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『ジルア・ロヘス』〜謎多き英雄の物語〜  作者: T-aiyo
第1章 幼きジルア
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『黒鷹』の猛攻、一方では防御魔法

ーーバレルvsアゴランーー

「諸君!恐るでない!かかれ!」


 受け取り方によっては悲鳴にもとれる声でアゴランは指令を出した。アゴランが指令を出した部下たちはみな黒装束を着ていて黒装束の男たちと恐れられている。しかし、そんな黒装束の男たちをもってしても目の前のあまりの恐ろしさに手足が上手く動いていない。


「あ…あぁ…」


 アゴランの部下たちは今、自分たちの目の前にいる老戦士が怖くて仕方がなかった。しかし、その老戦士は黒装束の男たちを気遣う素振りもみせず、逆に男たちへと歩み始めた。迫り来るあまりの恐怖に着ている黒装束が目に見えるレベルで震えているものや、武器を落としてしまう者もいた。しかし、そういった者たちを誰も責められない。いや、責めることはできない。なぜなら、その老戦士から放たれる覇気と殺気は並のものではなかったのだから。誰も、この空間に胃を唱えられなかったのだから。


「放たれる覇気は敵を慄かせ、轟く殺気は敵を飲み込む」


 こう言い伝えられたこの老戦士、バレル・ルーデルはただ者じゃないことがアゴランの部下たちはようやく実感したのである。


「どうやら、我の恐ろしさを理解していただけたようで光栄だが、私の相手となるものはおらなさそうだ。まあよい。では、行くぞ」


 バレルは冷たく言い捨てると、すぐさま黒装束の男たちへと斬りかかった。しかし、斬りかかられてなお、部下たちは恐ろしさで身が震えたままで、かわそうともしない。


「うう…」


「もう、ダメだ…」


 黒装束の男たちの中から諦めの声も漏れ始めた。誰も、バレルを止めようとはしない。というより、誰もバレルに抗おうとすることができないのである。この『黒鷹』バレル・ルーデルは抗うことすらも諦めさせる覇気を体中からみなぎらせている。


「我を止めなくてもよいのかな?」


 バレルは黒装束の男たちを心配するかのように質問を投げかけた。しかし、その質問には誰も答えなかった。もっとも、バレルにとっては返答を期待するつもりは毛頭なく、ただ時間を埋めるための質問だった。


 だが、バレルにとっては何気ない質問だが、黒装束の男たちにとってはバレルの声一つを取っても恐怖しか感じられなかった。


「やれやれ、最近の若い衆はたいした気概も持たずに…」


 自分の声を必要以上に恐れる男たちをよそにバレルは自慢の剣術を披露する。


 バレルは猛然と黒装束の男たちに突撃し、ターゲットを定めると、ターゲットめがけて斬りかかろうとする。バレルとターゲットの距離は2メートル程。少々バレルの剣では射程が足りない。


「もう少し前か」


 バレルは独り言でそう言うと仕方なさそうに足を前へと進める。対するターゲットはどうか。さっきまでは少し距離があったに、覇気を纏った悪魔はわざわざ自分の元へ歩み寄ってくる。その事実を理解したターゲットに定められた男は絶叫し、自分の武器でなんとか攻撃を防ごうと守りの体勢に入った。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!このぉぉぉぉ!俺に、俺に近寄ってくんじゃねえ!悪魔がぁ!」


 ターゲットの男は思いつく限りの言葉でバレルを罵倒する。罵倒されたバレルは少し鬱陶しそうに目を細めると、やがて罵倒に対しての感想を述べ始める。


「やれやれ。うるさいから貴様を黙らせてもよいな。貴様は不幸にも我に戦う理由を与えてしまったのだ。後悔するがよい」


 その感想は、どちらかというと感想というよりは文句に近かった。しかも、さりげなく宣戦布告をしている。


「うるせぇ!俺に近寄る……」


「黙れ」


 ターゲットの男が再び罵倒を始めようとする。しかし、時既に遅し。バレルはターゲットの男が罵倒を始める前にはターゲットを切り刻み終えていた。


「貴様に祈る冥福は無い。眠れ」


 バレルは端的にそう言い吐くと、切り刻まれ、もう絶命していた男を一瞥した。その瞳には哀れむ表情はなく、明らかに人を殺すことに慣れている者の目だった。


「う…うわぁ…」


「に、逃げろぉ!」


 バレルの作ったさらなる屍。それは、黒装束の男たちを取り巻く恐怖にさらなる拍車をかけるには十分すぎた。恐怖に拍車をかけられた者は余程のことがない限りもう戦えない。一度臆病風に吹かれればもはや逃げるしかない。


 その言葉通りに黒装束の男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。しかし、逃げ方はバラバラで「部隊」の名を冠しているのに統率は取れていない。こうなるとアゴランの統率力をもってしてもどうしようもない。


「ここにはおらぬと思われるがもう一度言おう。我に戦いを挑む勇者は前へ出るがよい!」


 『黒鷹』とよばれ、かつては畏怖の対象となった老戦士バレル・ルーデルは野獣のような雄叫びを上げた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ーーフィレアとジルアの逃亡戦ーー


「ホントきっつい…」


 息切れしながらもそう呟いたのはフィレアだ。彼女はジルアを訳あって逃そうとしていたが、敵の包囲網が思ったよりもかなり大きく、現在苦戦しながらも逃げ続けていた。


「鉄砲を放て!」


 髭を生やした隊長と思われる男が下知を下す。すると、さっきまでは短剣を持ってフィレアに襲いかかってきた者たちは後ろへ下り、代わりに鉄砲を構えた男たちが前へと出てきた。


「鉄砲を出してくるなんてね…」


「我らは魔法が使えぬのでな。卑怯と思われようとこれが手段というものよ」


「卑怯とは言ってないんだけどね…」


 この世界において鉄砲は複雑な意味を持っている。そもそも、魔法が使えるものにとってはそこまでたいした需要はない。魔導を応用した銃ならまだしも、ただ弾を飛ばす銃を使う必要はほとんどないからだ。しかし、魔法が使えないものにはこの武器はとても重宝される。威力はもちろん、何よりも常人が扱いやすいからだ。しかし、鉄砲を使うということは、自分が魔法を使えないと言い張っているようなものなので、一部の人には鉄砲使いを卑怯と罵る人がいるのだ。


 そんなことはさておき、ジルアとフィレアに15挺近くの鉄砲が向けられる。もちろんのことだが、弾丸を避けたり切り返したりすることは常人には不可能だ。しかし、あの老戦士の血をしっかりと受け継いでいるフィレアには避けたり切り返したりすることが可能だった。しかし、そこには一つ問題があった。


「ジルア君は避けられないからね…」


 そう、今回フィレアが忘れてはならないのが、第一目標は「ジルアを無事に逃す」ことなのだ。だからフィレアだけが弾丸を避けても全くもって意味がないのである。


「しゃーないね」


 フィレアがまるで諦めたようにため息をつくと、髭を生やした隊長はにやりと笑みを浮かべてこう言った。


「どうだい?諦めたかい?」


 しかし、帰ってきた言葉は隊長の予想していたものとはまるで違う答えだった。隊長はもうてっきり投了するものだと思い込んでいたが、答えは投了ではない。


「何を勘違いしてるの?私はアレを使わざるを得ないことをしゃーないって言ってるのよ」


「なっ…この状況を打破できるものか!」


 隊長は少し驚いたような顔をしたが、すぐに落ち着きを取り戻し、鉄砲を構える者たちに鉄砲を放つように命令した。


 隊長の声に応じて体調に付き従う鉄砲部隊はためらうことなくジルアたちへ発砲を始めた。放たれた弾丸はジルアたちへ一直線へ突き進む。


「こっちに向かってくるよ!」


「分かってる!」


 心配するジルアと対照的に無言で飛んでくる弾丸を見つめるフィレア。フィレアはしばらく黙り込んだあと、突然自分の剣を地面に突き刺した。そして、フィレアは素早く息を吸い、力強い声でこう言い放った。


「防御魔法…フレアウォール!」


 フィレアの叫びに呼応するかのように、ジルアとフィレアの周りに炎の渦が時計回りに巻き始め、やがてそれはジルアたちを守る炎の壁と化したのだ。


 炎の壁は鉄砲の弾丸を溶かし、ジルアたちには1発も当たることはなかった。そして目的を終えた炎の壁は一瞬にして消え去った。


 鉄砲部隊の者たちは驚いた。というのも、彼らは自分たちの鉄砲にそこそこ自信があり、そう簡単には防げないだろうと思っていたからだ。


 しかし、その弾丸は人間の及ぶ力の限界である魔法によって容易く防がれてしまった。


「なにぃ…これは一筋縄ではいかなさそうじゃ」


 鉄砲が容易く防がれた現状を見て難しい顔をした。それを横目にフィレアは


「はい!私のとっておき!簡単には捕まえられないよ!」


と明るい声で高らかと宣言した。

 読んでくださってありがとうございました!


 ちなみに、魔法の出現頻度はそこまで多くはないと思います。


 あと、一章ではジルアが主人公って分かりにくいと思いますが、彼はれっきとした主人公です。二章からが本筋なのでしばらく待ってください。どうぞご理解ください。

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