第1話 キャラメイク
2020/6/13 推敲(予定がつぶれたため)
2020/8/30 齟齬の修正
2023/2/5 話数を追加して設定追加を促す
セミの声が喚き散らしながら求愛をする、夏休み前日。
俺は悪友である春風裕貴に誘われたゲームの準備をしていた。このゲームは2XXX年に開発された全感覚意識没入ダイブ型VRMMOである。
その名も《FreedomEvolveOnline》。いつもは眠そうな悪友もこれに関して言えば狂ったように「楽しい楽しい」と、言っていた。
やばい薬でもやっているのかと病院を紹介したほどだ。そんな悪友もサービス前日となれば、優等生のように授業を熱心に聞いていた。
先生もそれを気にしていたが、あれはただゲームのための布石。もし、授業態度が悪く三者面談にでもなったら夏休みが減り、それに伴いゲーム時間が削れることを恐れているのだ。
起きているのはスケジュールを組んでいただけで、奴は授業の内容など一ミリも入っていない。
終業式が終わると狂ってしまったのか、紹介してきたゲームのゲーム機とソフトを無料でくれた。
ゲームのやりすぎで価値すらもわからなくなったのかと思っていたが、これはオープンβ参加者からの招待券で運営から無料で配布されたもので、裕貴からしても無料だった。
そうだとしてもVR機器は高価な代物だ。それを無料でくれるには何かあるとは思っていた。それがまさか告白じみたことをされるとは思っていなかった。
「俺の人生半分やるから、お前の時間をくれ」
間違ってはいないのだが、俺もお前も男なんだよ。周りにいたクラスメイトに勘違いされただろ。
どうせ言われるならもう一人の《FreedomEvolveOnline》をやっている立花雪に言ってもらいたかった。
字面的には女の子だが、こいつは男の娘だ。見た目は華奢で中性的な顔に長髪。女装男子と呼べるものだが、それでも男子にも女子にも人気がある。
外見は誰にでも好かれる女性的な一面を持つが、中身は腹黒で男らしい。見た目で判断したらだめって言うけど、その通りである。
告白に応じるわけではないが、現在、夏休みをあげる代わりにもらった、ヘッドギアと登録するためのコードを使用してゲーム準備してる。
コードはネットでホームページに登録用のコード+紹介者の名前を記入すると、登録画面に出る。そこで自分の名前と顔写真を送ると完了だ。
あとはヘッドギアを起動してゲーム起動と同時に体をスキャンして本人確認したら、登録が完全に完了して、個人用ヘッドギアになる。
生体認証機能のあるこのヘッドギアはもう転売することは叶わない。だからこそ未使用品は高価なのだ。
今日はサービス前日だが、オープンβ参加者と招待者は前日からチュートリアルとキャラメイクをすることができる。なので今日は二つともする予定だ。
この《FreedomEvolveOnline》の意味は『自由な発展』と『自由な進化』。プレイヤーの行動によってゲーム世界が発展し、進化していく。
『自由な発展』とは、街や文化など人が考え、作り発展させていくものだ。人は考え、実行することで、ものをつくる。この世界の住人もAIだがやることは変わらない。
この発展をプレイヤーが介入し、促進させることも停滞させることもできる。
そして自由な進化とは種族についてだ。他にもあるかもしれないが、今のところ読み取れるのはここまで。
この《FreedomEvolveOnline》の世界には主な二種類の種族が存在する。それは人と人ではない者の二つだ。従来のゲームでは狩る側狩られる側である人と魔物が、お互いに狩る側狩られる側になる。
プレイヤーが成長し進化していくのは当たり前だが、この世界では時間とともにNPMも進化する。もちろん全てのエリアではなく、解放されたエリア限定ではあるが。
進化するのはプレイヤーとノンプレイヤーの両方ともであり、どちらにもプレイヤーの人側も人外側もいるが、ノンプレイヤーにも人側と人外側が存在する。
人側をPHとし、人外側をPMとする。
今回は悪友に誘われた方のPMに属することにした。誘われて殺し合うのはなんとも言えないので、協力プレイをすることにした。ちなみに雪もPMなので三人でパーティーを組むことができる。
PMはオープンβ時に不人気だったため、正式サービス開始に伴い、様々なコンテンツが加わっていると聞いたので意外と楽しみである。
PMは基本的に町に入れない。なので交流方法はPM専用掲示板でフレンド交換もそこで行える。便利だが、PMはそこでぐらいしか容易にフレンドになれないのだ。
PHは町で待ち合わせできるが、PMはスポーン地点も発現地点もバラバラなので、会うことができる確率もレアドロップよりも低い。
さらに言えばプレイヤーとノンプレイヤーの区別がつかないので、もしかしたら殺し合いをいつの間にかやっていたなんてこともありそうだ。フレンドなら区別ができる措置があるので、なんとか遭遇できるはずだ。
準備が終わったので、早速起動させることにした。ここで意識を失う瞬間に『リンクスタート』やら『ゲートオープン』やら言うと始まるのだが、このヘッドギアではそんなことをしなくても自動で起動する。
開発者の話ではそんな機能つけるなら安全装置つけるわ!だそうだ。気分の問題と健康の問題だと健康をとるよね。
そんなこんなで始まったわけだが、まずはメニューで始めるゲームを選ぶ。すると、選択したゲームの世界にフォーカスされ、視点が切り替わった。一瞬の暗転後、草原にぽつんと一人立っていた。
立っていた自分の姿はおそらくスキャンした自身そのものだ。手も見慣れたもので、しわの一つまで再現されていた。
「これが入った感覚か…………視覚はもちろん聴覚も嗅覚もある。それにこの草を触った感覚も完璧に再現されてるな」
感覚の没入に違和感がなく、深呼吸をすると新鮮な空気が肺に染み渡り、とても心地よい。そんなことをしていると、後ろからガサガサと草を踏む音が聞こえた。
振り返るとそこにはウサミミの生えたメイドさんがいた。お辞儀されたので、お辞儀で返すと「ふふっ」と笑った。
「ようこそ、《FreedomEvolveOnline》の世界へ。私はPM担当AIルカと申します。以後お見知りおきを」
「俺の名前は『八雲』と言います。よろしくお願いします」
「これはご丁寧に。貴方は人外側プレイヤーでよろしいでしょうか?」
ルカさんは恐る恐る尋ねてきた。それほどまでに人外側プレイヤーは貴重なのだろう。
この機器は人外側プレイヤーである裕貴の招待券であるためか、最初から人外側だと思われているようだ。まぁ間違ってないけどね。
「はい、友達が人外なので一緒にプレイしようかと思っています。会える距離にいればの話ですが……」
「よかった……は!?えーっとですね。掲示板でフレンドを登録していただきますと、フレンドの位置の方角を表示できるようにしましたので、会えないことはないかと思います!」
それは便利だな。それにしてもそこまでPMは人気がないのだろうか。
「ちょっと質問よろしいですか?」
「はい?なんなりとお申し付けください!」
なんだか気合い入ってるけど、空回りしないかな?大丈夫かな?
「オープンβでの人外側プレイヤーって何人いたんですか?友達からは希少としか聞いてないもので……」
「とても言いづらいのですが……1000人中……6人ですぅ……」
すくなっ!思ってたよりだいぶ少ないぞ?そんなに不遇かな?わりと楽しそうに思えるんだが。
「それはなんとも……」
「ですが、大丈夫です!正式サービスでは10万人が第一陣として参加するのでもっと増えるはずです!」
「そうですね、友達二人とも人外なのでフレンドはいますし、寂しいことはないでしょう」
悪友は天然だが、雪は腹黒だ。一癖も二癖もあって楽しくないわけがない。もちろん俺は一般人だからまともだ。
「人外の方ですか?ちなみになんていうお方なんでしょうか?」
「確か……『ユッケ』と『カルト』です」
悪友がユッケで、雪がカルトだ。名前の由来は二人とも好物からだ。ちなみに俺は単純に空をみるのが好きで、よく雲を眺めてるから、雲がつく名前にしようかと思って八雲にしたのだ。
「ユッケ様とカルト様でしたか。お二人とも人側プレイヤーから二つ名を賜るほどのプレイヤーでしたので、記憶しております」
「ちなみにどんな名前ですか?」
「ユッケ様は『鮮血』、カルト様は『剣舞』ですね。ちなみにですが、人外の方々全員につけられております。他にはマルノミ様が『悪食』、味噌汁ご飯様とカレー炒飯様二人で『混ぜるな、危険』、クロード様が『いたずら魔王』ですね」
おやおや?二人は中二病の名をもらったのか、可哀想にあとでいじってやろう。それにしてもPMプレイヤーには個性的な面々が揃ったな。
「教えていただきありがとうございました。キャラメイクをしていきたいのですが、大丈夫ですか?」
「ええ、もちろんですよ。ではまずはこちらのガチャを引いてください。3回引けますので、そのうちの一つに決めてください。これは運で決まりますが、確率としては全ての種族が同率ではないのでもしかしたらレア種族が出るかもしれません」
草原にガチャってシュールだな。レア種族か。それはぜひとも出てほしいが、俺的には全く動けない魔物よりは動き回れるのがいいな。
『種鹿』『夜梟』『小蜘蛛』
「おー?これはどうですか?」
ん?なんか名前から引っ張られたものがあるんだが。いや、きっとランダムでたまたま出たんだろう。
「そうですね、種鹿は植物を操ることのできる鹿で私としてはこの中では一番おすすめですね」
種鹿って言い方がちょっと卑猥だな。植物を操れる点は興味をそそるな。他も聞いておこう。
「夜梟はどんな梟ですか?」
「夜梟は朝と昼は寝て過ごし、夜しか行動できないという弱点があるのであまりおすすめできません。小蜘蛛は蜘蛛系統の中で最弱のポジションですが、進化していったら一番多様な戦い方ができますよ。戦略として楽しむなら小蜘蛛でしょうね」
夜梟は却下だな。半日寝てるのはリスキル待ったなし。ここは無難に小蜘蛛にするか。種鹿はまた今度にしよう。
「うーん、今回は小蜘蛛にしたいと思います。次回は種鹿か、新しく出たものにします」
「では、この選択画面から選択して決定を押してください。その瞬間から貴方様は小蜘蛛になります。ちなみに小蜘蛛はまだ子供なので数日すると成長してリトルが取れます。これは成長ですので、進化ではありません。何卒ご注意を」
「わかりました。よし、これでいいですか?」
『小蜘蛛』を押して決定を押す。
「はい、大丈夫です」
それをルカさんが確認すると同時に視線ががくっと下がった。ほとんど地面と視線の高さが同じ程度に感じ、視界はかなり広い。手脚は合計8本あるようだ。
「うん?結構動かすの難しいな……」
目線は地面から20cmぐらいのところだろう。自分の大きさは仔犬くらいだ。そんな蜘蛛は恐怖でしかない。これからさらに大きくなっていくかと思うと、虫嫌いな人は即逃げるだろうな。
ルカさんはしゃがんで次へと促してきた。確かに説明聞いた後の方がいいよな。
「それもチュートリアルで学んでいきましょう。ですが、その前にスキルの選択をしていきましょう」
体を支える脚が6本あり、作業する手が2本あるようだ。脚が分断されたというよりは脚は一番後ろの脚で、指が他の脚を動かしているようだ。
「確か……固有が3つにゲームマスターおすすめが1つに自分で決められるのが6つでしたっけ?」
これは祐貴から教えて貰った話なので、変わっている可能性もある。ルカさんはこれについて言及せず、話を続けた。
「そうですね。まずは小蜘蛛のステータスを表示しますね」
《おすすめステータス》
名前:八雲
種族:小蜘蛛
性別:男
Lv:1
HP:8×10 MP:6×10
筋力:11魔力: 8
耐久: 8魔抗: 7
速度:15気力:12
器用:17幸運: 8
初期JP100
なるほど、速度と器用重視か。気力は食べる食べ物への耐性かな?。それと落下したときの恐怖削減。
どちらかといえば魔法が使いたいから、速度と器用重視だけども、筋力よりも魔力の方が強めにしよう。
《オリジナルステータス》
名前:八雲
種族:小蜘蛛
性別:男
Lv:1
HP:6×10 MP:8×10
筋力: 8魔力:11
耐久: 7魔抗: 8
速度:14気力:13
器用:20幸運: 5
初期JP100
※JPはジョブポイントの略だが、人側プレイヤーとの区別をつけないためにもレベルアップ時はJPを獲得する。
「できました」
「では次にスキル選択へうつりましょう。ちなみにですが固有スキルはこちらに、ゲームマスターおすすめがこちらになっております。今回はこちらをプレゼント致します」
・固有スキル【糸生成】【糸術】【糸渡り】
・GMおすすめスキル【繁殖】
蜘蛛だけに糸関連ばっかだな。繁殖って、メスの蜘蛛と交尾しないといけないのかな?
「プレゼントって無料で貰っていいんですか?」
「ええ。これは皆さん同じようにプレゼントしております」
「そうなんですか」
「はい。続いて固有スキルについての説明に入ります。糸生成はレベル1の段階で柔・普通・硬いの三種類の硬さを選べて、太い・普通・細いの3種類から選ぶことができます」
なんだそのラーメン頼むときの麺みたいなものは。てかほぼ麺と一緒じゃねぇか。
「糸術で糸の扱いが上手くなります。糸渡りは糸の自分への効果を無効にでき、バランス感覚を良くしてくれます」
蜘蛛特有のバランスの必要なものだな。綱渡りとかしたことないんだけど、できるかな。
「繁殖はそのまま子供を産めるようになります」
「それは交尾が必要なものですか?」
「いえいえ、特に必要なことはありません。毎日スキルレベル分の卵がインベントリに入ってます。卵から産まれる蜘蛛は愛情の込め具合によってステータスが変動します。それから試行錯誤すると種族も変わりますので、楽しみにしておいてください」
「その子蜘蛛は配下になるということですか?」
「ええ、ただし一律最初は1レベルなので、低レベルで野に放ちますとすぐに倒されてしまいます。面倒をみなくとも勝手に自立しますが、その場合は配下から外れるのでご注意を」
自立するのか、それがいいことか悪いことかわからないけど、面倒くさかったらほっとけばいいのね。
「ちなみにその子蜘蛛を自分が倒したらどうなりますか?」
「生存ポイントと経験値はもらえませんが、空腹が収まります。なので非常食としては大活躍です!」
そんな愛情を育てて作った果実を収穫するみたいなこと言われてもなぁ。
「つまり食べるってことですか?」
「そういうことになります。人外側の食べ物は見た目はゲテモノですが、そこはさすがに変えておりますので、ご安心ください。ちなみに小蜘蛛はスナック菓子の味がします」
確かに蜘蛛の味とか言われても想像つかないし、食事のたびに戸惑ってたらゲームに集中できない。
「それではSPを100ポイント渡しますので、スキルを取得してください」