第12話 心強い助っ人
ログインしてから、しばらく寄り添って眠っているフウマ達やハクマ達を眺めていると、ミントさんが帰ってきた。
「おかえり、ミントさん」
「た、ただいま…です」
「ルカさんも子蜘蛛達も寝てるから、今は好きなようにしてても大丈夫だよ」
「お、お構い無く…」
ミントさんには自由にしてもらい、俺は繁殖で新たにインベントリに入っていた卵を取りだし、愛情を込めながら魔力を注ぐ。今回はいじけないように2つの卵に集中するつもりだ。
「ミントさん?どうかした?」
「い、いえ……」
はっきりしないミントだが、距離が縮まっていることは実感できた。いつもなら数メートルは離れているのに、今ではすぐ隣に座っていた。
「そういえば、ミントさんはレベル幾つなの?これなら行くところは第一エリアよりも強い敵が出るはずだよ」
「え、えーっと……Lv3です……」
「よくユッケから逃げられたね……」
「アルベルトさんに、逃げられるように、そ、速度を上げることをおすすめされたので……」
ミントさんが言うアルベルトさんとはきっと担当AIのことだろう。逃げ足のための速度か。戦うことに臆病なミントさんにとっては逃げ足が優先度が高いわけだ。
「じゃあちょっとレベルを上げてこようか」
「えっ!?」
「あ、別に戦わなくても大丈夫だよ。止めだけ刺してくれれば十分だからさ」
「そ、それって危なくないん……ですか?」
「俺の糸の拘束力なら問題ないよ、ついてきて」
「ゆ、ユッケさんは待たなくていいんですか?」
「いいって、多分察してくれるはずだからね」
ミントさんを連れて第二拠点へ向かう。そこはミントさんを連れてきた場所なのだが、トラウマを引き起こさないことを祈るばかりだ。
「暗いけど見えてる?」
「は、はい。夜目のスキルを持っているので……」
「そっか、じゃあここでちょっとだけ待ってくれる?一人で待てないなら、拠点に戻っててもいいからさ」
「わ、わかりました」
夜になると活発に動き回るコウモリは、棲みかを取り戻すためにこの横穴に突撃してくる。そのため、無謀なコウモリは即座に糸に絡まり、そこら辺に転がることになる。
本来なら空からの奇襲や遠距離からの攻撃を得意とするが、糸のような捕獲のためのものには弱く、身動きが取れなくなれば、必然と簡単に倒せるようになる。
そんなコウモリをさらに拘束し、集めていく。糸の多くを絡み取れば身動きがとれなくなるが、仲間の追撃の役に立つ。集団による攻撃には犠牲は付き物とばかりに無策に突っ込んでも俺らの巣はそう簡単には壊せない。
中には俺らの通り道をうまく見つけて、中まで侵入してる猛者も見られるが、中に入られたとしても棲みかの奪還には繋がらない。なぜならそれは俺らが仕掛けた罠であり、入ることはできても出られないのだ。
とまぁ、こんな感じで俺らの思い通りに動いてくれるコウモリ達は良い食料でもあり、良い経験値となる。苦労せずして良いものを手に入れる。最高じゃないか。
そんなことを思いながら沢山のコウモリを生け捕りすることができた。魔糸の木杭に吊り下げてミントさんのところに戻ると、隅っこの方でちょこんと座っていた。
「ミントさん、お待たせしました」
「は、はい……そ、その白い塊はなんですか?」
「これにはコウモリが入ってるんだ。今からこのコウモリ達に止めをさしてもらうんだけど……大丈夫?」
「は、はい。チュートリアルで魔物は倒したことがあるので……」
「そっか。なら、ミントさんの攻撃手段を教えてくれる?」
「は、はい。私の攻撃は蹴りと魔法です……」
蹴りと魔法か。蹴りだったら適当に体を露出させればいけるか。魔法はどんなものかわからないから、詳しく聞かないとな。
「魔法と言うのは?幾つか教えてくれる?」
「わ、私が使うのは風と水と土の魔法です。こ、攻撃魔法は『風球』『風刃』『水球』『土礫』です」
思ってたよりも多くの魔法を覚えていた。俺もそろそろ魔法を覚えないとな、とは思っていたが子育てが忙しく手が回っていなかった。
「じゃあ広いところに行こっか」
「は、はい」
広いところと言うのはいつの間にか孫蜘蛛達が採掘しまくっていた場所だ。ここなら魔法の練習にも使えるし、コウモリの保管にも使える。
「ここなら安全に戦えるはずだよ。ちょっと準備するから待っててね」
「は、はい」
準備は天井に巡らせてある糸と先程とってきたコウモリを糸で吊り下げる。それから攻撃手段を糸で防いで完成だ。あとはミントさんに魔法で倒してもらえれば問題はない。
「じゃあミントさんはこのコウモリ達に魔法を当ててくれるかな?」
「わ、わかりました」
コウモリ達から離れるとミントさんは小さな前脚を突きだして魔力を集中させていく。それからコウモリを睨み付けると呪文を唱えた。
「『土礫』」
天井からぶら下がった無防備なコウモリへ土の礫が叩き込まれる。その多くが外れているが、魔法は器用依存で命中率が増加するので、速度に多く振り分けているミントではこうなることも仕方がない。
「『風球』」
風球は比較的範囲の広さを変更できる攻撃魔法で、魔力の圧縮率が特に影響して威力が変化する。俺が唯一使える魔法なのだから、多少なりとも理解が深い魔法だ。
コウモリにはダメージが入っているようで時折コウモリが叫んでいた。それほどHPが高くないコウモリは速度を主軸とした戦闘を行うため、機動力の失った状態ではただの雑魚である。
それを眺めながら卵を愛でてると、拠点方面からユッケが帰ってきた。ユッケはミントの方を見ながら感心していた。
「ただいま、ミントさんのレベル上げか?」
「おかえり、そうだな。俺も第二エリアの敵の強さがわからないからね。レベルは上げられるときに上げとかないと、死に戻りで置いてけぼりなのは可愛そうかと思ってね」
「良い心がけだな。ちなみに八雲は幾つなんだ?」
「俺は10レベだよ」
「もうちょい上げといた方がいいぞ」
「具体的には幾つにしといた方がいい?」
「15は欲しいとこだな」
「わかった。ちょっとコウモリ捕まえて来るわ」
「いってら」
「ミントさんにもアドバイスよろしく」
「いいぞ」
ミントさんをユッケに任せて巨大空洞に向かう。棲みかを奪還するために何度も突撃してくるコウモリを捕獲しに行く。さすがのコウモリもそろそろ頭を使って攻めてくると思うのだが、全く進歩しないのはなぜだろう。
巨大空洞前に来るとコウモリが飛び交っていることが伺える。こちらに気が付いたコウモリは勢いをつけて襲ってくるが、糸に気が付かず絡まって目の前にぼとりと落ちてくる
「こいつらもしかして糸見えてないんじゃないか?」
目の前でバタバタと羽を動かして必死に逃げようとしてるが、それが糸を絡むことを助長して自ら糸だるまになった。
「よいしょ」
糸だるまに止めをさして、次の獲物がやって来るのを待つ。先程のコウモリがだいぶ糸を持っていったので新しく張りかえる。
なかなかこちらへ来ようとしないコウモリ達へ俺は良いことを思い付いた。特に使い道がないけど不味そうなワームの肉を糸にくっつけて釣りをしよう。コウモリが糸を見えていないはずなら、肉に飛び付いて来るはずだ。
肉には一応全部食べられないように糸でコーティングをしておこう。糸が見えていれば釣れない。逆に見えていなければ釣れる。これは娯楽としてはちょうど良い。
「さぁ、来いっ!」
ワクワクしながら待っていると、数匹のコウモリが寄ってきて警戒をしていた。そりゃあ素の肉が糸に繋がっているとはいえ、浮いているのだ。警戒しない方がおかしい。
糸を引っ張ったり離したりしてまるでこの肉は生きているかのような動きを見せると、よりコウモリ達が警戒するが、ワームの肉とはいえ、生肉が動くはずもなく、コウモリ達の知力の低さに苦笑いが込み上げてくる。
コウモリ達が警戒を強めて一向に動かないので、近くの壁に糸を張り付けて新しい肉に糸をコーティングしていく。そして少し離れたところに投げ込む。
「次こそ!」
それを繰り返してると早くも一時間経過したので卵を愛でる。卵を背中に戻していると後ろから足音がしたので振り返るとミントさんを背中に乗っけているユッケの姿が。
「何してんだ?」
「コウモリ釣り」
「レベルは幾つだ?」
「10レベであります!」
「ちゃんとやれや」
「ごめん、ついコウモリ釣りが楽しくて」
ユッケに軽くお灸を添えられたので、真面目にやろうと思っていたものの、コウモリがそもそもこっちに飛んでこない限り、コウモリを倒すことなどできないのだ。
「言い訳はいいから、そろそろ深い森に行く準備をしてくれ」
「アイアイサー」
ユッケはちょっとイラついた舌打ちをかまして引き返していった。ミントさんだけはあわあわしていて、少し癒された。
糸を手繰り寄せてみると3匹のコウモリが逃げようと必死にバタバタしていた。実験は成功だったが、ユッケには怒られてしまった。
コウモリ達に止めをさして肉を回収する。卵を撫でて癒されつつ拠点に戻る。拠点ではすでに目覚めたフウマ達が卵を愛でていた。
「皆、生存ポイント預けておいて。それから卵は背中に乗せて移動な」
フウマ達は慣れたもので、魔力を注いだら背中に乗せて糸で固定した。ハクマ達は初めてながらフウマ達の姿を見て真似をする。俺は二つだが、後ろ脚にくくりつければ案外落ちないことがわかっている。
今からだと夕方に孵化するはずだ。それまでに深い森までに到着しなければならない。
「おいおい、それで戦うのか?」
「あぁ」
「このメンバーだときつそうだし、俺の知り合いを呼んでもいいか?」
「それってオープンβの5人の誰か?」
「そうだな。本当はカルトを呼びたかったんだが、あいつは今日リアルで用事があるらしいからいねぇ。だから今日いる人を呼ぼうと思うがいいか?」
「俺はいいけど、ミントさんにも聞いた方が良いと思うよ」
ユッケは背中に乗っているミントに顔を向けた。
「どうだ?」
「わ、私は怖くない人だったら大丈夫…です」
「今日いる人に怖い人はいないな。どちらかといえば俺達の方が厳つい姿だしな。ミントさんはちょっとここで待っててくれ」
「は、はい」
ミントはユッケの背中から降りる。ユッケが自分の拠点に向かっていくと、ミントはルカさんの膝元にダイブした。ルカさんは特に気にすることもなく、優しく撫で始めた。
深い森に行く準備としては食料を少しと魔糸の木杭を製作しておく。フウマ達は準備が必要ないようで、背中から卵を下ろして撫で回していた。
俺もやることがなくなったので卵を愛でながら、産まれてくる子供達の名前を考える。俺の子供は属性と『~魔』でつけていたが、ハクマやコクマの流れに従って、色と『~魔』にしよう。
ハクマとコクマの子供はフウマ達の子供と同じ流れでいいだろう。そうするとミドウ達の子供は『~ま』『み~』ときたから『~ム』にしよう。
『~魔』の名を持つ子蜘蛛は魔法特化にして、『魅~』の名を持つ孫蜘蛛は近接特化にした。次は『~ム』の名を持つ曾孫蜘蛛だ。なにがいいかなぁ。
今必要な役割は斥候とタンクだ。近接特化にしたミドウ達だが、攻撃力はあるが防御力が高いとはいえない。ある程度の近接戦闘ができるが、長時間の猛攻と一撃に重きを置いた攻撃に耐えれるかは、正直できるとは思えない。
だからこそのタンクが必要と言える。斥候に関して言えば、今の俺らは糸を張って待ち構えることはあっても自らが攻めるということはない。だから斥候は必要だ。
よって防御力を高めたタンクか速度を高めた斥候にしよう。今回は森賢熊と戦うが、今からタンクになろうとしても間に合わないし、マップ埋めを行うためにも斥候にしよう。
「ただいま、助っ人連れてきたぞ」
「おかえ…り?」
帰ってきたユッケの方を見ると、ユッケに緑色の小人が跨がり、頭の上には灰色の塊があった。
「二人が助っ人の味噌汁ご飯とカレー炒飯だ。ちなみに俺に跨がってるのがカレー炒飯で、頭に乗ってるのが味噌汁ご飯だ」
「グギャッグギャッ」
「目の前にいるのがスレで言ってた彼ですよ」
「グギャッグギャッ」
「…!?」
「いえいえ、彼一人でではなく、あっちの方に群れている蜘蛛達と一緒にですよ」
「グガッ!」
「そろそろいいですか?」
「グガッ」
「…!」
「八雲とミントさんはこの二人にフレンド申請してくれ」
ユッケに跨がってる緑の小人が何か喋っていることはわかるが何を言っているのかわからない。頭に乗っている灰色の塊は波打ってるだけでもはや、なんのダンスかもわからない。
わかったことはユッケが二人には敬語を使っているから、二人とも俺らよりも年上ということだな。ユッケの指示通りに従い、ルカさんに申請してもらう。
「送ったぞ」
「ちょっと待っててくれ。ミントさんも拠点に一旦戻ってフレンド申請してきてくれ」
「は、はい」
ミントさんはルカさんの膝からぴょこぴょこと跳ねながら離れると拠点に帰っていった。すぐに帰ってきたミントさんはまたルカさんの膝元に戻った。
「し、申請してきました」
少しするとフレンド申請が受理されて言葉がわかるようになったはずだ。カレー炒飯が喋っていた声質は男っぽかったので、男の人なのだろう。味噌汁ご飯はわからない、揺れてるだけだったから。
「グギャッグギャッ」
「……」
「…なぁ?何言ってるか、まだ俺にはわからないんだけど」
「あぁ、俺にもわからん」
俺が困惑していると、ユッケにもわからないとはどういうことなのだろうか。前脚を組んで「うーんうーん」と悩んでいるとついにカレー炒飯が吹き出した。
「ブファッ、いやぁ…悪い悪い。出来心のいたずらだったんだ」
「そうよ~、もぅ!カレーが変なことやっちゃったから、固まっちゃったじゃないのよぉ!」
どうやら芝居だったらしい。




