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第117話 カルツマの交渉術

遅れました。すいません。

「カルツマ、どうして私はここにいるの?」


 カルツマに問いかけた。ここに来るまでの記憶がまるでない。一体いつからカルツマに膝枕にされているのかと。


「…れた」


「え?」


「クマにやられたんだ」


 カルツマは絞り出すようにそう言った。骨の頭の隙間からカルツマの悲しそうな目が見えた。


「くま?」


「そうだ。キョテントの近くでルティアの臭いを嗅ぎつけた熊がルティアをやったんだ。あの熊は執念深くてな。ルティアの臭いが宿敵の臭いに似ているから、探していたんだと思う」


「臭い?」


「あぁ。ルティアの兄である八雲は、あの熊に屈辱を何度も与えてきたからな。臭いが似ていて自分より弱いと感じたんだろう。だから襲われたんだ」


「そんなことってあり得るの?」


「普通はありえないが、あの熊はちと特殊でな。死んでも記憶を引き継ぐことができるんだ。NPMでもただのNPMじゃない……」


 カルツマは迫力のある雰囲気を出した。それに私は感化され、感情的に疑問を投げつけた。


「それってまさか……エリアボスなの?」


「そうだ。奴は北東の第一エリアボス、森賢熊(フォレストベア)だ。生半可のレベルじゃあ太刀打ちできねぇ」


『森のくまさん』の愛称で親しまれている第一エリアの暴君だ。初心者の頃は皆、このくまさんと戯れるのが日課になるほど、人気を博していた。


「なんでエリアボスが野放しになっているのよ……エリアボスって確か指定のエリアから出れないんじゃ……」


「普通はな。けど、プレイヤーがある条件をクリアすれば、エリア間の境界がなくなる。魔物がより強大になり、生態や環境も干渉し合ってエリアが変化する。初心者には厳しい世界の完成だ!」


 カルツマの言っていることは大体理解できたけど、起こしたプレイヤーは許せない。


「誰がそれをやったの?」


「ううーん、聞きたいか?多分聞かないほうが俺は幸せだと思うぞ」


 カルツマは言葉を詰まらせた。それほど重要なことなのだろう。


「そんなに?」


「そうだな、特にルティアは……」


 私に限ること?一体何が……きつねの特性に関わるのかしら?

 もしかして進化先が絞られてしまうの?話を聞いたからってそんなことが起きるわけ……ないでしょ。


「いいから教えてよ」


「後悔することになるぞ」


「後悔なんて何回もしたことあるんだから。一度や二度増えたって気にしないわよ」


「そうか……そこまでの心意気があったのか。じゃあ覚悟して聞けよ」


「うん」


「お前の兄がやった」


「えっ!?うわぁ……」


 一瞬何を言われているのかわからなかった。けど、カルツマの言葉を理解するために、聞いた言葉を反芻した。


 わかりたくなかったけど、お兄ちゃんならあり得ると心ではわかってしまった。


「またお兄ちゃん……」


「心を強く持て」


「ねぇ、うちのお兄ちゃん。他になにかやらかしてない?」


「……まだある」


 ぼそっと呟くカルツマ。膝枕をしているはずのルティアに顔を合わせようとしないカルツマはちらっと見たルティアの怒った顔に怯えた。


「また関わりそうになったら教えてくれない?」


「え、あー、うん」


 威圧的なルティアの言動に頷くしかなかったカルツマ。


「はぁ……まぁいいや、気にしても仕方ないわ。次行きましょう、次」


「もういいのか?」


「うん。だってこうやって何もしてない時間が勿体無いじゃない。私は一歩でもお兄ちゃんがに近づいて、正面から殴りたいのよ」


「お、おう」


 カルツマは苦笑いをしていた。応援はしてくれるらしい。さすがサポートAIなだけある。


 私は頭を起こして立ち上がると、あることに気付いた。


「えっ……なんでパジャマ!?」


 いつも着ているピンクのもこもこふわふわしたパジャマだ。お兄ちゃんに着せたときは袖が長く萌え袖になって可愛かったが、私の方が背が高いせいか、そんなことは起きない。


 カルツマの方を振り返ると「あちゃー」というわざとらしい表情を浮かべて、頬をかきながらそっぽを向いた。


「カルツマ……?」


「いいじゃねぇか。可愛いんだしよ」


「なら、こっちを向いて言ってくれる?」


「ま、細かいことは気にするな。早く次行こうぜ。次」


「話はまだ終わってないわよ?」


 カルツマが立ち上がろうとするところで肩に手を置いた。思うように立ち上がれなかったカルツマはまた座った。


「ま、待て、話せば分かる!」


「そうね、しっかり話しましょうねぇ……」


 カルツマとはしっかりお話して、今度からは私が選んだ服でリスポーンするようにさせた。


 最後まで私に可愛い服を着させようと粘ってきたが、可愛い服を着るのはお兄ちゃんだけで十分だ。


 等価交換でカルツマも可愛い服を着てくれるなら着てもいいという条件を加えたら、あっさりと引き下がってしまった。


 本当に惜しいことをした。


 カルツマに促され、拠点に戻ると狐の姿に変化した。カルツマを見上げて首が辛いと訴えると、カルツマに抱っこされた。


「こうやってると子供みてぇだな」


「そうよ、私はまだ子供なの」


「おう、そうだな。どうする?レベル上げに行くか?」


「うん。いつまでもカルツマに甘えていたらここから出ることができないもの」


「そうだな。けどよ、せっかくこのゲームを始めてくれたんだ。少しだけお節介してもいいよな?」


「なにするの?」


「秘密さ。少し待ってろ」


 カルツマは私を芝生の上に置いてどこかへ行ってしまった。


 カルツマに待つように言われているので拠点から出るのは忍びない。仕方ないのでスキル磨きに励むとしよう。


【風震脚】と【瞬発】の使い方はあれで良さそうだが、視覚外からの攻撃には今の段階では回避不可能だ。


 どうにかして意識外の攻撃を避ける術を学んでおかないと、またくまさんの不意打ちにやられてしまう。カルツマに聞けばいい方法を教えてくれそうだけど、それでは成長がないのと変わらない。


「うーん、なにかいい方法はないかしら?」


 悩むルティアを背にカルツマは、自身のやるべきことをするために、北東のエリアを牛耳っている八雲の担当AI、ルカのもとへと訪れた。


 八雲の拠点に入ったカルツマは、ルカを見つけるとすぐさま歩み寄った。しかし、初めて見る人に警戒したのか、子蜘蛛たちがカルツマの前に立ち塞がった。


「俺はお前たちの敵じゃねぇ。ルカの知り合いだ」


 カルツマは子蜘蛛たちの前にしゃがみこみ、和解を始めると、子蜘蛛たちは少しだけ警戒を解いて話を聞くことにした。


「ルカ姉の?」


「そうだ。いい子ならこの飴をやろう」


 カルツマはポッケから飴を取り出すと、子蜘蛛たちに振る舞った。


 すると、子蜘蛛たちは、お菓子くれる人にわるいひといない!と思い込んでいるらしく嬉しそうに道を譲った。


「ありがとよ」


 子蜘蛛たちはもらった飴を抱えて嬉しそうにルカのもとへと駆け寄った。


「ルカ姉、お客さんだよ」


「おきゃくさん!」


「お菓子くれたの!」


 いつものようにお茶をするルカを気遣い、ぴょんぴょんと机の周りを飛び跳ねる子蜘蛛たち。


 わちゃわちゃとルカに伝言をすると、小さな子蜘蛛たちを連れてどこかへ行ってしまった。


 子蜘蛛たちかいなくなるとカルツマに視線を向けたルカは、要件を聞くために自分の向かい側にある席へと誘った。


「どうしました?」


「ちょっとうちの子の手助けをしてもらいたくてよ。子蜘蛛たちに協力を願えないか?」


「ええ、いいですよ。けど、カルツマの担当の子は昨日から始めたばかりなのでは?」


「そうなんだが、運悪くキョテントの前に熊公がいてよ」


「………それはまた大変ですね。子蜘蛛たちを派遣しておきます。位置を教えてください」


「あぁ、ありがてえ」


 子蜘蛛たちの応援を無事要請できたカルツマだったが、ルカもタダではなかった。


「それで……カルツマ、例の物は?」


 ルカは誰にも聞かれないようにぼそっとカルツマに話しかけた。すると、カルツマは懐からスーッと一枚の写真を取り出した。


 ルカはそれを受け取ると、一度確認してすぐにポケットにしまった。


「カルツマ……最高!」


「だろぉ?」


 ルカとカルツマは高笑いすると、硬く握手を結んでお互いの行動を始めた。


 ルカの要請に応え、子蜘蛛たちはすぐに熊の捕獲に向かった。今の子蜘蛛たちからしたら雑魚でしかないが、久しぶりの珍味に心を踊らせている。


 エリアボスの肉は基本的に美味いのだが、エリア間の境界がなくなったことにより、エリアボスの肉の味も変わってしまったらしい。


 これはカレー炒飯の調べによるもので、リスポーンした瞬間のエリアボスはこれまで通りの閉ざされたボスエリアにいるエリアボスの肉の味がするが、時間が経つにつれ、本来の味から遠ざかり、いつもとは違った味わいがするらしい。


 よってキョテント前に居座っている熊公は子蜘蛛たちからしたらご馳走であり、ルカからの情報は朗報でしかない。


 子蜘蛛たちは機動力を活かして熊公を囲むと、熊がルティアにやったように意識外から拘束した。


 子蜘蛛たちに散々やられた記憶がある熊公は畏縮して「クゥーン」と情けない声を漏らした。


 無事除去が終わると、子蜘蛛からルカへ、ルカからカルツマに伝達され、ルティアは安全にキョテントを出ることができた。


 クマの姿はなく、カルツマの言うように安全になったらしい。今度助けてくれた人にお礼をしよう。


 レベルが8になるとこの辺で相手になる敵は少ない。そこで少し遠征して西のエリアに行くことをおすすめされた。


 クマは北東にいるので、現在地である北の位置は再びクマに会う確率が高い。クマは基本的に一度仕留めた敵の位置を把握しているので留まるのもまずい。


 それならばいっそもっと離れた場所へ向かうことがいいだろう。ということでエリアボスも初心者のレベルにあった西に向かうことになった。


 離れている場所なら南でもいいのでは?とカルツマに聞いたら、「あそこはPHがいっぱいいる」とのこと。このレベル帯で行っても狩られるか、愛玩動物扱いされるだけだ。


 いきなりの大移動になったが、第一エリアは狭いほうなので、すぐつくはずだと言われた。


 草原を散歩しつつ、目についたアイテムを拾っていく。何に使うか全くわからない草や食べれるかもわからない木の実。打ち捨てられた武器の破片など、本当に色んなものが落ちていた。


 ゴミ拾いをしてる感覚になるが、初心者の段階ではこれはわりとメリットがあったりする。何も持ってない状態なので少しでも物を持っていると、お金がないときに売ることができる。


 しかし、それはPHの話だ。PMである私には関係ない話。けれどこういうのって案外ワクワクするものだ。お宝探しみたいで楽しいし、アイテムの情報が手に入ったりする。


 後々手に入れたものを見て、ゴミだと思うときが来るかもしれない。そう思ったときは裕福になったときか、物を知ることができたときだ。


 歩いていると色んなものを見つける。さっき言ったアイテムもそうだが、走る馬や追いかける戦士、昼寝して野兎(ラビット)に倒されて身ぐるみを近くのPHに取られてる人。


 見てるだけで楽しくなってくる。目的を見失わないようにしないといけない。


 マップを確認するといつの間にか西の森にたどり着いていた。そこはジメジメしていて、もふもふの毛が身体にへばりつくほど湿っていた。


 いわゆる湿地と呼ばれるところだ。カルツマ情報では少量無形粘体(ミニスライム)小蛙(ミニフロッグ)がいる。どちらも固有の水系統のスキルを使ってくるらしい、注意が必要だ。


「ここからは未知の領域。気を引き締めないと……!」


 薄暗い湿地ではすでにルティアを注視し始めているものがいる。油断大敵だ。

眼精疲労で熱が出てまして、また少し遅れるかもです。

文体を調整しますので、度々更新がかかりますが気にしないでください。内容は変わりません。

最初の方に入れていた設定集の位置も別作品に投稿して、見たい人だけ見てください、という仕様に変えます。

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