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第145話 危機一髪

 まだ夜が明けていない時間に来てしまった。腕に捕まるあどけない二人の少年少女。無理に振り払うことはせず、ゆっくりと離れると、なんだか寂しそうにする。


 抜け出していくにしても、ぽっかりと空いた穴を埋めるにはもう一度、そこに入るしかない。けれど俺もやらないといけないことがある。


「ごめん、ハクマ。代わりにコクマと寝てて」


 糸でコクマとハクマを互いに引き寄せ、ひとり(うずくま)る手のひらを繋ぎとめる。二人の頭を起きないように優しく撫でてその場を去る。


 本当は誰かを連れて行きたかったが、ゲーム専用SNSのフリークスでジンからメッセージが届いた。他に一緒に行きたい人がいるらしく、この時間でないと遊べないんだそうだ。


 おそらく明日なにかしらの用事があり、早く寝ないといけないのだろう。


 広場に移動すると、そこにはすでに今日のメンバーが集まっていた。


「すまんな、俺の都合で」


 アーガスがいた。急遽メンバーに加わった一人だ。辺りを見回してみると、その代わり、カレー炒飯がいなかった。


「カレー炒飯は?」


「カルトに捕まった」


 予想してたことだが、なんだか申し訳ない。今度、カルトの闘技場を使うときは壊さないように気をつけないと。カレー炒飯にまで迷惑をかけるのはなんだか忍びない。


 アーガスとゲーム談義に花を咲かせていると、ジンがガーネットとヒスイを連れて現れた。


「急かしてしまってごめんっす!」


 ジンは俺を見て焦った顔をしていたが、気にするほどのことじゃない。子蜘蛛たちを連れてこれなかったのは残念だったが、フレンドと遊べる機会のほうが少ないから、今日は楽しみにしている。


 集まったメンバーは、計十人。俺、鴉天魔(レイヴン)のジン、竜人のアーガス、蛇のマルノミ、鹿のメルドア、豚のたかしくん、ジンの配下のガーネット、ヒスイ。それからメルドアと同化してる精霊樹と精霊。


 明らか進化してるけど、種族については明らかになっていないところがある。竜人のアーガスは前見たときより筋肉ムキムキで竜の頭をしたゴリラと言われても違和感がない。


 蛇のマルノミは蛇を超越した龍のように黒光りした鱗と角が生えていた。今は小さくなっているが、本来の大きさはおそらく昨日戦った災厄の竜よりも巨大かもしれない。


 鹿のメルドアは鹿というよりも幻獣の麒麟にしか見えない。神々しい体表の紋様に猛々しい角。背中には同化した精霊樹。さらに精霊特有のオーラのようなものを纏っている。


 豚のたかしくんは黄金の豚になっていた。霜降りが引き締まったとてつもなく美味しそうな肉をドロップしそうに見える。今日も眠そうだが、戦闘に参加するのだろうか。


 ここまで集まると神々の集いみたいだ。俺も強くなった気がしていたんだが、この集団の中ではちっぽけな存在かもしれない。


「出発するっす!」


 ジンの合図で移動を始める。広場を出る途中、脱獄したカレー炒飯がチラついた。「おまたせ」という声が聞こえた瞬間、骨の大群が押し寄せ、カレー炒飯を飲み込んだ。


 そして、「イヤァァァァ」という甲高い声とともに骨の大群はどこかへ行ってしまった。


 アーガスは目頭を押さえ、「惜しいやつをなくした」といい、マルノミは「馬鹿ね、逃げられるわけないじゃない」と遠い目をていた。


 カルトはみんなのトラウマになっているのかもしれない。カルトにもそういう相手がいれば、対抗できそうだけど。あぁ、そうか、俺か。


 最初に訪れたのは、第二東エリアだ。ここでは火花草を採取していくそうだ。火花草は味噌汁ご飯の爆弾の原料として知られているが、採掘速度を上昇することのできるアイテムだそうだ。


 ただし、採取する難易度が高く、特殊な方法以外で取れないのだそうだ。その方法はスライムボディで優しく包み込むか、水属性のなにかしらで可燃性を鎮圧して取る方法だ。


 そこで俺の出番とのこと。糸は燃えやすいが水属性の魔糸ならば、簡単に取ることができる。みんな一応、水属性の魔糸がついた釣り竿は持ってきているが、俺がいるなら、もっと簡単では?という結論になった。


 みんなで火花草の群生地を探していると、声が聞こえてきた。


「こちら、火花草で爆発危機一髪のバンジージャンプアトラクションやってます!ぜひ、一度、チャレンジしてみてください!」


 鬼人のスタッフが掛け声をあげていた。俺たちを見て一礼して、ぱぁっと明るくなる。そんな顔されても行きません。しょんぼりするかと思ったら、「怖いんですか?」なんて煽り顔をしてきた。


 無視だ無視だと通り過ぎていくと、俺たちの後ろから誰かがやってきた。振り返るとそこには、レベルの低そうな冒険者風のカップルがいた。


 もしや、挑戦するのか?という面白がる気持ちから、足を止めた。


「ねぇ、あれやってみない?」という彼女の一言が聞こえ、ここで逃げたら男が廃るとでも考えたのか、腕を組まれた男が食い気味に、「やります!」と宣言していた。


 楽しみな展開に俺たちも固唾を呑む。


 鬼人たちは「安全のためにこの蜘蛛糸で編み込んだ安全着を着ていただきます」と言って、よく燃えそうな装備をつけた。


 不安げな顔をする男性に鬼人は、「大丈夫ですよ、これをつけていれば、フォレストベアの攻撃だって耐えられますよ」と謳い文句のように言っていた。


 確かにあの装備ならフォレストベアの攻撃は耐えられるかもしれない。あいつは物理的に攻撃するだけで火属性の攻撃はしてこないからな。


 その言葉に「なら、大丈夫か」と安心していた。その安心が役立つのは飛ぶ寸前までということに彼はいつ気づくだろうか。


 彼女の方もホッとしている様子。死地に送り込んだくせにその態度は何だ。どういう心境なんだ。


 俺たちはソワソワすると同時にワクワクしていた。こういうアトラクション系は乗っていなくても当事者のように緊張してしまうことがある。どうも、俺たちは爆発することに期待しているかもしれない。


 爆発することも考え、俺たちはせっせと防御壁をつくった。爆発が崖上のここまで広がる可能性があった。


 よく見ると薄着に見えた鬼人の装備もまるでエリアボス戦に今から向かいます!くらいの気合の入った性能の装備だと、メルドアが解説した。


 いざ、始まるという状況になると、男が「行きます」と言った。それがどうしても「逝きます」に聞き取れてしまう。


「それでは、火花草で危機一髪のバンジーアトラクションへ出発しましょう!せ〜のッ!「ファイアーーッ!!」」


 鬼人と男の掛け声で、男は崖下へとバンジージャンプしていった。「うわぁぁぁーっ!」という悲鳴が遠のいていき、次の瞬間、「あ、なんだ意外と……」という安心する声が聞こえ、爆発した。


 ドッカーンという一回目の爆発に続き、複数回の爆発音がする。そのたびに絶望していく彼女の姿。まるで人類の進化とは真逆のようにうずくまっていく。


 爆音に遅れ、火柱が崖下から立ち上ってきた。燃える火の粉がパラパラと落ち、黒い煙が上がった。崖っぷちに駆け寄る彼女。「のぶあきーっ!」という悲鳴とともに救助作業を始める鬼人たち。


「リア充は爆発しろ!」というネット用語があるが、本当に爆発したのを見るのは初めてかもしれない。顛末まで見送った俺たちは、細心の注意をはらいながら、火花草の採取をした。


 十分な量を集め終えると、本来の目的であるエリアボス討伐へと向かった。


 機動鉄核(アイアンゴーレム)と戦うグループと戦わないグループに別れることになった。


 戦わないグループに属するメンバーは、俺以外にアーガス、ジン、ヒスイ、ガーネット、マルノミの六人。戦うグループは、メルドアと同化精霊組、たかしくんの四人だ。


 戦わないグループの俺たちは、ドワーフの街で買い物しながら待つことになった。出口で待つのもいいが、暇にさせてしまうのが、申し訳ないとのことで、そういうことになった。


 ドワーフの街はいざこざがあったから、初めて訪れることになる。ドワーフたちと争ったことが昨日のことのように感じられる。できるだけ出会わないことを祈った。


 石レンガでできた城門を潜ると、ヨーロッパで見られるようなカラフルな屋根をした石レンガの建物が並んでいた。


 どの建物にもサンタさんが来てくれそうな煙突があり、灰色の煙がモクモクと立ちのぼっていた。街並みは綺麗で、煙による視界への公害はなく、魔道具のようなもので空気を清浄していた。


 カルトの街に少し似ているところから、カルトはこの街をリスペクトして建てたのだろう。


 行き交う人々はみな、生き生きとした様子で、PHたちからの搾取は完全になくなったように見える。客もマナーをしっかり守り、ちゃんとした関係を築いているようだ。


 それはそれとして、俺たちは目立っていた。ドワーフは低身長。PHは普通くらい。そんななか、俺たちは巨大な魔物の集団。目立たない訳がない。


 特にアラクネの俺と龍のマルノミが目立っていた。確かに鴉天魔(レイヴン)のジンたちの翼はでかいが、それでも人型じゃない俺ら二人の存在は異質だ。


 悪い意味で目立っているように感じたが、聞き耳をたててみると、その考えは一蹴される。


 平和が保たれたのは理性ある魔物のおかげであったり、適正価格で交渉しに来る鬼人や聖骸の誠意、それらの好印象を与える話し声が聞こえた。


 俺の知り得ないところで、NPHとの仲が保たれてると知ると、裏で働いている子蜘蛛たちに頭を下げてお礼にいかないと、という気持ちに駆り立てられる。


 俺は特にこれといった買い物をしなかったが、武器の魅力に釣られたアーガスが「すまん、ちょっと寄っていいか?」と言っていなくなり、宝石のおねだりで「話せばわかるっす!」という叫びをおいて連れて行かれた。


 残ったのは俺とマルノミ。気まずい雰囲気だ。マルノミとはエリアボス戦だったり、イベントで話したり共闘したことはあるが、ふたりっきりになることは初めてだ。


 何を話せばいいのかと、ぐるぐる思考を巡らせていると、マルノミから話しかけてきた。


「今日はありがとね」


 突然のお礼にビクッとしていると、マルノミは大きな口で「ふふっ」と笑った。マルノミは俺の様子を顧みず、話を続けた。


「あの子、友達があまり多いとは言えないの。だから、今日のこと、すごく楽しみにしてたのよ」


 ジンのことだろうか。そういえば、マルノミとジンはリアルの姉弟と言っていたのを思い出した。だからか、慈愛のようなものを感じられた。


 姉弟のこういう話を聞くと、澪のことを思い出す。明日遊ぶの楽しみにしてるかもしれない。明日は寝坊しないようにしないと。本当に。


「俺も妹がいます。だからそういう気持ち、わかります」


「あら、そうなの?」


「はい。このゲームをしてるので、もしかしたら、会う機会があるかもです」


「そうなの?なら、今度紹介してもらおうかしら?」


「はい、ぜひぜひ」


 長男、長女の妹、弟談義に花を咲かせていると、戦うグループが合流してきた。思った以上に遅い到着だった。


 話を聞いてみると、脱獄大工であるカレー炒飯の配下もこの宝石採掘に参戦させるように手配があったとかで、三周してきたそうだ。


 次のエリアにまでは着いてこないので、ここからは元の十人で行動することになった。


 宝石を買わされてゲッソリしたジンと良い素材を買えてホクホク顔のアーガス。対称的なふたりを連れ、次のエリアボスのもとへ向かった。


 エリアを歩いた感想としては、体力無限大の登山って楽しいなっていう。鉱山だらけのエリアで植物はあまりない空間は最近めっきり来た記憶がなく、新鮮な気持ちになれた。


 高低差は他のエリアに比べて激しいものだったが、途中から競争が始まったおかげもあって、想像以上にはやく着くことができた。


 ここでも二グループに分けて向かうことになった。このエリアを中心に周っているアーガスとジンは先に行ってしまった。エリアボスの情報は貰わなかった。これはこのゲームの暗黙のルールであり、気遣いでもある。


 今回挑戦するのは、俺とマルノミの二人だ。メルドアとたかしくん含めて六人でも行けなくはないが、簡単になりすぎて初めてやるエリアボス戦がつまらなくなるのが嫌!という意見が大多数で二人になった。


「どんな敵が出るのか楽しみね」


「そうですね。骨があるやつだといいんですけど」


 ボスエリアに一歩、足を踏み入れると、そこに現れたのは小山だった。その山が揺れ動き、エリアボスの全貌が明らかとなった。


「「でっか」」


 土色の体表には無数の宝石が埋もれ、暗闇に慣れた目と掘ることに特化した爪。採掘のスペシャリストに相応しい姿をしている。


土竜(モグラ)だ」


 互いを認識した瞬間、モグラは逃げるように地面へと潜っていった。追いかけようとした瞬間、足元の地表が割れた。


 俺は糸でクッションを作り、マルノミはなんでもないように落下ダメをくぐり抜けた。穴の底までたどり着くと、モグラはすでにどこかへ移動していた。


 見上げると、そこには無数の穴。逃げるモグラを探す、モグラ叩きゲームの始まりだ。

エリアボスの種族考えてたら、時間かかりました。

次回出てくる予定です。

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