クリスの戦い方、シンの戦い方
姿を見せた魔物の群れとの距離はまだ結構あったが、魔法使いのクリスはその距離から先手を打つ。
「氷爆――『アイスノヴァ』」
クリスがそう呟いて杖を横に薙いだ途端、周囲の気温が一気に下がったように感じる。そしてそれが気のせいではないことを証明するように、空中に巨大な氷柱が現れた。
直後に氷柱は爆発するように粉々に砕け、その破片が無数の氷の矢となって魔物たちに降り注いだ。
魔物たちは回避することも出来ず、氷の矢に貫かれて次々と消滅していく。
「とまあ、儂の戦い方はこういう感じじゃな。あまりおぬしの参考にはならんじゃろうが」
こちらに振りかえって、得意げに笑う。
確かに、全く参考になりそうにない。一応俺も魔法を使った戦闘は考えていたが、それはあくまで剣の補助として使う程度だ。
しかし、一人でダンジョンを攻略しようとするのだから強いのだとは思っていたけど、クリスはここまで強いのか。俺はそう感心しながらクリスを見た。
すると、その背後からさっきの群れとは別の、猿のような魔物が襲いかかろうとしている。
「クリス!」
「分かっておる」
クリスはそう返事をすると、後ろを振り向くことなく、魔物を的確に杖で殴りつけた。
そうして弾き飛ばされた魔物に、すかさず追撃で氷の矢を放って止めを刺す。
「今のは杖術という儂の近接技能じゃ。おぬしの剣とは違って決定打にはならんが、とりあえず護身程度にはなる。そういうわけじゃから、おぬしはそう無理して儂を庇いながら戦わなくてもよいぞ?」
「……何だ、バレてたのか」
「そりゃ、あれだけ魔物と儂の間に割って入りながら戦っておればのう。ろくに援護も出来んし、気付かぬ方がおかしいじゃろう。しかしこの先は魔物も手強くなるから、後ろばかり見ておってはおぬしも危ないかも知れんぞ?」
クリスはそう少し脅かすように言って笑う。
確かに敵に対して気が抜けていたのは事実だ。目の前の敵に集中しろと、そうクリスは忠告しているのだろう。ここは素直に受け入れて、気を引き締め直すとする。
そのまま少し進むと、今度は巨大なクマのような魔物が現れる。立ち上がると全長3メートルは軽く超えており、灰色の体毛と凶器のように長く伸びた爪が特徴的だった。さっきまでの魔物とは明らかにレベルが違うように見える。
俺は両手で剣を強く握り、魔物めがけて真っ直ぐに走る。魔物は俺を迎え撃つように斜めに腕を振り下ろし、爪で切り裂くように攻撃してきた。想像以上に反応が早い。
「待てシン! その魔物は危険――」
クリスが何かを叫んでいる。それは分かったが、反応している余裕がない。
俺は横に跳ぶように駆けて回避したが、魔物はその動きに反応して裏拳のように腕を振りまわしてくる。巨体に似合わない素早い攻撃。
横薙ぎに振られる丸太のように太い腕。まともに食らったらただじゃ済まない。
けれど、それでも俺は前に踏み込んだ。
反応も速度も想像以上のこの魔物相手に、回避一辺倒で長期戦に持ち込んでも、被弾のリスクが増えるだけで危険だ。それならさっさと終わらせるしかない。
前傾姿勢で踏み込んだ俺の頭の数センチ上を魔物の腕が通過する。かすりでもしたら首ごと持って行かれそうな、ぎりぎりの回避。
そうした極限のリスクを越えた先にあったのは、攻撃を空振りして隙だらけになった、魔物の腹だ。
俺はそこに、全力で剣を叩きこむ。肉を切り裂く、確かな手ごたえ。
そのまま剣を振りきると、魔物はいつもと同じように、黒い霧となって消えていった。