魔族と人間の混血
巨大なクマのような魔物を倒し、俺は一息つく。
「ふぅ……今の魔物は確かにさっきまでとはレベルが違ったな」
この先は手強くなるとクリスが言っていた通りだった。
「あれはキラーグリズリーと言って、危険度で言えばアサルトウルフより上の魔物なのじゃが」
「そうなのか?」
「……全く、おぬしという奴は」
クリスは感心とも呆れとも取れる微妙な反応だった。
確かにあの魔物は強かったのだとは思う。それでも最初に襲われたアサルトウルフほどの速さも怖さも俺は感じなかった。
その理由は分からないが、もしかしたら俺も実戦の中で成長しているのかも知れない。
「しかし、そのキラーグリズリーとかいう強い魔物ですら、このダンジョンのボスではないんだな」
「その様じゃの。一体どんな魔物が巣食っておるのやら……全く、儂がここまで目算を見誤るとはのう……」
「……そういえば想定外だって言ってたな。あと、クリスが今は本調子でないとも」
その割には元気よく強力な魔法をぶっ放していたような気もするが、あれで本調子でないならクリスは一体どれほどの魔法が使えるのだろうか。
「うむ……この二十年ほどは平和ボケしておってな。勘も腕も鈍っておるのは確かじゃ。全くもって面目ない話なのじゃが」
「は? ……二十年? ……なあクリス、これって訊いていいのか分からないけど、お前は一体何歳なんだよ?」
クリスの見た目はせいぜい十二歳程度の少女だ。だがその口調や、落ち着いた雰囲気、それに知識や魔法の実力などから、見た目通りの年齢でないことは俺も何となく察していた。
俺の常識が通用しないこの世界でのことだからそういうこともあるのだろうと思って、むやみに詮索はしなかったが、話の流れがこうなった以上は気になってしまう。
一瞬だけクリスはどこか寂しそうな表情になったが、すぐにそれを隠すように笑って言った。
「……そうじゃな。おぬしになら、話しても良いじゃろう。……儂は、魔族と人のあいだに生まれた混血なのじゃ」
「魔族と人間の混血……?」
「うむ。魔族というのは、人間より長命で魔法の扱いに長けた種族の総称だと思ってくれればよい。儂の場合、見た目は人間と変わらんが、魔法の適正や寿命は魔族由来での。歳は百十……うむ? 百二十じゃったかな? ……とりあえず、百歳はゆうに越えておるのじゃ」
「……なるほど」
「驚かんのか?」
「まあ、何か事情がありそうだなとは思っていたからな。それに魔法だの何だの、俺の常識じゃあり得ないことの連続で、正直なところ少し慣れてきた感じがする」
実際のところ、百歳くらい年上という話には驚いているが、それで俺のクリスに対する認識が変わるわけでもない。
目の前のこの美少女は俺の命の恩人であり、依然として信頼に足る人物だ。
「……ふむ。最初会った時から思っておったが、おぬし、変な奴じゃのう」
「そうか? 自分では普通にしているつもりなんだけど」
「そもそも最初会った時から、死にそうになっているくせして妙に落ち着いておったじゃろうが」
「まあ、騒いだからって助かるものでもないだろうし」
「だから、そういうところじゃ! そういうところが変じゃと言っておるのじゃ!」
やっぱり異世界だとそのあたりの感覚も微妙に違うのだろうか。
だからと言って急に自分を変えられるものでもないので、仮に俺が変なのだとしてもクリスには我慢してもらうしかないのだけれど。