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『ジルア・ロヘス』〜謎多き英雄の物語〜  作者: T-aiyo
第1章 幼きジルア
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飼い主思いな狼

「あっ…」


 フィレアは左横から不意打ちの蹴りを入れられ、近くの廃屋まで吹き飛ばされた。その後、フィレアは気絶し、沈黙した。


 吹き飛ばされるまでのフィレアの奮戦は手負いの女性とは思えないほどのものだった。10人近くいる敵をたった1人で8人まで減らした。しかし、そんなフィレアを持ってしても残りの2人、隊長の男と大柄な毛深い男を止めることはできなかった。大柄な毛深い男と斬り合っていたところを横から隊長が蹴りを入れたのだ。


「やれやれ、ようやくくたばったな、隊長」


「ああ、ガル、まったく…凄まじい女だった」


「これからどうすんだ?殺すのか?」


 ガルと呼ばれた毛男が隊長に向かってフィレアをどうするか聞いている。隊長の男は何を迷っているのか難しい顔をしていた。30秒くらい沈黙が流れた後、隊長の男がようやく口を開いた。


「殺すには惜しい女なのだが…仕方ない。ガル、最後に脳天ぶち抜いて殺してこい」


「おうよ」


 ガルは気絶しているフィレアの近くまで寄った。念のためにガルはフィレアの首の脈を確認した。わずかだったが脈はあった。脈があることを確認したガルはため息をつき、フィレアに向かって語りかけた。


「悪いな、お嬢ちゃん。俺だって胸糞悪いんだぜ?けどお嬢ちゃんを殺さなきゃならねえ。悪いな」


「……………」


 フィレアは何も答えなかった。その様子を見て再びガルはため息をついた。そして、嫌々得物の鉈を構えて力なく横たわるフィレアの脳天の位置を確認した。


「ほな、さいなら」


 最後にそう言い残すと、ガルは鉈をフィレアの脳天めがけて振り下ろした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「おい、どうしたシュア!」


 レオンが突然冷静さを失い始めたシュアに声をかけた。ムアは心配そうにシュアを見ている。ムアとシュアは兄妹で、ムアはレオンが、シュアはフィレアが飼っている。ムアとシュアの種族は飼い主の危機を察することができるのだ。シュアが今冷静さを失っているのはそういう理由だった。


 しかし、そんなことはレオンやジルアには分からない。レオンとジルアがどうしたんだろうと首を傾げていると、ムアが妹の気持ちを察して走るスピードを上げた。


「お、おい!ムア!」


 上に乗っているレオンはスピードがいきなり上がって少し驚いた。それに続いてシュアもスピードを上げた。シュアの上に乗っているジルアは振り落とされそうになりながらもなんとか乗り続けていた。


「ムア!シュア!お前ら兄妹にしか分からねえことがあるんだろうな!分かった!お前らのスピードについていってやる!ただし、シュアはジルアを振り落とすなよ!」


 レオンが彼ら兄妹の気持ちを少し察したのか、ムアとシュアに向かって任せると言った。それに呼応するようにムアが唸った。


 その様子を黙って見ていたジルアは、レオンの気付いていないムアとシュアの様子に気が付いた。


「もしかして、シュアはフィレアお姉ちゃんの危機に気づいたのかな?」


 確信はない。しかし、ジルアにはシュアの狂気がフィレアの危機を意味しているようにしか見えなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ガルは鉈をフィレアの脳天めがけて思いっきり振り下ろした。しかし、その鉈の一撃は緑色の美しい毛を持った狼の牙によって防がれた。


「グルルルルルルル…ウォーーン!!」


「シュア、やっぱお前天才だよ」


 緑色の狼シュアは、飼い主を殺そうとした男に対して怒りを込めた咆哮を放った。その咆哮にも負けないくらいの大きさでレオンがシュアを褒めた。


 突然現れた狼にガルと隊長の男はたじろいだ。その中でもガルは隊長の男よりも恐れ慄いていた。前にいる若い狼はおそらくフィレアの飼い犬だろう。飼い主を殺そうとした俺をどう扱うかは目に見えている。ガルはそう考えていた。


 恐れて腰の抜けそうなガルを横目にレオンは的確な指示を出し始めた。


「シュアはフィレアとジルア君を守っといて〜。どっから不意打ち来るか分からないから。で、毛男はムア任せたよー。そんで、あっちの人は俺が仕留めるから。よろしく!」


 レオンの指示を受けて各々が持ち場についた。シュアはガルに対して凄まじい怒りを見せていた。それでも、レオンの指示はしっかりと守り、フィレアを守ることに専念した。ムアはガルに襲いかかったが、ガルは見た目の割に臆病ですぐに逃げていった。そして、レオンは逃げ去ろうとする隊長の男の目の前に立ち塞がった。


「やあ、ローン。ガリア教団の戦闘部隊の隊長さんになったんだな?戦うのは久しぶりだ、ローン。さて、あんた。俺の妹を散々いじめてくれたようだな!たっぷりとお返ししてやるぜ!覚悟しな!」


 レオンが隊長の男ーーローンに向かって言った言葉には強い怒気が含まれていた。こう見えてレオンはかなり妹想いなのだ。そして、レオンはたじろぐローンを睨みつけた。

 俺の妹をいじめる野郎は俺がまとめて倒してやるぜ!


ーーレオン・ルーデル


 (うわっ…シスコンだ…)


ーーシュア


 (俺の飼い主すごい妹好きなんだよ…)


ーームア

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