第113話 紫電の魔槍
土日投稿しなくてすいません。
色々忙しいので、こういうこともあることをご了承ください。
今日は予定がないので、もう一話投稿する予定です。
気長に待っててください。
大悪鬼去っていくのを空から見送った。戦場へと戻ると彼らの力の強さ、身体の重さがわかった。殴られた地面は抉れ、彼らが歩いた場所は陥没していた。力こそパワーと言いたげな力を魅せつけられた。
遠い地へと帰ったにも関わらず、未だ足元の揺れはおさまっていない。それだけで脚力と体重が重いことがわかる。
力を介さない戦い。一番に思いついたのは落とし穴だ。彼らは脳筋に違いない。何も考えずに突っ込んでくると考えられる。あれだけの巨体だ、それだけで戦いに勝つことができるのだろう。
まずドーマに穴を掘ってもらった。どでかい穴を一つではなく、オーガがすっぽりハマる穴をたくさん作ってもらい、内壁にオウマの猛毒を付着させた。スイマとエンマには糸で穴を軽く覆ってもらった。
穴は数え切れないほど掘った。後処理なんて気にしない。俺たちは糸の上を歩けるので、穴にはまることはない。知らない誰かが穴にはまるかもしれないが、そのときはそのときだ。
看板でもつくって先に謝っておこう。読めるかはその人次第だ。読めない方が悪い。
穴を作ってもらってる間に周囲を調査する。オーガのトリガーを未だに理解していない。ハイゴブリンの集落が壊れたからってのは考えづらい。ハイゴブリンがオーガを呼んだって可能性も高いな。
それにしてはオーガの勢いが気になる。ハイゴブリンが生きていたら間違いなくトドメを刺したのはオーガになる。あれだけの勢いだ、間違いなくハイゴブリンを見境なく巻き込んで殺してしまうだろう。
他の要因があるとすれば血か。ハイゴブリンがたくさん死んで出た血に、釣られてきたと考えれば、あり得る話だと思う。血に誘われてやってくるサメみたいなものか。
血はハイゴブリンのものがある。スイマにまとめて回収してもらい、一つの塊を作った。エンマに蒸発させて血の濃度を上げてもらった。濃厚な血の匂いは鉄臭く、好まれる匂いではなかった。
準備は概ね終わった。天網をいくつか配置して空へ逃げられるように糸を張り巡らせた。空中へ逃げてオーガに追われたらどうするかは考えていない。あの巨体で糸に乗ることはできないが、岩を投げてくる可能性はある。
またはなにしらのスキルで空へ攻撃する可能性もある。頭の中でシュミレーションをしておいて、慌てないように対処しよう。
準備が終わった。あとはオーガを誘引してくるだけだ。濃厚な血の塊を宙に浮かせ、フウマに風を一方向へ流してもらう。少しするとあの地響きを足元で感じるようになってきた。
森の先を見るとオーガたちが走ってくるのが見えた。俺たちは空へと転移して様子を伺った。一直線に走ってきたオーガは落とし穴を踏み抜き、穴の壁に足を引っ掛けて転んだ。
転んだ先には落とし穴があり、顔から落とし穴にはまった。次々と穴に落ちていくオーガたち。毒でうなされ、自身の重さで苦しんでいた。全員が穴に落ちるまで待機していた。
「やったか!?」
ドーマが叫んだ。唐突な大声にビクッとする子蜘蛛たち。明らかなフラグを建築していくドーマに、俺は苦笑いを浮かべた。
眼下のオーガたちを見ていると足をバタバタとさせているが、出てくる様子はない。よっぽど変な態勢ではまったのだろう。
「トドメを刺しにいくぞ」
フウマたちを連れて元の位置に転移した。戦場は足をバタつかせるオーガたちの足で埋め尽くされていた。これをひとりひとり着実に死を与えなくてはならない。それも血が出ない特殊攻撃で。
もし、血が出る攻撃を加え、全方向からオーガたちが現れたら、それこそこの作戦の意義をなくしてしまう。今回は慎重に事を進める必要がある。
「使うのは属性攻撃だ。ドーマとフウマは大人しくしてくれ」
土は物理的なダメージを与える。風もまた斬りつけ効果を与える。できれば避けたい攻撃だ。ドーマがしょんぼりとしているなか、フウマは斬りつけを行わない攻撃手段があると耳元で囁いてきた。
頭を使えばどうにかなる。ドーマは頭がかたいところがある。フウマはそのあたりの克服は済ませているそうだ。ドーマにはフウマの後ろで見学してもらい、自らその考えに至るように学ぶ機会を与えることにした。
全部が全部答えを教えてしまえば、考えるという人にとって前進する術を奪ってしまうことになる。親が子供に勉強を教えるのに、過程を言うことなく、答えだけを伝えれば、決して改善することはない。
言葉の意味や行動に見ただけではわからない意味があることを考えられなくなる。要は深読みができなくなるのだ。表面だけを捉え、中身を見ることはない。
子供がよく「なんでなんで?」と聞いてくることがある。それをうるさいだけですませ、相手にしない。
そんなお母さんを見て、聞いてはいけないことだったんだ、お母さんを困らせてしまった。怒られるから聞くのをやめよう、なんて学ぼうとする姿勢を親が奪ってしまうことがある。
子供の性格が引っ込み思案になってしまった。わからないのに質問をしなくなった。そんな子は世にありふれている。
聞かれてもわからない、と親は思うかもしれない。そこでわからない、で終わるのではなく、一緒に学ぼうと誘導するのはどうだろうか。大好きなお母さんと一緒に学びながら遊ぶのだ。
絶対とは言い切れないが、勉強に良いイメージがつくはずだ。そして勉強は誰かと一緒にやるのが楽しい。学んでわかると楽しいとなると、学校も楽しく感じる。進んで学びたくなるから、成績も良くなる。
親からしたら幼少期の小さな出来事でも、子供にとって大きな出来事だ。自身を構成する人格をそこで生成するのだから。自分を育んだ歴史が、とても辛いものだったら、子供はそれをもとに自分を形成していく。
歪んだパズルを訂正することなく、合わないままそれが正しいものだと知覚してはめ合わせる。誰もがいい子と言える子供になれるとは限らない。できるなら、いい子に育てたい。だからこそ、問題に対する答え、そしてその過程と意味は大切なんだ。
ドーマには学ぶ力が欲しい。自分のものにして応用できれば、黄金鬼のときのような失敗、敗戦は少なくなるはずだ。失敗からは失敗した理由だけでなくて、成功へたどり着くためのヒントが隠されている。
すべてがすべて誤っているとは言い難い。
ドーマも土術の応用をそのうちできるようになるだろう。岩の雨はすごくよかったし、落とし穴にある小さな棘もいい。
「ん?小さな棘?」
気付いた時にはもう遅かった。足元に伝わる地響きと、空気を振動させる雄叫び。奴らが来る。
「て、撤退!!」
俺は子蜘蛛たちを集めて再び空へと逃げていった。眼下には砂煙をあげて疾走してくるオーガたちの姿があった。戦場へたどり着くと、オーガたちのいる落とし穴へ爆弾の拳を殴りつけた。
オーガにトドメを刺してくれることはありがたいのだが、攻撃を受けなかったオーガは救出されてしまった。
こう何度もこの地へ呼び出していると、そろそろバレるのではないかとひやひやする。空に浮かんでいるから、相当注意深く見ないとバレないと思うが、どうだろうか。
観察していると、不審に思ったのか、周囲を探索し始めた。穴にハマってるものが多数出てきたのはよかったが、救出されるなら意味がない。
もう一度同じ作戦でやるべきか。
「ママ!!あぶない!」
「なに!?」
コクマの声で我に返ると、すごい勢いで飛んでくるオーガがいた。咄嗟に天網を生成することで防げた。落下していくオーガにオウマが毒をかけた。しかしそのオーガは無反応だった。
よく見るとそれはオーガの死体だった。自由落下していくオーガを助けようとするものはいない。再び拾い上げ、投げる姿勢に入っていた。たとえ空にいようと、居場所がバレていては優位性など皆無に等しい。
「コクマとハクマは虚砲でできるだけ敵の数を減らしてくれ。ドーマは岩の雨を。フウマは敵の攻撃を防いでくれ。スイマとオウマも雨をふらせて。エンマとドンマは先に降りてみんなが降りられる場所の確保を頼む。俺は突っ込む!」
それぞれに指示を出すと早速動き出した。俺はフウマが止めたオーガの死体に乗り、一緒に落下していく。その間に天性を父性に変更した。
殴り合いの闘いに魔法は不要。硬い糸を身体にコーティングして防御力を高める。
「グルオオオオオ」
着地と同時に極太の拳が迫ってきた。
「っ!?」
腕をクロスして防御したが、圧倒的火力の前では無意味、俺はその場から数十メートルほど飛ばされ、木々を粉砕しながら止まった。
「っ!?……あぁ、これが力では勝てない相手か。新しいタイプだな」
今までは圧倒的な力で弄ばれたことはなかった。数値でいえば俺はそれなりに高い。完全バランスタイプなのが仇となったか。力で勝てないなら工夫するしかない。
考えてる時間もない。あの巨体はまだ倒せてないことを理解している。来る。地響きがする。近づいてくるたびに音と揺れが大きくなってくる。
このままでは殴り潰されてしまう。まずは立とう。それから、前を向いて、相手をよく観察しよう。
「子蜘蛛たちにイイところ、魅せないとな」
手元にあった砕けた木の幹を見た。それは太くて丈夫そうに見えた。これを糸で縛って圧縮したら、もっと硬くなるだろうか。
糸を操作して木の幹を絞っていく。折れそうになるが粘着質な糸で補強した。細くなった木は糸でコーティングされたおかげで手に馴染む。一本の棒をさらに糸で硬めた。これでも足りないだろう。
毒と雷の属性を付与。紫電の魔糸に変質させる。これなら多少なりとも傷をつけることは可能だろう。穴にはまって毒とで死したオーガを見た。身体の丈夫さはあっても毒に対抗するだけの耐性はないように思えた。
悠長にしてる暇はない。立ち上がり、紫電の魔槍を構える。木々が倒れたおかげで視界は晴れている。奴らが近付く地響きがする。
「来る……音が消え!?」
近くまで来ていたはずの足音は寸でのところで消えてしまった。ただ気になるのは爆発音がして消えたところ。前にいないなら。
「上か!?」
見上げると拳を後ろに構え、撃ち出す構えをしたオーガの姿があった。横へと回避するが、気づくのには遅すぎた。拳は直撃しなかったが、爆発の衝撃に巻き込まれた。
「っ!?」
転がりながらなんとかバランスを保つ。オーガを見る。すると、奴は笑っていた。それは戦いを楽しむそれではなく、弱いものを狩る、遊びの笑いだった。俺を嘲笑っているのか。
「舐められたものだな。下剋上ってこういう気持ちなのか」
弱者の気持ちになるとイラついてくる。オーガの顔を見ると妙に腹立たしい。
冷静さを失うな。よく観察すれば、オーガの攻略法を見つけられるはずだ。
巨体でパワータイプなのはもちろん、それなりに速度はあった。俺のほうが速度は上だけど、接近戦で翻弄できないほどのパワーがある。あれ、詰んだ?
いや、毒に弱いことは確証済みだし、毒攻めにすれば勝機は見えるか?
極細で硬質の針状の糸を生成。まずはお試しで毒属性にして、オーガに投げた。すると、防除も回避もすることなく、オーガの肌ににサクッと刺さった。丈夫なのには変わりなさそうだが、針は刺さるらしい。
オーガの皮膚に毒が侵入すると、ジュクジュクと肌を溶かしていった。あまりの出来事にオーガはその場で大暴れ。
「グルオオオオオーーーっ!?」
殴られようとも剣で斬られようとも痛みを感じたことがなかったオーガにとって毒の効果は劇的だった。
あまりにも効果が抜群だったため、追加で何本も針を刺してしまった。
「巨体でも毒には弱い。覚えておくよ」
針糸に毒をそして雷を纏わせ、紫電の針糸に変質させる。それを肩と足の付根に投擲する。刺さった針はすぐさまオーガの肌を溶かした。さらに雷により身体の自由を奪い、麻痺効果で身動きを封じた。
「ごめんな。正攻法は俺には向いてないみたいだ。これで楽になってくれよ」
身体をビクビクさせながら麻痺と毒で苦しむオーガに、紫電の魔槍を突き立てる。
濃密な紫電がオーガの胸へと広がり、オーガは恐怖に満ちた顔をして苦しみ、そして死んでいった。
「できることなら殴り合いで勝ちたかったよ」
紫電の魔槍を抜き取り、子蜘蛛たちが奮闘する戦場へと戻っていった。




