表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

160/168

第147話 飲むカレー、食べるライス

 筋肉質な身体から大気を揺るがすほどの煙を噴出し、愛らしいとは程遠い鋭い眼がこちらを睨みつける。マグマに食われたわけでもなく、成り代わったわけでもない。おそらく共存した上で互いに進化したのだろう。


 モグラが手を振りかざす。長距離にいるにも関わらず、背中がゾワッとする感覚に襲われる。バッと後ろを振り向くと、グツグツと沸騰しながら接近するマグマの触手。


 マルノミの尻尾が風圧で弾き飛ばす。しかし、前とは違い、その場で再生して再度襲いかかってきた。舌打ちをするマルノミ。ぐるっと尻尾で俺の身体を巻き取ると、天井に投げ飛ばした。


 咄嗟に避けることもできず、チカラの限り天井を崩落させながら叩きつけられる。さっきの仕返しにしても派手すぎる。崩落した岩は眼下にいたモグラに降り注ぐ。


 この攻撃ならば多少のダメージが与えられると踏んでいたマルノミだったが、マグマの傘がそれを邪魔する。単純なの同じ攻撃、同じ守りを貫いていたマグマ。それが知恵がついたような動きをする。


「これは……まずいわね」


 さすがのマルノミも平静を保てずにいた。マルノミに手があったなら、親指の爪を噛んでいたはずだ。蛇頭では分かりづらい感情だ。


 マルノミの行動からある程度学びを得た俺は、魔糸の槍を生成して土属性を纏わせる。ゴツゴツとした岩の槍なら、簡単に溶かされることはないだろう。


 別の手で砕けた石を握りしめ、風属性を纏わせ、投擲した。風を纏った石はマグマの影響からほんの少し逃れ、マグマの鎧に風穴を開けた。


 窪んだ鎧を集中して狙うと、モグラの注意がこちらに向いた。マルノミはタゲが外れたことに気づき、すぐさま移動を開始した。風の揺らぎでマルノミが移動したことに気付いたモグラが再度マルノミに攻撃を仕掛ける。


「そんな攻撃、当たらないわ!」


 マグマの触手による連撃がマルノミの胴体を捕らえようと猛威をふるったが、そのどれもマルノミの巧みな身体制御によってスルリと回避されてしまった。


 モグラの攻撃からして、さっきまでは二体だったが、今は合体して一体になっているのだろう。


 融合というものだろうか。この現象は初めて見るものだったが、必ずしも不利になるものではない。


 連発した石による攻撃によってマグマの鎧が剥がれた。


「今だ!」


 はだけた体表に向かって投擲した岩の槍は加速を併用して正確に突き刺さった。血吹雪が吹き出し、殻にこもるようにモグラがマグマの盾を形成していく。


 苦渋の顔をするモグラにさらに追撃を加えていく。風はマグマすら吹き飛ばす。マグマの盾すらも剥がれ、再生する前に投擲した槍は容易にモグラの身体に傷をつけていく。


 このままマグマに頼り切りの戦法では、モグラを倒せるのも時間の問題だ。俺ばっかりに気を取られると、マルノミが牙をむく。


 マルノミは風も纏うこともせず、一直線に頭突きを繰り出していく。さずがの俺も驚愕し、モグラに至っては嘲笑っていた。しかし、物理的な攻撃はマグマがすべてを解決するという前提条件が一瞬で崩れる。


 マグマはマルノミを溶かすどころか、為す術もなく弾かれた。意表を突かれたモグラは、マルノミの頭突きによっていままで一歩も動かなかった不動の立ち位置から動かされた。


 俺よりも派手に飛ばされたモグラは洞窟の壁に打ち付けられた。ニヤリと笑うマルノミにゾッとする俺。マルノミがこちらを向くと俺はわぁ~っと愛想笑いで拍手する。


 懐疑的な目線を向けられても続けると、ふんっと笑うマルノミ。一方で壁に叩きつけられたモグラは怒りを顕にしていた。


 手を抜かれていた、手加減されていた、嘲笑われた。思考を巡らせ、侮辱されたことに気づくと、咆哮を上げて自身の士気をあげた。


 盲目の鼠とも言われたモグラが細い目を開眼すると血の涙が流れ始めた。自らの盲目さに悲しんでいるのか、はたまた自身の無力さに嘆いているのか。彼のモグラはその涙を流す両眼を自らの意思でえぐり取った。


 その眼をマグマに食わせ、再び暗闇に潜むように両目を閉じきった。その直後、背中からマグマが吹き出し、巨大な一つの塊を形成していく。それと同時に細長い尻尾にマグマを纏い出す。


 今までは遊びだったと言わんばかりに、洞窟空間の威圧感が増していく。モグラの尻尾から巨大な塊まで赤い線で繋がれていく。そして、塊は獣のような形へと姿を変えた。モグラが狼のような肉食動物と同じく巨大な顎を持った姿に変貌していく。


 その巨大なモグラの化け物には金色の瞳があった。それこそ、先程マグマが食らった眼球に酷似している。瞳は黄金に輝き、辺りをギョロギョロと観察し始める。まるでこの世界を初めて見たような。好奇心旺盛な視線があちこちを傍観する。


 化け物につながったモグラは一瞬にしてマグマに飲み込まれ、背中にはマグマの触手、周囲にマグマの玉を浮かべていた。モグラはモグラという存在からかけ離れた魔物になっていた。


 おそらく、互いの能力や特性を交換あるいは、共有することによって弱点をなくそうとしたのだろう。マグマとモグラの形態変化が終わると、モグラは俺のもとへ、マグマはマルノミに向かって攻撃を仕掛けてきた。


 速度が遅いはずだったマグマは、モグラに纏わり付くことによってその欠点をなくしていた。当たれば溶ける兵器が追尾して襲いかかってくる。怖くないわけがない。


 糸を物ともしない、紫電は蒸発するだけ。得意なチカラ任せの暴力は無意味。ならば、使い捨てのできる岩と風の魔糸槍で戦うしかない。後ろの腕で魔糸槍を生成し、すぐさま前の腕に持ち替え、土属性と風属性を左右別々に纏わせる。


 風の魔糸槍を先に投擲し、風穴が開けば、そこに岩の魔糸槍を投擲する。このとき、風穴が再生する前に攻撃を仕掛けるために、岩の魔糸槍には加速を施しておく。


 赤い糸で結ばれたモグラの再生力は、最初に比べて二倍以上になっている。再生が始まる反射速度も異常なほど上がっていた。再生力を凌駕するダメージを与えなくては、この戦いに勝利するのは難しい。


 モグラは自らの肉体を衝突させることで、俺を倒せることをわかっている。間合いを詰めることができるのなら、ある程度のダメージは許容し、甘んじて受け入れている。そのせいで、俺は攻撃に集中することができずにいる。


 攻撃に転じることができれば、おそらくは数の暴力での集中砲火でどうにかできるはずだ。それも徹底的にやるつもりだ。


 だが、モグラはその隙を与えてくれない。一方的に攻撃を与えるには、相手からの攻撃への対抗策が練り上げられていないといけない。しかし、今のモグラへの対抗策はこれといって確立されていない。


 なぜなら、短時間のうちに何度も形態変化したから。対抗策ができても、相手の姿カタチが変われば、攻撃スタイルが変わってしまう。


 千変万化のエリアボスに対抗するには、こちらにもそれなりの手数が必要だ。切り札は多いに越したことはない。もしくは奇抜な発想でこの盤石を逆転する一手を掴み取ることができれば、対局を一瞬のうちに支配することも可能だろう。


 それにはきっと、一人のチカラでは不可能なこともある。だけど、ここには俺以外にマルノミの存在がいる。互いを知らないからこそ、噛み合わない歯車を重ね合わせ、嵌めることができたなら、驚くほどスムーズに解決することもできるかもしれない。


「俺がすべきことは、モグラを圧倒することでも、逃げ切ることでもない。まずやることは、マルノミと共闘することだ!」


 奇抜な発想とその戦いこそ、ゲームの醍醐味であり、一味変わった楽しみ方のひとつでもある。


 天糸でモグラを包囲する。かすりでもしたら、一瞬で燃え尽きてしまう糸に、モグラの警戒は薄い。これは逃さないための檻ではない。これは視界を塞ぐだけの囮。


 それだけだと面白くない。糸に紫電が帯びる。燃えるだけだったものが、一瞬にして火種に変わる。触れあえば糸は爆散してしまう。


 モグラにはダメージがないのか?という結論はまだ出ていない。爆発が外に放出され、爆風にも巻き込まれず、すべてをマグマが飲み込むことができたなら、きっとダメージはないだろう。


 風はそのすべてを受け入れ、外へと受け流すことができる。優しい風が強固な結界になったなら。その内側にいたものは、爆風と爆発の衝撃をもろに受けることにならないだろうか。


「想像するのは巨大風船」


 天糸の包囲網の外側からさらに風魔法の風球(ウィンドボール)で覆う。風を圧縮して放つ魔法だが、使い方を変えれば、これも風の檻にするのとができる。


 圧縮していく風の檻に切り刻まれ、紫電の天糸が雪のようにモグラへと降り注ぐ。小さな爆発が断続的に引き起こる。風が圧縮していくたびに爆発の頻度が増えていく。


 爆風は閉じ込めようとするチカラに阻まれ、爆発がモグラへと襲いかかる。その場から退避しようとする行動を取るが、その隙を与えない。


 内側へのチカラが働く風球だが、外側へは一切漏れない。そこへ岩の魔糸槍を投擲すると、圧縮するチカラで瞬時に加速する。小爆発で、はだけたモグラにとってはその攻撃は脅威に値した。


 マグマの層を厚くして防御行動をとるモグラを見て、ダメージを与えられていることを確信する。


 マグマにはダメージという概念が存在しないが、モグラには物理的な身体が存在する。痛みがあり、恐怖がある。


 岩の魔糸槍を構える。それに風の魔糸を絡め、二属性を纏った強大なチカラを込めた槍を精錬する。投げることはせず、幾つも同じものをつくる。そうしてできた大量の槍を糸で操り、風の檻を包囲する。


 風球の中ではピクリとも動きができないモグラがいた。圧縮が完了し、マグマによる抵抗もできなくなっていた。ここに紫電を放てばすべては水の泡。


 風によってマグマを弾く岩の槍はすんなりとマグマの中を通過していく。恐怖がなんの抵抗もなく自らの身体に突き刺さる。槍が入り込んでいくと同時にマグマもまた、新たに生まれた隙間を埋めるように入っていく。


 まるで枯れた地面に染み込んでいく水のように。


 自らを守るべきマグマが身体の内側を灼き尽くされていく。かわいそう?いいや、これは仕方ないことだ。エリアボスという倒されるべくして生まれた存在になったのが運の尽きだ。


「ひと思いに殺せなくてごめんね」


 どの槍でモグラの命運が尽きるかなど、俺が予測できるものではない。全部刺しても爆発しない危機一髪なんてのも悪くない。針山のように串刺しになっていく。


 共闘するという目標を目指して描いていた奇抜の発想だったが、これが勝利への道になるとは考えていなかった。



 一方、その頃。


 マルノミとモグラの化け物は互いに一歩も譲らない戦いを繰り広げていた。決定打の出せないマルノミと攻撃が当たらないモグラの化け物。


 一向に勢いの止まらないモグラの化け物に対して、弱点を見つけられないマルノミは焦りを感じていた。


「こいつ、HPいくらあるのよ。このままじゃ、ジンと遊ぶ時間が……」


 この戦いはあくまでも通過点であり、終着点ではない。長丁場は望むものではない。負けたら、攻略を聞いてもいいけど、それじゃあつまらないし、なにより時間のロスが大きい。


「はやく、終わらせないと……八雲の方はどうかしら?」


 ふと仲間の様子を伺うマルノミ。するとそこには怪しげな赤い球に槍を突き刺す八雲の姿が。老婆の占い師に似たゾットするような怖さがそこにはあった。


 完全に無抵抗となった敵に対して徹底的に暴力を奮う姿にマルノミはあることを思い出す。掲示板で八雲が要注意人物としてあげられ、さらにはPH(人側プレイヤー)に「鬼畜」と裏で呼ばれ、子蜘蛛は「畜生」と呼ばれている。


 そう言われても仕方ない行動を取る八雲をそっと視線から外す。視線を戻すとモグラの化け物の様子がおかしいことに気づいた。


 モグラの死気を感じ取った|モグラの化け物《モグラの姿を得たマグマ》の姿が変化し始めた。身体が膨張し、八雲の方の球が急速に縮んでいくのが見えた。


 よく観察すると、球とモグラの化け物を繋ぐ赤い線が血管のように脈動していた。すべてを吸い取ると、狼のように大きな牙、穴を掘ることに特化した手。そして筋肉とワガママボディをあわせ持った巨体のモグラが生まれた。


 パワーアップしてるように見えたモグラだったが、マグマという特殊なチカラを主軸に置いていたからこそ苦戦していただけに、むしろ弱体化しているようにみえた。


 マルノミはパワーアップ中のモグラに尻尾を振りかざす。変身中に攻撃を加えないのは特撮ものと強制的に演出を見せて無敵状態にするゲームだけだ。


 無防備なモグラはボールのように吹き飛ばされると、八雲が紫電の魔糸槍を投擲する。回避不可の一撃は、モグラのマグマの鎧を容易に貫き、洞窟の壁に張り付ける。


 続けざまに投擲される槍はどれもが強力なチカラが込められた槍だ。標本にされた虫のように身動き一つできなくなったモグラからマグマが流れ落ち始めた。


 モグラの化け物の素体であるマグマがドロリと溶け出し、地面に潜って逃げようとする。注視するとマグマにキラリと光るものがあった。モグラが自らの手でえぐり出した黄金の瞳だ。


 どうやらあの瞳はこのマグマの核と呼べるものらしい。モグラの行為は別々の個体になるために必要な行動をしただけかもしれないが、そのおかげで今では弱体化した上、逃げるという選択肢をする哀れな存在になった。モグラ主体のままのほうが強いまであった。


 エリアボスなら堂々と闘いの中で死んでほしいものだ。とどめを刺そうと近づく八雲に対し、マルノミが割って入った。


「八雲、これは私がいただくわ」


「ん?お、おう?」


 逃さないという意味で受け取った八雲だったが、マルノミの行動にまたも驚きを受けることとなった。


 逃げようとするマグマに頭を近づけると、今までで一番ありえない行動をし始めた。マグマを食すという行為。殻に籠もろうとする貝をズルズルと吸って食べるような構図に言葉が出ない。


 食べられてる本人が一番驚きだろう。マグマなんて食べたところで、身体に風穴を開けるだけだ。それがどうだ、マグマ自身が恐怖を抱いている。


 マグマを丸呑みしたマルノミが「ごちそうさま」とつぶやくと同時にファンファーレが鳴り響いた。


 こうして奇天烈な発想で切り抜けた戦いが幕を閉じた。ただの通過点であるこの戦いで得たもののなかで一番の収穫は、極めれば『マグマは飲み物』にできる、ということだ。

タイトルはおふざけ。

更新遅いよ!と思った方。すいません。本当に仕事が忙しくて本当に時間ないです。夏休み?ないかもですね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ