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第22話 囮と首狩り

 第一周回を終えたフウマ達には拠点で寝てもらう。すでに夜になっており、プレイヤーである俺には関係ないがな、NPMであるフウマ達は寝ておかなければいけない。


 第二周回ではスイマ達を引き連れていく。先程と同じように3匹のゴブリンが焚き火で肉を焼いていた。同じ方法も飽きてくるので、今度は糸を飛ばしてゴブリン3匹を捕縛する。


 それでも肉を手離さなかったゴブリンには称賛を与えるが、生焼けだったらしく、火元へ近付こうと這いつくばっていた。可哀想なので肉だけ奪い取って俺達で焼いて食べることにした。


 脇でグギャグギャと騒いでいたが、良い感じに焼けたので、無視して食べてみると、意外と美味しかった。良い匂いに誘われたゴブリン7匹が現れたので、同じく捕縛して目の前で肉を食べてあげた。


 「どうだ?羨ましかろう?」と言わんばかりに目の前で頬張るスイマは完全に悪者である。やはり良い匂いに誘われたのかボスゴブリンも現れた。再び武具を取りに帰ろうとするボスゴブリンにデジャブを感じたので、同じく捕縛した。


 これがエリアボス戦だなんてと思うかもしれないが、森賢熊は無抵抗だった。なのでこれが俺達の普通である。時間も無限ではないので、さっくりと止めをさした。


小悪鬼長(ゴブリンリーダー)を討伐しました。》


《PM専用報酬:小悪鬼長(ゴブリンリーダー)の彫刻刀セット、小悪鬼長(ゴブリンリーダー)の日記3、小悪鬼長(ゴブリンリーダー)の机、生存ポイント500P,スキルポイント5SP,ステータスポイント5JP》


 また妙なものを獲得した。木工師のボスゴブリンだからこその彫刻刀セットはわかる。だが日記ってなんだよ、もはや報酬ですらねぇよ。


 インベントリから日記を取り出すとスイマが興味深そうに覗いてきた。


 「なんだ?スイマは読みたいのか?」


 スイマは頷くとそれを受け取り開いた。するとスイマはその状態で固まってしまった。中を覗いてみると、「グキャッ、グギャグギャグギギ…」というようにゴブリンの鳴き声で書かれた文章があり、何が書いてあるかさっぱりわからなかった。


 「あとでカレーに読んでもらうか…」


 スイマがしょんぼりしてたので、読める人に頼むことにした。次の周回があるのでボスエリアを脱出するとそこには睨み合う大蛇とドーマ達の姿があった。


 「どうしたんだ?」


 俺が帰ってきたことに気が付いたハクマとコクマが近寄ってきた。手振り羽振り教えようとするがいまいち伝わらない。ただずっとこの状態が続いていることがわかった。


 「襲ってこないところから考えて…PMなのかな?」


 言葉が通じないという点においてどうやって会話をするかだが、一応良い案を思い付いていた。それは…地面に文字を書くことだ。さすがにそこまで言葉が通じないとは思っていない。


 睨み合う二匹の間に入り、地面に「PM?」の文字を書く。すると大蛇はちょろちょろ出していた舌を引き込んで、尻尾で地面に器用に「Yes」と書いた。


 言葉が通じるのがわかったので後は早かった。俺の拠点へ誘おうと「きょてんいく?」と書くと首を左右に振った。地面から尻尾を離すとあるところに尻尾を指した。そこには見事に蜘蛛の巣に引っ掛かった無数の黒い塊があり、良くみると黒い鳥のようなものだった。


 「ハクマ、コクマ、あそこにいる黒い鳥を助けてきてくれ」


 二人は敬礼をしてから他の子蜘蛛達に指示を出して黒い鳥を救出した。沢山いたのでちょっと時間がかかったが、なんとか助け出すことができた。


 今度こそ「きょてんくる?」と聞くと頷きで返ってきたので、疲弊した黒い鳥を背中に乗せて全員で移動し、一旦フレンド申請をし合うために解散した。その間に生存ポイントを預けたり、ステータスの振り分けたりした。


 二人を待ってる間、子蜘蛛達は眠くなったのかうとうとしだした。許可を出すと子蜘蛛達は寄り添って眠りだした。申請が通ってから少しすると黒い鳥を頭に乗せた大蛇が帰ってきた。


 「どうも、先程はうちの子蜘蛛達がすみません」


 「気にすることはないわ。私も貴方の子の立場だったらああするもの。それに結果的に助けてくれたから気にしないわ」


 「そうですか、助かります。あのエリアボスを倒しにいく予定ということはカレーの救援でしょうか?」


 「そうね、一応βテスターからのフレンドというのもあってPHの好きにさせるのも癪なのよね」


 「そうでしたか、俺もカレーの救援で来てるんですよ。ちょっと配下が多すぎて周回中なんですけどね。あ、自己紹介するの忘れてましたね。俺は八雲って言います」


 「私はマルノミ、こっちは弟のジンよ。ジン、挨拶しなさい」


 「群衆烏(クラウドクロウ)のジンって言うっす。よろしくっす!」


 「あぁ、よろしく」


 ジンから羽を差し出されたので、それに応えるように前脚を差し出した。握手のつもりなのだが、お互いに握るという動作が難しい。羽は先に関節がなく、俺は引っかけることしかできない。なんともままならないものだ。


 「俺は配下が眠ったので待機なのですが、お二人はエリアボス討伐ですよね?」


 「そうね、まだ討伐してないわ」


 「今から行くところっす」


 「手が空いてるので手伝いましょうか?2周してるので少しは役立つはずです」


 「連戦になるのに大丈夫?」


 「えぇ、実はあと8周する予定なので1周増えたところで変わりないですよ」


 「なら手伝ってもらおうかしら」


 「いいですよ、朝方までは暇なので」


 「助かるっす」


 二人と俺だけではなくジンの配下でもある烏があと4匹いるが、人数制限には引っ掛からなかったので、そのまま行くことにした。


 拠点を出るとぞろぞろとトーチを持ったPHが歩いてくる姿を確認できた。向かう先はもちろんエリアボスのところだろう。それにしても数が多い。どう考えても先程討伐したPHよりも多い。


 「あれはPHかしら?」


 「そうですね…これはちょっときついですね」


 「ジン、ちょっと偵察してきてくれるかしら?」


 「了解っす!」


 マルノミの指示に従ったジンは配下を連れて飛び立っていった。その姿を見送ったマルノミは優しいお姉さんの雰囲気からどこか遠ざかっていく気がした。


 「ねぇ、貴方ならあの数をやれるかしら?」


 「配下がいれば問題ないですが、一人では厳しいですね」


 「私が囮をやるから、一人ずつ確実に狩ってもらえるかしら?」


 「隙があるならいけると思いますよ」


 「じゃあ頼んだわ」


 「え?ちょっと!?」


 マルノミはその長い体躯を利用してバネのように飛び出した。その巨体は現実では十分大蛇と呼べるもので、PHの頭の上からのしかかった。突然の出来事にPH達は大慌てでトーチを手放し何人かは火だるまになっていた。


 その間もマルノミは身近にいるPHを尻尾で掴み、遠くに向かって投げ飛ばしていた。さらにPHの間を縫って移動するため、PHはマルノミを斬ろうとして味方を斬るという自滅もしていた。


 「良くやるなぁ…仕方ないやるか」


 木の上から糸を飛ばして隙だらけのPHの首に糸を巻き付けて引っ張る。糸は極細で極硬のものだ。よっぽど目を凝らさないとわからない。さらにPHが騒がしくなるが何言ってるかわからんから無視だ、無視。


 近くのPHを狩り終わると木を移動して首に糸を巻き付けて首を絞める。どれだけ頑丈な防具を着けようと兜と鎧の間には隙間がある。そこを巻き付ければ首は絞まる。


 ちなみに狙い目は魔法職だ。密集においての魔法なんて自滅行為なので警戒要員になっていた。そいつらを倒していけば残りはマルノミの追っかけだけだ。


 マルノミが大暴れしてるおかげか上への注意がなくなり、一人ずつ狩ることによって、味方が減っていることに気づかないものも少なくない。


 こちらも作業で飽き飽きするが経験値と生存ポイントがうまうまなのでやらないわけにはいかない。それにしてもマルノミは戦い慣れてると思う。βテスターといえばユッケとカルト、味噌汁ご飯とカレーがいたな。あと一人は知らないけど種族特性を理解してると思う。


 俺はまだ蜘蛛の良さを分かりきれてないのかも。まだまだ戦い方を探っていかないとな。あとそろそろMPが切れるな。初めてポーション使うけど、うまいのかな?まずいのかな?


 インベントリから取り出したMP回復ポーションを口につけ、勢い良く飲み干す。その間約3秒、量もプレイヤーによって変わるのか、すぐに飲み干せた。


 このポーションを一言で言うとエナジードリンク味だ。確かにエネルギーを得る飲み物といえばこれ!と言われるものだ。センブリ茶とかじゃなくてよかった。栄養といえば野菜ジュースか青汁を思い浮かべてた。


 MPは10しか回復していない。なぜかといえばもらった下級のポーションしか持っていないからだ。ちなみにあと4本しかない。大ピンチだからステータスをMPに極振りして回復させた。さっきの戦闘で1レベル上がっていたから、残りはプラス100で155MPだ。


 少なくともあと50人はいそうだ。リアルでいえば夕方頃だ。そりゃあ人も増えるよね。このまま長時間戦い続ければ負けると思う。なぜかといえば次から次へとおかわりが遠くからやって来ているからだ。


 そろそろ退却も考えるべきかと思っていると、突然横から衝撃が走る。食い込んだものによる痛みはあまり感じられないが、そちらに頭を向けると傷だらけのマルノミが俺を咥えていた。


 「っ!?ま、マルノミさん!?」


 「分が悪すぎる。一旦拠点に帰るわよ」


 「ジンさんは!?」


 「もう拠点に帰ったわ、あとは私と八雲だけよ」


 俺を咥えていたマルノミは木々の上を移動する。それほど遠くない場所に拠点はあるが、なにぶんPHが追いかけてきてるから、拠点の位置を割り出されないように帰る必要がある。


 「ちょっと牽制を頼むわ」


 「任せてください」


 拠点への魔法陣の上で少し待機する必要があるため、時間稼ぎをする。新しく覚えた魔糸を使う。両前脚をクロスさせて先から風属性の極細極硬糸を飛ばす。


 風属性はどうやら見えない糸だったらしくPHは無反応だった。出した魔糸は一通り首を囲ったら先端を繋げ、勢い良く両前脚を広げる。それにより一瞬にして首が飛んでいった。


 「マルノミさん行きましょ」


 「あ、うん、そうね…」


 勿体ないと思いつつも死ぬよりも幾分かマシなので撤退した。マルノミの眼が死んだ魚の目をしていたのだが、なにかおかしなところがあったのだろうか?


 拠点に戻るとジンはそこら辺をトコトコと歩いているが、配下の烏はフウマ達と仲良くおねんねしていた。それに和みつつ、生存ポイントとアイテムを預けておいた。


 こちらに気が付いたジンが羽ばたきながら近づいてきた。


 「無事だったんすね!」


 「ええ、俺はほとんど無傷ですけど…マルノミさんが…」


 「これくらい平気よ。それよりもあそこの拠点が使えなくなったわね」


 「そうですね…俺はあの辺りに拠点を持ってないので近道は難しいですね…」


 「私も持ってないわね…」


 「あの…僕持ってるっすよ!」


 「あら?ジンもしかして新しくつくったの?」


 「はいっす!逃げるときにあの拠点が使える状態じゃなかったから、新しくつくったっす!」


 「あら、ジンはいい子ね」


 「それは助かるな」


 思ってもみなかったジンのファインプレーによって助かった。場所はわからないが、着地できるどこかだろう。何気にキョテントは地面もしくは物の上じゃないと設置できない。だから高くともあの辺だと木の上しかない。


 今のところすぐにその拠点から出ることはしない。なぜならいくら質がこちらの方が高くともPHの数は鰻登りで増援が駆け付けているし、なによりマルノミはHPが、俺はMPが残り少ない。


 心細いなか特攻なんてまずできない。なのでそれぞれの拠点で休憩と一時的なログアウトを行うことにした。具体的には現在ゲーム内時間では1時頃でリアルでは18時頃だ。フウマ達が起きるのが早くともゲーム内時間で5時頃なので19時に再ログインすれば間に合うだろうとのことだ。


 ということなのでささやかな休憩をしにログアウトした。




《主人公のステータス》

名前:八雲(ヤクモ)

種族:中蜘蛛(ミドルスパイダー)

性別:男

称号:【ヴェルダンの縄張り主】【格上殺し(ジャイアントキリング)】【森賢熊(フォレストベア)討伐者】【エリアボスソロ討伐者】【蜘蛛母】【精霊(エレメント)守護者(ガーディアン)】【精霊樹の加護】【小悪鬼長(ゴブリンリーダー)討伐者】

二つ名:【???】【???】

配下:中蜘蛛(ミドルスパイダー)88匹

Lv:26(+2)

HP:282/300 MP:22/640(+10×10)

筋力:30  魔力:50

耐久:30  魔抗:40

速度:50  気力:32

器用:50  幸運:15

生存ポイント 所持:0(+12114+500-12614)P 貯蓄:34006(+12614)P

ステータスポイント:10(+10+10-10)JP

スキルポイント:45(+5+5)SP

固有スキル

【魔糸生成Lv2(+1)】【魔糸術Lv1】【糸渡りLv26(+1)】【糸細工Lv5】【毒術Lv8(+1)】

特殊スキル

【精霊視Lv2】

スキル

【繁殖Lv3】【夜目Lv20(+2)】【隠蔽Lv20(+2)】【気配感知Lv18(+2)】【魔力操作Lv29(+1)】【識別Lv10】【風魔法Lv5】【魔力感知Lv17(+1)】【思考回路Lv1】【投擲Lv8(+1)】【解体Lv12(+2)】【魔力上昇Lv6(+1)】【爪術Lv9(+1)】【水魔法Lv3】【土魔法Lv1】

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