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『ジルア・ロヘス』〜謎多き英雄の物語〜  作者: T-aiyo
第1章 幼きジルア
11/25

『ジルア救出作戦』開始

 本日は2話投稿です。

 戦いが始まると告げるかのごとく雷が鳴った。そして、ついに戦いの火蓋が切られた。バレルはさっきからずっと構えていた大剣を携えてアゴランへと突撃した。


「失せろ」

「アゴラン様!お守りします!」

「ベレン、頼んだ!」


 猛烈な勢いでアゴランの元へ突っ込むバレルを黒装束の男の中の一人がが止めようとした。その男はベレンという。アゴランの率いる配下の中でもかなり腕の立つほうで、実力の高い男だった。


 ベレンはバレルとアゴランの間に立ち、自らの武器である短剣の刃をバレルへと向け、バレルを迎撃しようと試みた。この時、ベレンには大剣を構えたバレルの横腹ががら空きのように見えた。これならいける、と思ったベレンは横腹へ会心の一撃を打ち込もうとバレルの左へと回り込む。バレルは大剣を右手で持っている。いくら『黒鷹』と讃えられた人物とはいえ大剣では短剣の俊敏な動きに対応できないだろう。というのがベレンの考えだった。そして、低姿勢のままバレルの横腹へ短剣を突き出した。


 しかし、そのよく考えられた作戦は、戦いにおいて数十年という年季の入ったバレルには全く通用しなかった。


「我を止めるにはそれでは足りぬ」


 バレルはそう言うと、自分の左側からくる凶刃を難なくかわした。ベレンは自分の短剣が避けられたことに少し驚いたが、すぐに体勢を立て直し、再びバレルに向かって果敢に攻撃を仕掛けようとした。


 しかし、その少し驚いたタイミングをバレルは見逃さなかった。ベレンが体勢を立て直すまでの間はわずか数秒。もしかすると1秒も経ってないかもしれない。だが、この歴戦の戦士には大剣を全力で叩き込むのに1秒も必要なかった。


「我に大剣を叩き込むのに1秒も不要」


 バレルが決め台詞のようなものを吐き捨てるように言った時には、無謀にも老戦士に挑んだ戦士の体は粉々に打ち砕かれていた。


「あ、あぁ…」


 無惨に散った仲間の姿を見て黒装束の男たちの間で戦慄が起こった。その戦慄は恐怖からくるものだ。あまりの恐ろしさに棒立ちになっている者もいた。


「こんな化け物と戦って勝ち目なんてあるのか…」


 誰かが弱音を漏らす。無理もない。黒装束の男たちの中でもトップクラスの実力を持っていた男がいともたやすく撃破されたのだから。


「今年で72となるが、まだまだ現役続投だな。若い者には負けん」


 そう、最強の老戦士バレル・ルーデルは72歳とかなりの年配者だ。しかし、若者にも負けない血気と実力を兼ね備えていることをここにいる全ての人が思い知った。


「さぁ、ジルア君!このお爺ちゃんが足止めしてくれている間にこのお姉さんと私たちの野営地まで逃げるよ!」

「う、うん!分かったよ」


 祖父がいい感じで足止めしてくれている、そう考えたフィレアはジルアを連れて野営地まで逃げ始めた。


「しょ、諸君!あの『黒鷹』の相手は私と私の近くにいる20人で引き受ける!残りの10人は別働隊を全員集結させて合計30人であの女とガキを追え!」

「はっ!アゴラン様!」


 いつの間にかまた逃げられると言う事態を防ぐために、アゴランは的確な指令を出した。この男は、指揮系統にかなりの適性があり、判断力にも長けている。それゆえ、部下からの絶大な信頼を得ている。しかし、そんなアゴランをもってしてもこの状況の判断は難しいものだった。しかし、アゴランは自分が迷えば総崩れになることをよく理解していたため、自分の思いつく最良の指示を出した。


「ガリア教団第六幹部のアゴラン・ヘバンよ。我は20人では止まらぬぞ」

「私みずから止めてみせよう!」


 こうして、アゴランと20人の黒装束の男たちと『黒鷹』バレル・ルーデルとの死闘の火蓋が切って落とされた。一方のジルアとフィレアは逃げ始め、アゴランの部下10人と別働隊20人もジルアたちを追い始めていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「そろそろ、戦いは避けられないかもね…」


 ひっそりと呟いたのはフィレアだった。彼女はあの老戦士バレルの孫にあたる。容姿端麗で美しい女性だ。しかし、祖父の血をしっかりと受け継いでいるのか、戦闘の腕前も相当なものだった。


 そして、フィレアに連れられ走っているジルアは実のところかなり戸惑っていた。いきなりアゴランに追われ、追いつかれ、死ぬかもしれないと怯えたら救いの手が差し伸べられた。あまりの急展開に頭が追いついていなかったのである。無理もない。しかし、迷っていてもしかたないということで、自分は今どうすべきかということを考え始めた。


「ごめんね、突然で」


 フィレアは緊張した顔で走るジルアに話しかけた。フィレアは少しでもジルアの緊張が和らげばという考えだったのだが、ジルアはかえって緊張したのか、何も返事をしなかった。


「……………」

「ご、ごめんごめん!ジルア君!詳しいことは…またあとでちゃんと説明するから!だけど君の味方ということに間違いはないから安心して!」

「………うん……分かった」


 フィレアが明るい声でしっかり味方と断言してくれたことがジルアの恐怖を拭ったのか、ジルアは返事をした。


「うん、いい返事!」


 ちゃんと返事をもらえたことがフィレアにとっては嬉しいことだった。彼女にとって一番辛いことは無視されることなのだ。


 こうしてジルアとフィレアが走っていると、前から黒装束の男たちが現れた。急いで方向転換するも、どの方向にも男がいて、八方塞がりだ。


「マズイわね…」


 フィレアがざっと確認できたのは20人くらいだ。多分もっといるだろうということをフィレアが考えていると、黒装束の男たちの一人がこう言い出した。


「貴様らはすでに八方塞がりだということはよく分かっているだろう。投降せよ」

「私は嫌だね。この子を守るのが私の使命だから。放り出すわけにはいかないから」


 その男はジルアとフィレアに投降を進めたが、フィレアは即座に断った。その目は、強い輝きを放ち、強い決意が目に表れているようだった。


「では、しかたない。者ども!あのガキをひっ捕らえてアゴラン様の元へ差し出すのだ!敵はあの女ただ一人!何をやっても構わぬ!とにかくあのガキの捕獲が最優先だ。かかれ!」


 その指令が放たれた直後、黒装束の男たちはみなそれぞれの武器を構えた。


「数的に圧倒的不利。実力的にもどうだろう。2、3人くらいなら余裕で勝てるかもだけど…」


 フィレアが落ち着いてそんなことを考えていると、一人の男が背後から襲いかかってきた。武器は斧。その一撃は、ジルアを取り戻すための牽制ではなく、明らかにフィレアの命を奪うためのものだった。


「うん、分かった」


 フィレアは分かったと小声で呟いたあと、ジルアを斧の当たらない位置へ誘導した。そして、彼女の脳天をかち割ろうとする斧を自分の持っている騎士剣で威力を殺した。一般人なら威力を殺したとしても受け止めきれないであろう戦斧の一撃をフィレアは仰け反ることなく受け止めた。そしてフィレアは黒装束の男のがら空きの股間に躊躇いなく蹴りをお見舞いした。


「が…はぁ…う、うぉ…ぬう」


 フィレアの猛烈な一撃に股間を蹴られた男は声にもならない喘ぎ声をあげる。フィレアが躊躇いなく蹴ったため、急所に会心の一撃がほぼフルの威力で当たったのだ。当然、タダでは済まない。しかし、当のフィレアは何食わぬ顔で


「ジルア君!お願いがあるの。絶対に諦めないで。私を信じて。お願い」

「分かったよ。ぼく、絶対に諦めない」

「うん、なんとかなるかな」


 フィレアはさっき一人の男を沈黙させただけである。まだまだ敵は多い。しかし、さっきの蹴られた男があまりに痛そうだったのか、周りにいた男たちも苦しそうにしていた。しかし、女として生まれたフィレアにその痛みは分からない。


 『ジルア救出作戦』、のちにこう呼ばれたこの作戦は、まだ始まったばかりだ。

 自分でこの話を書いておいてなんですが、股間蹴られた黒装束の男の人可哀想w

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