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第139話 仲直り

 悔しさを胸に、地べたを這いずって立ち上がった。立ち直ったことをルカさんに見せるとルカさんは微笑んだ。俺もまたルカさんと目線が交差すると微笑んだ。


 それから俺はルカさんを連れて拠点に向かった。死に戻りした空間では現実の姿である人、拠点に入れば、人の姿は蜘蛛へと変化する。その瞬間に視界がうつり変わる。


 瞬きで変わった視界の先には心配そうな子蜘蛛たちの姿があった。最近は子蜘蛛たちに心配させてばかりだ。


 自身のチカラを過信しすぎたばっかりに、俺は何度も子蜘蛛たちに悲しい顔をさせてしまっている。そのことを知っておきながら、俺は俺のことばかりを考えて、仲間のチカラを借りようともしなかった。


「ごめん、心配かけて……」


 子蜘蛛たちの俯く顔が見えた。子蜘蛛たちは何かを言おうとしてそれをやめた。言いたいけど、なにかが引っ掛かって言えずにいる。その原因は俺にあった。


 俺が……俺が子蜘蛛たちに頼ることをせず、自分でなんでも解決しようとした。それが一回だろうと十回だろうと、俺は仲間のチカラを信じきれていなかったんだ。


 俺自身が子蜘蛛たちの口を遮ってしまっていた。喉まで出かかった言葉にサイレントを被せてしまっているのは、俺のこころが子蜘蛛たちのこころから離れてしまったからだ。


 俺は離れてしまった、離してしまっていたひとりの子蜘蛛の頬に手を添えた。すると、俯いていた顔がほんの少し持ち上がった。


「もう一度、俺といっしょに戦ってくれないか?」


 背けた目線がチラりとこちらを向いた。頬を撫でると、その悲しい目線が歪んだ。溺れた目から滴った涙が俺の指先を濡らした。抑え込んだダムが崩壊するように、子蜘蛛たちの泣く声がした。


「えぅっ……うっあっ……ま、ママぁ……」

「まま……ママぁ…」

「おかーたん……」


 空から涙の雨が降ってきた。そこらじゅうに張り巡らされた蜘蛛糸の上にいた子蜘蛛もまた泣いていた。


「ままぁ……!!ママァ!!」


 ずっと我慢していたんだ。俺といられないことを。俺といたいにも関わらず、俺が気づかないことに。言い出せなかった。言いたかった。誰もが心の奥底に沈めた想いを引き上げられなかった。


 閉ざされた扉。ずっと握り締めていたはずの鍵を見失っていた。


「大好きだよ、俺の子蜘蛛たち……」


 気付いたら視界が霞んでいた。


「ぼくも……ぼくも……すきぃ……」

「わた、ひも……しゅき……」


 俺は目の前の子蜘蛛を抱きしめ、身体中から糸を放出して遠くにいた子蜘蛛たちを引き寄せた。抵抗する子蜘蛛は誰ひとりいなかった。


 みんなが泣き止むまで抱きしめ続けた。


 …………

 ………

 ……


「どうしたの?その顔」


 武器の手入れをしていたカルトは涙の跡がついた顔を見てそう言った。俺は子蜘蛛たちと仲直りすると、久しぶりに子蜘蛛たちを連れてカルトの街へやってきていた。


「これは……まぁ、その……」


 俺が言い淀んでいると、カルトは「ふーん」と鼻を鳴らした。


「そっか。やっと仲直りしたんだ」


 カルトにはなんでもわかってしまうようだ。俺が恥ずかしそうにしていると、笑い声が後ろから聞こえてきた。振り返ると、そこには、はしゃぐ子蜘蛛と嬉しそうにしている聖骸たちがいた。


「……彼らも心配してたんだ。かわいがってるからね」


 聖骸だけでなく、聖鬼も来ていた。子蜘蛛たちはカルトの街やカレー炒飯の街によく遊びに行っている。そのせいもあって心配をかけてしまったようだ。


「そうだ!あの子たちも八雲には会いたいだろうし、闘技場に行こうか」


 闘技場……といえば、一回はしゃいだせいで出禁になって、可愛い格好をさせられるようになった思い出深い場所だ。そんな場所に俺は行って良いのだろうか。いや、できることなら行きたくない。


「あ!でも、また暴れられると困るから、手を繋いで行くよ」


 カルトは強引に俺の手を握ると走り出した。


「えっ!?ええっ!?!?」


 カルトに手を取られた俺は驚きのあまり反応することができなかった。カルトはそんな俺を見て笑っていた。


「あはははっ!」


 笑いながら走ると、カルトは踏み込んで空へと駆け上がった。足が地面から遠ざかっていく。カルトはなにもない(くう)を踏み込み、さらに上へと飛び上がった。


「なにこれ!?」


 俺は空に浮かぶそれを見て驚愕した。雲を抜けたその先に巨大な骨が空を飛んでいた。それは真っ白なクジラで、雪虫が舞い上がるエリアにいたクジラよりも大きかった。


「初めて見るかな?これは僕の専用航空機みたいなものさ。新しい闘技場はこの子の上にあるのさ」


 近づくにつれ見えてきたのは、苔で覆われ草が生え、木が生い茂った森があった。その中央にあったのは石造りでできた寂れた闘技場だった。


 使っているのに寂れているというのはおかしな話だが、長い間放置されてきたように見えた。手入れがされておらず、苔で覆われたところもあった。


 なにより崩れて瓦礫が積み重なっている箇所も見られるのだ。


「不思議そうな顔をしているね。この子は化石から復活させたクジラのアンデッドなのさ。だから骨だし、なにかとボロボロな部分もある。けど、そこがかっこいいだろ?」


 カルトの話を詳しく聞くと、このクジラは海の底に沈んでいた遺跡にいた遺骸だったそうだ。


 本来は海を泳ぐ種類だったそうだが、カルトの頑張りで空を飛べるようになったと自慢していた。


「そうなのか。あれ、でも……」


「なに?」


 少し不機嫌そうに聞いてきた。


「北の第四エリアに空飛ぶクジラいたぞ?」


「なんだって!?」


 カルトはさっきの俺以上に驚き、ひどく悔しそうにしていた。


「そっちにいたなんて……」


 このクジラを発掘した場所は南東エリアの海の底。ほぼ真逆の位置だった。


 カルトはもっと他のエリアも行くべきだった、と後悔していた。カルトは特に南西のエリアを探索していたが、俺と攻略した砂漠が気になり、念入りに探索していたそうだ。


 南西エリアはアンデッドの魔物が多く点在するエリアであり、カルトの街やカタコンペもそこにある。


 そこで遺跡を見つけ、考古学者並に丁寧に跡地巡りをしてクジラを発掘した。そのせいもあって生きているかもしれないクジラを探すことに目がいかなかった。


「まぁでも、僕が育てたクジラのほうが絶対かっこいいよね?」


 カルトは両方を知る俺に尋ねた。俺は目を閉じてあのとき見上げたクジラを思い返した。


「うーん」


 悩ましくしていると、カルトが俺の手をギュッと握った。


「ねぇ、どうなの?」


 チラリと横を見ると、カルトがうるっとした目でこちらを見ていた。悩む暇もなさそうだ。俺は直感で答えることにした。


「もちろん、カルトのクジラのほうがかっこいいよ!」


「そっか……そっか、うん!なら、よかった!」


 カルトは嬉しそうに笑った。カルトの手に熱がこもっていた。それだけ頑張ってきたんだろう。


 俺はカルトに手を引かれて、闘技場に向かった。


 近づいてみると、古いものだとすぐにわかるほど、ボロボロになっていた。あまりにも壊れていた場所はカルトが修復したのだろう。真新しいタイルが貼られていた。


 闘技場の中に入っていくと、そこには見慣れた蜘蛛(アラクネ)がいた。コクマとハクマだ。二人は手を重ねて一つの玉を作っていた。それは属性を纏った魔力の塊だった。黒い闇の魔力もあれば、白い光の魔力も見えた。


「ハクマ、強すぎるよ。もっと弱くして」


「コクマこそ、魔力に歪みができてるよ」


 二人はここで修行しているようだった。


「すごいよね。相反する属性をあそこまで調和させるなんてね。僕ひとりならできるけど、他の人と合わせろ、なんて言われたらできそうにないよ」


 カルトは二人を褒めた。俺も毒術と雷術を融合させている。それを他の人と合わせろと言われたら、おそらくできないと思う。


 魔法を無理やりぶつけて混ぜることはできても、二人のようにお互いのチカラを壊すことなく合わせることは至難の業。子蜘蛛たちとやっていたのは無理やり合わせたものに過ぎない。


 コクマとハクマが属性術を融合させていたのを見たことがあった。邪属性と聖属性を合わせる虚術。ボスエリアにあったゴブリンの街を破壊し尽くした恐ろしいスキルだ。


 あのときは暴力的なチカラを感じたが、今のふたりのチカラは静かだ。波のない海を見ているかのようだった。


「邪魔すると悪いから、もう行こうか」


 カルトはひと目ふたりの様子を見せてくれたようだ。確かに邪魔したら悪い。今後のふたりの活躍を楽しみに待っていよう。そう考えた俺は踵を返して闘技場を立ち去ろうとした。


「あ!カルト先生だ!」


 コクマが声を上げてそう言った。その瞬間、ハクマの「あっ、馬鹿!?」という声が聞こえて爆発した。


「えっ!?」


 再び踵を返すと、闘技場の中央から爆風が吹いてきた。カルトの蒼白した顔が一瞬見え、俺は闘技場から吹き飛ばされた。捕まる場所がなく、慌てて天網を張ると、遅れてカルトが飛んできた。


「あぁ……ぼ、ぼくの闘技場がぁ……」


 意気消沈したカルトがガクッと脱力して天網に張り付いた。


 闘技場は跡形もなく吹き飛び、その中心には闇と光の鎧をまとったふたりの姿があった。どうやら至近距離にいたふたりは無事だったようだ。


「また、やっちゃった……」


 コクマがぼそりと呟き、ハクマはカルトと同じくらい生気がなくなっていた。コクマがしょんぼりしていくにつれてハクマが怒りを顕にしていった。


「どどどどうすんのよ!また私たち、カルトさまの闘技場……こ、壊しちゃったのよ!?しかもまたコクマのせいよ!」


 ハクマがコクマに怒鳴ると小さくなっていたコクマがさらにしょんぼりして丸くなっていた。


「ごめんなさい……カルト先生みつけたらつい嬉しくなって……」


「あぁ、もう!そんな顔されたら怒れなくなるじゃないっ!」


 反省するコクマをみて、ハクマは涙目になった。そんなハクマをみて、コクマもまた涙目になっていた。


「だって……だって……」


 コクマが言い訳がましくすると、ハクマも辛そうにした。


「なんでコクマが泣くのよ……ううっ…」


「ああああーーっ」


 ふたりが泣き始めた頃、俺の隣で気を失っていたカルトが目覚めた。


「んあ?あれ、隣に……りゅー?て、ことはやっぱり夢だったんだよね?」


「カルト……残念なお知らせだ」


「なんだよ、急に。僕に言いたいことでもあるの?」


「ああ、あれを見てくれ」


「あれ?なんだよ、りゅー。僕に見せたいものっ……て……なんでだよ、なんで夢じゃないんだよぉ!」


 カルトは再び絶叫した。当たり前だ。カルトが熱弁していた闘技場が跡形もなくなくなっているのだから。


「また……また、つくろうな?」


「やっぱ、子蜘蛛たちも含めて出禁だ!」


 カルトは俺にそう言い放った。ごもっとも。俺はそのとき心の奥底からそう思った。


「あの子たちは連れて帰ってくれよ!」


「ごめん……」


「謝る必要はないよ……ただ、頼むからもう闘技場にだけは来ないでくれ……お願いだからっ!」


 カルトは遠い目をしていた。ハクマが言っていたことが正しければ俺含めて壊されたのは三回目になる。


 カルトは闘技場を修復するため、天網から離れようとした。しかし、離れることができなかった。わたわたするカルトだったが、どうやっても逃れられないことに気づき、俺の方を見た。


「……はずして?」


「あぁ……うん」


 蜘蛛糸が強力でしつこいくらいまとわりつくことを身をもって知ったカルト。天網から逃れたカルトは、二人のもとへ向かった。俺は少し離れてカルトについていった。


 カルトが二人のそばに来ると、二人は足音でこちらに気づいて伏せた顔をあげた。


「コクマ!ハクマ!」


「……カルトせんせい!?!?」

「!?……カルトさま」


 カルトに呼ばれた二人は恐々としていた。


「君たちふたりは今日から出禁だ!」


「「そんなっ!?」」


「これは決定事項だよ。だから二人には彼とここから出ていってもらう」


 カルトはそう言って俺に視線を向けさせた。すると、コクマとハクマは言葉を失った。俺が微笑むと、ふたりは目を見開いて呼びかけてきた。


「「っ!?……えっ……ま、ママっ!?」」


「あ、あぁ……久しぶりだな、コクマ、ハクマ」


「ママぁ!!!」


 いの一番にコクマが抱き着いてきた。頭をそっと撫でてやると「えへへ」と甘えてきた。昔は恥ずかしそうにして、いたずらばかりしていたのに、いつの間にこんなに素直になったんだろうか。


 コクマを甘やかしていると、ハクマが来なかった。ハクマに視線を向けると、視線をそらした。チラチラとこちらを見るハクマに俺は手招きした。


「おいで」


 呼びかけると、ハクマは両手を広げて、抱き着いてきた。


「うわあああん!ごめんなさいぃぃ!!」


 ハクマが謝ってきた。きっと闘技場を壊して出禁になったことを謝っているのだろう。俺は首を振って否定した。


「大丈夫だ、俺も壊したから!」


 なんのフォローにもなっていないことで擁護すると、ハクマは「あっ……」と呟いたあと、コクマと俺を交互に見た。


 ハクマがなにかわかった素振りをすると同時にカルトが話しかけてきた。


「親子って似るんだね」


「まぁ、親子だから?」


「そういうことじゃないんだけどね……」


 カルトがため息をつき、ハクマも同意するようにため息をついた。わかっていないのは、俺とコクマだけだった。

仲直りしました!

これからは子蜘蛛たちがもっと出てくるかもです!


闘技場……ストーリー内では今回を含めて四回は壊れてます。一度壊れてしまったものはわりと壊されてしまうのはよくあること。気に病むことはありません。


クリスマスどうでした?私はひとりで猫カフェに行ってきました。カップルでいっぱいでしたね。

猫カフェってまったく猫と触れ合えないけど、猫カフェって言えるんでしょうか?触ろうとすると避けられるし、ごはんをもってないと近づいて来ない。

猫カフェは猫をみて癒され、猫をみて興奮する人をみて癒やされるそんな空間。猫をみるよりも人をみてるほうが楽しめると思ってます。

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