第26話 終戦
ホブゴブリン達が死闘を繰り広げる中、俺達はというと後ろで応援していた。俺がホブゴブリン達に「がんばれー」と前脚を振っていると、フウマ達も真似をして応援してくれた。
俺達は必死に応援したのだが、次々とホブゴブリンが倒れていった。その度に頭を抱えて悲しんだ。途中で俺らの存在に気がついたPHが二度見していた。
きっと俺達がかわいく見えるあまり、つい二度見してしまったのだろう。まぁ俺達のかわいさに気付くのはルカさんくらいだがな。
それはいいとしてホブゴブリンの数も減ってきたな。そろそろ参加しないと戦いが苦しくなってくる。準備をしよう。今回は魔糸の木杭を使う。これの先端の逆側に糸をつけて当たらなければ回収、刺されば火魔法で焼いてこんがりだ。
ホブゴブリンは鬼の形相で村を死守しようと躍起になっている。そんな中俺達は勝つための準備だ。ホブゴブリンはカレーの配下なので俺らが助けることはない。
なによりあの戦いの中にいって剣と爪で戦えるわけがない。剣で斬られて槍で串刺しにされて殺されるのがオチだ。相手の土壌で戦えるのは器用なやつだけだ。
準備が終わる頃にはホブゴブリンが全滅していた。それにより士気が向上したPHは俺達に接近戦を挑むために駆けてくる。まぁ遠距離で俺達に勝てないからそうなるよね。
なにやら訳のわからない言葉を発しながらやって来るPHには、お手製の魔糸の木杭をプレゼントだ。もちろんPHからしたら矢が飛んでくるのと同じなのでタンクには防がれる。
しかし俺達とPHの目線の高さは二倍ほど違う。つられて魔糸の木杭が飛ぶ高さはPHの目線より下となる。つまりどういう事が言いたいかと言うと、無理な姿勢で防ぐかジャンプして避けるしかない。
魔糸の木杭には多量の糸が巻き付けてある。それに先端ではない部分から触れると粘着力により引っ付く。結局のところ刺さらなくても当たればいいのだ。
体に張り付けば動きが阻害され、避ければ他の敵に当たり、刺さればダメージになる。そんなものお構い無しとばかりにジャンプして近付いてきたPHには魔法をプレゼントだ。
防御姿勢にでもならない限りは大ダメージだ。仕上げの火球で糸を纏うものは人を選ばずして燃え盛る。火がこちらに来ないように土壁で境界線をつくって、その場から離れる。
このゲームではアイテムが勝手に消失することがない。そのため俺達が作った蜘蛛の巣は消えないし、つくった罠が時間で消えることもない。だから矢や俺達がつくった魔糸の木杭も壊れない限りは再利用が可能だ。
まぁ壊されたらごみとして転がるだけなんだろうね。ここで活躍するのが解体スキルだ。これでごみを再利用できる。これは使い物にならなくなった魔糸の木杭をどうにか使えないかと悩んだ結果、解体してみたのだ。
魔糸の木杭は木屑と中蜘蛛の糸玉となった。木屑は何に使えるかわからないが中蜘蛛の糸玉は使い道がたくさんあるだろう。
離れたところで見えているとPHの方から白い煙がたっていたが、火はもう上がってないみたいだ。仕掛けとして土壁に糸を張り付けておく。壊せば土と糸が絡み付き、服が汚れる嫌がらせができる。
それはいいとしてなかなかやって来ないのはなぜだろうか?暇なので上に向けて魔糸の木杭を投げる。土壁を越えて何かうめき声が聞こえたのでPHに刺さったのだろう。フウマ達も続けて投げる。位置がわからなくとも刺さればいいのだ。
半分ほど投げ終えたら糸に着火する。すると再び壁の向こうで火の手が上がる。それを眺めていると後ろから真新しい鎧を纏ったホブゴブリンがやってきた。
こちらに会釈をした後、すぐさま土壁の向こうに行ってしまった。またあの戦いが始まるのかとこそこそと魔糸の木杭を作っているとホブゴブリンの雄叫びが聞こえた。どうやら勝利したらしい。
やったね。見えないけど。っと束の間土壁の向こうで火の手が上がる。なんだなんだ?と見ているとこちらに走ってくる音が聞こえた後、土壁を華麗に飛び越えてきた。あのチチマンがやってきた。
かっこよく着地を決めて決めポーズをしている。俺達からしたらくそダサいのだが、面白いので許そう。高笑いしながら何度も決めポーズを繰り返す様は何なのだろうか。
その間にフウマ達がチチマンを囲んでいく。状況に気が付いたチチマンは四方に向けて火球を飛ばしてきた。しかし、どれもが水魔法で相殺される。それには驚きを隠せない…と思いきや正常に立っていた。
突然黒のマントを脱ぎ捨てると、手を上に挙げた。すると火球よりも明らかに大きな炎の玉を浮かべていた。予想だが、あれだけ火魔法を使っているのだから、進化したスキルでも使っているのだろう。
なんだか声を荒らげながら右手に力を入れていたのだが、その左手にある杖を掲げなくていいのか?掲げる時間があまりにも長いので、エンマとスイマに指示を出してエンマには左足をスイマには右足を糸で引っ張ってもらった。
俺の「せーのっ」を合図に同時に糸を引っ付けて引っ張ると高笑いから阿呆面に変わったチチマンは掲げた炎の玉をそのまま地面に叩き付けて自滅した。まさか発射せずに自分が倒れるであろう地面に振り下ろすとは思わなかった。
こんがり焼けたチチマンがなんとか立ち上がろうとしていたので俺達は爪で殴り殺した。
「ふぅ…これでここのPHは壊滅だな」
大量に転がっていたPHとホブゴブリンを解体しながらのんびりしていると、カレーとまたまたフル装備のホブゴブリン達がやってきた。
「どうやら終わったみたいだな」
「やっと終わったよ」
「あとは…何度も何度もリスポーンを繰り返すPHだけだな」
「あれ?他の方向のPHは?」
「あぁ。他はホブゴブリンとPMが協力して倒すことができたな。生存ポイントと装備がウハウハでみんな喜んでたな」
「俺も良いものを手にいれたな、さっきの奴等の装備だ」
「お、サンキューな…ん?どうした?」
俺は渡そうとした装備を引っ込めてにやけながらカレーにこう言った。
「フリマで売り払った分の装備代ももちろん含めて生存ポイントを渡すんだよな?」
カレーは焦ったのか目が泳いでいた。汗をだらだらとかきながらそわそわしていた。
「っ!?ばれてたか…」
「もちろんだ、荒稼ぎしてるだろ?今回の分も含めて貰うからな」
「あぁ…わかったよ…」
結果としてカレーから手にいれたものと俺達が獲得した生存ポイントは5053万7520ポイントとなり、命の結晶は1727個になった。これが半分なのだからすえ恐ろしいとしか言えない。
カレーの村の転移門に行くとPMが全集合していた。カレーが言っていた個人参加者もいれば配下を多く持つ人もいた。その中でも異彩を放っていたのは大群ともいえる俺とPHの装備を着込んだカレー、そしてPHの装備をスカスカながらも着ている骸骨だ。
そんなことを考えていると灰色のデカイ狼がいた。
「遅かったな、八雲」
「ユッケか。参加してるのは知ってたけど、一人で大丈夫だったのか?」
「あぁ。PHの中にはβテスターもいたらしく、噂が流れてたか知らんが、へっぴり腰で楽に倒せたぞ」
「そっかぁ。それで…どれがカルトなんだ?」
「カルトは…どれだろうな…」
骸骨はカタカタと顎を鳴らせながら徘徊しているのだが、フレンドにはなってない上、どれがどれだかわからない。
「とりあえず全員配下を置いてフレンド申請してこい。話はそれからだ。配下には転移門に来るPHを任せたい」
カレーの言葉に素直に従って全員拠点に移動していった。その中にはカレーも含まれていた。さすがに全員とは交換していなかったか。
拠点に戻ってまず最初にしたことは生存ポイントを預けることだ。これを全て無くすとかショックすぎる。それから命の結晶も預けた。
《生存ポイント》
所持:0(-5053万7520)P
貯蓄:5054万3062(+5053万7520)P
《収納箱》
命の結晶:1824個
その他:色々
これだけあればなんでもできる気がするが、なにかしらのイベントで多量に使うことは目に見えている。命の結晶は後程ポイントが足りないと思ったら使っていこう。
フレンド申請の確認をして、来てなかったら送ろう。ちなみにルカさんはここに帰ってきた時、高級人参を抱えて眠っていた。きっといい夢見てるんだろうな。と思ったけど、フレンド申請できないので起こした。
起きたルカさんは高級人参を取られないように大きな胸に人参を押し付けた。俺は別にいつでも手に入るのでいいのだが、ルカさんにとっては貴重な人参なのだろう。
「これは私のだから…八雲様にはあげません!」
「ルカさん、俺は取らないしいつでも買ってあげるから、大事に取っとかずに食べてほしいな」
「本当ですか?」
「本当だよ。追加にほら」
「あ、あ、ありがとうございます…」
新しく買った人参を受け取り、抱き締めた。おっとりお姉さんのキャラが大いに崩れてしまったが、理想は理想だ。勝手にこっちが思っているだけで崩れるときは崩れる。
「ルカさん、フレンド申請が来てたら受理して貰っていいかな?」
「わかりました」
フレンド申請が来ていたのは、カルト、ジュリアーナ、クロード、たかしぃぃぃぃ!、ビデ、メルドアだった。ルカさんにまた出ることを伝え、申請を受理してまたカレーの村に戻った。
村に戻るとせっせとスケルトンにPHの死体が骸骨の元へと運び込まれていた。骸骨は品定めをすると装備を剥ぎ取って地面に埋めた。すると骨だけになって先程のPHが這い上がってきた。
「うんうん、これは良いものが出来たね。君にはこの装備を着けてもらうよ」
「カタカタカタカタ」
「いいんだよ、そのことは。僕は君に期待しているよ」
「カタカタカタカタ」
カタカタと言っているのは新しく生まれたであろうスケルトンだ。何を言ってるのかさっぱりなのだが、言葉が通じてるみたいだ。やっぱりそういうスキルがあるかな。
「あれ?もしかしてりゅっ…いてっ」
俺は骸骨にそこら辺に落ちてた石を投げ付けた。石は見事に骸骨の頬にヒットした。危ない危ない、もう少しで本名を暴露されるところだった。
「やっぱり、りゅ…じゃなかった八雲だったんだね!」
今度は石ではなく魔糸の木杭を構える。カルトはすぐさま言い換える。
「そうだよ。カルトはユッケが言ってた通りスケルトンになったんだな」
「スケルトンはカッコいいからね。ちなみに今は骸骨魔剣士だよ」
「長い名前だな。俺は中蜘蛛だ。多分すぐ進化できるけどな」
「進化は落ち着いたときにしないとね。次に進化するんなら配下は色んな種族に進化させた方がいいよ」
「そうなのか?」
「その方が戦いに幅が増えるし、何よりそっちの方が面白いよね」
「そういうものか」
「うん。僕も結構配下を造ってきたけど、進化させるときが一番ワクワクするよ」
「つくるってさっきの儀式みたいなものか?」
「そうだね。これにもやり方が幾つも存在しててね、今回はスケルトンを量産したんだ」
カルトは後ろに指を差してスケルトンを示した。スケルトンは軽く百近くいた。確かに量産だ。
「ということは他にもいるのか?」
「他には食屍鬼や活屍鬼もいるよ。あとはそれぞれの魔物のアンデットかな。八雲もいらない死体があったら頂戴ね」
死体取引なんて恐ろしい話はやめたいので話を変える。というより、知りたいことを聞く。
「そういえば配下と会話してたみたいだけど、どうやって言葉を理解してるんだ?」
「あれ?八雲知らなかったの?」
カルトは驚きの表情を隠せないでいた。確かにリアルで3日目、ゲーム内では11日目だが、知らないものは知らない。
「知らない」
「そっかぁ。これはね、【言語学】ってスキルなんだけど。普通にスキルの一覧から取得するものじゃなくて、生存ポイントで購入するんだ」
「そうなのか、見つからないわけだ」
「【言語学】を取得したらついでに他のスキルも取得するといいよ。意外と生存ポイントで買えるスキルは豊富だからね」
なるほど、いい情報を手に入れた。今回の戦いで大金持ちならぬ大生存ポイント持ちになったからな。買い物に余裕ができた。
「情報ありがと、あとで買ってみるよ」
「うん、じゃあ僕は張り付けにしたPHを漁ってくるからまたね」
「おう」
カルトと別れてPMが輪をつくって会話をしているところに向かった。その中には味噌汁ご飯とマルノミがいた。
「あら、八雲じゃない。ずいぶんと活躍したそうね」
「そうですね、たくさんレベルも上がりましたよ」
「私も上がったわ。それから進化もしたわよ」
進化?俺の目がおかしいのかな?味噌汁ご飯の見た目が何も変わってない。少し大きくなった気がするが、それだけだ。
「そ、そうなんですか?」
「疑ってるわね。まぁ私は姿形はなにも変わってないものね。ちなみに無形拈体から無形多量拈体になったわ」
これが大きくなるとか悪夢でしかないな。このスライムがオカマだと知ったらPHが全力で逃げるんだろうな。いずれ男しか狙わないスライムとして二つ名つきそうだな。




