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第31話 遠足

 ステータスを確認した結果、言語学による称号は生えていなかったが、その代わりに【蜘蛛母】の称号が【女王蜘蛛】へと変化していた。なにやら解放されていたが、母から女王になった、つまりは進化先関連が変化したと推測できる。


 思考にふけていると脚が引っ張られる感覚がした。振り向くと子蜘蛛達がそわそわしていた。


 「どうしたの?」


 「おなかすいたー」


 どうやら子蜘蛛達はお腹ぺこぺこらしい。他にも「すいたー」とか「ごはんいこー」と言っていた。言葉がわかるとこうも変わってくるのか。


 「じゃあ精霊樹のとこに行こっか」


 いつもは適当に魔物の肉やら木の実を食べて適当に済ますのだが、言葉が通じる状態なので久しぶりにみんなで行くことにした。俺は最近あの巣に行っていないのだが、どうなっているのだろうか。


 子蜘蛛達は俺に着いてきながらお話をしていたが、内容はご飯の話や魔物の話だったりと様々だったが、声が可愛いのでほんわかした気持ちで和んだ。


 気分は遠足に来た幼稚園児を連れた保育士さんだ。みんな素直で可愛い、最高じゃないか。


 精霊樹の森へたどり着くとそこは前来た時と一変していた。まず巣の広さがマップの端から端まであり、森を網羅していた。それから精霊樹には人の手が加わったログハウスが出来ていた。


 そのログハウスの中にはあの精霊の女性がいてお茶を飲んでいた。あ、手を振ってきた。振り返そう。


 巣は二次元的、面による構築ではなく、三次元的な構造になっていた。そのため、至るところに巣にかかった鳥系の魔物がいた。


 地面にはホブゴブリンがいて精霊樹の周りに柵をつくっている最中だった。遠くにPHが列を成しているのは気のせいだろうか?え?これ、第三エリアボスを倒すために来たPHなの?


 というかなんであんなちゃんと並んでいるんだ?きっちりと走らず乱れないその列はまさにコミケに並ぶ戦士達だ。誰一人として決められた道から出てこなかった。


 「ママ、どれにする?」


 列に目線がいっているといつの間にか近くにいたコクマがたくさんの鳥系の魔物を持ってきていた。


 「そうだなぁ、やっぱりこの鳥かな」


 選んだのは森賢梟(フォレストオウル)だ。ふくよかで柔らかい肉質をしている。もはやここらへんの魔物は生きた食料としか考えられていない。


 「ママ、これもおいしいよ」


 ハクマが手にしていたのは森賢猪(フォレストボア)だ。そこらの豚よりも旨い。たかしくんも旨いらしいが食べたことないので知らない。


 「ボクが先に持ってきたんだから、ママはボクのを食べるんだよ!」


 「こっちの方がおいしいに決まってるから、ママはわたしのを食べるの!」


 と、コクマとハクマは喧嘩し出した。糸を出したりだとか魔法を唱えたりはしないが、わちゃわちゃと取っ組み合いをしだした。


 「こらこら、喧嘩しない」


 「「だってぇ」」


 「だってじゃない」


 二人を落ち着かせた後、一緒に食べることにした。二人が持ってきた魔物を食べていると「ボクも」「私も」と次々と魔物を持ってきて食べさせられる。


 お腹いっぱいになったので、森を散策することにした。といっても精霊樹の周りはたまに鳥系の魔物が飛んで糸に絡まっていて危険性はない。


 地上の方はホブゴブリンに誘導されたPHが気になったので行ってみた。列は柵に囲まれ、柵を出ようとすると罠が発動するようになっていた。


 罠は柵と柵の間にあり、こちらからも危害を加えられないようになっていた。列の先に行くと、広場があり、ホブゴブリンが露店を開いていた。


 並べられた商品はなんと村防衛戦で手に入れたPH装備の残り、それから列を乱したPH装備だ。これについては近くにいたホブゴブリンに聞いた。言葉がわかるって便利だ。


 露店での取引はトレードで行われていて、PHから取引を持ちかけ、その金額で良ければホブゴブリンがオッケーをだし、駄目だったら弾くらしい。


 ぼったくり放題なのだが、殺し合いにならないようにフリマの査定より少し高めにしてる程度だという。あまり儲けの無さそうな取引だが、元が0なのでボロ儲けである。


 堂々とその広場に集団で入ったのだが、PHからは攻撃されない。平和って素晴らしい。まぁPHからは避けられているんだけどね。といっても攻撃を受けたら木の上から俺を見守っている子蜘蛛達が襲いかかる。


 そういえば未だに第三エリア行きのボスを倒しにいっていない。レベル的には問題はない。むしろ楽勝で勝てるだろう。気になるのはここのエリアボスが何という魔物なのだということだ。


 この精霊樹の森には多種多様な魔物がいる。その中で一番強い魔物なのか、それとも第三エリアから逃亡した魔物なのか。気になるが、楽しみは後にとっておくのが吉。


 露店のホブゴブリン達に別れを言って拠点に帰ることにした。そのうち46匹は例のごとくお留守番になるのでここで一旦お別れだ。その中には甘えん坊にジョブチェンジしたコクマとハクマがいるのだが、兄弟のためだと少し寂しそうに離れていった。


 ということで、本日もエリアボス討伐するために行動を開始する。俺達は全員レベル35を越えるためのエリアボス討伐に向かう。


 今日は南東にいるエリアボスを倒しにいく。ここにいるのはユッケが最初に倒したと言う砂塵地虫(ダストワーム)がいる。報酬は寝心地がいいと評判らしいが、戦い方はいまいち知らない。


 名前からして地中から出てきてパクりと食べられるのだろう。地面を注意していればうまく捕まえることができるだろう。


 広場を経由して南東ボスエリア前に向かう途中、カレーに遭遇したので、子蜘蛛達は精霊樹のところにいることを伝えて移動した。


 着いた場所は森の中だった。当たり前だが、ここの近くにPHの列があった。PHは規則正しく並んでボス戦に挑まないといけないとは、大変ですな。


 「すいません、ちょっと最前列から最後尾まで譲ってくれませんか?」


 子蜘蛛達と和気藹々としながら、PHの方々に挨拶をすると、気が付いた人達が武器を取り出す。その人達の次に気付いた人達は身支度を済ませて最初に気付いた人を囮にして列から去っていった。


 逃げている人に気付いていないのか、なぜか勝てると思っているのか、逃げる姿勢を全く見受けられない。逃げてる人達を追いかける気はない。だって散らばりながら逃げるんだもの。面倒じゃないか。


 なんだか可哀想になってきたので、両前脚を使ってなんとか後方を見ろ、的なことを伝えるとその人達は大慌てでしたくしてから、こちらに会釈をして去っていった。


 「平和って素晴らしいね」


 あ、だからといってエリアボス討伐から帰ってきた奴等は逃がしませんよ。おいしく頂きました。経験値的な意味で。集団で襲いに来られたら困るのでボスエリア前の森には糸を巡らせて地面にも糸を張っておく。


 俺達みたいに大所帯のPMとNPMがエリアボス周回をするとPHにとってはユニークボスが徘徊しているのと同じ感覚になるよね。エリアボス戦が最高の10人だとして俺達は最大で百匹で行動をする。もはやリンチでしかない。


 今回のエリアボスも10人が最高なので6回いかないといけない。最初のグループは一番レベルが低い子達だ。これでレベルが上がらないなら次もフウマ達をお留守番させて次のエリアボスに行かないといけない。


 ボスエリアに入るとそこはまだ森が続いていたが中心部から砂漠になっていた。森は安全地帯と見ていいのか、はたまたそれは罠で安心させたところをパクりと食べられてしまうのか悩むな。


 どの道奴は地面から出てくることには変わりないので、皆と協力して地面に糸を巡らせていく。砂漠には巻き付けるものがないので魔糸の木杭を突き刺してそれと森の木々を繋げた。


 魔糸の木杭を地面に突き刺して少し経った頃、砂漠の砂が振動し始めた。子蜘蛛達をそこから遠ざけると、木杭があった場所にあのユッケの拠点で見た家具に似た砂塵地虫(ダストワーム)が現れた。


 せっかく突き刺した木杭はむしゃむしゃされたのだが、そこからは予想外なことに引っ付いた糸をそのままむしゃむしゃしていたので、繋がっていた木々や糸を手繰り寄せていった。


 その結果、奴は自らドツボにはまり、全身を木と糸、それから糸に絡まった様々なものを引っ付けてしまった。割り箸で巻き取ったわたがしのように物を引っ付けた砂塵地虫(ダストワーム)はここら一帯のものを使った奇妙なオブジェクトに成り代わった。


 俺達はそれを呆然として見ることしかできず、砂塵地虫(ダストワーム)は身動きがとれないので、なんだか可哀想に思えてくるエリアボスだった。


 エリアボスのAIって馬鹿なの?と思ってしまうほどの失態しかしていない。可哀想だがこれはエリアボス戦という本来なら実力と戦略、チームワークで戦うものなのだが、俺達は未だに実力の半分も出していない。むしろ戦略が別の方向に成功しすぎてなにもできていない。


砂塵地虫(ダストワーム)を討伐しました。》

《称号【砂塵地虫(ダストワーム)討伐者】を獲得しました。》

《PM専用報酬:砂塵地虫(ダストワーム)の剥製、砂塵地虫(ダストワーム)の 寝袋、砂塵地虫(ダストワーム)の籠手、キョテント1つ、生存ポイント1000P,スキルポイント10SP,ステータスポイント10JP》


 さっくりととどめを刺してレベルの確認をする。やはりレベル35に達しない者が出てきた。報酬はユッケのあれとまたもや剥製そして謎の籠手だ。試しに取り出してみると砂塵地虫(ダストワーム)の口を貫通させて手を入れられるようにした物が出てきた。


 ご丁寧にサイズ調整のできる優れものだ。やったね、これで殴っても手が痛くならない!安心だね。正直、これを着けるくらいなら素手で殴ってた方がマシだ。


 いらないものはさっさと仕舞おうと思っていると、なぜかこの籠手をきらきらした目で見てくる子蜘蛛がいた。確か黒2a(クロニア)だったかな?適当につけた名前だけど、一応機能しているのだ。


 物欲しそうにしていたので渡すと嬉しそうにそれを嵌めた。それから腕を振り下ろすと籠手がバネのように伸びて鞭のように動いていた。


 籠手と鞭を合わせた武器みたいで使い勝手が良さそうだったがデザインが好きじゃないのでクロニアにあげた。喜んで貰えたようでなによりだ。


 それから5周回ったのだが、いくつかわかったことがある。砂塵地虫(ダストワーム)は目が見えないため、音に反応して動いている。普段は地中にいるが、襲いかかる際は捕食するために地上に出てくるようなので、いくつか策を練った。


 まずは糸だけを地面に張り巡らせた。するとどこからか音を聞き付けた砂塵地虫(ダストワーム)が出てきた。口をわきわきさせながら糸を飲み込んでいくと身体全身に糸が張り付いた。


 逃げるために無理矢理身体を捻って地中に潜ろうと暴れた結果、砂塵地虫(ダストワーム)は砂という衣をつけた砂塵地虫(ダストワーム)フライになった。仕上げの火魔法で完成だ。


 エビフライはおいしいがこの砂塵地虫(ダストワーム)は美味しくなさそうだったので、さっさととどめを刺して報酬を貰った。解体したときに肉が手に入ったはずだって?なんのことか知らんな。


 砂塵地虫(ダストワーム)が出てきたところで魔糸の木杭を投げまくって倒したりと、色々やってみたが、思った以上に弱いことが判明した。というよりも遠距離攻撃や罠に弱いので俺らとの相性が最悪であるだけのことだ。


 6周回った結果だが、

八雲(38)Lv34(17)Lv33(15)Lv32(22)だ。


 レベルがまだまだ足りないので、次のエリアボスを倒しにいこう。第二エリアの魔物をひたすら狩っていく方が効率がいいのは確かだが、後々やらなきゃいけないエリアボス攻略をしなくちゃいけないので、こっちの方が優先度が高い。


 一旦拠点に戻りログアウトした。さすがにログインしっぱなしは身体に不調を起こす。最悪の場合、布団に池が出来てしまう。これは避けなければならない。俺だってもう高校生だ。そんなへまはしたくない。


 いくらか休憩した後、北エリアのボスを討伐しに広場に向かった。北エリアボス前の魔法陣もあったので労力を伴わず行くことができた。相も変わらずエリアボス前は混雑していた。


 列だけでなくちょっとした村くらいの建物があったりとなかなか賑やかだ。賑やかだということはそれだけ人も多いというわけだ。俺らに気づけば今のように武器を持って取り囲んでくる。


 松明を持って糸対策もばっちりという様子だった。PHの布陣は魔法対策に盾役が前列に盾を片手にもう片方には松明を装備をしている。その後ろには盾役以外のジョブが勢揃いだ。


 対策が出来ていたところで完璧というわけではない。魔糸の木杭を用意して穂先じゃない方に糸をつけてもう一本の魔糸の木杭につけ、同時に投げれば糸が張れる。


 燃やしてもいいが、刺さっている場所にいるものに引火するか、間にいるものが糸に引っ掛かればその者に魔糸の木杭まで巻き付いて逃れなくなる。


 蜘蛛だからといって糸で巣をつくるためだけに使ったりはしない。投網のような器用なことはできないが、魔法に混ぜることで遠距離に撒き散らすことができる。


 風球(ウィンドボール)をつくってその中に糸を入れ、飛ばす。盾で防がれるが、糸が盾や周りの者、地面に撒かれた。それをいくらか飛ばすと盾役のPHの周りは糸だらけになる。引火しないように松明を消すのは正しい。正しいが、糸へのアドバンテージが失われた。


 あとは火魔法で盾役を燃やして完了だ。盾役は焼死体にジョブチェンジしたが、まだPHは残っている。これからが本番だ。

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