第11話 蜜木苺とコウモリグミ
おどおどはしてるが、ミントさんと無事仲直りができた。この中で一番喜んでいたのは、ユッケでもミントでもなくルカさんだった。同じウサミミを持つだけあって仲間のことになるとおっとりとしたものが慈愛に満ちていた。
俺とユッケは姿がいかついので、一定の距離から近付かないようにしてる。もちろんフウマ達やミドウ達にも伝えてあるのだが、ハクマとコクマだけは無視をする。
「なぜハクマとコクマだけこうなんでしょうか?」
ルカさんに思いきってハクマとコクマのことについて質問してみる。
「それはですね、八雲様がハクマとコクマを孵化させるときに一緒にミドウ達にも魔力を注いでましたよね。そのせいでハクマとコクマは拗ねてるのですよ」
「え?でもハクマとコクマにも同じ量の魔力を込めたはずですが……」
「孵化の際は愛情を一方的に受けたい、そんな願望が卵にいたときはあるのですよ。弟や妹ができても母親からは自分だけに構ってほしいと思う、そういうことですよ」
あんまり理解ができておらず、悩んでいると後ろからユッケに話しかけられた。
「浮気すんなってことだろ」
「浮気……もうちょい言い方なかったのかよ……」
「ま、拗ねてるのはしゃあないから、今からでも構ってやれよ。今は……無理かもしれないが……」
チラッとハクマとコクマを見るとフウマ達に簀巻きにされて転がされていた。あれはミントさんがされたことを教えているのだろう。
一応ハクマとコクマは俺の子蜘蛛なので、フウマ達とは兄弟なのだが、一番下の弟達の躾をしてるみたいなものか。心なしかハクマとコクマが楽しそうにしていた。
「そういや卵を生むスキルなんてあったか?」
「あぁ、これは【繁殖】っていうスキルだよ。オーブンβで使ってる人いなかったのか?」
「いや、見たことねぇな。それは交尾がいるものなのか?」
「これは1日にスキルレベル依存で卵がインベントリに入ってて、魔力を与えることによってステータス変動するんだよ。愛情分散で拗ねるとは思ってなかったけど」
ハクマとコクマにミドウ達が乗っかかって一緒に寝ていた。フウマ達がいないと言うことは夕御飯を取りに行ったのだろう。
「それは良スキルだな。俺もとろうかな」
「一応言っとくが、孵化するまで12時間かかるからな。狼のお前には使いづらいと思うぞ」
「……そこまで面倒見切れんな」
「だろ?そろそろ空腹度がやばくなってきたから、食事にしないか?」
「おう。俺もやばいな。りゅっ……八雲はなに食ってんだ?」
「しれっと本名言いそうになるのやめろよ。俺は最近コウモリグミ食べてる」
「コウモリグミ?なんだそりゃ」
「……食べてみたらわかるよ。ミントさんは草食だよね?木の実って食べられる?」
ミントさんはルカさんに俺がつくったタオルケットに包まれてもふもふされていた。
「は、はい……どんな植物でもた、食べれますが……け、携帯食を持ってるので、だ、大丈夫……です」
「携帯食には限りがあるだろうし、俺が適当に拾った木の実をあげるから、それを食べなよ。俺は雑食でユッケは肉食だから、遠慮しなくていいぞ」
取引を出す。取引はプレイヤー同士が損なく買い物ができるように行う手段だ。やろうと思えば手渡しでも可能だが、それだと受け取ってもらえない可能性が大きい。
木の実は識別すると完熟した蜜木苺だった。これは第一拠点の周りに腐るほど落ちてたものなので、いくらでも持っている。取引では交換条件として「できるだけ怖がらないこと」と書いておいた。
「こ、こんなにいいんですか!?」
「あぁ、これは第一拠点の周りに腐るほど落ちてるから、遠慮しなくて大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます」
「フレンドなんだし、助け合いは必要だもんな」
ミントは木苺を受けとると、ルカさんに隠れてむしゃむしゃと食べ始めた。それをルカさんはにこにこしながら眺めていた。
「なぁ、あれって蜜木苺だよな?」
「そうだけど、どうかしたのか?」
「あれって精霊樹の周りにしか生えていない特殊な条件で実る木の実なんだが、いいのか?あんなに貴重なものをあげても?」
ユッケはひそひそと小さな声で話しかけてきた。貴重なものと言われても普通に落ちてたものなんだけどな。
「拠点周りに普通に落ちてたからな、俺からしたらそうでもないぞ?」
「お前ってやつは……一応言っておくぞ?それ絶対市場に流すなよ。PHが血眼になって追い立ててくるぞ」
「は?どういうことだ?」
「それほど貴重だってことだな。蜜木苺はな、第一・第二エリア内で一番甘くて栄養価が高い食べ物なんだ。だから1粒で1日過ごすこともできる優れものだ。これだけ言えばわかるよな?」
「あ、あぁ……」
「さらに言えばこれが生えている精霊樹の近くにはエルフの里がある。これは噂でしかないが、第三エリアにあると言われている」
俺が呆然としていると、ユッケの話を聞いてしまったミントさんは蜜木苺とユッケを交互に見ていた。
「その蜜木苺を拾う条件はな、精霊樹に気に入られることなんだよ」
「は?精霊樹に気に入られる?」
「そうだ。俺もそこまで詳しくは知らないが、PHの知り合いに聞いた話だが、精霊樹には名前の通り精霊が宿っていてその精霊には心の邪悪さがわかるんだと、そんで心が綺麗な者にだけ恩恵を与えると言われているらしい。というのも俺も普通に拾えたから、よくわからないんだよな」
「あんまり信用できない情報だけど、レアなアイテムってことはわかったよ。よっほど困らない限りは市場に流さないようにするわ」
その精霊樹に拠点つくって蜘蛛の巣張ってることは言わない方が良さそうだな。別に悪意があってやった訳じゃないけど、話から察するにエルフが崇拝してそうだよな、あの樹。
「あ、あの……そ、そんなに貴重なものとは、し、知らず、か、返します」
「返さなくていいから、なんなら一緒に取りに行く?それなら遠慮しなくても大丈夫でしょ」
「お、それなら俺も行きたいな」
「じゃあみんなで行こうか。その前に俺とユッケは腹ごしらえしてこよう」
「そうだな、じゃあミントさんは待っててくれ。さっき言ってたコウモリグミとやらを食べさせてもらうぞ」
「ミントさんは、ちょっと待っててくれ」
「は、はい」
ハクマとコクマ、それにミドウ達を起こして第二拠点出口に向かう。ハクマとコクマがなぜか俺にぴったりとついてるのは甘えてきてるからなのかな。
ハクマもコクマも今日生まれたばかりだから体も二回りほど小さい。そのため、乗ろうと思えば背中にも乗せられる。明日にはハクマもコクマも繁殖で子供を育てることになるのだから、時間が流れるのもはやく感じる。
「じゃあこの魔法陣に乗って行き先を第二拠点にしてくれ」
「おぅ、俺を連れてきたとこだな」
「重かったよ」
「うるせぇ」
横穴に来ると、糸に絡まったコウモリを集め終わったフウマ達がコウモリに止めを刺していた。フウマ達は俺に気づくとコウモリを持ち上げて、「とったぞーっ!」と言わんばかりに見せてきた。
「すごいすごい」
フウマ達は褒められて嬉しかったのか、一番大きなコウモリをくれた。識別してみるとLv7の夜蝙蝠だった。本当に大物だった。
「お、コウモリってのはこいつらだったのか。ずっと空飛んでて捕まえたことなかったんだよな」
「ここは元々コウモリの棲家だったんだが、一部を奪って俺達の巣にしたんだ」
「へぇー、これで一部なのか?」
「見てみたらわかるよ、ついてきて」
ユッケが通れるように巣を作り替えながら奥に進んでいく。横穴は高い位置にあるので踏み外さないように巨大空洞の入り口は糸を厚くしている。
「ここだ」
「こりゃあ凄いな……何匹いるんだ?」
「さぁな、このお陰で食料に困らずに子育て出来てるんだよな」
「確かにこんなにいたら、食べ放題だわ。そんでコウモリグミってのはどれなんだ?」
「あぁ、これだ」
そこら辺に引っ付いてたコウモリをとって渡す。それをジト目で見てくるユッケだが、とりあえず嗅いだり触ったりしてから、感想を述べた。
「普通にコウモリじゃねぇか」
「だから言ってるだろ、コウモリグミって。とりあえず食べてみろよ」
ユッケはコウモリに止めを刺して解体するとコウモリを一口食べる。口に含んだユッケは噛むごとに眉間にシワを寄せていく。
「グミだ……」
「だろ?」
「これ、絶対飽きてくるやつだろ」
「おう、もう飽きたぞ」
「だろうな。お前には蜜木苺をもらう予定だから、特別に砂塵地虫の肉をやろう」
「それ美味しくないやつだろ。解体レベル低いときのものはそんなに美味しくないはずだろ」
「ちっ、知ってたか」
とか言ったが、押し付けるように取引してくる。交換条件として蜜木苺をご所望した。まぁいくらでもあるからいいけどね、食べず嫌いよりはましだろう。
「お、交換してくれんだな」
「食ってみて不味かったらコウモリの餌にでもするさ」
「とりあえず腹ごしらえしてミントさんのとこに戻るか」
「そうだな」
拠点前に戻るとちょうどハクマ達がご飯を食べ終わっていた。ハクマとコクマがウトウトしていたので背中に乗せて拠点に戻る。フウマ達はミドウ達を背負って拠点に帰る。
拠点に戻るとミントはおらず、ルカさんだけ絨毯の上に座っていた。
「ルカさん?ミントさんはどこに?」
「ミント様でしたら、お昼ご飯を食べに行かれましたよ」
「お昼ご飯?」
「えぇ、リアル世界での時間ですよ」
「あぁ、そっか。ここは夜だけどリアルはまだ昼か。ユッケ、俺らも昼御飯食べてこようぜ」
「お、そうだな」
ユッケは自分の拠点に戻っていった。俺は背中に乗せたハクマとコクマを絨毯の上に寝かせた。フウマ達もミドウ達を背負って帰ってきていたため、ミドウ達も寝かせる。
フウマ達は自分で取ってきたコウモリの素材を収納箱にしまい、ミドウ達に寄り添う形で眠った。俺も収納箱に食べ物以外の素材をしまって、ログアウトした。
昼御飯はうどんだった。親は面倒なとき基本麺類で済ませる。おかげでさっさと食べてゲームをはやくできた。再ログインする際は喉を潤してからお手洗いを済ませてから行う。
ログインすると、6日目になっていた。さっそく5日目分の生存ポイントを見てみることにした。
《生存箱》
死に戻りボーナス:11P(302/27)
手持ち:11P(+11)
八雲貯蓄:3062P(+37)
配下貯蓄:645P(+265)
お小遣いは1Pしか増えなかったけど、PMが二人増えていたことは嬉しく思った。
今日はこれから第一拠点の深い森に行くから、ステータスの確認をして、割り振っておこう。
《主人公のステータス》
名前:八雲
種族:小蜘蛛
性別:男
称号:【ヴェルダンの縄張り主】【格上殺し】【森賢熊討伐者】【エリアボスソロ討伐者】【蜘蛛主】new
配下:小蜘蛛10匹
Lv:10(+2)
HP:200/200(+10×10) MP:200/200(+5×10)
筋力:13 魔力:28(+3)
耐久:10 魔抗:20(+2)
速度:25 気力:20
器用:30 幸運:9
生存ポイント 所持:0P 貯蓄:3073P(+11)
ステータスポイント:0(-20)JP
スキルポイント:45SP(+10-20)
固有スキル
【糸生成Lv21(+3)】【糸術Lv22(+2)】【糸渡りLv18(+2)】【糸細工Lv4】
スキル
【繁殖Lv2】【夜目Lv12(+2)】【隠蔽Lv12(+2)】【気配感知Lv10(+2)】【魔力操作Lv19(+2)】【識別Lv7(+1)】【風魔法Lv3(+1)】【魔力感知Lv8(+2)】【思考回路Lv1】【解体Lv4(+2)】【投擲Lv1】【魔力上昇Lv1】new【爪術Lv1】new
《配下の子蜘蛛のステータス》
名前:風魔、水魔、炎魔、土魔
種族:小蜘蛛
主君:八雲
配下:魅風,魅水,魅炎,魅土
Lv:10(+2)
HP:150/150(+2×10) MP:250/250(+4×10)
筋力:17(+3) 魔力:25(+5)
耐久:17(+2) 魔抗:19(+2)
速度:19(+2) 気力:18
器用:25 幸運:10
ステータスポイント:0JP(-20)
スキルポイント:25SP(+10-20)
固有スキル
【糸生成Lv10(+3)】【糸術Lv8(+2)】【糸渡りLv8(+2)】【糸細工Lv1】
スキル
【繁殖Lv1】【採取Lv3(+2)】【夜目Lv7(+2)】【隠蔽Lv7(+2)】【気配感知Lv5(+2)】【魔力操作Lv8(+3)】【魔力感知Lv2(+1)】【思考回路Lv1】【風魔法Lv1,水魔法Lv1,火魔法Lv1,土魔法Lv1】【裁縫Lv3(+1),調合Lv1,鍛冶Lv1,細工Lv1】【解体Lv4(+2)】【魔力上昇Lv1】new【爪術Lv1】new
※4匹のステータスに違いはあるが、とりあえずは同じようなものとします。
《拗ねた子蜘蛛のステータス》
名前:黒魔,白魔
種族:小蜘蛛
主君:八雲
Lv:7(+6)
HP:160/160(+10×10) MP:230/230(+10×10)
筋力:11(+4) 魔力:20(+6)
耐久:14(+6) 魔抗:15(+4)
速度:16(+6) 気力:15(+4)
器用:20(+5) 幸運:10(+5)
ステータスポイント:0JP(-60)
スキルポイント:0SP(-30)
固有スキル
【糸生成Lv6(+5)】【糸術Lv5(+4)】【糸渡りLv4(+3)】【糸細工Lv1】
スキル
【繁殖Lv1】【採掘Lv3(+2)】【夜目Lv2(+1)】【隠蔽Lv3(+2)】【気配感知Lv1】【魔力操作Lv2(+1)】【魔力感知Lv2(+1)】【思考回路Lv1】【闇魔法Lv1,光魔法Lv1】【解体Lv2(+1)】【魔力上昇Lv1】new【速度上昇Lv1】new【爪術Lv1】new
《孫蜘蛛のステータス》
名前:魅風,魅水,魅炎,魅土
種族:小蜘蛛
主君:八雲
Lv:7(+2)
HP:200/200(+4×10) MP:150/150(+5×10)
筋力:22(+5) 魔力:12
耐久:20(+2) 魔抗:11
速度:22(+2) 気力:11
器用:22(+2) 幸運: 5
ステータスポイント:0JP(-20)
スキルポイント:10SP(+10)
固有スキル
【糸生成Lv3(+2)】【糸術Lv3(+2)】【糸渡りLv3(+1)】【糸細工Lv1】
スキル
【繁殖Lv1】【採掘Lv3(+2)】【夜目Lv3(+2)】【隠蔽Lv1】【気配感知Lv1】【魔力操作Lv3(+2)】【魔力感知Lv1】【思考回路Lv1】【風魔法Lv1,水魔法Lv1,火魔法Lv1,土魔法Lv1】【裁縫Lv1,調合Lv1,鍛冶Lv1,細工Lv1】【筋力上昇Lv1】【爪術Lv2(+1)】




