表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ジルア・ロヘス』〜謎多き英雄の物語〜  作者: T-aiyo
第1章 幼きジルア
10/25

ジルアの救世主『黒鷹』

「えっ…どういう意味…」


 ジルアは父親に意味を聞こうとした。というのは、先程、ジルアの父親、カリーはジルアに対して何かを伝えようとしたのだ。6歳のジルアにも父親が“何か”を伝えようとしたことは分かる。だが、“何か”を伝えようとしたことは分かったのだが、“何を”伝えようとしているのかは分からなかった。だから、ジルアは父親に意味を問おうとしたのである。


「いずれ分かる…今は時間がない!」


 しかし、カリーはジルアに真の意味を伝えることはなく、ただ時が経てば分かると言っただけだった。ジルアは本当の意味が時間が経てばではなく今すぐ知りたかったため、もう一度父親に意味を聞こうとした。しかし、その行動は顎のしゃくれた男に遮られる。


「その時が経てば分かることも今私があなた方を殺害すれば永遠に伝わらないのだよ。さぁ、私もあなた方の話を待つのはもう飽きた。そろそろ殺させていただいてよろしいでしょうか?」

「やれるものなら、ね。俺は死んでもこの子は生き延びるさ」

「その似たような会話にも私は飽きました。そろそろ本当に殺しますよ?」


 アゴランはよほど2人を殺したいのか、2人に対して殺すことをかなり急かしている。さっきまではフリみたいな部分があったが、今回は本気らしい。そして、アゴランの顔つきが真剣なものになった。


「じゃあ…顎ビーム!!!」

「避けるぞっっ!」


 何かと思えばいきなり顎ビームをぶっ放したアゴラン。白い閃光弾がジルア達にめがけて飛んでくる。そして、カリーはジルアを強く抱きしめ、顎ビームを間一髪で右側に避けた。


「ジルア!時間を稼ぐから逃げろ!」

「えっ…」

「早く!」


 なんとか一発目の顎ビームは避けることができたが、いつまで持つかは分からない。そう思ったカリーは自分の身を犠牲にしてジルアを守る決心をした。


「顎ビームは避けられますか…ならば…諸君!あのカルリア人に死を与えよ!」

「はっ!アゴラン様!」


 アゴランの命令によって今までただ見ていただけのアゴランの部下たちが一斉にジルアたちに襲いかかってきた。アゴランの部下は黒い装束を身にまとい、獲物は全員短剣だ。その探検には黒い紋様が施されていて、芸術品のような出来栄えだ。


 最初の攻撃。部下の1人がジルアにナイフを向け、そのまま突撃してきた。ジルアはとにかく避けることを念頭に置き、左側に避けた。そして、カリーがその部下に対して蹴りを入れるが…


「甘いっ!」


 さっき突撃してきた男はカリーの蹴りを難なくかわし、カリーの気を引いた。カリーが気をとられているうちに、カリーの後ろから凶刃が襲いかかる。


「ぐっ…」


 後ろから不意打ちを受けた カリーは鈍い喘ぎ声をあげた。カリーを刺した男の黒装束は赤色が多めに混じっていた。そう、その赤色はカリーの血だった。


「ジルア…生き延びろよ…」


 そう言い残すと、カリーは息絶えた。しかし、ジルアはすでに逃げ始めており、カリーの遺言を直接聞いてはいなかった。


「よし。仕留めた」

「ようやく息絶えたな…アレ?あのガキは?」

「何をやっている!ガキこそ逃してはならぬ相手!死力を尽くし、捕まえよ!」

「はっ、アゴラン様!申し訳ありません!」


 一時はカリーを仕留めたことにテンションが上がった彼らであったが、本来の目的はジルアを捕まえて殺すこと。それなのに、このマヌケな男たちはカリーを仕留めることに夢中になりすぎてその途中でジルアが逃げ出したことに一切気がついていなかったのである。


「まさか、逃げ出すとは思いませんでした。アゴラン様」

「言い訳はもういい!早く捕まえるのだ!さあ!」


 アゴランの声は遠くにいるジルアにも聞こえるほど大きな声だった。そして、アゴランは顎を自慢げに触り、こう言った。


「さあ、終焉よ!カルリア人に終焉が訪れるのだ!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「そろそろ追いつかれるかな」


 ジルアはしきりに後ろを確認した。というのも、彼はアゴランたちの人を追いかけるスピードの速さをさっき思い知らされていたからだ。彼は後ろを確認して今はアゴランたちが追いかけていないという結論をだした。しかし、だからといって油断は禁物。


「どこに隠れたらベストかなぁ?」


 アゴランたちが今は追いかけてきていない。それは、ジルアにとっては少し余裕があるということを意味している。その少しの余裕を活かして彼は隠れる場所を探していた。今、彼は広場を抜けてこの町一番の大通りにいる。この大通りを抜けると、町からでて違う町に入る。


「違う町に入れば大丈夫…なはず」


 ジルアは襲われているのは自分の住んでいる町だから他の町に行けば襲われることはない、そう考えたのである。もっとも、アゴランたちにはそんな甘い考えは通用しないのだが、ジルアはこれでもう大丈夫だと思い込んだのだった。


 ジルアの両親はこの町から用事があるとき以外は治安が悪い町だからという理由で隣町に行くことを禁じていた。そのため、ジルアは隣町のことは知っていたが、実際に足を踏み入れるのは初めてなのである。


「道とかはよくわからないけど、行ってみようかな」


 ジルアは隣町の道や建物、つまりは地理がよく分かっていない。しかし、元の町にそのまま居続けて顎のしゃくれた変人に殺されるよりはマシだということで勇気を出してこの町と隣町の境である坂道へと足を踏み入れ、その坂道を思いっきり駆け上がった。その坂道は壁と見間違えるほど急傾斜で、さらには足場もそこまでよくなく、少しぬかるんでいた。


 カルリア貧民街の隣町ーーアレタウンは簡単にまとめると農業が盛んな町である。この付近は標高が高いため、野菜の育ちが通常よりも遅くなってしまう。それゆえ昔はその冷涼な気候のせいで作物が全く育てられていなかった。しかし、アレタウンに住んでいた農園を営む地主のある人が冷涼な気候を逆利用して出荷時期をずらす栽培方法を発明した。その栽培方法、つまり抑制栽培によってこの町の農業は一気に発展したのである。


 そんなことはさておき、ジルアは町境の坂をなんとか登りきった。登りきれば少し舗装の追いついていない道が現れた。さっきから色々なことがあり、体力もすでに大幅に消耗していたのもあって彼はかなり息を切らしていたのだった。


「はぁはぁはぁ…」


 あまりの疲れにジルアは膝を地面についた。そしてまた息を切らす。汗も滝のようにでていた。


「疲れてるから休まなきゃ…でも道の真ん中じゃ危ないし…」


 ジルアは休もうとして道の端へと寄ろうとしたが…


「いたぞ!あのガキで間違いねぇ!」


 見つかった。アゴラン率いる追手がジルアにとうとう追いついたのだ。アゴランが率いていた黒装束を着た男たちはさっきよりも増えて30人になっている。すると、その男たちの中の一人が、


「もう逃したりしないぜ。消え失せろ!」


 と叫ぶと、その男はいきなり剣を抜いた。そして、1、2回素振りをしたあと、ジルアの首をめがけて斬りかかった。


 ジルアは急いで回避しようとしたが、あまりの疲れに体が全くと言っていいほど動かなかった。


「ああ…」


 ジルアは生きることを諦めたように嗚咽をを漏らした。もうダメだ。どうしようもない。そんな負の感情を抱えたままカリーは斬られた。


 鋭い金属音がした。その直後、何かが斬り裂かれた音がした。その金属音にジルアやアゴランを始めとしたその場に居合わせた全ての人がその音の方向を見た。そして、ほとんどの人の目に最初に入った光景はそれを見た全ての人が驚くものだった。


 なんと、ジルアは全くの無傷だった。しかし、驚くのはまだ早かった。なんと、ジルアに斬りかかった男の首から上が吹き飛んでいた。


「一体何が…、一体何が起こったんだ!」


 あまりの突然の出来事にアゴランは狂ったような声をあげた。なんらかの理由によって命を救われたジルアもあまりの突然の出来事で腰を抜かしていた。


「ぼくの命を救ったのは…誰?」


 おどおどした声をだしたジルアが不意に後ろを振り向くと、そこには二人の人影があった。


「ガリア教団…か。我らカルリアを迫害するのは。決して許さん。この子に対する手出しも許さぬ。決して」


 低くしわがれた重みのある声でガリア教団に宣戦布告をした高齢の男。その男は見るものに威圧を与える鋭い目つき、その目玉は真っ黒で猛禽の目をしている。さらに右目付近には大きな傷があり、肌は日焼けのせいで褐色をしている。何より傭兵用の古びた鎧の下からうっすら見える筋肉の鎧がこの男の尋常じゃないほどの威圧を生み出している。


「おじいちゃん、あんまり無理しないでよね」


 優しい声で高齢の男に声をかけたのは若い20代前半と思われる女性だった。その女性は白い澄んだ肌をしていて、黒髪を後ろで結んでいた。そして、見るものを魅了するエメラルドのような色をした瞳を持っている。そしてなによりその女性はかなり豊かな胸が特徴的だった。どれくらいかというと、女性用の軽鎧を身につけていていたにも関わらず、鎧からはみでているほどだ。


「分かっておる。孫よ。心配するな」

「お、お前らは誰だ!誰だか知らんが、私の部下を殺した!絶対に許さない!諸君!この無礼者たちをただちに斬り殺せ!」

「フンッ、くだらぬ。貴様らも罪なき多くのカルリアの民を虐殺しているではないか。我を簡単に殺せると思うなよ。我はもう歳だが、侮ってもらっては困る」

「うるさい!私たち…私たちガリア民族はカルリア民族よりも優秀なのだ!カルリアの言い分が通用すると思うなよ!思い上がるな!」


 部下を突然殺されたことにアゴランは怒り狂ったが、その老人は冷静に、だが力強く言い返した。そして、アゴランはまた大きく高い声でわめいた。


「しかも、名乗らぬという無礼!カルリア人なら私たちガリア人に頭を下げて名乗るのだ!さあ!」

「我が名はバレル・ルーデル…そんな無礼に我らに罵声を浴びせて無傷で帰れると思うなよ…貴様のことはよく知っておる」

「で、この若い私はフィレア・ルーデルね」

「なっ…バレルだと…あの『黒鷹』か!!しかも二人揃ってルーデル家の者か…なぜ!ここにいるんだ…」


 アゴランはバレル・ルーデルという名を聞いた瞬間一歩下がり、恐れ慄いた。それは、黒装束の男たちも例外ではない。


 太鼓を打ち鳴らしたようにドロドロと雷が鳴り始めた。そして、この場に居合わせた者の全てに緊張が走る。しばらく沈黙が続いたあと、やがてバレルは金の紋様が入っている黒い大剣を構え始めた。その大剣は常人が扱うには両手が必要でおまけに重いという扱い辛い代物だった。しかし、バレルにとってはお手頃な片手剣でしかないらしく、バレルはその剣を片手で持っている。


「さあ、勝負よ。この老人と貴様ら。どちらが強いか見ものよ」


 バレルのその一言でその場にまた緊張が走った。そして、武器のある者たちはみな武器を構え始めた。それは、何か理由があってのことではない。そこにいるほとんどのものが自分の身に危険を覚えたからだ。バレルは大剣を。フィレアは騎士剣を。黒装束の男たちは短剣や斧を。アゴランは顎を。


「さあ、行くぞ。ガリアの復興を企む者よ」

「貴様らを殺す!それのみ!」


 バレルとアゴランはそう叫ぶと、バレルはアゴランに斬りかかる。その剣術は、隙がないほど洗練されており、かつ覇気も備えていた。それに対応すべく、アゴランはバレルに向けて顎を突き出す。普通の人からすれば意味不明な行動だ。しかし、アゴランはただ顎を突き出しているわけではない。


 誰にも、今から始まる戦いを止められない。この戦いはひそかに様々な意味を含んでいた。

 今回登場したバレルとフィレアは今後も登場するメインキャラの一人です。ですが、フィレアさんはメインヒロインではありません。(メインヒロインいつ出てくるんだよ)


 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ