真実を語る直前に
大変お久しぶりです。F-iren改めT-aiyoです。更新が遅くなって大変申し訳ございません!
「紹介しよう。我はご存知、バレル・ルーデルだ。そして、この青年が…」
バレルが紹介の言葉を言い終わる前に、その青年はしゃべり始めた。
「ミハイル…ミハイル・ヴリェーミャです。よろしくね、ジルア君」
ミハイル・ヴリェーミャと名乗った青年はヴリェーミャを噛むことなく流暢に発音すると、ジルアに対して好意的に接した。だが、ジルアはミハイルの不思議な外見に違和感のようなものを覚え、思わず身構えてしまった。
というのも、実際ミハイルはジルアから見ればかなり特異な外見をしていたのだから無理もない。彼の髪型は灰色のような色をした短髪で、紫と黄の二色で構成されたロープを羽織っていた。そして、彼は不気味な目を持っていた。どこを見ているのか、なにを見ているのか、なにを思っているのか。彼の目は全く感情を感じさせない空虚な目だった。
そんなミハイルを見たジルアは、心の中で今までにない恐怖を感じていた。勿論、ジルアは今まで恐怖を感じずに育ってきたわけではない。だが、今回感じた恐怖は今までとは全く違うタイプの恐怖で、もしかすると9年前の襲撃よりも恐ろしいものかもしれない。そうジルアは結論付けた。
ミハイルは、ジルアが自分を怖がっていることを目線で察し、笑ってこう言った。
「アハハ、そんなに身構える必要はないよ。ボクと君は仲間だし、そもそも似た者同士だ。仲良くしていこうよ」
似た者同士。ジルアはミハイルの言ったこの言葉の意味を全く理解できなかった。理解する気がなかったわけではないが、これ以上なにを聞いてもミハイルの話は理解できない。そう考え、ジルアは話を進めることにした。
「よ、よろしくね、ミハイルさん」
「ミハイル“君”で構わないよ。年齢はそんなに変わらないしね」
ミハイルは自分を君付けで呼ぶようにジルアにお願いした。いきなり話に割り込まれてびくっとしたジルアだったが、唾を飲み込み話を続けた。
「それじゃあ、よろしくね、ミハイル君。あの、バレルさん、本題に入ってもらえますか?」
バレルはうむ、と返し、相変わらずの低い声で話し始めた。
「まず、ジルア君。ブレることなく我々を9年間の間待ち続けてくれたことに我々は感謝しなければならない。本当によく待ってくれた」
実のところ、バレルはジルアが9年間ブレることなく自分を待ち続けるとは思っても見なかったのだ。自分を待ち続けている間に考え方が変わり、別の道を見つけるだろう。そう考えいた。
しかし、ジルアは9年間待ち続けている間に、9年後のため、そのためにと必死に勉強に励み、努力をしていたのである。バレルはその話を今のジルアの保護者でバレルの姉でもあるマイカに聞き、このようにジルアを迎えにきたのだ。
ジルアがコクリと頷いたのを見て、バレルは必要ないとは思いつつもこんな言葉を投げかけて見た。
「さて、我は今から話をする。真実を語る。お主はその真実を…受け入れる覚悟はあるな?」
ジルアは一切迷うことなく真剣な顔つきでこう返した。
「当然です。全ては覚悟の上…僕はここにいます」
あの日以来の9年間は今日のため。そのことを常に思って9年間を過ごしてきた彼に今更後悔などあるはずもなく、当然の答えだった。
「やはり、君はボクと似ているよ」
不意にミハイルがなにを思ったかつぶやいた。だが、今回ジルアはミハイルのことを特に気に留めず、無視をした。これ以上ミハイルの言葉にいちいち怖がっていてはキリがない。
だが、ジルアがミハイルのことを無視してしまったがために、妙な間ができてしまった。その間、バレルはジルアの様子を観察していたが、特になにも起こらなさそうだし、特にこれといった特徴も掴めなかったため、バレルが話を切り出した。
「では、始めよう。黙っていてもどうしようもないのでね」
それには全員が頷いた。
「9年前、君は意図的に自分の命が狙われていた、と我に推論をぶつけた。覚えているかね?」
その当時、ジルアは自分の命を狙っているのは単に居合わせたからではなく、故意にジルアを追い続けたと考えたのだ。しかし、そのことをバレルに話しても、バレルは答えをはぐらかし、ちゃんと答えようとはしなかった。そして、バレルが真実を9年前にはぐらかしたからことこそが、今のジルアにこの道を選択させたのだった。当然ジルアは覚えている。
「もちろんです。覚えています」
ジルアはようやくこの話題に入ったかと安心する一方、必ず真実を聞き出してやるという強い思いを込めて、語調を強めた。