第15話 深き森の激戦
熊さんの討伐が無事に終わり、深い森に入った。魔物のいなかった時の森は静かだったが、今では未知の森だ。鳥の声や獣の声があちこちから聞こえてくる。
「気を引き締めろよ。ここは第二エリアの中で一番魔物の数が多いからな」
「そんなに危険な場所だったのか。よかった、巣を完成しといて…」
「なんか言ったか?」
「いんや、何がいるのかなって」
「あぁここには森賢の名がつく魔物がいる。どいつもこいつもでかい上に強い。特に注意しないといけないのは森賢猪と森賢狼だ」
「あれのことか?」
此方を涎を垂らしながら見ている狼がいた。その姿勢は低く、今にも飛びかかろうとしている。
「そうそうあいつ…だ!?ってやばい!臨戦態勢だ!」
驚いたユッケに滑空するように走ってくる森賢狼が目前まで迫ってきていた。
「や、やべっ…」
「どらぁっ!」
野太いかけ声とともに森賢狼が横腹を殴られる。身体を捻って体勢を立て直し、距離をとった。味噌汁ご飯はいつもの大きさとは違い、明らかに1回り大きくなったとは言えないほど肥大していた。それも約10倍ほどだ。
「ボケっとしない!来るわよ!」
「グルゥゥゥウウウッ!」
「『土礫』」
威嚇のうなり声をする森賢狼にミントが魔法で応対する。警戒の強かった森賢狼は軽々と避けて迫ってきた。
「フウマとスイマとエンマ、ドーマはあの森賢狼の動きを止めろ!」
フウマ達は木を登って安全圏から糸を飛ばす。うっとおしそうに避ける森賢狼にすかさず、ミントが魔法を撃つ。
「『土礫』」
「グゥっ…グラァァァァアアアアッ!」
正面から魔法を受けた森賢狼はイラつきからミントに威圧する。それでもお構い無しにフウマ達は糸を飛ばす。奴等はルカさんに怒られて威圧にも慣れているのだ。
「ハクマとコクマは増援を警戒、フウマ達は続けて動きを止めろ。ミドウ達はミントさんの援護だ」
「グルッ!」
威圧空しく糸を張り付けた森賢狼だったが、森賢狼は身体を緑色のオーラに包み、強い風を起こして糸を吹き飛ばした。
「おい、ユッケ。ここの奴等は魔法を使うのか!?」
「あぁ、魔法特化はいねぇが、数回魔法を使ってくるぞ」
大半の糸を飛ばした森賢狼は魔法を撃つミントを狙う。味噌汁ご飯が牽制することによって近づくことができない。攻め倦ねた森賢狼は単独でうろちょろしてるユッケに狙いをつける。
「そっちいったぞ!」
「あぁ、わかってる。『風脚』」
ユッケは緑色のオーラを両脚に纏わせて風を起こし、駆け抜ける。先程まで森賢狼の方が速度が速かったが、今ではユッケの方が少しだけ速い。
「グラァッ!」
ユッケの横腹に噛みつこうとするが、速さで勝っているユッケは避け、カウンターで頭を殴る。仰け反った森賢狼に対してユッケは口から魔法を放つ。
「『風球』」
吹き飛んで倒れた森賢狼に糸をフウマ達が放つ。それに気付いて暴れた森賢狼だったが、すぐに拘束された。
「グルゥ」
近付くと噛みつかれそうだったので、遠くから魔法を叩き込む。俺とユッケとミントさんで合図をして魔法を撃つ。
「「「『風球』」」」
森賢狼は三方向から飛んできた魔法から逃げれず、そのまま倒れた。ユッケが解体して休憩する。
「ふぅ…なぁ、ユッケ。森賢熊よりも強くなかったか?」
「お前の糸の拘束力がおかしいだけで、森賢熊の方が強えーよ」
「そうよぉ、森賢熊は暴れたら手がつけられないくらい激しいんだから」
「あ、はい。そうっすか。木の上とこのまま進むのどっちの方が安全なのかな?」
「このまま行く方が安全ね、それにユッケには無理な移動方法よ」
「そうだった…おい、ちょっと飛んでみろよ」
「カツアゲか?じゃなくても無理だぞ」
「そっかぁ、木の上まで魔物いるの?」
「あぁ、木の上にいるのは森賢鷲と森賢燕だな。他にもいるらしいが知らんな」
「私が知ってるのは森賢梟ね。いつもは大人しいのに、お腹が空いたら見た目に反して獰猛になるのよ。あのときは激しかったわぁ…」
「襲われたんですね、把握」
「そうなのよぉ。だからぁ木の上はだめなのよ。まぁ…地面の方も木を刈りすぎてできた日の当たりの良い場所も魔物が群れてきたこともあるのよね…」
まとめたらどこにいてもこの森は危ないってことだね。あと時々下ネタに走ろうとするのは味噌汁ご飯の悪い癖だな。ミントさんがあわあわするのは可愛いが、ここにいるのは健全な男子二人と気絶系女子の三人だ。
反応に困る言動は控えてもらわないと、段々味噌汁ご飯の扱いが悪くなってくるぞ。言わないけど。木の上は鳥がいっぱいで危ないか…あっちの巣はどうなってるのかな?
「やっぱりレベル差があると厳しいな…」
「ここの適正っていくつなんだ?」
「15レベルだが、これは戦えるレベルだな。現実的にほしいレベルは18レベだな」
「森賢狼はいくつ?」
「大体14~20レベだな。ここら辺だと14~16ほどだが、それでも強いことには変わりない」
「12レベの俺って無謀じゃない?」
「レベルひっく!」
「俺にはフウマ達という子供がいるんだ数を合わせれば16レベくらいだろ」
「それでも低いわ…もっと積極的に魔物を狩っていかないと、精霊樹付近がきついぞ。あそこがこの森で一番危険なエリアだからな」
MPが回復するまで休憩をとり、一人一人一旦ログアウトしてトイレ休憩を挟む。ログアウト時にロビーにてルカさんに遭遇したが、できるだけ拠点でログアウトするようにと注意された。拠点での安全なログインとは違い、フィールドでのログインは突然魔物に襲われる可能性が高いとのことだ。
ゲーム内時間で今日中に精霊樹に着いておきたいので、魔物が来たらできるだけはやく討伐しなければならない。休憩中に策を練っておいた。
俺達とミントさんが遊撃、ユッケと味噌汁ご飯が近接だな。タンクとかそんな人は拠点で円陣組んでたからいない。本当に惜しい人を亡くした。
「さぁ、いくわよ」
「おー」
精霊樹に向けて出発した。今回は速度を考えてユッケの上にミントと味噌汁ご飯が乗って、俺達蜘蛛の衆は木々をターザンしながら移動していく。わりとフウマ達が楽しそうだったので良かった。
「いたわ、森賢鹿の群れよ」
「八雲、先に向かって逃げ場を無くしてくれ。奴等の魔法は角を強化するものしかないが強力だ。危険を察知して逃げることもあるが、格下である俺達のことは侮ってくる。追い詰められたらさすがに逃げるが、それを防ぐための予防策として糸で覆ってくれ」
「りょーかい。ハクマとコクマ、ミドウ達は俺に着いてきてくれ。フウマ達は反対側から糸で包囲網をつくってくれ」
お気に入りの敬礼をして答えたフウマ達が移動したので、俺達も移動する。その間に魔物が遭遇することはなかったが、会ったら逃げるが勝ちよと言わんばかりに逃げるがな。
フウマ達と合流したので元の場所に戻る。フウマ達とミドウ達にはこっちに残ってもらう。逃げてきた森賢鹿に糸を飛ばして牽制するためだ。フウマ達は自分の子供と組んでもらう。ハクマとコクマは俺について、森賢鹿倒しに参加だ。
ユッケ達は木々に隠れて森賢鹿を観察していた。その間に逃げ出したものはいなかった。
「あいつらはこっちに気が付いてるみたいだ。何匹かこちらを眺めてるやつがいる。味噌汁ご飯には森賢鹿が逃げないように待機してもらう」
「いいわよん」
「ミントさんと俺は魔法で森賢鹿に攻撃な。八雲達には糸を飛ばして奴等をできるだけ拘束してくれ」
「わ、わかりました」
「わかった。角で弾かれないように脚か身体を狙えばいいんだな?」
「そうだな。それが手っ取り早いな。あと魔糸の木杭も投げてくれるか?あれはなかなかにダメージを与えてくれる」
「いいぞ」
ユッケとミントはいち早く森賢鹿に向かうと魔法を放つ。質よりも量と言わんばかりに撃ち続ける。質は変わらないが、魔力切れは起こすだろう。それでも数十発は撃てるだろう。
ユッケとミントが魔法を撃ってる間は森賢鹿の動きが鈍い。角による防御で魔法を無力化しているが、それをしている間は動けないのか、その場に止まっている。
包囲しているフウマ達が邪魔をしているのは確かだ。何匹かの森賢鹿はこちらとは別方向を向いている。つまりはフウマ達が仕掛け続けているのだ。防げていれば逃げられたかもしれないが、すでに包囲網が完成しているのだ、彼らはもう逃げられない。
「コクマとハクマは山なりに糸を飛ばしてくれ」
山なりに糸を飛ばさせるのには理由がある。今から脚を狙った投擲を行うのに、下へと注意が向いていれば必ず魔糸の木杭は防がれる。だが、上に注意が向かっていれば、容易に魔糸の木杭を当てることが可能だ。
コクマとハクマは両前脚で丸をつくると斜め上に向けて糸を飛ばす。森賢鹿の頭上を飛んで行くが、勢いが落ちて降りかかっていく。それをうっとおしそうに身体を震わせて落とそうとするが、落ちることはない。
注意が他に向いてる間に胴体や脚に向けて魔糸の木杭を投擲する。あとは一方的な作業だ。機動力の失った森賢鹿は角で防御することしかできず、魔糸の木杭を防げば糸で拘束力が高まり、魔法を防げば魔糸の木杭が突き刺さる。
途中から味噌汁ご飯も魔糸の木杭の投擲に参加して、全部投げ終えた。その時には森賢鹿の息は荒く、数匹は事切れていた。
「終幕といきましょうか」
「八雲と味噌汁ご飯も魔法を撃ってくれ」
「りょーかい」
「わかったわ」
あとは残りの森賢鹿を狩って終わった。森賢鹿の数は8匹いた。それも17レベのものまでいた強い群れだったが、俺達の作戦勝ちだった。森賢鹿を解体するとフウマ達が戻ってきた。
さすがにMPもやばいので、もう一度休憩だ。その間にステータスを振り分ける。今の戦闘で皆レベルが上がったようで、独り言を呟いていた。
《主人公のステータス》
名前:八雲
種族:小蜘蛛
性別:男
称号:【ヴェルダンの縄張り主】【格上殺し】【森賢熊討伐者】【エリアボスソロ討伐者】【蜘蛛主】
配下:小蜘蛛4匹,小蜘蛛6匹
Lv:15(+3)《進化可能》
HP:250/250 MP:350/350(+10×10)
筋力:17(+2) 魔力:36(+5)
耐久:16(+3) 魔抗:27(+5)
速度:31(+3) 気力:20
器用:33(+2) 幸運:10
生存ポイント 所持:2480P(+1980) 貯蓄:3073P
ステータスポイント:0(+30-30)JP
スキルポイント:60SP(+15)
固有スキル
【糸生成Lv26(+3)】【糸術Lv26(+3)】【糸渡りLv20(+1)】【糸細工Lv4】
スキル
【繁殖Lv2】【夜目Lv14(+2)】【隠蔽Lv14(+2)】【気配感知Lv12(+2)】【魔力操作Lv23(+2)】【識別Lv7】【風魔法Lv3】【魔力感知Lv10(+1)】【思考回路Lv1】【投擲Lv4(+2)】【解体Lv5】【魔力上昇Lv2(+1)】【爪術Lv3】
《演技派の子蜘蛛のステータス》
名前:風魔、水魔、炎魔、土魔
種族:小蜘蛛
主君:八雲
配下:魅風,魅水,魅炎,魅土
Lv:15(+2)《進化可能》
HP:200/200 MP:500/500(+10×10)
筋力:17 魔力:33(+3)
耐久:17 魔抗:24(+2)
速度:19 気力:20
器用:25 幸運:10
ステータスポイント:0JP(-20)
スキルポイント:50SP(+10)
固有スキル
【糸生成Lv16(+3)】【糸術Lv12(+2)】【糸渡りLv14(+2)】【糸細工Lv1】
スキル
【繁殖Lv1】【採取Lv5(+1)】【夜目Lv8(+1)】【隠蔽Lv9(+1)】【気配感知Lv9(+2)】【魔力操作Lv12(+2)】【魔力感知Lv4(+1)】【思考回路Lv1】【風魔法Lv1,水魔法Lv1,火魔法Lv1,土魔法Lv1】【裁縫Lv4,調合Lv1,鍛冶Lv1,細工Lv1】【解体Lv6】【魔力上昇Lv2(+1)】【爪術Lv4】
※4匹のステータスに違いはあるが、とりあえずは同じようなものとします。
《甘えん坊の子蜘蛛のステータス》
名前:黒魔,白魔
種族:小蜘蛛
主君:八雲
Lv:13(+3)
HP:210/210 MP:280/280
筋力:16(+2) 魔力:28(+5)
耐久:20(+3) 魔抗:23(+5)
速度:30(+10) 気力:17
器用:27(+5) 幸運:10
ステータスポイント:0JP(-30)
スキルポイント:30SP(+15)
固有スキル
【糸生成Lv11(+2)】【糸術Lv9(+2)】【糸渡りLv9(+2)】【糸細工Lv1】
スキル
【繁殖Lv1】【採掘Lv4】【夜目Lv5(+2)】【隠蔽Lv5(+1)】【気配感知Lv3(+2)】【魔力操作Lv6(+2)】【魔力感知Lv6(+2)】【思考回路Lv1】【闇魔法Lv1,光魔法Lv1】【解体Lv4】【魔力上昇Lv2(+1)】【速度上昇Lv2(+1)】【爪術Lv3(+2)】
《孫蜘蛛のステータス》
名前:魅風,魅水,魅炎,魅土
種族:小蜘蛛
主君:八雲
Lv:13(+3)
HP:400/400(+10×10) MP:200/200
筋力:32(+5) 魔力:12
耐久:30(+5) 魔抗:11
速度:30(+5) 気力:11
器用:29(+5) 幸運: 5
ステータスポイント:0JP(-30)
スキルポイント:40SP(+15)
固有スキル
【糸生成Lv5(+1)】【糸術Lv5(+1)】【糸渡りLv6(+1)】【糸細工Lv1】
スキル
【繁殖Lv1】【採掘Lv5】【夜目Lv6(+2)】【隠蔽Lv2(+1)】【気配感知Lv4(+1)】【魔力操作Lv5(+1)】【魔力感知Lv1】【思考回路Lv1】【風魔法Lv1,水魔法Lv1,火魔法Lv1,土魔法Lv1】【裁縫Lv1,調合Lv1,鍛冶Lv1,細工Lv1】【筋力上昇Lv3】【爪術Lv4】
次回は進化ですね。
熱中症に気を付けて水分補給したり、気分が悪くなったら日陰で休みましょう。
冷房を何℃にすればいいのか悩み、28℃にしたら寒く、挙げ句の果てに30℃に設定。
もはや外と変わらない温度設定に意味があるのだろうか。




