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《SS》運命共同体

SSはいくつか考えているので、また更新します。

夏の日差しは身を焦がし、春には気持ちのよい風を吹く風も夏では生ぬるい風を起こす。外に出るのにも億劫になるが、そんな真昼に公園で一人時計をチラチラと確認する男がいた。


その者は汗だくでタイツのように張り付いたシャツをなんとか引き剥がし、新鮮な空気を飲ませていた。


半ズボンにも関わらず、通気性は意味をなさず、むしろ日が直接刺さって暑さを助長させていた。


耐えきれないほどの暑さにも関わらず、男にはそこを離れられない理由があった。


「ったく、おせぇーよ」


目線の先に現れた少女に対して愚痴を溢す男は鋭く少女を睨み付けた。誰が見ても少女に(たか)る不良のそれにしか見えない。しかし、その少女は怖がることもなく、そして悪びれた様子もなくこう言った。


「仕方ないじゃん。暑いんだし」


「はぁ……その暑いところに何時間もいた俺に対して、労いの言葉の一つもねぇのかよ」


労いの言葉の前に少女に対する誉め言葉はないのか。そう紳士淑女なら思うだろう。しかし、彼らは貴族でもイタリア人でもない。


幼さを残した姿の少女と不良にしか見えない男が向き合えば、なにかあったと思ってしまうのは、通行人としての当然の思いだろう。


無関係な通行人は少女を観察した。黒髪ポニーテールにすらりと伸びた肢体。もう少し身長が高ければ、剣道部が似合いそうな凛とした女性になりえる。


だが、観察はここで終わりだ。通行人は止まることはできない。なぜなら目線を定めて止まれば、それは不審者にジョブチェンジしてしまうからだ。もう少し見ていたかったという欲を抑え、通行人Aは去っていった。


観察されているとも知らず、少女は悪びれもなくこう言った。


「ごっめーん、てへ」


少女はあどけなく、にこっとわらう。それを見た男はくるりと踵を返した。


「あぁ、もういいよ。それより日陰に行こうぜ」


突然、背中で語り始めた男に若干の戸惑いを見せる少女だったが、男の耳を見て頬を綻ばせた。


「あ、うん」


男の誘いに素直に従うのは互いの仲の良さからか、それともこの暑さをどうにかしたいために従ったのか。それは神のみぞ知るなんとやらだ。


広葉樹の下のベンチに腰掛け、男は用意していたペットボトルを口に含んだ。


「熱中症になると困るし、こまめに水分補給は大事だな」


男の台詞に少女は首を傾けた。それに気がついた彼も不思議そうに首を傾けた。


「あれ?ボクのは?」


「ねぇよ!」


少女の問いにすぐさま否定すると、少女は悲しそうに声を大きくあげた。


「ひっどーい!」


通りがかりの人に冷ややかな目を向けられた男は、居心地悪くなり立ち上がった。


「はぁ……買ってくるから、ちょっと待ってろ」


「ううん、いいよ。それ、ちょーだい」


「は?これは俺のだぞ?」


「気にしないよ。だって、若い男との間接キスやぞ?役得以外のなにものでもない」


少女は男からペットボトルを奪い取り、恍惚とした表情で水を飲みだした。その様子にさすがの男も、強面らしからぬ表情で困惑していた。


「……なんでお前はそう残念なんだ」


男の困惑を他所にゴクゴクと飲み干した少女は、空っぽになったペットボトルを男に渡した。渡された本人はさらに困惑していたが、少女に悪びれるつもりもなかった。


「ご馳走さま、ヒデ……最高だったよ、水!」


少女の変態ぶりを再確認した強面の男は、FEOで【悪魔の種】の二つ名を持つ植物系の人外プレイヤーのヒデだ。


そして、この少女はヒデのストーカーとして、たまに話に上がっていた変態である。


そしてその変態の名は鈴華(すずか)。ヒデノリの幼馴染みであり、家が隣同士だったからか、まるで兄妹のように育ってきた。


しかし、どこで間違えたのか、いつの間にかこんな変態になってしまい、今では本人公認のストーカーだ。


「それにしてもヒデの方から呼び出しとはね。ついにボクが愛情を込めて作ったヤクザのコスプレ衣装を着てくれる気になったか」


「あぁ、それはない。俺が今日呼び出したのは……」


「告白か?すまない。ボクが好きなのはコスプレに付き合ってくれる強面で目が鋭くて、まるで君みたいな男さ」


「告白でもないしコスプレをする気もない。話を聞かないなら、この話はなしにしよう」


「待ってくれ、子供はまだ早いって……いったぁーいぃ!?」


堪忍袋の緒が切れたヒデは鈴華のほっぺを引っ張った。


「反省したか?」


「ひどい……うら若き乙女の柔肌を真っ赤に染めるなんて!」


「誤解させる言い方をやめろ!!」


「もうっ、ヒデは相変わらず女の子の扱いがなってない。女の子は柔らかい生き物なんやぞ。ほれ、ほれ」


鈴華はヒデの腕を抱きしめた。その行為にさすがのヒデも顔を隠してしまった。


「ふっふーん!ヒデもやっぱり男の子だな。これくらいで恥ずかしがるなんて……」


「……あぁ、悪い。大根おろしに擦られてるのかと思って笑いをこらえてた」


「きっさまぁぁぁぁ!言っていいことと悪いことがあるんだぞ!」


ぽかぽか叩く鈴華にヒデは「くっくっく」と笑い出した。ついには「ひーひー」笑い出すヒデ。


鈴華はヒデの手をつかんで押し倒そうとする。しかし、ヒデの力には及ばず、全く押さえつけることができなかった。


「なにわろとんねん!」


「あはははっ……はー、わらった、わらった」


笑うヒデに怒る鈴華。


「まったく、ひどい男もいたもんだ」


「ごめんって」


笑われた鈴華はツーンとして、ぷくっと頬を膨らませた。


「悪かったって……ん?」


「ふーんだふーぷか!?」


興味をもったヒデは我慢できず、鈴華の頬に指を置いた。つつかれた鈴華は唖然と頬を押さえた。


「またしても、ヒデは……」


「悪いとは思っているが、後悔はしてない」


「そーかい、そーかい。それならこっちにもやり方ってものがあるんだぞ」


「へー、たとえば?」


「もちろん、ヒデと雪くんがイチャイ「やめとけ」」


鈴華が言ったのは自身の幼馴染みと友達である雪の二人のカップリングである。


雪の容姿はまさに美少女。そしてヒデは不良だ。その二人が仲良くしているところを学校の腐女子達が見てしまったら、失神ものである。


それを一つの本にまとめようとする鈴華の所業はまさしく悪魔のそれだが、それを許すとは思えなかったヒデはなにかをやらかす前に制止させた。


「気にするな、本人の許可は得ている!」


制止など無意味と言わんばかりに突き進む鈴華に唖然とするヒデだが、忘れてはいけないのは、その登場人物に自分がいることだ。


「ちょっと待て。俺は許可を出してないぞ!」


「そこがこの話の肝だ」


「言葉の使いどころ間違ってないか?」


「うるさいぞ、君ぃ!」


あーだ、こーだやっているうちに、かわいい鳴き声がした。


きゅるるるるるっ


「へ?」


「あっ……う、ボクじゃないぞ」


「そーだな。今のは俺だな。腹も空いたことだし、飯でも食べに行くか?」


「まったく、ヒデは……」


「なんだよ」


「なんでもない。それで?ボクに何の用だったの?」


「あぁ、それはな。これだ」


ヒデはスマホの画面を見せた。そこにはFEOの招待に記載されていた。


「これって……」


「あぁ、これは……」


「ボクへのプロっ!?」


ヒデに怒られても仕方のないこと。あられのない姿となった鈴華に対し、ヒデは爽やかな表情で話を続けた。


「冗談はさておき」


「あの、あのあの」


「これは俺からのプレゼントだ。受け取ってくれるよな?」


「あのあのあの……」


「な?」


「あの……放して、もらっても?」


頭を鷲掴みにされた鈴華は懇願するが、今までの所業が鈴華を許すだけの価値を見出だせなかった。


「な?」


「は、はひぃ……」


押しきられた鈴華は素直にそれを受け取ることしかできなかった。


それから二人は近くの喫茶店でお昼をすまし、解散することになるのだが、その理由は「ゲームをしたいから」というなんとも色気のないものだった。


理由は二人とも心の底では思っていたこと、だからこそ口には出さず、それとなくお互いがお互いを誘導し合い、解散することとなった。


しかし、二人は隣同士。当然、家につくまでは一緒に帰る。少しだけ気まずくなるが、幼馴染みだけあって、二人はいつも通り話し、いつも通り帰宅していった。


その夜、チュートリアルを済ませた鈴華は、ヒデに自分がなった人外について話があると通話してきた。


もしかしたらFEOについて聞きたいことがあるのかもしれない。そう考えていたヒデはこれまで誰にも話していなかった知識について教えてやろうと、意気込んでいた。


しかし、一言目で度肝を抜かれるのはヒデの方だった。


「それで、何の用だ?」


「聞いて、聞いて。ボク、馬になったんだけどさ。やっぱ、ボクとヒデって運命共同体だよね!?」


「お、おう?」


なんのことかさっぱりわからなかったヒデは混乱することしかできなかった。


興奮気味になった鈴華の様子は、「すごい大発見をした!」そういう雰囲気をしていた。


「確か、ヒデは種の魔物なんだっけ?」


「そうだが、それがどうかしたのか?」


「いやー、やっぱりボク達って深い運命の赤い糸で結ばれていたんだね」


「は?なに言って……」


「だって、ボクたち。二人合わせて種う…………ツゥーツゥー」


嫌な予感のしたヒデはすぐさま通話を切断した。その判断は正しいだろう。なにせ、それは女の子からは、決して口に出してはいけない。そんな意味が含まれている気がしたからだ。


「……寝るか」


鳴り続けるスマホの電源を切り、ヒデは布団(現実逃避)に入った。


今日はよく眠れるはずだ。なにせ現実で悪夢のようなものを聞いたのだ。夢くらい、良いものを見ても許されるはずだ。


一方、その頃。聞いてほしい、とにかく誰かに聞いてほしい。そんな思いに駆られた鈴華は迷走していた。


手当たり次第にその相手を探していたわけだが、ゲームをやっていてなおかつ、ヒデがやっていることを知っている相手といえば、身近に三人しかいない。


一人(カルト)は喜び、一人(ユッケ)は哀れみ、一人(八雲)は不思議そうにしていた。


その後、鈴華はヒデに説教されることになる。同じく布団ですやすやと眠り始めた彼女には酷な未来が待っていることだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きを楽しみにしてます。 "一人は喜び、一人は哀れみ、一人は不思議そうに"のところで一人に名前のルビを振ったらクスッとなるかなと、思いました。
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