第13話 カレー炒飯と味噌汁ご飯
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カレー炒飯のいたずらには驚いた。だがもっと驚いたのが味噌汁ご飯の声質がどう考えても男なんだ。どんな声かといえば、低音ボイスなのに無理に高い声を出した声なのだ。
この喋り方にしてこの声質、つまりこの人はオネェだ。この人の種族はなんだ?気になる。最初は灰色の石かと思っていたが、少し透明の灰色だ。
こんな色合いで不定形といえば、ファンタジーの代名詞、スライムか。ええ?オネェのスライム?うわぁ…絶対相手にしたくないわ。
「悪かったって…ん?これ本当に俺で固まってるか?」
「多分ですが、味噌汁ご飯に固まってます」
「うっそぉ~!私のどこに固まる点があるって言うのよぉ!」
「あえて言えば存在だな」
「ですね」
「ひっどぉ~い!そんなことないわよね?」
味噌汁ご飯の問いに反論したいが、俺にはそれに合う答えを持ち合わせていなかった。今しがたオネェという存在をテレビ以外では見たことなかったのだ。
簡単に言えば、突然珍獣に遭遇したようなものだ。
「ないわよね?」
「は、は、は、はい…」
「ほぉ~ら、ないって言ったわよ!カレーとユッケの勘違いじゃないのよ」
凄みに負けたミントが返事をした。怖さはないが、圧力があったのは確かだ。
「これはひどいですね」
「クロードに言いつけとこ。いたいけなうさぎちゃんを脅迫したって」
「ちょ、ちょ、ちょっと!そ、それだけは…」
「俺…これから行く深い森の木材一杯欲しいんだけど…あぁーっ、人手足りないなぁ~!誰か、誰か手伝ってくれねぇかなぁ~」
「し、仕方ないわね。私が手伝ってあげるわよ!」
「お、助かるぜ。さすが味噌汁ご飯だな」
「当たり前でしょ!」
なんだか可哀想に思えてきたのは俺が子育てに夢中すぎて父性にでも目覚めたからかな?このオネェ、味噌汁ご飯はいじられキャラなんだろうね。
「八雲、大丈夫か?味噌汁ご飯はオネェだが、お人好しだから怖い人ではないぞ」
「あ、あぁ…なんとなくどんな人かわかったから大丈夫だよ」
「そうか、今回は深い森手前に拠点を持ってるカレー炒飯の拠点を経由して向かうから、すぐに森賢熊との戦闘になる。それから拠点に戻って今度は八雲の拠点を経由して精霊樹へ行くことにするぞ」
「一ついいか?」
「なんだ?」
「俺の拠点、精霊樹の頂上にあるんだが」
「は?馬鹿なのか?お前は馬鹿なのか?」
「いやぁ…精霊樹とは知らなかったんだよ。一番大きな木を目指した結果だよ」
ユッケが大きく溜め息をすると、ユッケに跨がっていたカレー炒飯がユッケから降りていた。味噌汁ご飯はというと、ルカさんの膝で蹲っているミントさんの前でぽよんぽよん跳ねていた。あれは何をしているのだろうか。
「ん?どうした?何か問題でも見つかったか?」
「あ、あぁ、なんと言いますか…。八雲が拠点を置いた位置が予想外といいますか」
「お?なんだ?森賢熊の巣にでも設置したのか?」
「いえ、精霊樹の頂上だそうです」
「は?まじかよ。すげぇな。あれを登ったのか」
「驚くとこはそこですか」
「だってあれ軽く50m以上はあるんだぜ。それを登るやついたんだな」
「結構しんどかった…」
「だろうな」
「精霊樹の頂上だと不便ですし、誰か他の方が新しく精霊樹付近に拠点を設置した方がいいですね」
「それがいいな。あとは広場の設置をしようぜ」
「なんですか?その広場っていうのは…?」
「広場はフレンドだけで共有できる憩いの場だな。分類としてはギルドホームみたいなものだ。俺達が安全に集合できるように正式サービス開始に伴って追加された新コンテンツだ」
フレンドのみのギルドか。PHだと転移門とか転移地点とか言われるポイントや噴水など、街にある主要な施設での待ち合わせができるが、PMにはそれがない。拠点での集合はできるが、プライベート空間である拠点に、本人に用がないにも関わらずズカズカ入っていくのもマナーがなっていない。
不法侵入オッケーな家なんて田舎ぐらいしかないだろ。それも知り合いに限ってだけど。他の場所だと警察にお世話になっても仕方がない案件だ。新コンテンツには感謝だな。
「広場は共通のフレンドがいる場合に限り、統合される。今の状態だと俺と味噌汁ご飯とユッケに八雲、ミントちゃんの広場ができる。だが八雲とミントちゃんがフレンドになっていないカルトきゅんとクロード、マルノミはその広場には入れないというわけだ。わかったか?」
話は理解できたが、なぜカルトはカルトきゅんなのか。確かにやつは男の娘だが、スケルトンからどうやってその発想に至ったのか謎だ。
「わかりました」
「担当AIに広場の有効化をしてもらってくれ。そうすりゃあ外行きの魔法陣が広場に移動する。メリットとしては他のプレイヤーの作った拠点場所にいけることだが、デメリットは個人の巣や創作物が壊れる可能性が出てくることだ。俺で言えば城だな」
「城建てたのカレーだったのか」
「おう、ちなみに和風の城だ。木材と石材くらいしかなかったからな。担当AIの…ルカさんだったか?行ってきてくれ」
「わかりました。ルカさんのところに行ってきますね」
カレーの目が泳いでいたのはなぜだろうか。そんなことを思いながら二人から離れる。ミントさんもついでに広場の説明をするから呼んできてくれとも言われたので従う。
ルカさんのところに向かうと賑やかな声が聞こえてきた。ただしその賑やかな声はどこか野太かった。ルカさんは今、ミントさんを撫でているはずだと思いながら向かったが。そのはずだったが、白い塊をフウマ達と投げ合いっこしていた。
「いやぁ~!も、もう許してぇ!」
その白い塊からオネェの悲痛の叫びが聞こえてきた。
「あ、あの。ルカさん、何してるんですか?」
「あら、八雲様でしたか。味噌汁ご飯様がフウマ達とぜひ仲良くなりたいとのことでしたので、こうやってスキンシップをとるのですよ、とちょっと教えてあげてるのです」
「そ、ソウナンデスカ。フレンドとの広場を有効化してもらいたいのですが、お願いできますか?」
「わかりました。どなたを許可しますか?」
「今、フレンドの人全員でお願いします」
「アレもですか?」
「アレもです」
アレとはもちろん味噌汁ご飯のことである。さすがにミントさんを可愛がっているルカさんからしたら、ミントさんを脅迫することは許容できない。お叱りをするおっとりなルカさんをさらに怒らせたのだろう。
あのいじけていたハクマとコクマはルカさんに従順だ。ストレスをぶつけるように味噌汁ご飯を地面に叩きつけたり、前脚で殴り付けたりしていた。
「み、ミントさんも広場についてカレーから話を聞いてきてくれる?」
「わ、わかりました」
ミントがぴょんぴょんとカレーのところに向かうと、ルカさんは広場の設定をし始めた。俺はさすがに可哀想に思ったので味噌汁ご飯の救出に向かう。
「フウマ?何をしてるの?」
すると、フウマが自分とルカさんを交互に前脚を差した。今度はドーマが白い塊と交互に前脚を差し、スイマがミントと交互に前脚をさした。
ドーマが離れていき、フウマがスイマを撫で始めた。すると、ドーマがやって来てスイマに手振り羽振り騒ぎ、挙げ句の果てにスイマを殴り付けた。
それに怯えたスイマは逃げ出し、ドーマは追いかけようとした。先程まで穏やかにスイマを撫でていたフウマは糸を放出してドーマをグルグル巻きにした。
フウマの指示にハクマ達やミドウ達が集まってきて、ドーマは転がされたり投げ出されたりした。という感じです!と言わんばかりにきゃっきゃ、きゃっきゃ騒いでいた。
「なるほどね、ありがとう。フウマ達は名演技俳優だね!」
すると、フウマ達はさらに嬉しそうに騒いでいたので、一人一人撫でる。特にハクマとコクマはもっと撫でて!と甘えてくる。いつの間にこんな甘えん坊なったのやら。
ドーマも救出してから、撫でまわす。ドーマは少し抵抗して「僕はもう大人なんだぞ!」と言ってる気がしたが、お構いなしに撫でると大人しくなった。
「た、助けてぇ…」
か細くなった野太い声が白い塊から聞こえてきたので、仕方がないが拘束を解いてあげた。糸を少し剥がすとでろーんと灰色の液体が出てきた。
試しに味噌汁ご飯を包んでいた糸を識別すると、「無形粘体の魔糸」だった。血以外でも浸透するという新情報を手にいれることができた。
「た、助かったわ…」
「反省してくれたらルカさんだってこれ以上は何も言わないと思いますよ」
「そ、そうね…。もうやらないわ。それにしても貴方の担当AIは表情が豊かなのね」
「そうですか?いつも通りですけど」
「私のところにいるモルちゃんは無表情な上に身だしなみもなってないのよね。ここまで違いが出るものかしら」
身だしなみ云々はともかく、無表情なのはオネェが嫌なのかもしれない。もしくは元々設定された性格なのだろう。ほらいつもは無表情だけど、褒めると段々顔を赤らめて、「だ、誰にでも言ってるんですよね」と淡々と述べて照れ隠しをする。
そんなキャラも二次元ヲタにとってはご飯何杯もいける案件だろう。ご飯と言えば、なぜこの人の名前は味噌汁ご飯なのだろうか。
「話は変わりますが、名前の由来ってありますか?」
「あら、勿論あるわよ。私にもいずれ素敵な旦那様が現れるはず、メインは私ではない。私はメインをさらに引き立てる云わばご飯と味噌汁のような存在よ」
完全なオネェだったな。不完全は見た目は男、中身は女でも付き合ったり好きになるのは女といった感じに中身が変わっても本質が変わらないオネェだが、この人は見た目は男、中身も男、好きなタイプも男という完全なオネェだ。
「私に合わさる旦那様はまさしくオカズになるでしょう。だから私は味噌汁ご飯ってことよ」
「なぜPMになったのでしょうか?」
「PHだとアバターが男になってしまうわ。私を見た目だけで判断する殿方とは好きになれませんわ。だからPMになって素敵な殿方を仕留めるのよ」
「それだったら人型の方によかったのではないでしょうか?」
「この体だと、ボディチェックが簡単にできるもの。なら痴漢や犯罪判定される人型よりも体の隅々まで調べられるスライムの方がいいに決まってるじゃない!」
すごく不純な理由だった。よかった、本当によかった。敵じゃなくて。襲われるPHが可哀想だな。
「そ、ソウダッタンデスカ。カレーとかどうですか?一番優しそうですけど」
「か、カレーはカレーよ。そんなんじゃないわ」
おや?味噌汁ご飯の様子が…。と思っていたら突然味噌汁ご飯が鷲掴みされて持ち上がった。
「なーに、辛気くせぇ顔して話してんだ!そろそろ熊公を倒しに行くぞ!」
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!放しなさいよ!自分で歩けるわよ!」
暴れる味噌汁ご飯に顔を近づけるとこう言った。
「あぁん?どこに歩く脚がついてんだよ。少しは八雲から脚を分けてもらってから、歩くって言えよ」
「はぁ?私に脚なんてなくたって動くことくらいできるのよ!」
「お前の動きは遅ぇから、黙って俺の肩にでも乗ってろ」
「貴方の肩に乗る場所なんてないわよ!頭に乗せなさい!」
「どっちでもいいわ。八雲も行くぞ」
「おー」
カレーの頭に乗って大人しくなった味噌汁ご飯と共に広場に行くことのできる魔法陣に移動した。その後ろからフウマ達がワラワラと着いてきた。




