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第10話 気絶うさぎと悪ノリ狼

 ルカさんの話を飲み込むのに時間がかかっていると、後ろから「キュウ!?……キュウ~!?」という鳴き声が聞こえてきた。振り返るとそこにはハクマとコクマに転がされているウサギの姿が。


 「あ……っと、ハクマ!コクマ、その子はオモチャじゃないぞ!返しなさい!」


 ついハクマとコクマを怒鳴り付けてしまった。ハクマとコクマは二人でなにか囁きあっていそいそとミントを返しに来てくれた。


 ただし、その時のハクマとコクマの雰囲気は「お父さんも本当は混ざりたかったんでしょ?」と休みの日に一人ハブられて寂しそうにしてる父親に仕方ないから形だけ誘ってやるかと言わんばかりの哀れみの目線を頂いた。


 それにはさすがにイラっとしたのでハクマとコクマを簀巻きにして森賢熊(フォレストベア)の剥製の目の前に御供えしておいた。するとハクマとコクマはプルプルと震えながらこちらに助けを求めてきたが、放置した。


 森賢熊(フォレストベア)の剥製は迫力満点でまるで生きているかのように見える逸品だ。まだチラッとしか見たことがないハクマとコクマには本物とでも思うのだろう。


 「ガ……ガルゥ……」


 今度はフウマ達の方から悲しそうな声が聞こえてきたので振り向くと、狼の周りにコウモリやネズミを置いて、どれが一番美味しそうか、フウマ達が前脚を差し合って品定めしていた。


 それもやめさせて狼を引き取ると、ルカさんにフレンドになる方法を教えてもらった。フレンドには掲示板でのフレンド申請以外にも担当AIであるルカさんに送ってもらう方法がある。


 この場合は相手をプレイヤーだと認識していなければ、送ることができない。そもそも認識していなければ、食べ物としか思っていないので、この方法をとる訳もない。


 拠点に持って帰ることも前提とする訳だ。食べ物と認識していれば、その場で食べてしまうことだってあり得るのだ。


 「ルカさん、この二人にフレンド申請お願いします」


 「かしこまりました」


 ルカさんが空中で何かをスライドすると、ログで『ユッケにフレンド申請しました。』『ミントにフレンド申請をしました。』と表示された。それから暫くしてから両方受理されたので、これからは二人の言葉が理解できるはずだ。


 ログを確認していると、また近くから叫び声が聞こえてきた。


 「い、いやぁ!!助けてぇ~」


 そちらを見ると簀巻きにされていたハクマとコクマが「道連れだ!」と言わんばかりに糸でミントを手繰り寄せていた。


 「……」


 無言で糸を切ると、ハクマとコクマにゆっくり近付いていく。糸が切られたことに呆然としていた二人だったが、ゆっくりと近づいてくる俺にプルプルと震えながら言い訳を伝えてくる。


 「だめでしょ?」


 注意すると怖かったのかハクマとコクマが激しく頷いた。ハクマとコクマには後程説教するとして、ミントを両前脚で糸をほどいて森賢熊(フォレストベア)の絨毯の上に寝かせる。


 「い、いやぁ……食べないでぇ……」


 ミントは狼に追われたり蜘蛛に囲まれたりして精神状態が危ういので、ここは同じウサミミを持つルカさんに引き渡すことにした。


 「ルカさん、ミントさんが元気になるまでお願いします」


 「はい、お任せてください」


 ミントにとっては同種族ともとれるルカさんになら心を開いてくれるはずだ。しかも野菜スティックを常備してるからな。餌付けだって御手の物だ。


 次は悪友であるユッケだが、フレンド申請を受理したことから大体理解してるはずだ。ミントに限っては混乱しててなんでもイエス!って言いそうな雰囲気だったので大丈夫だった。


 簀巻きの悪友に近付いていくとニヤリと笑ってこう言った。


 「久しぶりだな、りゅっがはっ!?」


 リアルネームを言いかけた悪友を殴る。ゲームにおいて本名を名乗るやつはゲーム初心者や呼ばれなれているからとつけている者など様々だが、俺は基本的にリアルネームからかけ離れた名前にする。


 本名が嫌いな訳じゃないが、仮の自分をつくっている感じが気に入ってるので、本名で呼ぼうとするやつに容赦はしない。ただし男に限る。女性に呼ばれて悪い気はしない。


 「いつも言ってるよな?本名で呼ぶなって」


 「ごめん!あや、謝るから!その手を止めて!!」


 ユッケにもう一発殴ろうとするところを止められた。仕方ない、今日はやめといてやろう。


 「久しぶりだな、ユッケ。俺は今回『八雲』だから、間違えても本名を呼ぶなよ?いいな?」


 「わかってるって。わかってるからわかってる」


 ユッケはそっぽを向いて適当に返事する。それにイラっとしてきたので右前脚に魔力を集める。


 「へぇ?そんな空返事でいいのかな?」


 「ごめん!約束するから!」


 身の危険を感じてやっと謝ってきたが、反省しなさそうなのでフウマ達を周りに待機させて好きな話をさせている。そのため妙な威圧を感じるユッケはこちらの話を聞かなければならないのだ。


 「それで?なんであのウサギを追いかけ回してたんだ?」


 「それはそこのウサミミちゃんからウサギを奪おうとしてる蜘蛛達と同じ理由さ」


 ルカさんからミントを奪おうとしていたのは、反省の足りなかったハクマとコクマだ。しかし彼らは手を出してはいけない相手に手を出した。俺はあいつらを見なかったことにして話を進める。


 「つまりは面白半分ってことだな?」


 「あぁ、ウサギの魔物はあれが初めてだったから、あぁいう魔物なのかと思ってた」


 確かに俺も初めてウサギの魔物を見た。いや、狼もだけど、この世界ではそういう生き物なのかと信じそうだった。


 「ユッケはどのエリアにいたんだ?俺は深い森の中にいたんだが」


 「俺は砂漠だな。暑くて死にそうだったぜ」


 「砂漠?そんなエリアまであるのか」


 「つっても第二エリアだけどな。深い森も第二エリアだろ?俺もオープンβのときはそこで戦闘練習してたからな」


 「てことは、ユッケも最初の相手はエリアボスか」


 「そういうことになるな。ちなみに砂漠のエリアボスはでかいワームだったな。名前は確か砂塵地虫(ダストワーム)っていう砂を撒き散らして視界を奪い、死角から食らい付いてくる初見殺しだな」


 うわぁ、よかったこっちはでかいだけの熊で。俺の天敵とも呼べる魔物だな。砂漠は障害物が周りにないから糸も地面にしか張れないから、避ける術がない。


 「そっちは深い森ってことは森賢熊(フォレストベア)だろ?あいつ強すぎってオープンβで噂になってたんだが、よく倒せたな」


 「そうか?糸で雁字搦めにしたらノーダメで倒せたぞ?」


 「うわぁ……お前えげつないな……。あんなネバネバした糸が全身に張り付いてたら動けないもんな」


 失礼な、しっかりと作戦をたてた結果だぞ。


 「その砂塵地虫(ダストワーム)を倒したら何貰えた?俺はそこに置いてある剥製と絨毯だな」


 左前脚で剥製と絨毯に指を差す。絨毯にはミントを愛でるルカさんがいたが、剥製の周りは物々しい雰囲気を醸し出していた。


 剥製の目の前には木杭を二本地面に突き刺して間に魔糸槍を乗せ、簀巻きにされたハクマとコクマが吊り下げられていた。しかも逃げられないようにフウマ達が監視役として睨み付けていた。


 「……あれらだな」


 「お、おぅ……」


 俺らは見てはいけないものを見たと言わんばかりに目をそらして、話を続けることにした。


 「そっちは何貰ったんだ?」


 「俺のところは……その前にちょっと動きづらいからこの拘束をといてくれないか?」


 「いいぞ、すまんな。結構な時間そのまんまだったから、糸に包まれていることが当たり前だと思ってた」


 そう言いながら巻き付けた糸とへばりついた糸を剥がす。すべての糸が取れたユッケは犬のように体をぶるぶると揺らして水気をとばした。それを見るとゲームってここまで成りきるものなんだと、感心した。


 「それで俺のところは……あんまり良いものとは言えなかったな」


 「なんだ?ワームの剥製か?」


 「それもなかなかだが、砂塵地虫(ダストワーム)の寝袋と噴水だな。しかもご丁寧に勢いの調整と霧状にもできる。運営のセンスどうにかしてほしいよ……全く」


 「それはまた……機能としては良いものじゃないか?」


 「シャワーとして使えるぞ」


 「なら良いじゃねぇか」


 「機能はいいんだ、機能は。見た目がな、見た目が砂塵地虫(ダストワーム)そのままなんだ。」


 「……見たことないからなんとも言えないけど、それは御愁傷様です」


 やだなぁ、砂漠に行こうとしたらそのワームを倒しにいかないといけないのか。苦戦しそうなのに、貰えるものが噴水と寝袋か。行きたくなくなりそう。


 「見たことないなら見に行こうぜ。フレンドの拠点なら行き来自由だしな」


 「いや、特に用事がないから。今回は遠慮しとくよ」


 「……」


 そろそろミントさんが元気になってるだろうし、ミントさんともコミュニケーションをとって仲良くなりたい。


 「そろそろ頃合いだし、ユッケもミントさんにフレンド申請してこいよ。ミントさんには俺から伝えとっおお!?なんだよ!?ちょ、ちょ、どこに……」


 ミントの方に右前脚を指して今からそこにいくと、ルカさんに知らせていると、突然脚が地面から離れて視線が高くなった。振り返るとユッケが俺の体をくわえていた


 「俺は用事があるから、お前を連れていくぞ。さて、行こうか。俺の拠点に」


 ユッケは俺をくわえたまま新しくできた魔法陣に連れていった。そこにはユッケの拠点とミントの拠点への選択肢があった。


 「いやぁ~、はーなーしーてー」


 「ふんっ」


 じたばた暴れたが、有無を言わさず連れていかれた。その時のユッケの目は笑っていて、鼻をならして鼻でも笑っていた。これがドナドナされる側の気持ちか。


 拠点に着くと一番に目についたのは3mほどの大きさの噴水だ。その形は綺麗な円だが、よく見ると縁に細かい牙がついていて、見るからにあれがユッケの言っていた噴水だろう。


 次に目についたのはワームの姿をしたでかい何かだ。ワームの口が入り口で中には綺麗な水色の髪の少女が眠っていた。あれがユッケ担当のAIなのだろう。


 「どうだ?」


 「なんていうか、性能はいいのにデザインがダサい装備を見てる感覚だな。所謂ネタ装備といっても過言ではない、そんな家具だな。趣があっていいんじゃないか?俺はいらんが」


 「だろうな……俺もデザインが気に入らないんだが、一度あの寝袋で寝ると俺の気持ちがわかるぞ。今はリカさんが寝てるから、だめだが」


 「へぇ、あの子はリカさんっていうのか」


 「あぁ、性格はお前んとこのルカさんみたいにおっとりした感じじゃなくてぼーっとしてるな。寝相が悪いから、あそこで寝るように頼み込むほどだ」


 「そうなのか。それはいいとしてあの噴水も使い勝手いいのか?縁の牙が刺さると思うんだが」


 「それってお前なぁ……あの牙の部分は体を押さえつけるとマッサージとして使えるぞ。ちなみに先は尖っていないぞ。だから怪我をすることはないな」


 あれそうやって使うのか、なんだかでかい風呂に見えてきた。機能について聞いていくと欲しくなってくるな、ワームの

家具。


 「俺のことは離してそろそろミントさんにフレンド申請してこいよ」


 「おぅ、わりぃな。先に帰って俺のことを説明してきてくれよ」


 「りょーかい」


 ユッケの拠点を見回した後、自分の拠点に帰還する。ハクマとコクマは反省しているのか、暗い顔をしていたが、逆にミントさんはルカさんと楽しくお話をしていた。


 「ルカさん、どうですか?」


 「はい、大丈夫ですよ。ほら、気さくな蜘蛛さんでしょ?」


 「は、はい……言葉がわかるとこうも変わるものなんですね……。あ、わ、私ミントって言います!よろしくお願いします!」


 ルカさんはいつも通りおっとりしていて、ミントさんはおどおどはしていたが、ちゃんとこちらを見て挨拶してくれた。まだ捕食者と獲物の関係だったときは目を合わせた瞬間に気絶されていたのだから、ずいぶん進歩したと言えるだろう。


 「はい、よろしくね。俺は八雲だ。さっきいた狼もプレイヤーでユッケって言うんだ。もう少ししたらフレンド申請が来ると思うから、よかったら受理してほしい。怖かったかもしれないが、あれでも俺の友達なんだ」


 「は、は、はひぃ……」


 これは随分弱ってるな。さすがに食べられそうになった相手とフレンドになるのは厳しいか、フレンドになると言葉が通じるようになるから、幾分か恐怖がなくなると思ってるんだが、これは無理そうか?


 「あ、き、あ……あわぁ……ふーふー、こわくないこわくない……」


 あの様子から察するにフレンド申請が来たようだ。俺も突然森賢熊(フォレストベア)からフレンド申請来たらあぁなるのかな?怖い相手じゃないけど、挙動不審にはなりそうだ。


 「じゅ、受理しました……」


 「ありがとね……無理をさせたようでごめんな」


 「い、いえ……いずれ通る道だったので、できて嬉しい……です……」


 なんだろう、この感じ。俺がまるで無理矢理やらせてるみたいな状況は。


 ちょっと状況に困惑していると、魔法陣からユッケが帰ってきた。少し嬉しそうにしているのは怖がらせた相手にフレンド受理してもらえたからだろう。


 「お、俺が近付いても大丈夫かな……?」


 まぁそうなるわな。俺も一応怖がらせた本人だからな。正直初め近付くのが気まずかった。


 「だ、大丈夫です……わ、私、ミントとい、言います。よ、よろしくお願い、します……」


 かなり怖がりながらの挨拶だったが、ユッケの方を見て気絶していないから、大丈夫そうかな?全然大丈夫そうにみえないけど。


 「俺はユッケっていってそこの八雲の友達だ。俺のことは気軽にユッケと呼んでくれ。あのときは怖がらせてすまなかった!」


 ユッケは頭を大きく下げて謝っていた。見た目が狼だからか謝っているようには見えないが、気持ちと姿勢は大事なことだ。これで誠意が伝わるといいんだが。


 「は、はい……ゆ、許します」


 ミントさんはユッケの謝罪を受け入れてくれた。恐怖があると強制したとも思えるが、ユッケは悪ノリはするが、こういうときはちゃんとするやつだ。無理矢理どうこうするやつではない。


 一連の出来事はかなり物々しいものだったが、無事済んで友達にもなれて良かった。

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