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第92話 初めてのお買い物

おかわり。

 野菜を味わっていると、腹がどんどん満たされていく。これは当たり前だ。そしてお腹一杯になるとやることがなくなる。子蜘蛛たちがこの状況でじーっとできるかといえば、無理だ。


「ねぇ、ママ」


「ん?」


「遊びにいってもいい?」


「んー、天網を空に出したら帰ってくるんだぞ」


「「はーい」」


 ハクマとコクマが離脱して森の方にかけていった。


 やることがなくなったドーマとドンマは座禅を組んで瞑想をし始めて、フウマとスイマは列を抜けて門の方に向かった。


 門の方で騒ぎがあったし、俺達は最後尾だ。文句を言う人はいないはずだ。エンマと一色とあるふぁは俺に背中を向けて警戒している。ここはカルトの街の前だし、そんなことをする必要ないと思うけど。


 のんびりしていると、前の方から段々と騒がしくなってきた。なんでだろう?と思っていると、フウマとスイマが騎士を連れて帰ってきた。二人が連れてきたのは白銀の鎧を纏った聖骸たちだった。


「そいつらは?」


「お初にお目にかかります。わたくし、カルト様の騎士、シュバルツと申します。街へのご案内のために参りました」


「そうか。でも、順番は守らないといけないんじゃ?」


「カルト様のご友人にそのようなこと必要ありません。直接門を通り抜けください。ご案内します」


「ちょっと待ってくれ。今連れを呼び戻す」


 天網を空に展開すると、森の方から二人が帰ってきた。全員集まったので、門に向かうことになった。


 騎士に連れられた俺達は前の方にいた人達に睨まれたが、シュバルツが腰の剣に手を伸ばすとスンッと静まった。


 門までたどり着くと騒がしくなった原因がわかった。馬車の車輪が潰れてしまって動けなくなっていたのだ。


「あれは退けなくていいのか?」


「なにぶん、荷物が多くて手間取っておりまして」


「そうか。手伝ってやろう」


「いいのですか?」


「これくらいなんてことない。それにしても騎士の数多くないか?」


「どうやらあの荷台にはカルト様が禁制した品物がありまして、扱いが難しく専門のものを待っているのです」


「そうか、もしかして爆発系?」


「ご存知でしたか!?」


「なら、手っ取り早く転移させるか。天網の下にいる人達を避難させてくれ」


「承知しました。すぐに退けます」


 そう言ってシュバルツは鎧を着てるとは思えない速度で走り抜けて真下にいたリュックサックの男を草原の方へと投げ飛ばした。それから次々と列にいた人を投げ飛ばした。


 横暴が過ぎるその行為になんとも言えないが、命を失うよりかは幾分かマシだろう。真下に誰といなくなったところで木箱に入った商品を次々と遷移させていった。


 門の先にある天網から次々と落下していく木箱は着地した瞬間に爆発していく。爆風で砂埃が待ってくるが、フウマが風術で弾き返してこっちにくることはなかった。


 ほとんど処理したところで専門のものが来た。


「ここかしら?」


「はい!お越しいただきありがとうございます!」


 やってきたのは味噌汁ご飯だった。


「あら、八雲じゃない。どうしたの?こんなところで?」


「カルトの街に遊びに来たんだよ。もしかして爆発専門って味噌汁ご飯のこと?」


「そうよーって……あら、あんまりないわね。大量にあるって聞いたのだけど?」


「俺が処理したから残ってるのはこれだけ」


「そうなの?ちょっと見せてもらうわね」


 そう言って味噌汁ご飯は木箱を丸ごと包み込んだ。木箱をそっと開けると、そこには大量に詰め込んだ火花草があった。


「これね、でもこれは若いものよ。もしかして種から育てたのかしら?」


 味噌汁ご飯は触手で火花草を持って、拘束された商人に言い寄った。


「し、知らん。わしは知らんぞ。それは頼まれて運んできただけじゃからな」


「頼まれた?それは誰に?」


「名前は知らん。じゃが、あれは只者ではない」


「そのくらいの情報しかないの?」


「知らんからな」


「そう、じゃあこれを今から食べてもらおうかしら」


「は?お主、何を言っとる。それは食べ物じゃないじゃろ?」


「いえ、これは食べ物よ。食べると胃が爆発するだけで食べれなくないわ。さぁ、召し上がれ」


 味噌汁ご飯は触手を口に突っ込んで、火花草を送り込んだ。


「待て、待て待て!や、やめ、い、言うから」


「そう。じゃあ教えてくれるかしら?」


 観念した商人から言質をとった味噌汁ご飯はするりと触手を抜き取り、話を聞くことにした。


「奴は確か傭兵じゃ。名前は確かアトラスとか言っておったな」


「アトラスねぇ……それって確かカルトきゅんを目の敵にしてるっていうPHだったわね。これはカルトきゅんに報告ね。そうそう、これだけのことをしたのだから、貴方はここでの取引の一切を禁止、立ち入ることもできなくなるわ」


「それは横暴と言うのではないか?わしは街では大商人であるぞ」


「じゃあお店は乗っ取るから、貴方にはきついお仕置きをしておくわ。ほら、行きましょう。良いところを知ってるの」


「お、おい、待て。わしに一体なにをする気じゃ」


「それは来てからのお・た・の・し・み☆」


 そう言って二人は街の奥へと去っていった。置いてかれた俺達は残り分を処理して買い物に出掛けることにした。シュバルツは街の案内としてついてくることになった。


「買い物かぁ。お店で買い物は始めてだな」


「ママ、あれなにかな?」


「んん?どれだ、これー!」


 物思いに耽っているとコクマが店に指をさして質問してきた。そこには小物がたくさんあり、アクセサリーショップのようだ。


「これはお洒落用品だな」


「おしゃれようひん?」


「こうやって指にはめたり、首にかけたりするんだ」


「食べられる?」


「食べれないな」


「じゃあいらなーい」


 コクマは早々に興味をなくして去っていこうとするが、ハクマがコクマの腕を掴んで止めた。


「なに、ハクマ」


「ちょっと見ていこ」


「なんで?食べれないってママ言ってたよ」


「コクマはここにいればいいから、ね?」


「うーん、少しだけだよ」


 コクマはハクマの沼にハマった。コクマは男だが、ハクマは女の子だ。お洒落に目がない女の子が見ていこって言うのは軽い気持ちで受け取るべきじゃない。


 ドーマとドンマ、あるふぁはどこか行きたそうにしているが、他の子蜘蛛は女の子なので、すぐに出ていこうとせず、アクセサリーを選んでいた。


「……俺達は他のところを見に行こうか」


 俺はこそっと三人に言うと、小さく頷いていた。


「シュバルツ、ここを頼めるか?」


「承知しました。別のものを呼ぶので少々お待ちください」


「わかった、待ってる」


 待ってる間に変わり替わりに子蜘蛛たちがアクセサリーを持ってきて、これはどうか、あれはどうかって聞いてくる。お洒落にあまり興味のない俺からしたらどれがよくてどれが悪いなんてわからない。


 信用してる人がこれがいいって言えば、それでいいんだ。だから俺の私服は大体お母さんかミオが選んでる。たまにお父さんから「待った」が入ることもあるが、大体は受け入れている。


「ママ、これほしい」


 移り変わり次にやってきたのはハクマだった。持ってきたのは黒と白のなにかの植物を模したイヤリングだった。


「コクマと二人でつけるのか?」


「うん……」


「そうか。よし、買いに行こう」


 俺はハクマを連れてカウンターのもとまでやって来た。後ろにはシュバルツがいるので、なにか困ったときには聞けるので安心して買い物ができる筈だ。


「こちら、合計で57000ルトになります」


「……?」


「あの……?」


「……ルトってなに?」


 聞いたことのない通貨単位だ。そもそも今までポイントで買い物したことはあったが、お店で買い物をしたことがなかった。


 そもそも通貨って存在するのか?コインみたいなもの?お札みたいなもの?どれも見たことないんだけど、これはなにを出したらいいの?


「八雲様、こちらがルトとなります。カルト様が製造元のこの街限定の通貨でして、お持ちになりませんか?」 


 シュバルツが出したのは丸いコインで素材はなにかわからなかったが、色とりどりのコインがあった。どれも見たことがなく、持ってもいなかった。


「うーん、初めて来たから持ってないな。そうか……お金がいるのか。すまん、ハクマ。俺には買うことができなかった」


「……」


「ごめんな」


「ううん、いい。ママが気にすることない。カレーおじちゃんに頼んでつくってもらえばいいもん……」


 しょんぼりする俺とハクマ。俺たちの様子にシュバルツは言葉を失っていた。なんとか意識を取り戻し、店員の前までくると、自身の持っていた通貨を差し出した。


「これで足りるか?」


「は、はい」


 店員はシュバルツからお金を受け取ると、お釣りとなるコインを渡していた。店員は包みを用意すると、イヤリングをラッピングしてシュバルツに渡していた。


「八雲様、お受け取りください」


「いいのか?シュバルツの金だろ?」


「気にしないでください。八雲様に何かあるとカルト様に叱られてしまいます。わたくしのことは歩く財布とでも思ってください」


「そうか、助かる。だけど、やっぱり自分達のお金で買いたいから、換金できる場所に連れてってくれるか?」


「承知しました。すぐに向かいましょう」


「みんな、行くよ。アクセサリーはあとでまた買いにくるから」


 ほとんどの子達はすぐにこちらに来たが、スイマだけは頑なにやめようとしなかった。


「スイマ、行くよ」


「……これ、ほしい」


「あとでまた来るからその時に」


「だめ、なくなってるかもだから」


「うーん、店員さん。これ、取り置きしてもらってもいい?」


「いいですよ!では、お預かりします!」


 店員さんに渡すと、スイマはちらちらとそっちを見たが、なんとか重たい足を動かしてくれた。


 店を出ると、他にも誘惑があったが、みんなには我慢してもらった。シュバルツについていくとなぜか街一番と言われそうな建物に連れていかれた。


「あれ、ここは?」


「カルト様のお屋敷です」


「あれ、換金所は?」


「八雲様からお売り頂くものはカルト様が直々に買われると言っていましたので、こちらにお連れしました」


「そうなの?」


「はい。こちらから参りましょう」


 シュバルツについていくと、まず玄関があり、そこで足を拭いて中に入っていった。中には赤の上品な絨毯が敷かれていて、踏むにはもったいなく感じた。


 奥に進んでいくとメイドさんだったり、執事だったり騎士だったり色んな人を見かけた。ほとんどが聖骸や邪骸だろう。中には獣人もいたが、おそらくカルトの趣味だろう。


 階段を登り、やって来たのは一際豪華な扉だった。


「少々お待ちください。カルト様を呼んできます」


「あ、うん」


 なんだか場違いなところに来てしまった。こんな豪華だと緊張してしまうのだが、俺はここに来てよかったのだろうか。


「ママ、きゅうりー」


「今はだめ」


「ええ!?小腹空いちゃったよ……」


「カルトが美味しいものを用意してるかもしれないから、我慢しよ」


「それなら、我慢する!」


 すまん、カルト。コクマに期待をさせてしまって。でも、コクマのおかげで緊張はしなくなった。


「お待たせしました。カルト様がこちらでお呼びになっていますので、こちらに参りましょう」


 そう言って豪華な扉ではなく、別の場所に行くことになった。


「あれ、ここは?」


「やっぱり気になります?」


「そうだな」


「では、少しだけ見ていきましょう。実はわたくしも入るの初めてなんですよね」


「そうなのか?」


「はい。一介の騎士にここまで来る用事はありませんので。本当、八雲様の案内役を勤められるかヒヤヒヤしてますよ」


「気にすんな。俺もここに来るの初めてだから。お互い初めて同士仲良くしようや」


「はい!」


 シュバルツが扉に手をかけたところで、シュバルツの手を掴む者が現れた。


「何をしている?」


「や、八雲様にこちらをお見せしようかと……」


「なるほど。では、私もご一緒しましょう。驚かせて申し訳ありません。私、カルト様の執事、カイルと申します」


「ん、よろしく。あまり、シュバルツを怒らないでやって。俺が見たいって言ったんだ」


「そうでしたか。では、お見せしますね」


 シュバルツにカイルは指示を出して開かせた。


 開いた扉から微かに冷気を感じた。


 中は屋敷の雰囲気から逸脱した雰囲気を醸し出しており、黒を基調とした大理石の床に水晶で装飾された白壁、奥へと続く細長い絨毯の先には王座があり、壁沿いには真っ黒な全身鎧を着た騎士が立っていた。


「……なんだここ」


「ここはカルト様のお気に入りの王座の間でして、威圧的な商人などを屈服させるのに使用します。周囲にいる者は死霊鎧騎士(リビングアーマー)でして、カルト様に武器を抜いたものを瞬く間に制圧します」


「すごそうだな」


「はい。これで幾人もの商人を倒してきました」


「面白そうだな。今度、カルトに聞こう。カルトを待たせるのも悪いし、行こうか」


「はい、承知しました。こちらです。シュバルツも来なさい」


「はっ!」


 俺達はカイルに案内され、カルトのもとへと向かうのだった。

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