第30話 言葉の大切さ
ステータス更新が終わったので、たかし君を広場に戻してくる。なんと彼はゲーム内で一日中眠っていたのだ。子蜘蛛達という障害がなくなったおかげで静かに暮らせるというものだ。
「抱えるほど小さくないし、引きずるか」
蜘蛛の糸でぐるぐる巻きになっていたので、糸を付着させて引きずって広場に持っていった。
「ん?どうした?」
「俺のとこで寝てたたかし君が邪魔だったから連れてきた」
「もったいねぇな、ちょっと貸してみろ」
もったいないというのはどういうことなのか疑問に思いつつ、たかし君を引き渡した。すると店に並べていた剣を取り出してたかし君に振り下ろした。
「たかしくぅぅぅん!?」
「ん?やっぱたかしの野郎の使い方知らなかったな?」
カレーは飛び散った血を拭って解体した。その光景はまさしく出荷された豚を解体する肉屋のおっさん。
「使い方?」
「たかしはな、このゲームに眠りにきてんだとよ。なんでも家の近くが騒音で煩くて眠ることが出来ないんだとさ」
「引っ越せばよくないか?」
「金がない(切実)だとよ、人の家で寝るのが一番落ち着くらしくて、色んな人ん家行ってるが、邪魔になったら経験値の足しにしていいと本人が言ってたぞ。聞いてないのか?」
「あぁ、子蜘蛛達がいつの間にか連れ込んでたからな」
「おまえんとこの子蜘蛛は愉快な性格してるもんな」
「そうか?可愛い奴らだろ」
「いんや!俺の配下の方が可愛い奴らだね!」
「変な反抗心を抱くなよ、まぁうちの子蜘蛛の方が可愛いがな」
「いいや、俺のだ」
「えー?なになに?何を争ってるの?」
カレーとどっちの配下がより可愛いのか競いあっていると、大量のアンデッドを引き連れたカルトがやって来た。その姿はまさしく百鬼夜行、ガシャドクロだけで構成されたお化け嫌いには気絶必至だ。
「争ってはないぞ、ただうちの子蜘蛛が可愛いって話だ」
「おいおい、なにカルトを味方につけようとしてんだ。俺の配下達の方が可愛いだろ」
「ふーん、なるほど。ここは僕も可愛いアンデッド達を褒め称えたらいいんだね!」
「「それはない!」」
俺とカレーはそこだけは意見が一致なのか、同時に発した。それにはこめかみのない、カルトのこめかみがピクピクして怒っている気がした。
「なるほどなるほど、君達は僕を怒らせたいんだね…いいよ、僕の全力をもって叩き潰してあげるよ!」
カルトは腰に携えていた剣を抜いた。その剣は禍々しく魔剣士というより邪剣士である。俺は風属性の魔糸を出し、カレーはインベントリから大剣を取り出した。それにより雰囲気はより険悪なものになった。そんなとき2つのボールが現れた。
「だめよ!私のために争わないで!」
「そうよ、お姉様のために争わないで!」
「「「………」」」
現れたボールは膨張したかと思うと、人型に変化して身体をくねらせていた。しかも男型である。一方もう一つのボールはスライムボディをくねくねさせていた。ボールとはスライムのことで、一人は毎度お馴染みの味噌汁ご飯で、もう一人はジュリアーナと言われる味噌汁ご飯の同志だ。
俺達は視線をボールに一瞬向けた後、視線をお互いに向けてカルトが首を振り、俺達は首を縦に振った。
「「「……解散!」」」
カルトとカレーは剣を納め、俺は出していた魔糸を味噌汁ご飯に飛ばした。カルトはアンデッド達を引き連れて帰っていき、カレーは部下達と共に撤収していった。
俺が飛ばした糸はスライムボディをくねくねさせていた人型の味噌汁ご飯を綺麗に半分に切断していた。さすが風属性の魔糸だと感心した後、二人を置いて去った。
なにも言わずに撤収していった三人に悲しげな視線を送ったものの、三人は帰ってこなかった。味噌汁ご飯はジュリアーナを連れて寂しそうにその場を離れていったのだった。
「お姉様…」
「いくわよ…」
「はい…」
□■□■□■□
カルト達とエチュードをして帰った後、再びたかし君が子蜘蛛達の横に違和感なく寝ていることに驚いた。もうたかし君はここから移動しないのだと悟って放っておくことにした。
まだまだ子蜘蛛達が眠る時間なのでやることをやる。生存ポイントで購入可能なスキルを調べるのだ。いつもお世話になっているフリマを開いて『スキル』と検索すると一覧が現れた。
《取得可能専門スキル》
・言語学Lv1(自分の種族):1万P
→言語学+Lv1(他の種族):10万P
→遭遇したことがある種族のみ
・薬学Lv1:1万P
→薬学+Lv1:レベル×5万P
・教育学Lv1:1万P
→教育学+Lv1:レベル×5万P
・武器学Lv1:1万P
→武器学+Lv1:レベル×5万P
・防具学Lv1:1万P
→防具学+Lv1:レベル×5万P
・錬金術学Lv1:1万P
→錬金術学+Lv1:レベル×5万P
・料理学Lv1:1万P
→料理学+Lv1:レベル×5万P
・etc...
《特殊スキル》
・暗殺術Lv1:300万P《可能》
(取得可能条件:敵に発見されずに攻撃成功100体)
→暗器作成Lv1:500万P《可能》
(取得可能条件:敵に発見されずに攻撃成功300体)
→暗器術Lv1:700万P《不可能》
(取得可能条件:敵に発見されずに攻撃成功500体)
→影魔法Lv1:1000万P《不可能》
(取得可能条件:敵に発見されずに攻撃成功1000体)
→etc...
・罠術Lv1:300万P《可能》
(取得可能条件:敵に発見されずに攻撃成功100体)
→罠作成Lv1:500万P《可能》
(取得可能条件:敵に発見されずに攻撃成功300体)
→隠蔽工作Lv1:700万P《不可能》
(取得可能条件:敵に発見されずに攻撃成功500体)
→隠者Lv1:1000万P《不可能》
(取得可能条件:敵に発見されずに攻撃成功1000体)
→etc...
・遠距離投擲Lv1:300万P《可能》
(取得可能条件:敵に投擲攻撃成功100体)
→軌道予測Lv1:500万P《可能》
(取得可能条件:敵に投擲攻撃成功300体)
→命中率上昇Lv1:700万P《可能》
(取得可能条件:敵に投擲攻撃成功500体)
→軌道修正Lv1:1000万P《不可能》
(取得可能条件:敵に投擲攻撃成功1000体)
→etc...
《取得可能スキル》
・全第一次スキル1つあたり:100万P
・第一次スキルレベルアップ:100万P
・第二次スキル進化:1000万P
生存ポイントで買えるスキルは様々種類があった。専門スキルと呼ばれるもので欲しいと思ったのは前から考えていた言語学だ。どうやら色々いじってみたところ、わかったことがある。
まず一つ目は言語学について、プレイヤー以外のノンプレイヤーは同種族の言語学スキルを表示されないが持っているということだ。つまり子蜘蛛達は言語学Lv1は取得済みだ。
二つ目はフレンドになっていないプレイヤーの種族の言語学を取得したところで会話はできない。それは配下も同じだ。プレイヤーの支配下にないノンプレイヤーなら可能のようだ。
何の冗談かわからないが、人族いわゆる敵陣営の言語学は1億Pだった。あと5000万Pで買えるね、やったね。
三つ目は学門スキルは基本的にレシピ集ということだ。試しに武器学を取得してみたところ、木製の武器一覧のレシピを手に入れた。これがあれば魔糸の木杭が強化できる。
特殊スキルについて最近構ってないルカさんを起こして聞いてみると、条件を満たしていれば自然と現れるそうだ。PMの場合は生存ポイントで購入可能となるが、PHの場合はどこかに潜むジョブマスターを探さないといけないらしい。
専門スキルについてはPMが持っていれば配下のNPMも使えるようになるとのことだ。ただし特殊スキルは個々に持たなければいけない。配下が持つ生産系スキルが多ければ多いほどたくさんスキルを購入しないといけないみたいだ。
そう言うとルカさんは近くにいたコクマとハクマを抱きしめて眠ってしまった。
色々考えた末、必要だと思うスキルを取得した。
《取得する専門スキル》
・言語学Lv1(蜘蛛):1万P
→言語学+Lv1(ゴブリン):10万P
→言語学+Lv1(スケルトン):10万P
→言語学+Lv1(カラス):10万P
・武器学Lv1:1万P
→武器学+Lv4:10+15+20+25=70万
・防具学Lv1:1万P
→防具学+Lv4:10+15+20+25=70万
合計:173万P
《取得する特殊スキル》
・暗殺術Lv1:300万P
→暗器作成Lv1:500万P
・罠術Lv1:300万P
→罠作成Lv1:500万P
・遠距離投擲Lv1:300万P
→軌道予測Lv1:500万P
→命中率上昇Lv1:700万P
合計:3100万P
総合計:3273万P
5054万8678-3273万=1781万8678P
浪費しすぎ?いやいやこれは必要なことだから。暗殺術とか罠術とか魅力的でしょ?だったら買うしかないよね。
ステータスも前から見辛いと思っていたものがさらに見辛くなってしまった。前まで日本地図見せられてただけだったのに突然世界地図を見せられるみたいなものだ。
一旦ログアウトして休憩した後、再びログインをしてスキルの使い方など確かめた。言語学というスキルで初めてフウマ達の声を聴けることになったことに気付き、ワクワクして仕方がない。
フウマ達の寝顔を見ながら待っているとスイマとドーマが起きてきた。二人は俺を見つけると右前脚をあげながら挨拶をした。
「お母さん、おはようございます」
「母上、おはようございます」
最初に挨拶してきたのはスイマだった。クールな女の子といった感じで、ドーマは武士のような堅い印象だが、二人とも幼さが残った声をしていた。大体俺よりも年下の中学生くらいだろうか?
「おはよう。スイマ、ドーマ。二人とも少し堅いから気軽に話しかけてくれていいからね」
その挨拶に対して右前脚をあげて返し率直な感想を述べると、二人はビクッとしてお互いに見合わせていた。
「母上…私の言葉が理解できるのですか?」
ドーマはおそるおそる質問してきた。その質問はこの状況を考えれば妥当な意見だった。
「あぁ、さっきスキルを取得したからな。それにしても父じゃなくてなんで母なんだ?」
「母上は母上です」
「お母さんはお母さんですよ」
これは訂正出来そうもない。確実に浸透してそうな案件だ。生まれたときからこうやって俺を母として見ているのなら今更感がある。生まれたときに訂正するならまだしも、もう何日も経過している。もう無駄だろう。
「そ、そうか。皆を起こしてくれないか?」
「わかりました」
二人は皆の身体を揺らして起こすと、俺に寝起きの挨拶をしてくる。それに対して名前を呼びながら「おはよう」と言うと、ドーマとスイマと同じく固まった。しかもドーマとスイマよりも立ち直りが遅く、次々と固まる子蜘蛛が続出した。
俺の子供であるフウマは感極まって抱きついてきた。フウマは女の子でお姉さんのような性格だった。エンマはのんびり屋なのか、それほど驚いた様子のない女の子だった。
そんな中いたずらっ子なコクマとハクマはというと、今までの落ち着き様から一転して甘えん坊になった。「ママ…」、「マーマ…」と言いながらわちゃわちゃと抱きついてきた。
コクマは男の子でハクマは女の子だった。そんな中、最近生まれたばかりの子蜘蛛は「マンマ」、「ママ」としか喋らなかった。言語スキルはLv1に対して1種族なので流暢に喋られるはずなのだが、どうやら生後二日目はまだ少ししか喋られないということだ。
そうだ、ママじゃなくてパパと呼ばせよう!と思い、「ママ、じゃなくてパパだよ」と何回か繰り返したが、全く直る兆しが見えなかったのでやめた。
子蜘蛛達の性別は半々といったところだが、厳密にはステータスに性別がないので、設定上では無性だろう。ただし俺は設定上男なのだが、称号のせいなのか、繁殖のせいなのか、俺は母親認識だった。解せぬ。
言語学による称号がないのかという疑問もあり、ステータス更新のためにという名目もあったので見てみた。
《主人公のステータス》
名前:八雲
種族:中蜘蛛
性別:男
称号:【ヴェルダンの縄張り主】【格上殺し】【森賢熊討伐者】【エリアボスソロ討伐者】【蜘蛛母→女王蜘蛛】【精霊守護者】【精霊樹の加護】【小悪鬼長討伐者】【岩蜥蜴討伐者】
二つ名:【悪夢】【首狩り】
配下:中蜘蛛88匹、小蜘蛛12匹
→Lv38(2)Lv37(6)Lv35(26)Lv33(17)Lv32(15)Lv31(22)Lv10(12)
Lv:38
HP:600/600 MP:990/990
筋力:60 魔力:80
耐久:70 魔抗:80
速度:80 気力:57
器用:80 幸運:40
生存ポイント
所持:0P 貯蓄:1781万8678(-3273万)P
ステータスポイント:0JP
スキルポイント:225SP
固有スキル
【魔糸生成Lv8】【魔糸術Lv5】【魔糸渡りLv3】【糸細工Lv9】【毒術Lv12】
特殊スキル
【精霊視Lv2】【暗殺術Lv1】【暗器作成Lv1】【罠術Lv1】【罠作成Lv1】【遠距離投擲Lv1】【軌道予測Lv1】【命中率上昇Lv1】
専門スキル
【言語学Lv4】【武器学Lv5】【防具学Lv5】
スキル
【繁殖Lv3】【夜目Lv25】【隠蔽Lv24】【気配感知Lv22】【魔力掌握Lv4】【識別Lv13】【風魔法Lv10】【魔力感知Lv22】【思考回路Lv1】【投擲Lv13】【解体Lv23】【魔力上昇Lv9】【爪術Lv13】【水魔法Lv7】【土魔法Lv3】
【女王蜘蛛】
100匹以上の子蜘蛛を授かり育て、自然の恵みのような母性愛を持ち、指導者としての王の資格を持った者に与えられる称号。この称号を持つと指揮が安定し、ほとんどの子蜘蛛が言うことを聞いてくれる。
子蜘蛛は称号者に尊敬し愛し、時には恐れる。それほどまでに信頼している。※ただし蜘蛛に限る。
《********》解放!
《****》解放!
【暗殺術Lv1】
敵に発見されていない状態で相手の視界に入っても認識されづらくなる。
【暗器作成Lv1】
暗器を作成できるようになる。
※レシピは武器学に載っているが、このスキルを持たない限りは表示されない。
【罠術Lv1】
敵に発見されていない状態で相手の視界に入っても罠が認識されづらくなる。糸もこれに含まれる。
【罠作成Lv1】
罠が作成できるようになる。
※レシピは武器学に載っているが、このスキルを持たない限りは表示されない。
【遠距離投擲Lv1】
投擲するときのLv1×1m飛距離が伸びる。その分威力が増大される。
【軌道予測Lv1】
Lv1×1mまでの軌道が投擲する構えになると表示される。
【命中率上昇Lv1】
軌道上に外力が加わっても軌道予測からずれにくくなる。




