第20話 列は壊していくスタイル
「カレー何したんだ?」
カレーの作った村が襲われる、これは自分が作った巣が襲われるのと同義に値する出来事だ。なぜPHに襲われなきゃいけないのだろうか。
「カレーの村はな、NPHの村を侵略して出来たんだ。だからPHが村奪還のために動くのは当たり前だな」
「そうか…あれ?もしかして俺の巣も精霊樹侵略したとか変な当て付けされて襲撃されちゃう?」
「どうだろうな、まず木を登らないと見つからないと思うが、木の下にも注意を張っとくべきだな」
「そっかぁ、お、帰ってきたか」
ユッケと話していると魔法陣から大勢の中蜘蛛がやって来た。その手には獲物があり、どれ程凄い魔物を狩ってきたのかと自慢している様だった。
「おー、すごいすごい」
新しく生まれた子蜘蛛達は嬉しそうに収納箱にしまっていった。フウマ達はそれを微笑ましく眺めていた。俺もそれを眺めた後、ユッケとの話を再開する。
「村が襲撃されてるから、PHを掃討するのに協力してってことか?」
「そういうことだな、出来れば今日からやってもらいたいがどうだ?」
「うーん、カレーには特に借りはないけど、俺の巣が襲われた時に助けて欲しいから協力するよ」
「ありがとな、助かるぜ。カレーの村は南の第二エリアにある。湖の半分を囲うようにできた村だ」
「南かぁ、遠いな」
「そこはフレンドの魔法陣を使えばどうってことないだろ?」
「そっかぁ、それがあったね。早速行こうか。その村に」
「じゃあ頼んだぞ、俺は先にPHを減らしてくるからな」
「あぁ、いってら」
ユッケを送り届けた後、フウマ達を集める。フウマ達は先程の話を聞いていたのか、ちょっと顔がキリッとしていた。この違いをわかるようになった俺はどうかしているのだろうか。
「さっきの話を聞いていたと思うが、俺達は今からカレーの村を助けに行く。ついてきてくれるか?」
そう言うとフウマ達は両前脚を掲げて雄叫びをあげる。フウマ達はついてきてくれるみたいだ。
「じゃあ戦いに備えて魔糸の木杭を作ってくれ」
フウマ達はお気に入りの敬礼をして準備にかかる。新しく生まれた子蜘蛛達もフウマ達に見習って敬礼した。それが愛おしく思える俺はやっぱり父性があるのだろう。
みんなが準備している間に腹ごしらえをしに外へ向かう。それに気付いたのか俺よりも強くなったフウマ達が着いてきた。さすがに勢揃いは過剰戦力なのでフウマ達四人とハクマとコクマについてきてもらうことにした。
他は着々と村防衛戦の準備に取りかかっているようだ。何匹かは外に枝を取りに行ったりしていたので、役割分担もしっかりと行えていることがわかる。
フウマ達は先導するように狩り場に案内してくれる。そこには何故か見覚えのあるお姉さんが曾孫蜘蛛達に御奉仕されながら寛いでいた。
こちらに気が付くと微笑みながら手を振ってきた。戸惑いつつもなんとかそれに応えて振り返すと、曾孫蜘蛛の頭を撫でていた。すると撫でられた曾孫蜘蛛は薄緑のオーラに包まれた。
どう見てもあれは精霊守護者の証とも言われるオーラだ。今も俺の体は薄緑に…?あれ?なんか曾孫蜘蛛よりも濃くないか?
急いでステータスを確認するとえらいことになっていた。
《主人公のステータス》
名前:八雲
種族:中蜘蛛
性別:男
称号:【ヴェルダンの縄張り主】【格上殺し】【森賢熊討伐者】【エリアボスソロ討伐者】【蜘蛛母】new【精霊守護者】【精霊樹の加護】new
配下:中蜘蛛88匹
Lv:20
HP:250/250 MP:500/500
筋力:24 魔力:46
耐久:25 魔抗:35
速度:42 気力:27
器用:42 幸運:15
生存ポイント 所持:0P 貯蓄:13312P
ステータスポイント:0JP
スキルポイント:65SP
固有スキル
【糸生成Lv29】【糸術Lv29】【糸渡りLv23】【糸細工Lv4】【毒術Lv4】
特殊スキル
【精霊視Lv1】new
スキル
【繁殖Lv3(+1)】【夜目Lv16】【隠蔽Lv16】【気配感知Lv14】【魔力操作Lv26】【識別Lv7】【風魔法Lv3】【魔力感知Lv13】【思考回路Lv1】【投擲Lv6】【解体Lv8】【魔力上昇Lv4】【爪術Lv6】【水魔法Lv1】【土魔法Lv1】
まず最初に注目すべきは配下だ。全配下が進化済みである。やろうとしたけど、早すぎる。というかパワーレベリング感が強い。けど数の暴力でなんとかなるのが肝だよな。
次に称号だ。新たに【蜘蛛母】と【精霊樹の加護】があった。【蜘蛛母】はもはや意味がわからない。俺は男だ。ここは父だろ、父性があるんだから父でしょ。
【精霊樹の加護】はきっとなんやかんや俺を含めた一家が精霊樹の周りの魔物を駆除しているからだろう。しかもご丁寧に子蜘蛛達はあのお姉さんに御奉仕までしている。こうなってくると褒美が称号だけじゃあ足りないと加護までくれたのだ。
嬉しい、嬉しいのだが、なんとも言えない突っ掛かりが心にあった。そもそも巣を作ったのは精霊樹が一番高く見晴らしがよかっただけだし、ついやっちまった感で巣を大きくした。だから守ろうとして守っている訳じゃない。
それなのにこの対応。心が荒んでくるぜ。今度からちゃんと曾孫蜘蛛と同じように御奉仕しようかな。
最後に特殊スキル、【精霊視】って何?ということで称号含めて識別してみた。
【蜘蛛母】
50匹以上の子蜘蛛を授かり育て、自然の恵みのような母性愛を持った者に与えられる称号。この称号を持つと指揮が安定し、ほとんどの子蜘蛛が言うことを聞いてくれる。
子蜘蛛は称号者に尊敬し愛し、時には恐れる。それほどまでに信頼している。※ただし蜘蛛に限る。
《********》解放!
絶対服従ってわけじゃなく、大好きなママンには逆らえないぜってことかな。嫌われることはしたくない、でも構って欲しいからいたずらしちゃう!そんな感じか。コクマとハクマのことだな。
識別で見ることのできない項目が解放されたが、よくわからないけどこの称号からの解放とか嫌な予感しかしない。スキルじゃないところが気になるがあとで確認すれば意外とわかるかもしれんな。
【精霊樹の加護】
精霊に気に入られた者に精霊樹が贈る加護。これにより【精霊視】を獲得し、特殊スキル【精霊言語】【精霊魔法】【精霊契約】【精霊召喚】がスキル取得可能一覧に表示されるようになった。
精霊樹に気に入られる…?ってことはこの樹は生きているということか。てっきりこの樹から美味しい果実やら蜜が出てきてそれを精霊が好んで食べているから、守ってるのかと思ってた。生存ポイントでいい肥料とか見つけたら根元に埋めとこ。
【特殊スキル】
ある一定の条件をクリアした者のみが取得できるスキル。固有スキルはキャラメイク時又は進化時に30SPを支払って取得するのに対して、特殊スキルは最初に取得したスキルのスキルレベルが一定以上を越えると取得可能になる。ちなみに20SP支払って取得する。
固有スキルと違う点は条件付けがされているかどうかだな。いずれ取得できるけど、育てないと取れないのか。
【精霊視】
精霊の気配を感じられるようになった。スキルレベルが上がるごとに感じる気配が濃くなっていく。
視、だけど見えるんじゃなくて感じるんだね。「見るんじゃない!感じるんだ!」みたいなことか。なるほど、わからん。もしやこのなんとなくもやっとするのが精霊なのかな?
色々問題は増えたけど、まずは腹ごしらえをしなくちゃね。ご飯がない訳じゃないけど、ついでに2日空けた分の経験値を稼ぎたいとも思ってる。だからセキマとショウマが呼びに来るまでは狩りに集中する。
「やるか!」
気合いを入れてもがき苦しんでいる森賢鷹に『水槍』を撃つ。これで巣はあまり破損しないし、森への水やりにもなって一石二鳥だ。ダジャレなんて言ってない。いや、気付かないよな、ごめん。さすがに1度では死なないので何度も放つ。
それからピクピクしたら爪を使って殴り付ける。これで色々なスキルレベルが上がっていく。解体も上げとかないと美食にはたどり着けないので解体は自分で行う。
害獣駆除をしている気分になりながら獲物を狩り続ける。当初の目的は腹ごしらえだったが、巣に張り付く魔物が気になったから狩り続けた、後悔はしていない。
ちょうど狩り終わった頃に、セキマとショウマに呼ばれたので拠点に撤収する。もちろん精霊のお姉さんに挨拶してからだ。むっとしていたのに気が付いたので、精霊樹にも挨拶すると、いつも通りにこにこし出した。どうやらこれが正解らしい。
腹ごしらえもできて戦闘準備もできたので、全員のステータスを割り振って心を落ち着かせる。荷物の再確認を済ませた順番に広場に集合した。
「これから俺達は初めて"人"という存在と遭遇し、争うことになる。俺達には友がいる。その友は大事な"巣"と"家族"を守るために戦っている!だからこそ、俺達は同じ"巣"と"家族"を守護する者として戦おう!」
そう言うとちょっと恥ずかしい思いもあったが、フウマ達は両前脚を掲げて応えてくれた。フウマ達の優しさに感謝だな。カルトなら黒歴史として触れ回りそう。あとユッケは思い出し笑いする度にからかってきそう。
「いざ、出陣!」
雰囲気は大切。という思いがうっすらとあったので、行き先を決めたあとには決め台詞を言ってみた。それに呼応して楽しそうに魔法陣に入っていくフウマ達は遠足のバスに乗る幼稚園児。なんとも和む。
行き先は誰が設定したのかわからないが、南のエリアボス前だ。今の時間は昼過ぎでちょうどPHがレベル上げをしていると思われる時間帯だ。
もしかしたらPHと遭遇するかもしれないが、どうせ戦うのなら先に数を減らすことも悪くない。生存ポイントも合計3万近くあるので、一人300回はリスポーン可能だ。そんなことしたくないが、戦争なら仕方ないと割り切るしかない。
魔法陣から出た先は木の上だったが、そこから見えるのは、人、人、人だ。この長蛇の列はこれからボス戦に挑むPHの群れなのだろうか。それにしても多すぎる。これが日常なら街に籠って人がいない時間を狙ってボス戦に向かうわ。
これもカレーの村関連によって生まれた現象なのだろうか。この列に並ぶのは不可能だが、それ以上にここを通る以外にカレーの救援に向かうことは出来ない。
ならばやることは1つだけ。殲滅だ。すでに何人かは気付いて武器を構えている。それでも何匹いるかなんてわからないだろう。
「まずは6手に分かれる。ハクマとコクマ、その子蜘蛛達は俺と一緒に待機。セキマとショウマ、その子蜘蛛達はここ以外に敵がいないか偵察してきてくれ」
敬礼してセキマとショウマはその場を離れていった。それに追随するように離れていく孫蜘蛛達は連携がとれていることがみてとれる。
「次にフウマ、スイマ、エンマ、ドーマとその子蜘蛛達はフウマ達にそれぞれついていってくれ。フウマは北、スイマは東、エンマは南、ドーマは西に向かい、敵がいないとこまでいったら反転して敵を駆逐してくれ」
フウマ達は敬礼して四方に散っていった。この時に攻撃される恐れについてはあまり考えていない。弓矢ならよっぽど命中力が高くなければ木々の隙間を縫えないし、魔法ならチュートリアルを必死に受けてないから、ゴミ火力にゴミスピードだ。
「じゃあ俺達はここに巣を張ろうか」
今回も急ピッチで巣を作るため、美しい模様の巣なんてものは作らない。通れたらいいと思っている。下の方ではがやがやと騒いでいるが何事もないのは余裕があるとみていいのだろうか。
「みんな、下に石を落とそう。沢山当てた人が優勝だ!」
これにはいたずら好きのハクマやコクマだけでなく、その子供達まで楽しそうにしていた。血は争えないってことか。各々はインベントリに入れている石を取り出した。中には何か欲しそうな目で見てくる子がいた。
「何が欲しいの?石?違う。あ、スキル?当たり?」
確かに投擲スキルがないと不公平だ。全員に覚えさせよう。これならスキルレベル以外の不公平はないだろう。スキルを手に入れたら始まるのは投擲大会。
やはり強いのは筋力を上げている孫蜘蛛だな。さすがはいたずら好き、石に糸を巻いたり毒を塗りつけたりしてる。果たして何人残っているのだろうか。




