第120話 種馬娘の放浪記
すいません、遅れました。
運命共同体の続きです。
ヒデ→死体に寄生する種型の魔物(種くん)
鈴華→今回の主人公、ヒデの公認ストーカー
北西→草原エリア、第一エリアボス(狼くん)
南西→陰鬱な森エリア、第一エリアボス(骸骨くん、骸骨さん)
ヒデに招待されて始めたFEO。
目覚めた草原には目つきの悪い悪魔が立っていた。黒くツルッとした角に悪魔の羽、チャームポイントの尻尾。これぞ、悪魔といった姿をした彼。
ボクは我慢することができなかった。だってしょうがないじゃないか。だって彼は………
「かわいい〜!!」
「や、やめろ!抱きつくなっ!」
低身長のボクよりも小柄な悪魔は人形のようにまるっとしていた。口調は生意気だったが、それがボクの母性をくすぐった。
「ペロッ」
「うわっ!?こいつ舐めてきやがったぞ!初対面だよな?おい、なにしてんだ?うわわわわ、ど、どこ触ってるんだ!?」
「しっぽ……ふふふ、ここがいいのかな?ほれ、ほれっ」
「ややや、やめろっ!やめろよぉ……」
尻尾を撫でると身体をビクビクと震わせていた。感じやすいのかな?
「よしよしよし、いい子だねぇ!」
「さわんなって!くうっ……そこはだめだって!ちょっ……あっ……」
「え?」
悪魔たんは昇天する瞬間に真っ黒な光を放った。
眩い光が収まると、目の前には真っ黒な闇があった。
「な、なに?」
「っ!?」
闇が上下に動くとその場から離れて姿を現した。人形のような彼は光と共に変化して悪魔のような美少年になっていた。
「あわわわわ………」
「ふっ……俺のかっこよさにビビッたか!」
「かわいいっ!」
「この女……見境なしかよ!や、やめろ!抱きつくなっ……舐めるなぁ!?」
「ぺろぺろ」
「ひぃぃぃ!?やめ、やめっ……あっ……」
一通り舐め回したボクは、満足して離してあげた。その頃には悪魔たんはベタベタになって横たわっていた。
「ううううう、もうお嫁にいけないっ」
「ごめんね。ボクにはヒデっていうお婿さんがいる予定だから、もらってあげられないんだ」
「せめて冗談でも、もらってくれよ!?」
「ボクは純粋無垢で清楚な少女だから」
「純粋?清楚?」
「すまない。もらってあげることはできないけど、今日みたいにいっぱい愛してあげるから、我慢してくれ」
「うーんん、いらん。貰わないでくれてよかった」
「まったく……キミは、照れ屋さんだね!」
「うわっ!来るなっ!やめ、やめろぉぉぉぉおおおーーー!!!」
彼が素直になるまでボクは彼のことを愛してあげた。無事、彼は素直になり、ボクのことを認めてくれた。彼はきっとこれからもボクと良き友達になってくれることだろう。
「うんうん、で、誰だっけ?」
檻に入ったボクは鉄格子越しに質問を投げた。
「こいつマジかよ。初対面な上に俺が誰かもわからずあの奇行に走ったのか。やべぇやつだな」
「ヒデからサポートAIがいるって言ってたけど、キミであってるよね?」
「ああ、そーだよ。これから説明してやるから、そこから出るなよ」
「もう、照れ屋さんなんだから」
「く、くるなよ、出てくるなよ?」
「いまだけは、ね……」
「ひぃぃぃ!?ホントにやめろよ、マジで……」
かわいい悪魔たんは、姿に似合わず名前はアドルフだった。説明は細かくしてくれた。ボクが反応するたびにビクビクしていたのは、本当に面白かった。
「種族は何にする?」
「選べるのかい?」
「いんや、3つの中から選んでもらう。この3つのサイコロを振ってくれ」
「なにも書かれてないけど?」
「下の面を触れてみな」
「わぁ……表面に数字が出た。しかも動いてる」
「転がして下についた面で大枠の範囲を抽出して、あとは目押しで数字を選んでもらう。その選んだ数字に紐づく魔物がお前さんの選択可能なものになる」
「随分こってるね!」
「悪魔だからな」
「うんうん、かわいいねぇ〜」
手をワキワキさせているとアドルフは顔を引きつらせていた。
「その手はやめろ。さっさと振れ」
一歩下がった位置で見守るアドルフ。ボクはワクワクしながらサイコロを振った。できれば、ヒデと同じ種になって、同種同士、手取り足取り戦い方を教えてもらいたい。
最近はFEOばかりで相手にしてくれない。寝てるヒデに何度かいたずらを仕掛けてみたが、反応がなくて楽しくなかった。
次の日にカンカンになったヒデが家に説教しに来てくれたけど、それだけじゃスキンシップは足りない。
「なにがでるかな、えいっ!」
サイコロを振ると、数字が表示された。それを適当にパパッとタッチすると、魔物の姿が表示された。
「これは……馬?」
「野馬に、牙熊に、野猫か。まぁまぁな代物だな。どれにする?」
「うーん、くまさんもねこさんも魅力的だけど、ボクはおウマさんにしようかな」
「理由は?」
「ボクのお婿さんがシードパラサイト?っていう魔物なんだけど、二人を合わせると種馬っていうナイスなペアになるんだ。これって素敵なことじゃない?」
「わかった。お前が変人なんだってことが、改めてわかったよ」
「ふへへ、褒めなくてもいいのにぃ〜」
「気持ち悪い笑い方をするな。さっさと行くぞ」
「どこへ?」
「拠点だ」
どうやらあの草原はロビーと呼ばれる場所だった。本格的にゲームをするために拠点へと移った。
そこでチュートリアルを始めたのだが、ボクはアドルフに手取り足取り調教されることになった。
アドルフは厳しかった。時には鞭で叩かれ、時には罵詈雑言で非難された。
馬小屋で一夜を共にし、ふかふかの藁ベッドに腰を落ち着かせ、アドルフは人が使うベッドにうずくまり、まるでアドルフが主人、ボクが家畜なんじゃないかって差をつけられながら、チュートリアルという長い時間を過ごした。
その結果、ボクは立派な競走馬として活躍できる力を手に入れた。
アドルフが言うには、北西にある第三エリアに魔物たちで競い合う競馬場があり、そこで優勝すれば、そこらへんの藁ベッドなんか目じゃない、素晴らしいベッドが手に入るそうだ。
だからボクは、チュートリアルが終わってすぐに草原へと駆け抜けた。
「ふふふ、これからボクは暴れん坊将軍の馬と呼ばれるようになるために、この草原を支配するのだ!」
そんな野望を胸に第一エリアへと訪れたのだが、気づいたら悪名高いPHに捕獲され、南西のある町へ行くための動力とされていた。
そう、ボクは暴れん坊将軍の馬になる夢を砕かれ、ある商会の馬車に括り付けられて、知らないおじさん達を引っ張ることになったのだ。
「ううう、なんでボクはこんなことに……これから競走馬になって一山当てて、いいベッドを……ん?ベッド?あれ、なんでベッドが欲しいんだっけ?」
気づいた、気付いてしまったのだ。いつの間にか至高の藁ベッドを目指して特訓していたことに。
「ボクは別に藁ベッドなんて……まさか、アドルフの野郎、ボクに催眠でもかけやがったな!許せない、許せない……」
ボクが恨めしそうにしていると馬車の方から話し声が聞こえてきた。
『なんだぁ?この馬、妙に殺気立った顔してるが?』
『あれだろ。お前が買ってきた人参がおいしくなかったんだろ』
『だぁー、やっぱノッカーさんの人参じゃないとだめなんかな?』
『ノッカーさんと言えば、いつの間にか【うさぎ界の貴公子】なんて称号を得ていたらしいじゃねぇか。それぐらいすごいお人の人参じゃないと野生の馬も言うこと聞かねえッペ』
『そうだな、今度はそうしよう。あの街でぎょうさん儲けたら、この馬にもうまい飯食わせてやんねぇとな!』
『あっはっはっは、ちげぇねぇ!』
男達は陽気に笑っていた。男達がなにを言っているのかさっぱりわからなかったが、気のいい人たちということはわかっていた。
道を進んでいくと魔物に遭遇する。捕獲された身ではあるが、野生の馬と思われているためか戦いから守ってくれる。しかもパーティに組み込まれて経験値も貰えてレベルが上がっている。
おかげで戦ったことがないのにレベルが10になっている。
最初の頃は男達もボクを指差して真剣な顔で話し合っていた。
『こいつ、野生の馬のくせになんてかっけぇ名前してんだ!』
『きっとイカした主人がこの馬に名付けたんだろうぜ』
『あれ、この馬メスじゃね?』
『ホンマや!だから気が荒かったのか……』
『男から人参を貰うのを嫌がっているのも頷ける。ここは紅一点のメレクサさんに餌やりをやってもらおう』
『あたいに任せなっ!』
『さすが姉貴だぜぇ!』
『あっはっはっは〜っ』
なにを言っているのかわからなかったが、その時からアマゾネスみたいな格好をしたお姉さんが人参をくれるようになった。
野菜畑を横目に進んでいくと小さな教会があった。そこにはおばあちゃんシスターと半裸の男が腕相撲をしていた。
『うおおおおおーーーっ!!負けてたまるかぁっ!俺はばあちゃんを倒してカルト帝国の人外カフェに行くんだぁっ!』
『ほれほれ、ばあちゃんがお茶を飲んでる間に勝つんじゃよ』
シスターは茶をすすりながら屈強な男の相手をしていた。
『よ、余裕だな、ばあちゃん……だが俺にも秘策が……』
『ふんっ!』
『ぬわぁ!?』
汗をだらだらにしながらニカッと笑った男だったが、シスターはそんなもの知ったことかと言わんばかりに筋肉ダルマの手を机に叩きつけた。
『勝負ありじゃ。修行してまた来るのじゃ』
『くぅ〜。チッ、仕方ねぇ。また来るぜ』
『次はお土産話も一緒にのう』
『おうっ!待ってろよ!』
男は脱ぎ捨てたシャツを片手に教会を去っていった。手をひらひらさせて見送ったばあちゃんシスターはこちらを見て、ニコッと笑った。
『いらっしゃい。次は貴方たちね』
ボクを連れた男達はすでに通過資格を持っているそうだ。持っていないのはあとボクただひとり。
野生の馬だろうと子供だろうとエリア間を超えるには、エリアボスを倒さないといけないルールがある。
現在、この先の道にはその境界がないのだが、門番的存在であるばあちゃんシスターの許可を得ないと今から行く場所には入れないそうだ。
言葉のわからないボクにシスターは絵を使って説明してくれた。
『そうさね、このお馬さんとの勝負じゃが、簡単なゲームしよう』
そう言って取り出したのは大きなサイコロ二つ。シスターが一つを転がしたのを見て、ボクはサイコロを蹴った。
シスターの目は三、ボクのは四だった。
『わしの負けじゃな』
シスターがなにかを言ったあと、ファンファーレが鳴り響き、突然ウィンドウが現れた。
《ミニゲームで聖骸の大司教に勝利しました。》
《聖骸の大司教に認められました。》
《称号【エリアボス踏破者】を獲得しました。》
《称号【聖骸の大司教踏破者】を獲得しました。》
《PM専用報酬:聖骸の大司教のサイコロ、
聖骸の大司教の腕輪、聖骸の大司教の椅子、キョテント1つ、生存ポイント1000P,スキルポイント10SP,ステータスポイント10JP》
「え?え、ええ?」
一体何が起こったのがわからない。今のどこに報酬がもらえる要素があったのか。ボクが目を回していると、シスターはボクの背中を撫でて落ち着くように促した。
現実が受け止められないまま、ボクはメレクサに引かれて先の道へと連れて行かれた。そこではおじいさんが畑仕事をしていた。
おじいさんは人懐こい顔をしていたのだが、周りにいた男達は緊張をしている様子。そんなおじいさんはボクに色んな野菜をくれた。
それからボクたちは目的地へと着いたのだが、どうやら入城するには手続きが必要らしく、行列に並ぶことになった。
暇を持て余していると、周りがざわざわしていることに気がついた。見上げてみると、その理由がわかった。
雪のように真っ白な髪をした少女が、身体に見合わない大剣を背負っていた。それだけではない。この世のものとは思えない魅力的で可愛らしい顔をしていた。
「え?雪くん?」
その少女は隣のクラス、お婿さんのヒデと同じクラスの立花雪だった。
ボクは咄嗟に出た言葉にハッとした。ゲーム内ではリアルの名前を出すことはご法度だ。なぜなら個人情報に値するからだ。個人が自ら公開しているならまだしも、他人が出すことはプライバシーを侵害することになる。
言葉が通じないとはいえ、もしかしたらボクの言葉を聞き分ける人がいるかもしれない。そう考えるとかなりの失言だった。
ボクはその事実から逃れるために目を閉じてしまった。彼が通り過ぎていくのを待とう、そう考えていた。けれど、現実はそうもいかない。
『ねぇ、その馬なんだけど、僕に譲ってくれないかな?』
目を見開いた瞳に映ったのは、ボクの心を見透かすように笑った雪くんの姿だった。
次話もこれの続きを書く予定です。楽しみに待っていてください。
作品関係ないですが……
私は原神を毎日やってますが、ウマ娘やってるなろう小説家さん多いみたいですよ。




