第121話 たわわな聖騎士
すいません、遅れました。
前回の続きです。
雪くんはおじさんたちに何かを提案したのか、男たちは雪くんを怒鳴りつけた。
『なんだぁ、てめぇ。オラたちの馬さ奪う気か!』
『そだそだ、領主だが王だが知らねぇが、この馬は俺達のもんだ!』
反抗的な男たちに対して雪くんは、にこやかに微笑みながら指を4本立てた。
『君たちが持ってきた商品を相場の4倍で買うってのはどうだい?』
険悪な雰囲気をしていた男たちだったが、雪くんが言った事にすんと気が収まった。
『なんでぇ、そういう話だったら、仕方ねぇな』
『俺たちの馬さ、可愛がってくれよ』
『あぁ、もちろんだよ。この子は大切にするさ』
交渉が成立したらしい。ボクはおじさんたちの動力から解放され、雪くんに連れられてある場所へと連れて行かれた。
「え?競馬場?」
『ふう、やっとまともな馬を手に入れたよ。魔物競争をするにしても、馬がいないんじゃ、対比ができないしね』
「あれ、雪くん?」
ボクは雪くんに困惑した。一体ボクをここに連れてきてどうしようとしているのかと。
『あぁ、気にするな。ちゃんとノッカーさん特製人参は用意してある。』
雪くんはボクの頬を撫でて微笑んだ。美人さんである雪くんに頬を撫でられるなんて経験今までなかった。
「あわわわわ、ぼ、ボクにはヒデがいるのに……雪くんもボクを?」
疑問が残ったまま、雪くんに連れられ、ある小屋にやって来た。
『ここがキミの家だよ。今日からこの藁ベッドを使うといいよ』
「うわぁ、すごいや。この藁ベッド、押すと反発するよっ!」
『競争は明日だから、今日はここでゆっくりするといいよ』
そう言って雪くんは小屋を締めて立ち去っていった。
「え?な、なんで締めるの?なんでどっか行くの?待ってよ、ねぇ、雪くんっ!」
叫んでも雪くんは帰ってこなかった。
藁ベッドは最高級品だし、人参はステーキみたいにジューシーだし、たまに来る女の子も可愛かったしで悪い気はしなかった。
そんなこんなで迎えた競争をする日、ボクの上に乗ったのは、たわわな聖騎士。その瞬間、なぜかウインドウが表示された。
《騎乗処女を清らかな女性に奪われました。》
《【光魔法】【騎乗】を獲得しました。》
「え?え?」
乗られただけでスキルを獲得することなんてあるの?
ボクが困惑していると、後ろからそっと差し伸ばされた手がボクの頬を優しく撫でた。
『大丈夫?体調が悪いなら、カルトくんに言おうか?』
きっとボクを心配してくれたのだろう。
「大丈夫だよ。心配しないで」
『ふふ、よかった。それにしても……この子、私にくれないかな?カルトくんに頼んでみようかな……』
彼女との時間は非常に有意義なものだった。時々ぽよんと当たる感覚が最高で、つい彼女に心配をさせておねだりをしたものだ。
ついに競争する時間がやってきた。ボクの隣にはクマとオットセイがいた。クマは普通のクマではなく、足が六本もあった。上に乗っているのは世紀末装備をした少年だった。
オットセイも大きさが5メートルほどあって、ただの化け物にしか見えなかった。上に乗っていたのは、蜥蜴頭の人でボクの上に乗っているお姉さんの胸に釘付けだった。
不愉快にもほどがあった。ボクは新しく覚えた【光魔法】を使い、新しく魔法を作った。
蜥蜴頭の前に光の壁をつくる魔法だ。どこを向いても光の壁が視界を遮り、お姉さん胸を見ることも前を見ることもできない優れものだ。
『おい、なんだこりゃ!?魔法は禁止じゃねぇのかよ!』
あまりにもうざい攻撃に蜥蜴頭は怒鳴り散らした。怒る彼に雪くんは静かに宥め始めた。
『騎乗者はだめだけど、下の魔物なら問題ないよ』
『てことはこんなかにPMがいる可能性があるのか?』
『んー、あり得るね。数合わせに適当なエリアから捕まえてきた魔物もいるから。ほら、あそこの馬とかもそうだよ』
『あぁ?』
ボクは効果が切れた後もこっちを向いてきた蜥蜴頭に、光の壁をつくって視界を塞いだ。
『……殺すっ!』
『ははは、殺すのはだめだよ。誰かに譲ることはあっても殺すために渡すことはしないよ』
険悪な雰囲気を醸し出す蜥蜴頭とは違い、雪くんは冷静そのものだった。
『あの、カルトくん。それなら私にこの馬、譲ってくれない?』
その会話に混ざったのはボクの上に乗っているお姉さんだ。
『んー、ヨルさんならいいよ』
『じゃあ俺にもこのオットセイくれよ』
『いいけど……そのオットセイ、他種族でも夫と決められると、他の女性を見ただけでキミをボコボコするけど、いいの?』
『……遠慮しとくわ』
『それがいいよ。そろそろ競争を始めるけど、いいかな?』
たわわさんに頬を撫でられ、前を向くように仕向けられた。どうやらこの競争も始まるらしい。
スタート地点にやってくると、突然、オットセイが暴れ出した。
なんと、騎乗していた蜥蜴頭をボコボコにし始めたのだ。抵抗する蜥蜴頭にトドメを刺したオットセイは、かわいくヒレをひらひらさせて、その場を去っていった。
皆、青ざめた顔をしているなか、スタートの火蓋が切られた。ボクは一位を目指すのではなく、この戦いに生き残ることを最優先にした。
なぜなら、周りの魔物が化け物じみた姿をしていたからだ。10メートルを越えるカニもいれば、それと同じくらい大きな蜘蛛もいた。
極めつけは沢山の人の死体を一つのボールにして転がってる悪魔のような魔物だ。あんなのに巻き込まれたらたまったもんじゃない。
颯爽と駆け抜けていく魔物たちの後方で走っていたのだが、彼女は負けたくないらしい。叩きつけるムチに力が入っていた。叩かれるのは嫌いだが、美人なお姉さんに尻を叩かれるなら悪い気はしなかった。
「そっかぁ、お姉さんはこの戦いに勝ちたいんだね……だったらボクは本気を出すよ」
ボクは障害物を華麗に避けながら、見える限りの最短ルートを駆け抜けていった。競技場はただの道ではなく、障害物競走になっていた。
それぞれの魔物に得意不得意が顕著になるレースとなっていた。ただの馬であるボクにとっては網の道を苦行だったが、蜘蛛の魔物は余裕で駆け抜けていた。
当然脱落者も出た、初めに騎乗者を殺したオットセイ、競走の途中で乱入してきた観客と殴り合いになった鹿の魔物、走ってる最中で眠りについた豚。
本当に多種多様な魔物が出場するこのレースでボクは何位になれるのだろうか。
気がつけば競走は後半戦に差し掛かっていた。障害はものではなく人だ。そこにはなんとオットセイに殺された蜥蜴頭もいた。狙いはどうやらボクたちらしい。
『てめぇには世話になったな!今度は俺が殺してやるよ!』
『あ!?やばっ、なんかオットセイきた!みんな逃げろっ!』
蜥蜴頭に突進してきたのは、先程手をひらひらさせてどこかへ行ってしまったオットセイだ。
「オウオウオウオウッ!」
『ちょ、待て。なんでお前がまたっ!?うわっ、やめろ!!』
「オウッ♡」
蜥蜴頭を押し倒したオットセイは、両手を押さえつけてのしかかり、ぬるっとした口を蜥蜴男に近づけていた。
『うへぇ!?ぬるっぬるっする……やめろ、咥えるなっ!?』
オットセイはボクたちに向けて、また手をひらひらさせると、蜥蜴頭を連れてどこかへ行ってしまった。
彼の仲間と思われる人たちは口元をハンカチで押さえ、今生の別れのように涙ぐみながら手を振った。
ボクたちは彼らを遠目で見ながら通り過ぎ、次なる障害へと向かった。そこには屋台が並んでいた。日本の夏祭りのように綿菓子やら焼きそばが売ってあって、無料という文字が見えた。
「うわあ……美味しそう……」
よだれがつい出てきそうなほど美味しそうな匂いがした。背中に乗っていた彼女も目を輝かせていて、ムチを叩くのもやめて屋台を見ていた。
『あっあれ美味しそう……でもレース中だし、ちょっとだけ……んんーっだめよ……でもぉ……』
後ろをちらっと見るとお姉さんが屋台の方をチラチラ視線誘導して懇願してきた。
「お姉さんもか……ボクもあれ食べたいし、寄ってみてもいいかな……」
ボクの前にいた魔物たちもレースなんてどうでもいいや、と言わんばかりに食事を堪能していた。よく見るとスタンプカードを持っていて、料理を渡す際にスタンプを押してもらっていた。
「これ、もしかして食べることで抜けられる障害物?」
ボクの考えが正しければ、屋台エリアの前にいた緑のおじさんは、スタンプカードを渡す人だ。
踵を返して入り口に戻ると、にこにこしたおじさんがいた。彼女は何がなんだか分かっていないようだったが、おじさんはボクの方を見て「これかな?」と言いたげにスタンプカードを取り出した。
「それ!」とボクが言うと、おじさんはにっこりしてお姉さんにスタンプカードを渡した。
『え?え?』
『これはこのエリアを抜けるために必要なカードですよ。お馬さんにはわかっているようですので、説明しますね』
『え?は、はぁ……?』
『こちらのスタンプカードに5つのスタンプを押していただくと、ゴールすることができます。スタンプは5種類だけですが、お店は三十店舗以上あります。食べ物をもらったら必ず完食してください。食べ切るまで次のお店にいることができませんので、その点は覚えていってくださいね』
『は、はぁ……?』
『では、最後の障害をお楽しみください』
スタンプカードに放心気味のお姉さんを連れて、ボクは果物のロゴがついているお店へとやって来た。お姉さんを置いて、ボクは食べたい果物を鼻で指した。
『これかな?』
「うんっ!」
言葉はわからなくても行動で理解してくれる。屋台にいるのは全員頭に角がついた人たちで、日本の鬼に似ていた。服はパンイチではなく、ちゃんと着物を着ている。
向かう先々でお姉さんはスタンプカードを受け渡しして、ボクは食事を楽しんだ。三軒目が終わったところでお姉さんも食い意地が出たのか、ボクの顔の前に手を出して、行きたいところを指差した。
お姉さんが食べていたのは全部スイーツだった。おそらくリアルで制限でもしているのだろう。ゲーム内ではカロリーゼロなのでどれだけ食べても問題にはならないという利点がある。
そこがVRが女性に愛される一番の理由だと思っている。甘いものを独占する人が出てきたら戦争を起こしてしまう、それだけの熱意があるのだ。
現実にも身体に吸収されない糖分もある。すごく美味しいけど食べるとお腹を壊す脂を持つ魚もいる。
「甘いもの食べるために運動したら良くね?」なんて戯言を言う男共には本当に腹が立つ。しない結果、お腹にお子さんを抱えてる中年男性がどれだけいることか。
言葉のブーメランには気をつけてもらいたいものだ。
これらを踏まえてボクの背中に乗っているプロポーション完璧ボディを持つお姉さんを見てみよう。
キュッと締まった腰のラインに、たわわな果実、スラッとした肢体は筋肉が程々についている。
こんなえちえちな身体がなんの犠牲もなくできていると思いますか!できないよね!ボクなんて、ボクなんて……お婿さんからまな板呼ばわりされるんやぞ!それが、それがどんだけ虚しいことか、わかるかい!どうせ、わかんないんだろ!あぁ?
『あら、どうしたのかな?よしよし、落ち着いて』
彼女は心配そうにボクの頬を撫でた。言葉がわからないけど通じ合えることだってある。ボクは甘えるようにお姉さんの手のひらに顔をスリスリした。
『うふふ、かわいい』
お姉さんの笑顔が一番かわいいです。
初対面でこれだけイチャイチャしたし、そろそろゴールしますか。この時点でお店は六店舗ほど回った。スタンプも2つと好調なスタートを切っている。
あとは未発見の3つをどうやって見つけるか。ここでは洞察力が必要だ。このゲームには必勝法がある!
他の参加者がお店で買い物をする瞬間、どのスタンプを押されたかを見る。これに限る!
ボクたちはお店選びをするフリをしながら他の参加者がもらうスタンプをチラ見した。そうして集められたのは4つのスタンプだった。
「あと一つ、あと一つなんだけどなぁ……」
『うーん、もうおなかいっばい……どうしようかしら。このままじゃ……』
ボクたちが止まっている間、すごい勢いでお店を巡りながらご飯を食べ続ける競争相手がいた。それはオットセイと同じくらいの巨体を持つ蜘蛛とチャイナドレスを着た少女だった。
食べ物を蜘蛛が食べていると思いきや、食べているのは少女ただ一人だった。
「ま、まずい!このままじゃ……全部食べる虱潰し作戦に負けちゃう!?」
『なんてペースなの!?しかもお行儀がすごくいい!』
なんとか残りひとつを見つけたボクたちだったが、あと一歩のところで全部食べ尽くしたチャイナドレスの少女と蜘蛛がスタンプカードをコンプリートさせた。
ボクたちは惜しくも二位という結果だった。
そのときは知ることができなかったが、一位は《味噌汁ご飯&ヴィル》、二位は《ヨル&メビウス》、三位は《ミント&ヒデ》だった。
途中の湖で釣りを始めて脱落した参加者もいた。脱落者《蒼空&ハクニシ》。
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※簡単な紹介
味噌汁ご飯 - ラファムの漢の娘
ヴィル - 八雲の子蜘蛛、種族は巨躯の災蜘蛛
ミント - うさぎさんのPM
ヒデ - 種婿
また作品全く関係ないですが、知り合いにお子さんが生まれたので、おすすめな絵本教えてくれませんか?
ちなみにウマ娘はやってませんが、『うまぴょい伝説』は好きです。
新キャラが完全ネタキャラになってしまっているので、戦いシーンも入れる話も書いていきたいと考えてます。また、本編に繋がるストーリー展開も徐々にさせていくので、気長に待っててください。




