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ステラの特訓

 まずステラには身に着けているローブを脱いでもらう。

 ステラが中に来ていた私服はあまり飾り気のないワンピースだったが、太めの帯で腰のあたりをきゅっと締めていて、足の長さなどステラのスタイルの良さが上手く強調されていた。


 これからやる特訓では全身の感覚でマナを感じてもらうので、出来る限り薄着の方が都合が良い。まあこの服装なら問題ないだろう。


「それじゃあステラ、こんな風に手を出してくれ」

「こう?」


 俺がそうしたように、ステラは手のひらを前に向けるように出す。

 俺はステラの手に自分の手を近づけて、そこにマナを集める。

 すると俺とステラの手の間に、ゆらゆらと弱い光を発する火の玉のようなものが現れた。


 これは以前クリスが俺にそうしてくれたのと同じことだ。

 こうして集まったマナはほのかに温かさを感じさせる。


「今この手の間にマナが集まっているんだが、ステラは何か感じるか?」

「ううん、特に何も」

「温かかったりもしないか?」

「それは少し感じるけど、たぶんシンの体温だと思うわ」


 なるほど。やはりステラはマナの存在を感じることが出来ないらしい。

 ここまでは予想どおりだった。


「それじゃあノーラ、さっき言ったように頼む」

「ん、分かった……」

「それ、本当にするの……?」

「そう不安がるなって。別に変なことはしないから」

「それは別に心配してないけど……」


 ステラは何か小さな声で呟いていたけど、結局すぐに観念したようだった。

 そんなステラの様子を確認したノーラは、すぐさま手に持ったタオルでステラに目隠しをする。


「ステラ、何か見えるか?」

「見えるわけないでしょ」

「そうか、それなら問題ない」


 そう言って俺は再度自分の手にマナを集める。


「それじゃあ今からステラの全身にマナを塗るような感じでやっていくんだけど、ステラが意識することは一つ。肌で感じ取れる情報に集中することだ」

「肌で感じ取れる情報……?」

「例えばステラに近づけた俺の手の温度とか、こそばゆい感覚とかそういうのだ。次に俺がどこにマナを塗ろうとしているのかまで想像できると一番良い」

「うーん、難しそうだけど、頑張ってみる」

「じゃあ始めるぞ?」


 ステラに向けて宣言してから俺は自分の手をまずステラの右手の先に近づける。

 そうしてステラの肌にぎりぎり触れないようにしながら、少しずつ手を動かしていき、やがて肩に差し掛かる。


「…………んっ……」


 俺はステラに触れてはいないのだが、手の生温かさを感じてかステラがむずがゆそうな声を上げた。

 それがどことなく艶めかしい雰囲気を帯びていて、俺は一瞬ドキッとさせられる。


「何じゃかイケナイことをしているようで、少しワクワクするのう」

「ん、同感……私もやりたい……」

「いやこれ真面目にやってるからな? それと二人にも後で手伝ってもらうつもりだし」


 まあ確かに傍から見れば目隠しされた女の子に悪戯しているようにしか見えないんだけど、一応これもちゃんと考えがあってやっていることだ。


 そうして一応一通りステラの全身にマナを塗り終えた俺は次にクリスと交代する。


「ほーらステラよ、儂のマナはどうじゃ? 熱くて、濃厚で、クセになりそうじゃろう?」

「そんなこと言われても、分からないわよ……っていうか何か言い方がえっちだし……」

「それをえっちと思う方がえっちなのじゃ!」

「子供か!」


 俺はクリスに思わずツッコミを入れる。

 実際のところクリスは俺より上手くマナを操れるので、ステラにマナを塗るのは抜群に上手かった。


 特にクリスの場合は魔族由来の強力なマナも含まれているので、俺が手に集めたマナよりも濃くて、マナを感じ取れる人間ならはるかに温かさを感じやすいだろう。

 わざとそういう聞こえ方になるように言ったのは間違いないけど、だからといって別にクリスは嘘を言っていたわけではなかったりする。……何のフォローにもならないなこれ。


 とりあえずクリスも終わったようなので、最後にノーラと交代してもらう。

 ノーラは非魔法適正者ということで体内のマナは存在しないので、全て大気中のマナを集めていた。


「それじゃあステラ、するから……我慢できなかったら、声出しても、いい……」

「クリスのせいでノーラもそういうことを言う……ってちょっと、触ってる、触ってるから!」

「こうした方が、塗りやすくて、効率的……」

「確かにそうかも知れないけど! ……あっ、んっ!」

「肋骨の間に沿って、指でなぞると、ステラは弱い……昔から、変わってない」

「ちょっ、それ、ダメ……んんっ……っ!」


 ステラは色っぽい声を上げながら、ビクッと体を震わせる。

 そうしてノーラがマナを塗り終わる頃にはステラの頬はほんのりと上気していて、息も少し上がっていた。


「二人ともどうしてノーラを止めてくれないのよ……!」

「いや一応止めようとは思ったんだけど、でも幼馴染の二人だし普段通りのスキンシップなのかなぁとか考えているうちに、止め時を見失ったというか」

「完全に二人だけの世界に入っておって、邪魔出来んかったのじゃ」


 それにしてもノーラは無表情のまま、なかなかにえげつないことをやってのける。

 もしかすると彼女はかなりのドSなのかも知れない……少なくともステラに対しては。


「それで一通り終わったようじゃが、この後はどうするつもりなのじゃ?」

「まあ見てろって。……それじゃあステラ、もう一回俺がステラの右手に手を近づけるから、よく集中して感じてくれ」

「……分かった」

「…………どうだ?」

「ん……少し、温かい……けど、やっぱりシンの体温のような……」

「……? これは一体どういうことじゃ?」

「ん……不思議……」

「え? 二人とも何を言ってるの?」

「あー、じゃあステラ、目隠しを取ってくれるか?」

「分かった……って、あれ? シン、ずっとそこにいたの?」

「ああ」

「じゃあ今私の右手に近づいた手は、誰の?」

「それが、誰も手を近づけてはおらんのじゃ」

「そういうことだ。だからもしステラが温かいと感じたなら、それはマナの温かさ、ということになる」

「マナ……これが……?」


 ステラは自分の手を見ながら、驚いたような表情で小さく呟く。

 まだ明確にマナの存在を感じて操れるようになったわけではないだろうけど、それでも今までは全く感じることが出来なかったものの存在を、かすかにでも感じることが出来るようになったなら充分に前進したと言えるだろう。


 ということでとりあえずは俺の狙った通りの結果が得られたので、特訓は成功したと言って問題なさそうだった。

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