第96話 お片付け
大体この時間帯がデフォになってきましたね。
最近までspellbreakやってたけど、原神始めてみましたが、RPGってやっぱ最高だな。
ホクホク顔で店を出た俺たちは悲劇のオブジェクトを解体していた。カルトの街の中で作るものではなかったと反省している。
だが、後悔はしていない。檻の中にいるライオンだって、観客に攻撃できるようになれば、すぐにだって襲いかかるはずだ。俺たちの手が早いんじゃない。見てくる観客が無防備なのが悪いのだ。
イルカショーだって水をぶっかけられるし、都会のカラスは不意打ちで糞を落とす。多少なりとも知能を付けた動物は遊び半分や生活の一部で人間に害をなす。それが魔物に変わっただけだ。
いちいち怒るべきではない。俺たちだって生きているのだ。自由にやらせてくれ。だけど、丸太の上のPHよ。悟りを開かせてしまって悪いな。そこからの眺めは必ずしも絶景じゃないだろう。今、助けてやるから。
オブジェクトから、すでに離脱したものもいれば、なんとか這い出ようとしていた者がいた。離脱したものは残念ながらすべて回収して、摘出したPHには謝礼にきゅうりを一本渡した。
おそらく、これで許してくれるはずだ。なにせ、エリアボスがつくったきゅうりだ。エリアボスのドロップ品といっても過言ではない、きゅうりだ。嬉しくないわけがない。
受け取ったときは微妙な顔をするが、「エリアボスのきゅうり」とぼそりと呟けば、勝手に勘違いしたPHが無言で頷いて離れていく。なかには、このきゅうりがどこのきゅうりか把握して、「トマトがいい」と要求してきた猛者もいた。
それくらいの配慮はしてやるのが筋というものだ。俺は快くトマトを渡した。
これらは穏便な部類だ。過半数は俺を怒鳴り付けるし、攻撃もしてくる。戦いに発展すれば容赦しない。それでも一人倒せば、何人かは攻撃を中断する。オブジェクトにされた時点で実力差を把握できるようになることを祈るばかりだ。
全く反省の色が見えない。なぜ被害者ヅラをする。確かに自分たちが仕出かしたことに気付かなければ、加害者ではないと言えるだろ。
やっていたことと言えば、傍観者。けれども、これがいじめ現場であれば、傍観者も加害者の一端を担っている。
暴論かもしれないが、窓から覗いていた傍観者は悪だ。なぜなら営業妨害をしていたからだ。もう、これだけで充分だろう。
「不満があるなら、かかってこい。相手をしてやるよ」
俺は手招きをして不満げなPHを挑発した。当たり前だが、常識的なやつがここに残っている。ある程度吹っ切れた者と俺のことを知っているPHは逃げ去っている。
武器を抜いた彼らは俺を囲うようにじりじりと移動していく。しかし、子蜘蛛たちがいることで包囲網が完成することはない。
食器選びに飽きてきて、ちょうどいいサンドバッグが現れた、となれば、子蜘蛛たちは遠慮することなく排除するだろう。しかし、今回俺が仕掛けた戦いだ。俺から奪ってまで戦おうとはしない。
「こないのか?なら、俺から行くぞ」
俺はPHたちをさらに煽った。あまりにも襲いかかってこないので、こちらから攻めることにした。魔法の一つや二つ、牽制で飛んでくるとおもっていたのだが、そんなことは起きなかった。
動きも鈍いし、増援が来るのを待っているのかもしれない。奴等に付き合うことは時間の無駄だ。早々に決着をつけよう。
天糸を上から垂らし、一人の男に繋ぐ。これは今まであまり試したことなかったが、ちょうどいい。【糸傀儡】の検証をしよう。
繋がった糸で男の動きを止める。さらに糸を垂らし、操り人形のように手足に繋げ、試運転をする。意外と難しい。操られている男はからだの制御が効かないことに焦りを感じてるはずだ。
だとしても、それを仲間に伝えることができない。
ちょうど一番後ろにいる彼が剣を振り上げようとも気付くことはまずない。しかし、影が彼の動きを露にする。
「お、おい、なにをして……?」
仲間の一人に気付かれた。けど、もう遅い。
「よけっ!?」
振り下ろされた剣筋は目の前にいた男を切り裂く。突然の背後からの奇襲に、斬られた男は仰け反る。振り下ろした剣を振り上げ、同じ箇所を切り裂くと、また同じ人に振り下ろす。
さすがにそれは成功することはなかった。回り込んだ仲間に両腕を羽交い締めにされ、事なきを得た。それをなんとか這い出ようと暴れまわる。
そんな仲間割れを起こした俺は平然と告げる。
「仲間割れか?」
その一言で俺への疑いは晴れる。俺がこの隙になにかをすれば、連携していると錯覚してしまうからな。
ここでさらなる裏切り者の追加だ。俺に警戒して剣や槍を向ける人達の腕を支配する。今まで自分の意思で動いていた腕が勝手に動き出す。それも武器を持っていた手がだ。
あまりの出来事に驚きを隠せないもの、なんとか自分の手を押さえつけようとするものがいたが無意味だ。
「ドーマ、土壁を頼む」
「承知した」
ドーマに張り付け用の壁をつくらせ、そこに接着剤である糸をつける。効力を発揮するか、ドーマは近くにいたPHの首をつかんで壁に投げた。乱暴に投げられた男は変な形で壁に張り付いた。
「そろそろ買い物も終わる頃だ。ここに張り付けてさっさと終わらせよう」
俺は壁に近いものから身体の制御を支配していった。そこからは戯れの芸術大会だ。身体を支配したやつを走らせ、壁にダイブ。制御を解除して糸を追加。それを繰り返すことで壁にはアートができる。
しかし、計算したわけでもなにかを作ろうとしたわけでもないそれは、奇妙な壁としか見えなかった。失敗だ。こんなものアートじゃない。
「廃棄だ」
人で出来た壁に魔法を向け、糧とする。いつか良いものができるといいと願掛けをしてその壁のアートは【自動解体】のスキルによって消滅した。アートとは儚いものだ。
「戻ろうか」
ボロボロになった石畳を視界から外し、俺たちは逃げるようにその場を去った。カルトに怒られるのだけは嫌なので、俺たちは無関係を決め込んだ。
アクセサリーショップに戻ると、お洒落に目覚めた子蜘蛛たちがお互いを褒めあっていた。
うんうん、こういうのが見たかったんだ。買い物中にバトルが始まる俺たちの買い物がどうかしてたんだ。
衛兵が来てるけど、きっと気のせいだ。壁にめり込んだPHがいる?そんなまさか。あれは幻覚だね。
にこにこしてる子蜘蛛たちを褒めて、その場を後にする。
「お待ちください、八雲様」
どうやら後にすることはできないようです。
経緯はこうだ。買ったアクセサリーを着飾り、ご機嫌になっていた子蜘蛛たちにあろうことかナンパをしたPHがいたのだ。それをされたところでフウマとクシャ以外には言葉が通じない。
無視をされたナンパたちは子蜘蛛たちに掴みかかり、怒鳴り付ける。状況が理解できなかった子蜘蛛たちは手を払い除ける。ステータス差もあって払われた手に追従して身体が持ち上がる。
仲間が突き飛ばされたら怒るのがナンパ男達。それが自分が起こした状況だとしても。食って掛かろうと、子蜘蛛たちの相手ではない。適当にあしらわれて地面と仲良しにされちゃう。
それが何度かあったせいで山のように積み重なったPHと壁にめり込んだPHが形成された。子蜘蛛たちの行為自体は悪くない。しかし、数が多すぎた。
「それで?」
「はい。これでは八雲様の配下に買い物を楽しんで貰えないので、護衛をつけさせてもらいます」
「いらなくない?」
「武力的な意味ではそうですが、あれを作られてしまえば、後処理が……」
「うーん、わかった。俺たちも買い物したいだけだしな。そこらへん任せた」
「ありがとうございます」
不用意に仕事を増やしてしまえば、カルトに迷惑をかけてしまう。PHが悪いとはいえ、そのせいでカルトの配下に手間をかけるのも悪い。
シュバルツを含めて総勢20名のカルトの配下が護衛してくれることになった。半数は陰から見守るだけで、他は子蜘蛛たちの通訳を任せた。俺もカルトみたいに配下全員に人語の言語学のスキルを持たせてみたいが、さすがにポイントが足りない。
ポイントを集めるには戦いを繰り返すしかない。あとは子蜘蛛たちが献身的にカレーやカルトに糸を売るくらいだ。他には思い浮かばない。今の巣は第二エリアにある精霊樹と第三エリアにある邪精霊の森だ。
俺たちのレベルからしたらあまりにも低すぎる。そう考えると新天地を目指してもっと先の森に進出すべきではないか?
今のエリアボス周回だとどうしても弱いエリアボスばかりしかいない。一ヵ所だけでも先に進んでいた方がレベルも上がるし、ポイントも貯まるはずだ。明日からは精鋭を集めて先に行ってみるのもありだな。
攻略法も知っておかないと行けないから周回もして、あとは常駐する子蜘蛛の選定もしないとな。巣を守れないと意味がない。
よし、やることが決まったな。次の目標が決まったことだし、今日は買い物を楽しもう。
考え事をしてしまったが、子蜘蛛たちは俺の前から動いていなかった。
「通訳がいるから、みんな好きなところで買い物してきていいぞ」
「「「はーい」」」
待ってました!と言わんばかりに子蜘蛛たちは行動を開始した。そして俺は周りを警護するカルトの配下を集めて、例の場所に戻った。
「後処理の件だけど、ここも頼めたりする?」
「これはまた……」
「いや、うん。言いたいことはわかる。全面的に俺が悪い」
「なにがあったのですか?」
「それは……」
俺はことの経緯を語った。聞き終えた聖骸たちは苦笑いを浮かべていた。わかる、わかるよ、その気持ち。でもな、やっちゃったから仕方ないよな。
「頼める?」
「……やります」
「お詫びに俺の糸はどう?」
首を全力で横に振られた。
「え、やっぱだめ?」
「いえいえ、多すぎます!八雲様の糸って今、どれだけの価値があるか、ご存知ですか?」
「知らん、教えて」
「まずですね。小蜘蛛の糸は一つの装備を作る量で言えば、1000ptほどです」
「へー、高いね」
「そうなんです!それほど貴重なんですよ。これに付与などの強化を加えれば数倍にはね上がります」
「ふむふむ」
「基本的にその魔物の進化した素材の場合、二倍ほどの価値がつきます。しかし、蜘蛛の糸は別です。防具でいえば一級品。軽くて丈夫で付与に適した素材です。そんな強力な素材が二倍で済むはずがありません。およそ価値が十倍ほど膨れ上がります」
「なるほど」
「それに属性も合わされば、さらに倍されます」
「なるほどー、で、俺の糸はどれだけ価値があるの?」
「はい……この計算でいきますと……小蜘蛛で1000pt、中蜘蛛で1万pt、大蜘蛛で10万ptと続きますが……八雲様の種族って特異ですよね?」
「そうだな、特異だな」
「安く見積もっても……1億越えますよ?」
「どうしようかな、売りまくろうかな……」
「やめてください!」
「ええ?」
「価値が暴落してしまいます。それにPHに流れでもしたらもっと大変なことになりますよ!今の魔物の優勢が失われてしまう可能性があるので、絶対にやめてください!」
確かに攻撃力も防御力も、武器や防具が優秀になれば、かなり強力になるな。俺の糸だけでなく、カルトの骨なんかも装備にしたら強そうだしな。
「そうか……わかった。カルトに売ってくるわ」
「そうしてください……」
「PMなら問題ないってことか?」
「そうですね」
「なら、他のやつらにはカルトかカレー経由で渡してもらおう。最初の一つだけは割引にしよう。それ以降は有料だがな」
「そうしてください……あまり広まらないようにお願いします……」
「わかった」
金策がつぶれてしまったので、やっぱり戦いで得るしかないということがわかった。欲しいときはカルトに糸を売ろう。きっと大喜びで散財してくれるはずだ。
買い物はひとり、ぶらぶらするだけになった。お金はあるが、目について欲しいものはなかった。あったとしてもそれは食べ物で、いつも通りって感じがした。しかも大体がカレー炒飯の屋台にいけば、無料で食べられるものばかりだった。
「お、ここは?」
気になるポスターを見つけた。そこには『強者求ム』と書かれていた。
「それは闘技場ですね」
「闘技場?」
「はい。毎日開催される祭りなんですが、勝てば賞金が貰えるんで、ここに来た方は大体参加されていきます。装備品などは返却されるので、PHの方がほとんどですね」
「倒されたら解体されるのか?」
「いえいえ、一撃死したらそうなりますが、大体は寸止めですよ。なにせ、負けたら相手のレベルが上がる、なんてこともありますから」
「へぇ……」
「だめですからね?」
「いやいや、俺だって立派な観光客だろ?」
「そうですけど……」
「カルトに頼んでみるか……」
「絶対だめって言われますから!」
「はいはい」
俺は適当な返事をしつつ、カルトの屋敷にまた向かうことにした。




