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1話



 眠れない。

 眠いはずなのに眠れない。

 眠くて眠くてたまらないはずなのに、まったくもって眠れない。

「なんなのよもう……」

 あたしは呟き、ごろりと仰向けになった。

 つい最近まで、布団にもぐればすぐ夢の世界だったはずなのに。嫌なことがあろうがなんだろうが熟睡して、次の日にはケロッとしていたはずなのに。

 ここ数週間、あたしは満足に眠れていない。

 身体も心も眠くて眠くて、昼間から大あくびを連発しているのに。家に帰ってゆったりリラックスして、使いなれたベッドに横になって、おやすみなさいと一人暮らしの自分にささやいて、いつもならそれですぐに眠れたはずなのに。十分たっても三十分たっても、一時間たっても二時間たっても、まったくもって眠れずにいた。

 それでもいつの間にか眠って朝まで起きないのだけど、寝つきが悪いぶん、いつもと同じ時間に布団に入っても睡眠時間が足りない。寝つきが悪いのを考えて早く寝たら、今度は眠れない時間が長くなる。

 ホットミルクもダメ、ラベンダーの香りもダメ、お塩を入れたお風呂も効果なし。

 これってもしかして不眠症かな。

「……三時」

 ケータイのサブディスプレイで、今の時刻を知る。今日、布団に入ったのは二十二時だ。

 見たいドラマも我慢したのに、かれこれ五時間もベッドの上でごろごろしている。こんなんだったらドラマ見ればよかった。最低でも七時には起きなきゃいけないから、これから寝れたとしても四時間しか眠れない。

 毎日こんな感じの睡眠時間で、身体が平気なわけがない。目の下には深いクマができて、肌もボロボロで、お化粧のノリも悪い。休みの日にとことん寝だめして、それで一週間やりくりしているようなものだけど、そうしたら自分の時間がなくて部屋が散らかり放題になってしまう。

 別に自分の中で大きな変化があったわけではない。高校を卒業して就職して、と環境が変わりはしたけれど、社会人になってもうすぐ一年だ。仕事で何か悩んでいるわけではないし、私生活で問題があるわけでもない。自分のしたいことだって普通にしていた。

 そりゃあたしも向上心というものがあるから、常にあれがしたいこれがしたいと思ったりしているけど、今の自分に強い不満を抱いているわけでもない。イライラと気がたっているわけでもないし、何か大きな怪我をしたりショックを受けたりしたわけでもない。

 でも、眠れない。

 布団にもぐって、目を閉じて。眠れなくて、右向いたり、左向いたり、うつ伏せになったり。部屋が明るく感じて豆電球を消したり、暗いと思ってつけてみたり。時計の秒針がうるさくて、電池を抜いてみたりもしたのだけど。

 掛け布団を頭までかぶって、苦しくなって顔を出して。足が暑くて布団を蹴飛ばしたり、寒くなってたぐりよせたり。胎児のポーズをとってみて、それでもダメで大の字になって。

 あれこれためしてみて、いっそもう寝ないで起きていようと思って徹夜をしてみれば、次の日の調子が最悪で、やっぱり眠らないといけないと思った。

 寝不足だと、頭がぼーっとする。妙に身体が冷えると思ったら、逆に火照りはじめたりもする。具合が悪くなったり、身体に力が入らなくなったりと、そんな状態で仕事をしたら、ミス連発でまわりにまで迷惑がかかってしまう。

 なにより、眠れない自分が腹立たしい。

 あたしのストレス解消法のひとつは、眠ること。嫌なことがあったらとにかく寝る。悲しいことがあってもとにかく寝る。でも今は、眠れないからストレスがたまるばかり。

 眠るのって大好きだ。人間、人生の三分の一は眠っているのだから。快適な睡眠のために、枕だって布団だってシーツだってこだわっているのに。

 今まで普通に眠れていたはずなのに。

 それでも、病院に行こうとは思わない。市販の薬をためすつもりもない。そういうものを頼らずに眠りたいと、なぜか自分の中で意地をはっているものがあった。

 意地をはればはるほど眠れなくなる。眠ろう眠ろうと思えば思うほど、どんどん自分が眠りから遠ざかっていってしまう。

「……眠れない」

 あきらめて少し起きようか。

 でも起きるといっても、これといって面白い深夜番組もやっていないし、夜中だと目がかすんで本も読みづらい。ただなにもなしに起きているのも、なんだかさびしい。でも、こんな時間に電話できるような友達も――

「――いるじゃん」

 思いついて、あたしははっと目が覚めた。

 ちょっとむかついた。目を覚ましてどうする、自分。

 もしかしたらこのままいけば眠れていたのかもしれない。彼のことを思い出さなければ、眠れていたかも。ああもう、何で思い出しちゃったんだろう。いや、自分で考えたんだけど。彼は悪くないんだけど。

 あたしは充電中のケータイを開き、ためらいもなくボタンを押した。




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