP回復ポーション×5(MP10回復)
《正式サービス記念特典》
・生存ポイント:500P
・下級HP回復ポーション×5(HP10回復)
・下級MP回復ポーション×5(MP10回復)
おお、めちゃくちゃアイテムもらえた。なにより携帯食と生存ポイントがうまい。
とりあえず生存ポイントは全部預けてポーションは5個ずつ持ったら収納。
携帯食はフルーツ1個ノーマル5個以外は収納だな。すでに空腹度が70%だ。
「携帯食ってどんな味なんだろう……うん、なんだこれ?味のないビスケットかな?まぁ……不味くないだけマシか」
とりあえず一旦外に出て特典の地図を使用。思った通り、全部緑で覆い尽くされていた。これ、地図の意味あるのかな?一応マップが少し埋まったからいっか。
「あとは……この辺りで魔物探ししながら巣をつくるか」
拠点周りの枝に渡りやすくするために手当たり次第に糸を飛ばして巻き付ける。
MPの節約をするためにオールノーマルの糸だ。今のところめぼしい敵がいないので、糸の質は考えていない。
蜘蛛といえば綺麗なネットのような巣をつくるのだが、今のところそんな技能はないので、ひたすら糸を張り巡らせるだけだ。
「拠点周りはこれくらいかな?一応ここに来るまでの糸が降りられるけど、本数は増やしとこう。あとMPいくつだ?」
《八雲ステータス》
名前:八雲
種族:小蜘蛛
性別:男
Lv:1
HP:60/60 MP:17/80
筋力: 8魔力:11
耐久: 7魔抗: 8
速度:14気力:13
器用:20幸運: 5
生存ポイント所持:0P貯蓄:800P
ステータスポイント:0JP
スキルポイント:30SP
固有スキル
【糸生成Lv5(+3)】【糸術Lv5(+2)】【糸渡りLv3(+2)】【糸細工Lv1】new
スキル
【繁殖Lv1】【夜目Lv1】【隠蔽Lv3】【気配感知Lv2】【魔力操作Lv6(+2)】【識別Lv1】【風魔法Lv1】【魔力感知Lv4】【思考回路Lv1】
「うーん、これは心許ない。回復しとこう……ん?なんだこのスキル?ルカさんに聞いてみよう」
一応どれくらいの頻度でMPが回復するのか見るために放置しておく。この世界の時間は昼の12時である。今頃微妙な味の携帯食を食べながらPHは変顔をしてる頃だろう。
拠点に入るとルカさんはカップに口をつけてなにかを飲んでいた。匂いは紅茶だが、視線の高さが低いので中身を確認はできない。
「ルカさん、新しいスキルを覚えていたんですけど、【糸細工】ってなんですか?」
ウサミミをピョコピョコ動かしながら紅茶?を味わっていたところ悪いのだが、質問に答えてほしい。
「ふぅー、おいしい。糸細工は八雲様が作ってくださった魔糸槍をGMが評価してくださって、せっかくならスキルを作ろうと言うことになりまして、できたのがそのスキルとなっております。一応裁縫というスキルがありますが、そちらは色々な素材を使うことになるので、糸専門の細工として【糸細工】が採用されました」
「裁縫をとった場合は生産力にさらに補正はかかりますか?」
「かかります。ただし糸細工の方は糸しか使わない場合にしか補正がかかりませんので、ご注意を」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
訊きたいことは確認できた。次に気になったことはMPの回復具合だ。
ゲームによってもこのHP,MPの回復時間は変わる。あまりにも遅すぎると途中でやめてしまうなんて人も出てくる。なんとも理不尽な理由だが、そう言う人はゲームは合わないと個人的には思う。
視界に映ったHPとMPはゲージ表記であり、右端に最大値と現在の残りが見える。そこばかり注視することはないので、このゲージはありがたい。大体の残量がパーセントでわかるのが特にいい。
今の時間で2分経ったのだが、12MPも回復していた。ここから計算すると、13分もあれば全回復できる。
「ルカさん、拠点と外でのHP,MPの自然回復時間って教えてもらえますか?」
「そちらなら大丈夫ですよ、セーフティーエリアである拠点でなにもしていないときは魔力操作Lv×2。魔力を使用した魔法の練習や糸細工をしてる場合には1分間にHP,MPともに魔力操作Lv分、回復します。これは外にいる場合と同じです」
「魔力操作のスキルを持ってない人は1分に1しか回復しないってことですか?」
「魔法を覚えないことが想定されていませんので、持ってない方のことは知りません」
なんとも辛辣である。
「それにしても甘くないですか?もうLv6なんですけど」
「まだHPもMPも低いから早く回復しますが、数十レベルともなってくれば、また違ったことを言われると思いますよ?最大値が千を越えるなんてことも……」
た、確かに言えてる。極振りなんてした日には数時間たむろすることになるだろう。待つ時間を楽しめるのか、それとも待ちきれず、我慢のできない子供のように癇癪を起こしてしまうのか。
「そうですか……」
「そういう場合にはログアウトして休憩なさってくださいね」
………運営も巧いこと考えてるんだなぁ。