表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

142/168

第129話 共存する寄生虫

 蜂たちの協力を得てなんとか迷子のクナトとユークを見つけた。


 蜂たちは熱源を探知する能力を持っていたのだが、聖骸であるクナトとユークは体温がなく、探知に引っ掛からなかったため、探すのに大苦戦した。


 壁を破壊しながらの脱出は女王蜂との交渉相手となったことで取り止めになり、蜂たちに誘導されながら脱出することとなった。


 蜂の巣の外は洞窟であり、そこから洞窟外に出るのに迷子になるのは確実。俺は蜂に卵を対価に外への脱出の手助けをしてもらうことにした。


 脱出途中、蜂たちはあるものを発見し、ものすごい勢いで追いかけ、置き去りにされた俺たちはまた迷子になった。


「よし、破壊しながらいくぞ!」


「かしこまりました、八雲様」


 蜂の巣の外であることには変わりなく、案内役を見失えば出られないことはわかりきっていた。やるならば簡単な方法に限る。


 クナトが壁を剣で切り刻み、俺が拳で破壊した。ユークは外に出るための方向修正を行った。やり方はまるで餅つき。クナトが餅を柔らかくするために水を加え、俺が餅をつき、ユークが硬い場所を指摘する。


 役割分担をしっかりとこなした俺たちは、帰ってきた蜂たちに静止されるまで壁を堀り続けた。


 苦笑いをする蜂たちだったが、熱源を探知して壁の向こう側に王蜜を盗んだPHたちを見つけると、俺たちに壁を壊すように言ってきた。


 蜂たちのためならばと壁の破壊を再開した。ひたすら掘り続け、壁が薄くなると蜂たちは最後の一撃を入れて壁の向こうに飛び出していった。


 殴り疲れた俺たちは一旦休憩し、蜂たちが帰ってくるのを待った。それから少しすると、樽を口に咥えた蜂が帰ってきた。それから戦利品のPHの死体を嬉しそうに持ってきた。


 ネズミを捕獲した猫のように、獲物を見せつけてきたので、褒めてやると、戦利品の装備品をくれた。さすがにもらってばかりだと悪い。俺は残り少ない卵と交換した。


 案内役の蜂だけが残り、蜂たちは巣へと帰っていった。


 案内されて数分ほどで出口の近くにたどり着いた、蜂は歩く速さを緩め、手前で止まった。触角を動かして誘導した先には底の見えない渓谷と断崖絶壁があった。


「えっと、ここは?」


「ココ、出口」


「ここ以外は?」


「ナイ」


「そっか……ここまでありがとな。お礼の卵だ」


「ヤッタ!アリガトウ!マタ、イツカ!」


 嬉しそうに帰っていく蜂を見送り、断崖絶壁を見た。


「さて、登るか」


「えっ……八雲様、ここを登るのですか?」


「そうだが?」


 戸惑うクナトになんでもないように返すと顔が青ざめていた。それに対してユークもまた平気そうな顔をしていた。


 一旦クナトは置いておいて、転移巣を張り、俺とユークだけで崖を登ることにした。俺は蜘蛛の特性で絶壁すらも歩いて登ることができた。


 ユークは蜘蛛精霊に乗って登った。難なく登ると、そこにはジャングルが広がっていた。どの木も太くて大きい。あの蜂を見ていたので納得の世界だ。


 ジャングルにはおそらく巨大な虫の楽園が形成されているのだろう。どれも硬い甲殻を持ち、虫特有のしぶとさも兼ね備えているはずだ。


 ここから先、油断はできない。意識を高く持っていると、崖の下から情けない声が聞こえる。高所にここまで恐怖する魔物も珍しい。おそらくどこかでトラウマを抱えてしまったのだろう。


 たとえば砂漠で打ち上げられたとかそんなトラウマを持ってそうだ。まったく、誰だよ。クナトにトラウマ植え付けたやつは。さて、そろそろクナトも限界だ。


「ユーク、ちょっと警戒して「八雲様!危ない!」なに!?」


 ユークの忠告を受け、その場から離れると、地面に小さな亀裂が走った。よく観察すると、そこには巨大な鎌が突き刺さっていた。


「か、カマキリ!?」


 見上げると、巨大な鎌を再度振りかざして来るカマキリの姿があった。さらに距離をあけて観察をする。カマキリは合計四本の鎌と強靭な顎を持っていた。


 突然現れることができたのは背中にある羽根のはばたきが無音で接近に気づくことができなかったからだろう。背中の羽根を収めると、素早く近づいてきた。


「足も早いのか。厄介な相手だな。ユーク、援護を頼む!」


「蜘蛛精霊ッ!」


 ユークが蜘蛛精霊に合図を出すと蜘蛛精霊が高所から飛びかかった。視覚外からの強襲には気付かないだろう。そう考えていたが、考えが甘かった。ぐりんッと三角の頭が回転すると、蜘蛛精霊を視覚内に捉え、鎌で反撃をした。


 ユークが身体から巨大な骨の腕を召喚し、カマキリを捉えようとすると羽根を羽ばたき、風圧を利用して寸でのところで回避した。


 虫といえば頭が悪いイメージだが、魔物であり高レベル帯であることで知能も高いのだろう。速度とパワーも兼ね備えた万能型のステータスを持ち、さらには視野も広い。これはかなりの強敵だ。


 カマキリの色を確認すると緑の甲殻に黒の関節を持っていた。目は甲殻と同じく緑で、ジャングルの中で遭遇していたら、間違いなく殺られていただろう。


「蜂には避けられたがカマキリになら使えるはずだ」


 俺は雷を放ち、カマキリがどう反応するか観察した。すると、カマキリは一歩大きく引いた。それだけでは逃げることができないが、カマキリにも秘策があった。


 それはお尻から出てきた鋼色の蛇だった。その蛇は雷を正面から受け止め、頭をしならせることで雷を弾き飛ばした。


「まさか……ハリガネムシか!?」


 ハリガネムシはカマキリのお尻から完全に抜け出すと、カマキリの鎌の一つに纏わりついた。雷への耐性があるのだろう。


 それにしてもハリガネムシは本来、カマキリに寄生して入水自殺させる寄生虫。そんな虫が自ら前面に出てカマキリを守るように出てくるのはおかしい。


「共存しているのか!?」


 驚きの事実に少年心がくすぐられて無駄にテンションが上がる。不思議そうな顔をするユークの視線が突き刺さる。


 だがここで観察するだけでは意味がない。ジャングルの中で遭遇したときのことを考えてここで攻略法を見つけ出さなければならない。


 全方向を見れるとはいえ、多方向からの連撃を耐えられるかは別の話。地面から突如と生える土槍(アースランス)に上空から降り注ぐ雷天糸。


 土槍に最初に気づいたのはハリガネムシ。自らが纏わりつく鎌を地面に突き刺して身体を放り投げて回避。そこへ降り注ぐ雷天糸。バランスを崩した状態で残された鎌で切り刻む。


 しかし、それは悪手。切られた糸くずは地面に散らばり天然のトラップに早変わり。バランスを立て直したカマキリの脚には糸が引っ付いている。


 バランスを立て直す隙に天網を張り、空から吊るした糸をカマキリに引っ付ける。


「これはどうする?」


 インベントリから取り出した猛毒蜘蛛の脚を真っ直ぐに引き伸ばして糸を纏わせ槍の形状に変え、毒を仕込んだ槍をカマキリに投擲する。


 鎌で防げると余裕な表情を見せるカマキリだったが、目の前に来た槍を鎌で弾き飛ばそうとした瞬間、糸傀儡でカマキリの身体の制御を奪い、身体をガラ空きにする。


 身動きができないことに戸惑いを覚えながら、毒の槍がカマキリの身体に突き刺さった。鈍いとはいえ、猛毒には身体が拒絶反応を起こす。


 暴れようとすると糸傀儡で身体の動きを鈍らせ、毒の侵攻をより加速させる。毒の槍が刺さり続ける限り、毒の侵攻は加速し続ける。


 唯一毒に侵されていないハリガネムシは鎌を動かし、毒の槍を取り除こうとするが、他の鎌に邪魔されてしまう。ハリガネムシは使えなくなったカマキリを見捨て、ハリガネムシは鎌から離脱した。


 ニョロニョロと身体をくねらせ、俺から逃げるようにジャングルへと向かっていく。もちろん、逃がすわけがない。糸を放って足止めをすると糸で拘束した。


 全く身動きが取れなくなったところで、糸玉を4本の手で握りつぶしていく。圧縮していく中でハリガネムシが軋む音が聞こえた。限界まで握り潰すと音が途絶え、鉛のように重くなった。


 急激な重量の変化に驚いて落としてしまったが、すでに事切れていたようで逃げる素振りはなかった。


 ゴロンと転がったハリガネムシの糸の拘束を取ると、中から鋼が出てきた。ハリガネムシとはいえ、素材が鋼になるとは思わなかった。


 この鋼をカレー炒飯に渡していいものができるなら、カマキリを乱獲してもいいかもしれない。


 敵からの強襲がなくなった。この隙に今度こそ情けない声で鳴いているクナトの救出をする。洞窟では「うわァァァ!」と叫んでいたくせに地上に出た瞬間に、ビシッと執事のような余裕な雰囲気を醸し出し始めた。


 イラッとした俺は天網から糸を垂らしてクナトに引っ付けて逆バンジージャンプをさせた。すぐに情けない声をあげて助けを求めてきたので許してあげた。


「空から見た感じどうだった?」


「偵察する余裕なんてあるわけないですよ!」


 本当に余裕がなかったようだ。仕方ない。俺が見てこよう。新たに設置した転移巣で上空に転移して周囲を見渡す。渓谷がある反対側はジャングルではなく小さな草原が続いている。


 こっちは第ニエリアの方角だ。先がきれている。あそこは崖になっているんだろう。その下に蜘蛛のエリアボスがいる。もしかしたら地下を通らずにジャングルにたどり着く道もあったかも。


 地上に戻ってジャングルに進む意思を伝える。どちらにせよ、行かないといけないのは変わらない。今回は慎重に進むために地上を歩いて進む。あのカマキリのことを考えると慎重にならざるを得ない。


「いくぞ」


「「はい!」」


 ジャングルは木の背が異常に高い。木の周りに(ツタ)が纏わりつき、樹木の葉がジャングルの空を覆っている。そこから垂れる蔦と顔を覗かせる果実、そして光る眼の大群。


 虫の群れはどこにでも潜む。空だけを見ているわけにはいかない。蔦でつくった巣もあれば、樹木の中に入り浸る虫もいる。草陰から睨む視線も花を(ついば)蜜羽鳥(ハニーバード)もどれもが新鮮に見える。


 このジャングルはひとつで完結している。先程見かけた蜜羽鳥(ハニーバード)は目を離した隙に花に食われていた。食虫植物がいる。蔦から落ちた雫がその食虫植物に降り注ぎ、彼を溶かした。


 どうやら虫の世界かと思っていたが、ジャングルそのものが生きている植物の世界と言っても過言ではない。


 舗装された道はない。巨木の根が支配した地上には真っ直ぐな道はない。試しに根を切り裂くと、中からナメクジのようなものが出てきた。


 ぬるっとした粘液を飛ばし、俺たちが回避している間に粘液を使って根の傷口を補修した。傷は逆再生をかけたように切口がなくなった。


 巨木が再生するなら焼き払えばどうだ?あのゴブリンの住む森のように焼失するのか、それともあの根のように再生するのか。


 見ものだ。好奇心が抑えられない。手に火を灯し、空に風穴を開ける火槍(ファイアランス)を放つ。一直線に飛んだ槍は空にぶつかると爆発した。


 火の粉はそこら中に散らばり、地上を覆う根や蔦に燃え移る。このままジャングルは焼失してなくなるかと思われた。


 変化が訪れたのだ。巨木から白い液体が滲み出てきた。あのナメクジだ。その量は計り知れない。液体すべてがナメクジとすると巨大な魔物になる。


 ナメクジは火を飲み込み、こちらを見た。


「くるぞ」


「「はっ!」」


 雪崩(なだれ)のように大波のように制圧をしていく真っ白な化け物は、なにもかも飲み込む災害。植物の中に存在していたそれは、生きとし生けるものを食らいつくした。


 ジャングルを縫うように逃げつつ、火魔法を繰り出すが効果が見えない。少しだけ妙なことがあった。地上に勢いよく着地した際に大きな隙ができたのに、奴は近寄ろうとしなかった。


 まるで恐れるものがあるかのように。奴は液体のようで液体じゃない。なぜならナメクジの身体から水滴が落ちてきたことがなかったから。


 巨木を拳で砕いて木片を投げつけると奴の身体にやんわりと貼り付いた。ナメクジはうねりながらその木片を飲み込んだ。それがなぜか無性に気になった。


 物理的な存在を持たない火を消すことには遠慮はせず、逆に物体である木片で足を止める。考えられるのは身体にものが貼り付くことを嫌っているのか、食べるものを選別しているかだ。


「クナト、蔦を切り落としてくれ」


「承知した!」


「ユークは他の木にちょっかいを出してくれ」


「わかった」


「俺はやりたいことがあるッ!」


 背中の腕で標準を合わせ、土槍(アースランス)を起動する。放った土槍は加速スキルで急激に速度を上げ、ナメクジを貫いた。


 スライムのような物理耐性を持つ魔物であれば、こんなもの効くはずがない。けれど元々は木の中に潜む魔物。それも木に寄生している。もしくは木そのものかもしれない。


 そう考えればあのナメクジはもしかしたら樹液なのかもしれない。樹液だから火を積極的に消す。木を切られたらそれを修復する。木片なんて小さなものを身体に入れたがる木がいるとも思えない。


 これが樹液の化け物ならダメージを食らってないように見えたが、実は食らってる可能性が高い。


 火はあまり意味をなさないが、これならどうだ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ