第110話 宝探しと秘密の顔
先週書けなかったので、今日明日あたりにもう一話あげます。
《焔鬼魔王を討伐しました。》
《称号【焔鬼魔王討伐者】を獲得しました。》
《レベルアップしました。》
《レベルアップスキルポイント5SPを獲得しました。》
《レベルアップステータスポイント10JPを獲得しました。》
《PM専用報酬:焔鬼魔王の金像、焔鬼魔王のフリスビー、焔鬼魔王の宝地図、キョテント1つ、生存ポイント500P,スキルポイント5SP,ステータスポイント5JP》
ファンファーレと共に続々と分散していた子蜘蛛たちが集まってきた。皆、どこかしらダメージを負っているが、死に戻りした子蜘蛛はいない。
それでも今回の戦いは過酷だったことがわかる。なにせ、ドーマと共にあのアホ鬼の討伐に当たったであろう子蜘蛛たちのHPとMPが、半分以下になっているからだ。ギリギリの戦いに強いられ、そして敗北した。
死に戻りをしなかったのは、あの鬼の情けかそれとも子蜘蛛たちが戦いから逃亡することに成功したのかのどちらかだろう。俺でも黄金鬼には苦戦した。力で負け、物量でも負けた。
今回勝てたのは黄金鬼の装備が、熱伝導力と電気伝導力の高い金の装備だったからに他ならない。もっと異質な素材を使用した装備だったら負けていたかもしれない。
あとは【毒術】と【雷術】を組み合わせた【紫電】があったのもよかった。咄嗟に考えついた技だったが、黄金鬼には最適解だった。ドーマたちを倒したアホ鬼が紫電を食べるとは思っていなかったが、結果としては大勝利だ。
目覚めたドーマは敗北を期したことに苦言を漏らしていたが、ドーマも頑張ったと思う。武士みたいに切腹しようとしなくていいから、次に向けて頑張って欲しい。
倒したエリアボスの素材の回収は終わり、残すところ気になっているのは報酬で受け取った、この宝の地図だけだ。フリスビーも気になるといえば気になるが、これはロウマのお土産にでも渡そう。
金像はあれだ、溶かせばいいものがつくれるかもしれない。カレー炒飯が欲しがったらそれなりの値段で売るか、得るための情報を売ってやるつもりだ。
早速、宝の地図を取り出し、どこに宝があるか探してみる。地図は子供の落書きのようなものだった。俺にはわからなかったが、子蜘蛛たちはすぐに宝の地図の方角を言い当てた。
子蜘蛛だからできたことなのか、それとも子蜘蛛たちの方が頭が良いのか。定かではないが、できるなら頼るのが俺だ。子蜘蛛たちとワクワクしながら宝がある場所を目指していく。
時に道草を食いながら探検をする。目的地にさえ着けばどれだけ遊んでも構わない。大所帯だからこんなのは当たり前。軍隊でもあるまいし、うちはゆるゆるルールでいいのだ。
宝の位置には大きな木があり、その根元に埋められてるらしい。早速みんなでそれらしい大木の枯木や倒木の根元を掘り返してみた。
「ママ、でてきた!」
ひとりの子蜘蛛が嬉しそうになにかを持ってきた。
「お?本当か?」
その子蜘蛛の手には白い物体があり、硬質的でなにより艶があった。
「うん!骨!」
「……埋めときなさい」
思った反応ではなかったのだろう。しょんぼりしてもとの場所に埋めに行った。次々と宝物らしきものが掘られていったが、どれも骨やら石やら、それらしいものは見つからなかった。
「ないのかな……楽しみだったんだけど……」
楽しみにしていたのは事実だけど、なかったら時間の無駄とは思わない。見つからないけど、宝探しという遊びができた。しかも、それが楽しかった。だったら十分な成果は出たといえる。
俺は別に効率厨でもなければ、コレクターでもない。出るまで探せなんて言わない。子蜘蛛たちが飽きるまでこの遊びを続ける。悔いはない。見つかったらそれはそれでラッキーだ。
「母上!」
一人、物思いに耽っていると、腹に響く声がした。前を見た、横を見た、後ろを見た。けれど、声の主がどこにも見当たらない。子蜘蛛たちはなぜか俺を見ている、というより俺の下半身を見ている?
「ははうえ〜!」
声が少し遠ざかった。どこにいる。前でも横でも後ろでもなければ、下か。
「そこにいたのか」
「母上!ありましたぞ!」
後ろに退いて自分がいた場所を見ると、穴があった。真っ暗な穴からひょこりと顔を出したのは、今日、一番成長できたドーマだった。
「なにがあったんだ?」
「これです!」
ドーマが手にしていたのは、金色の果実だった。
「りんご?」
「はい!あと、これが一緒に入っておりました!」
渡されたのは薄汚れた動物の皮のようなもの。そして小瓶に入った赤い液体。
「なんだ、これ?」
りんごは硬く、果実のように食べたら果汁が溢れそうな見た目をしておきながら、その実はエリアボスの遺物、黄金の球体と同じくらい硬い物体だった。
皮には、よく見るとうっすら線が書かれていた。どうやらこれは紙と同じように使うもののようだ。小瓶はこの紙とセットか。試しに小瓶を開けようとしてみたが、ビクともしなかった。それは紙も同じで破れなかった。
不思議だ。こんなものを埋めて何になるのやら。せっかくだから頂いておくが、異質だ。しばらくは持ち運んでおこう。なにかを条件に使えるかもしれない。
「うーん、何に使えるかわからないけど、宝物はきっとこれだ。ドーマ、よくやった!えらいぞ!」
見つけたドーマの頭をグリグリと強めに撫でる。いつもの優しいものよりも岩のように硬い甲殻をもったドーマにはこれでいいはずだ。
かたっ苦しい喋り方をやめてキャッキャと騒いでいる。ドーマも武士みたいな喋り方をしなければ、コクマやハクマと同じくらい愛嬌のある子供だ。
「さて、行くか。新天地へ!」
さぁ、次のエリアへいくぞ。そう言って俺が一歩踏み出したところで、フウマが俺の手を掴んだ。
「お母さん、クシャおばあちゃんとマシャおばあちゃんが待ってる」
「……忘れてた」
フウマに言われて思い出した。振り返ると半分くらいの子蜘蛛たちも忘れていたのか、俺と同じ目をしていた。片腕をフウマにとられると、反対側にスイマがやって来た。
「待ってるから、行くの」
グイっと二人に引っ張られながら反対方向へ向かうと、後ろでコクマとハクマがはしゃいでいた。
「クシャばあとマシャばあにボクたちの虚砲みてもらいたいね」
「ね〜」
みんな、クシャとマシャのことが大好きだ。もちろん、クナトのことも好きだ。おじいちゃんとおばあちゃんが好きなのは子供に多いだろう。お年玉を貰えるから?お家に行くたびにご馳走だから?違う、居心地が良くて幸せな気持ちになるからだ。
お父さんやお母さんと一緒にいる安心感とは違った居心地の良さがそこにあるからだ。なぜか、お家に行くとついお昼寝をしてしまう。つい甘えてしまう。親には見せない面を見せることもある。
だから俺たちはその気持ちにさせてくれるおじいちゃんとおばあちゃんが好きなのだ。
八雲たちが黄金鬼に挑んでいる間のこと。おばあちゃんたちもまた戦っていた。クシャとマシャを囲うように円陣を組むおじさんたち。円陣は内側ではなく外側に向いたもの、おじさんたちは身体を張ってクシャとマシャを守ろうとしていた。
それもそのはず。クシャとマシャは八雲の配下だが、知らなければ、邪聖剣王カルトの配下と思うはずだ。それがまさに今の状況を作り出している。
交渉に来ていた傭兵たちのリーダー、アトラスはクシャとマシャを見て、目の色を変えた。そしてできたのがこの状況だ。クシャとマシャを守るように布陣するおじさんたち。囲っているのはアトラスの部下たちだ。
アトラスはリーダーだが、誰よりも戦闘センスがない。戦略を練るのはお手の物。しかし、冷静さを失うのは早かった。つまり、頭のいい馬鹿。
「奴らを殺せぇ!」
もはやただの癇癪を起こした子供。苦笑いを浮かべる大人の傭兵。しかし、やることは変わらないので、彼らは武器を手に取る。おじさんたちもまた武器を構える。
PKなんてこのゲームでは珍しくない。それはPHとPMの話だ。PH同士など稀だ。互いに対人戦を知らずにどう戦うのか、見物だ。
「あら、物騒ねぇ……」
「お茶でもしようかと思っていたのだけれど……」
外側では殺気に塗れた睨み合いをしている中で、二人は、ほのぼのしていた。それもそのはず、二人からしたら傭兵たちを脅威とも思っていないのだから。
戦いを知らない、いや、八雲との共闘にあまり参加していなかった二人が強いかを誰も知らないだけだ。彼女らについて知っているのはおそらく、子蜘蛛たちの教育をしていることと、八雲の信者であることくらいだ。
クシャとマシャが不意にアトラスに向かって微笑んだ。冷静さを失ったアトラスからすれば、それは挑発以外に他ならなかった。憤怒の顔を顕すアトラスにクシャとマシャのツボにはまる。
より笑うクシャとマシャ。笑われて気分が悪くなるのは誰でも同じアトラスは一人戦場へ飛び出し、仲間の傭兵たちを掻き分け、おじさんのところまでたどり着いた。
「どけぇ!今からそいつらを八つ裂きにしてやる!」
「なんだ、こいつ?キャラ変わりすぎじゃね?」
「うるせぇ!邪魔だ!」
「あー、わかったわかった。どいてやるよ」
「どけぇ!」
おじさんはアトラスの後ろで「すまん、頼む」と拝んでいる傭兵たちを見て察した。アトラスに道を通すとおじさんはアトラスの部下たちとお話をすることにした。その頃にはお互いに武器を収めていた。
一方、アトラスはクシャとマシャと対面し、お得意の顔芸で二人を笑わせていた。もちろん、アトラスにはその気がない。
「おおお、お前ぇぇぇ!」
「うふふふ、すごいわ。この人、顔がすごいわ」
「だめ……笑わせに来てる!………ん?なにかしら?」
笑っていたマシャのもとへ一通のメッセージウインドウが届いた。
《エルフェンが使役をしてきました。
仲間になりますか?
はい いいえ(ステータスが一時的に倍になります)》
「へぇ……」
それを見たマシャは不敵に笑った。目の前で見ていたアトラスは憤怒から怯えの表情に変わっていた。癇癪を起こして怒られた子供のようなアトラスを、ふいにクシャは微笑む。
そっと頭をくしゃっと撫でると、クシャはある一点に向かって歩き出した。マシャもまた、そこへ向かって歩き出した。
使役された者は使役した者の位置を把握できるようになっている。じゃないと隠密行動しながら使役を乱発する者が出かねない。迷惑でしかない上、間違えて「はい」を押しかねない。
といっても、使役されたからと言って一方的に使役から逃れることができる。NPMも意思があり、使役という繋がりは信頼関係がないと築けない。木の実をあげて精霊を使役しようとしたエルフェンはある意味正しい行動をしていた。
単に運が悪いだけで。彼は悪くない。悪いのは彼の頭だけだ。明らかに八雲の配下であった二人を使役しようとする、挑発でなければなんだというのだ。
「マシャ」
「ええ、わかってるわ」
二人は微笑みを忘れない。二人の凄みに圧され、道を開けるおじさんと傭兵。アトラスがやらかすのはいつものこと。今度はどんなやらかしをしたのかと、彼らはワクワクしていた。彼らはそういう趣向のもと、アトラスに従っているのだ。
二人がどこかへ向かって歩いていくのを見て、彼らはアトラスのもとへ向かった。しかし、そこで待っていたのは、顔をふにゃふにゃにして「ふへへ」と笑うアトラスだった。対面した彼らは一同に「気持ち悪ッ」と思ったに違いない。
二人が自身のもとへ現れた、それだけで使役できたと勘違いするエルフェン。彼はまだ、未だに使役を成功させたことがない。つまり成功したらどうなるかを知らないのだ。
使役されるものにウインドウが現れるのなら、使役した者にも現れるのは道理。しかし、彼は頭の悪さから見ることをしてない。というよりワクワクしすぎて見てないのだ。
強いモンスターを低確率で捕まえたときの快感は誰しもワクワクが止まらなくなるだろう。それを彼は捕まえる前からしているのだ。純粋な少年のような心を持っているが、順序というものを知らないのだ。
迫ってくる二人に笑顔を向けたエルフェンに、微笑みを絶やさない。近くまで来るとクシャはちょいちょいと頭を下げるように仕向け、エルフェンの頭にそっと手を置いた。
頭を撫でる、誰もがそう思った状況で、クシャはエルフェンの頭を地面に叩きつけた。あまりの出来事にアトラスの顔が「ふへへ」から「うええ」の怯えの表情に変わった。
「私も怒ることがあるんですよ?」
そう言って、クシャは何度もエルフェンの頭を地面に叩きつけた。その間、マシャはというと、エルフェンの回復を行っていた。クシャが与える分のダメージを相殺する。終わらない拷問の幕開けであり、エルフェンは抵抗することができない。
「こんなもの、私達が同意するわけ……ないではありませんか?」
「いいえ」を押すと同時に二人のステータスが倍に膨れ上がった。ただ地面に頭をぶつけられていたが、倍になることでエルフェンの頭は地面に埋まり、それと同時に、エルフェンの身体が跳ね上がった。
「限度というものを知りなさい?」
耳元で囁くクシャに、エルフェンは小さく「はい……」と呟いた。
「よく言えました。楽にしてあげますね」
クシャはエルフェンから手を離し、立ち上がるとマシャのもとへと向かった。ついに拷問が終わったと思ったエルフェンは顔をあげた。しかし、そこに映っていたのは真っ白の光だけだった。
「「【聖滅波】」」
神の信者であること、そして聖属性であることが条件で得ることのできる【神聖術】。【聖術】の上位互換とも言えるが、ただレベルアップすることで手に入れることができない特殊なスキルだ。
真っ白な光はエルフェンの残滓すら残すことなく消し飛ばした。地形を変えることもなく、ただ目標のみを消し去るその力はまさに暗殺者のそれだ。しかし、二人にはそんな顔はない。
あるのは、子蜘蛛たちを優しく見守る聖母のような笑みだけだ。
原神にハマって、すでに最高ランクまであと5つ。やっぱりゲームはやめられませんね。
コロナ予防をしっかりしてステイホームしましょうね。ゲーム世界への旅も案外、楽しいですよ。




